俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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第六十三話 疑心

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「そうだな」
 どうする?
 このまま大人しく付いていっても碌な事にならないと勘が告げている。悪意を向けてくる連中の言いなりになるとは果てしない地獄への連行に等しい、奴らが途中で解放してくれなんて期待するなどライオンに慈悲を乞う方がまだ可能性はある。力の限り抗うしかないとして、そもそもフランスから来たアランがなぜ俺を攫う?
 そういえば此奴は背後から来た。入国ゲートを潜ったのを俺は見ていない。
 まさか、前埜に嵌められた!?
 俺は表側の人間ながら時雨さんに付きまとい音羽と衝突している。旋律士の世界にいらぬ波紋を起こしている俺を前埜が排除しようと考えた方が、わざわざフランスから俺を拉致しに来たと考えるより筋が通っている。
 この推測が正しければ前埜に救助を頼めないどころか、下手をすれば旋律士に連絡することすら危ない橋を渡ることになる。っといったところでこの業界以外の人間で俺を助けてくれるような友達もいなければ知り合いもいない。
 自力でどうにかするしか無いという、結局いつものこと。ただ今回は少々不意打ちを食らっただけ、敗戦処理は俺の得意技。ここから立て直す。
 其処まで考えを巡らせた俺は大人しく後部座席に座り直すと同時に、スマフォを取り出した。
「ん? 何処に連絡するんだい」
「フォローを頼んでおいた友達に連絡しないといけないんで」
 友達なんかいるわけ無い、ハッタリ、いや俺の被害妄想か現実かハッキリさせる為の釣り針。
「友達?」
 アランの顔が訝しむ。俺に友達がいたことが意外だったか、これは益々俺の個人情報が流れている可能性が高くなった。
「ええ、私一人ではアランさんを上手くもてなせる自信が無かったんで、社交的な友達にフォローを頼んでおいたのですよ」
「そうか、でも何を頼むんだい? 問題なんて何も無いじゃ無いか」
 アランが冗談ぽっく肩を竦めてみせる。
「な~に、もしもの為に俺の位置情報の記録を頼むだけですよ」
言い終わるより早くアランにスマフォを握る手首を掴まれた。
「それは辞めて貰おうか」
「どうしてですかね」
 片手を抑え食いつかんばかりに迫り来るアランに俺は必死に睨み返す。
「なかなかどうして鋭いじゃ無いか。出来れば大人しくしていて貰いたかったんだがな」
 これから向かう先、殺人現場を晒されるとあってはスルー出来なかったようだな。つまり此奴等は俺を秘密裏に処理したいわけか。
おかげで化けの皮が剥がれてくれ確証となったが、おかげで直ぐさま始末されそうだ。
「離して貰えませんかね」
 振り払おうとしても手首は万力に夾まれたようにビクともしない。狭い車内の上に掴まれてしまっては体格で劣る俺に勝ち目は薄い。
 出し惜しみしている場合じゃ無い、俺は迷わず右手の袖口を向けて射出式スタンガンを放った。
「おっと、何処を狙っている」
 アランは予想通り素人では無い、俺が不用意に袖口を向けただけで何かあると察して手首を放して射線上から退避し、その退避した空間を電極ポッドが飛んでいく。飛んでいくのを見届けて俺は頭を抱えてその場で蹲った。
いじめられっ子のような惨めな格好をする俺をアランが嘲笑う。
「無様だな、そんな格好しても許さないぞ。お仕置きだ」
 アランが亀のように丸くなる俺に拳を振り下ろそうとした時、急激な旋回Gが掛かった。
「なっ」
 アランは何事かと前を見れば運転手がハンドルにうっぷして倒れている。その倒れている運転手の脇腹には電極が刺さっている。
勝てないと悟った俺はあらゆる躊躇いを捨て交通事故を起こす決意をし、アランが避けると踏んで運転手を狙ったのだっ。
 制御を失った車は大きな蛇行をしてガードレールに向かって行く。
はっは、ここまでやったらもう後戻りは出来ない。実は俺の気のせいでしたで済まされない刑務所行き。
 まっそれもこれも生きていたらの話。
 今まで体験したことの無い衝撃が俺の体に襲い掛かった。
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