俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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クイオトコ

第九十一話 月は同じ位置

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 塀に挟まれた道に街灯は届かず、見上げる空から降り注ぐ月明かりのみが足下を照らす道は狭く少々肩幅を狭めるか体を斜めにしなければ進めない。
 伸びていく塀と道が収束していく先は暗闇に呑み込まれ何も見えない。途中で道が曲がっているのだろうか、まっすぐならば暗闇の先向こう側の街灯が見えるはず。それとも先が見えないほどに長いのか。そんなはずはないか。この付近の地図を頭に浮かべれば、このブロックはそんなに広くない。きっと先で曲がっているか行き止まりなのだろう。
 月の光は街灯のように無理矢理闇を切り裂く強さは無く、逆に闇を際立たせるように輝き歩く少し先しか照らし出さない。一歩進むごとに一歩開かれていく闇の扉から滲み出るようにしろ~いが顔が表れ。
目があった。
 青白く口からクイを突き出す男の死んだ魚のような目が深淵より俺を覗き込んでくる。
 驚くより先にしゃがみ込めたのは実戦経験の賜か、俺の頭上をかさかさとクイ男が疾走していく。
 あそこで恐怖で固まっていたら今頃串刺しになっていた初見殺し。
 他の奴なら効果は絶大だったろうが、心が死んでいる俺には虚仮威しだったな。
「くっ」
 起き上がると同時に振り返れば、男の汚いケツとケツから突き出るクイが見えた。
 串刺しにされているのか?
 嫌悪感のなすがままに俺の愛銃となったコンバットマグナム抜くと同時にクイ男のケツにぶち込んだ。
 クイ男はケツを蹴っ飛ばされたかのように吹っ飛んでいく。
「やったか」
 喝采を上げる先からクイ男は塀に手を足を押しつけかさかさとゴキブリのように這い上がっていく。
 ちっ魔人ならまだしもユガミに銃では大して効果は無いか。
やはり旋律しかないのか。尤もそうで無ければ単純な物理力なら幾らでもある現在、旋律士がいる意味が無い。
 倒すなど夢物語であり意味の無いこと。この情報を持って生還することこそ退魔官の仕事であり大金星。
しかし逃げることも簡単にはいかないのが現状。位置が入れ替わってしまい出口側を抑えられた。もう一度あいつを躱せるか。思う暇も無くクイ男がこちらに向かってくる。
 進む先は闇、戻る先もそんなに奥に来た積もりは無かったが街灯は見えない。
 こんな走りにくい場所じゃ直ぐに追いつかれる。クイ男は腰が曲がらないので普通の場所なら俺の方が小回りも効きなんとかなるだろうが、ことこの狭い場所こそが専用フィールドとばかりに動きまくる。
 会話は、まあ口からクイを出しているから無理か。格上を躱し続けた交渉も通用しない。
 闇包まれた袋小路。だが、月は出ている光明はあり。
「取り敢えず、足止めだ」
 迫るクイ男、軽く眉間に銃弾を撃ち込む。止めは刺せなくても、マグナム弾の物理効果を完全には無効にはできまい。
 ひっくり返って腹と汚いものを振り回して吹っ飛んでいくのを確認すると、俺は銃を腰のベルトに射すと両手両足を広げ壁に付ける。
「行くぞ」
 前後に逃げるなら十数メートルは掛かるが、上に逃げて塀を乗り越えれば僅か2メートルちょい。ちょいと登れば乗り越えられる。隣家に不法侵入になってしまうが、そこは緊急避難、国家権力を使わせて貰おう。
 俺は壁を這い上がっていく。少し登れば手が塀の上に着き直ぐさま乗り越えられるはず、なのにいつまで経っても登り切れない。
「なにが」
 改めて上を見合えれば月は遙か高見より楚々と降り注がれるが、塀がその天に届かんとばかりに迫り上がっている。塀が作る狭い空から見る月は異様に遠くに感じる。
 しくった。狭い路地に潜むユガミじゃ無かった。この路地ごとユガミなのか!
 天を諦め地を見れば、大峡谷の谷底の如き底をバックにクイ男が俺目掛けて這い上がってくる。
 俺は無限に広がる平面に挟まれたようなもの、逃げ道は無し。
 銃で撃っても僅かな時間稼ぎ。
 事前調査の下見で窮地に陥るとは笑えない。これで死んだら笑いもの。
 颯爽とヒロインが現れて助けてくれることもあるまい。
 ならば、覚悟を決めるしか無い。
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