俺嫌な奴になります。

コトナガレ ガク

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男三人ぶらり飲み

第百十話 欲する

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 エレベーターを使うのももどかしいのか階段を駆け上がっていく卯場達の後ろ付いていくなか、俺は西村にこっそりと話し掛ける。
「もう十分だ。このどさくさに紛れて逃げろ」
 足を撃ち抜くくらいじゃ心の痛まない悪党しかいない中、西村だけは無事に帰すべき男で無事に返すべき価値のある男。
 話を持っていくため付いてきて貰ったが、ここまで来れば俺一人でも話は転がせるだろう。
「いい」
 西村は決意込めて首を横に振る。
「なんでだ?」
「元々俺が招いたことでお前はそれの尻ぬぐいをしてくれているんだろ」
 確かに切っ掛けは西村かもしれないが、あの女が魔人なら遅かれ早かれ巻き込まれていただろう。退魔官と旋律士がいるんだ引き寄せられないわけが無く、逆に西村の方が巻き込まれたのかも知れない。
 それを言おうと口を開くより早く西村は続ける。
「お前を一人には出来ないしな」
「気にするな俺はいつも一人だ」
「悲しいこと言うなよ。飲み会結構楽しかったぜ」
 そうか、そう思っていてくれたのか。
「分かった、この件が終わったら三人で打ち上げに行くか」
「おう」
 この場には二人しかいないが、音羽は別に俺達を見限って逃げたわけじゃ無い。俺達に何かあった時のためにバックアップとして俺達のことを隠れて見守っている。
 腹を据え俺達は寝室に雪崩れ込む卯場達に続いていくと、そこには壁の中にぽっかりと空いた穴に腕を突っ込んでいる賀田がいた。
「何をしていやがるっ!!!」
 卯場達に気付くと賀田は素早く隠し金庫の中から、一体の人形を取り出すと同時に卯場達の方に掲げた。
「動くなっ。動けば叩き壊すわよ」
 賀田が掲げる人形は紅い着物姿をした少女の人形。髪型は黒髪のおかっぱと日本人形の定番のような髪型だが、顔の造形は西洋ドールや最近のドールの影響を受けているようであの心霊番組に出てくるような定番の見方によっては怖い顔で無く、素直に可愛い顔をしている。床に叩きつけられるのは少し可哀想に思ってしまう。
 ほんとう? 失礼な、こう見えても俺は人間以外の動物とかには素直に可愛がるタイプだ。
 しかしドールが卯場との交渉材料になるのかと思えば。
「まっ待てヤケになるな」
 卯場は意外にもドールコレクターだったのか、俺とやり合った時の胆力が嘘のように狼狽している。
 しかしこれはこれから交渉をしようとするなら下の下の対応。
「そういい子ね。じゃあ道を空けて貰えるかしら?」
「その前にそれを元に戻せ」
「いやよ。そんな事したら何されるか分からないじゃ無い」
「この場は見逃してやる」
「信じられると思って?」
 まあそりゃそうだよな。卯場の言葉をすんなり信じるような初心な乙女だったら、この場にはまずいないだろう。
「調子に乗るなよ。この場で嬲り者にしてやろうか?」
 う~ん、恫喝するなら最初にやるべきだったな、初手であんな狼狽してたら。
「あら~、この子がどうなっても良いの?」
 賀田は人形を抱えて悪い笑顔を浮かべる。
 ほらな完全に見透かされ舐められる。
「お前に運を奪われ、それすら奪われたら俺は本当に終わりだ。それでもな~今すぐ終わりって訳じゃ無いんだぜ、お前を行かせるくらいならこの場で嬲り者にしてやる。そうすれば最低でもお前に奪われた運は取り戻せるかもな」
「あら~それは困ったわね」
 交渉において相手を追い詰めすぎれば、破れかぶれの暴発を呼び寄せる。交渉において難しいのは相手の暴発寸前ギリギリを見極めこのくらいなら妥協しても良いと思わせること。そんなこと賀田も承知しているだろう。悪い笑顔浮かべつつこの場での落としどころを模索しているのだろうが、結局出口は一つだけ。こうなった以上卯場の運を根こそぎ奪うのは無理と諦め、ドールと引き替えにこの場を脱出し後日再度ドールを奪いに来るしか無い。考えるのは、どうやってドールと引き替えに安全を担保できるかのみ。
 まっそれもこれも本当に運があればだけどな。
 今までのやり取りを見れば、賀田と卯場は運という目に見えないものを本気で取り合っているように見える。
 演技には見えない。
 俺を嵌める詐欺にも見えない。
 だが二人の世界の真実なのか世界の真実なのか、どちらかに確定する観察は得られない。
 リスクに晒され踏み込むしか真実への道は無いか。
 俺は二人の間に流れる緊張の空気を断ち切り前に出た。
「「?」」
 緊張が断ち切れる弛緩の合間に俺は壁にぽっかり空いた穴の前まで行く。額縁の裏とかに隠してあるではなく、何かをすればいきなり壁の一部が開くようになっているように見える。よく賀田はこれを見付けられたな、魔人かは兎も角怪盗の腕は一流のようだな。
 俺は穴の中を覗き込む。
 お~お~あるあるいざという時のためか札束が詰まれ、その脇には人形用の椅子みたいなものが置かれている。後は書類やら宝石やら。
 人形などよりよっぽど金目の物には手を付けず人形だけを狙うとは賀田が言う信憑性が増してくる。
 俺は穴に手を突っ込み札束を掻き出し床に札束がぼたぼた落下して山積みになっていく。
「おっお前何をしてくれんじゃ」
「女、お前はその身全てを賭けろ」
「へ?」
「卯場、お前は幸運の源のドール」
「なにっ」
「そして俺はこの床に転がる3000万と300万を足して3300万。
 勝った奴の総取り麻雀勝負というこじゃないか」
「なっなんだと、なぜ俺がそんな賭を」
「俺には運を奪うとかどうとか全く分からないが、もしお前が言うとおり運をこの女に奪われたのなら暴力じゃ奪い返せないぜ」
「なっなに」
「お前なら分かるだろ、運というなら賭で取り返すのが一番のスジ。それに、お前も博徒なら賭で決着を付けるなら望むところだろう?」
「おっおう」
卯場は元はしがない代打ちだが、それでも博徒、博徒が賭を挑まれたら嫌とは言えまい。嫌と言ったら矜恃は粉々になる。
「私は?」
「その前に女、名はなんと言う?」
 俺はこの女の名を知らない、仲間で無いことを印象付けるため名を聞く、そこいら辺の阿吽の呼吸は賀田も直ぐさま察してくれる。
「賀田 弓流。いい男ね。弓流って呼んで良いわよ。
 あなたは?」
「俺の名は果無 迫」
「なら、セリって呼ばせてね」
「好きにしろ。
 弓流、いい女だ。俺に運は分からないがあんたがいい女なのは分かる、3300万を賭ける価値がある」
 本当に本人にその気があればこんな裏の世界で無く表の世界で幾らでも稼げるだけの体も頭も持っているだろうに。
 まあ、愛した男が自分の所為で没落していくんだ。察しは出来るがな
「ありがとう。それで私のメリットは?」
「言っただろ勝者総取り、お前が勝てばお前の体もお前が奪った運もお前のもの。その上そのドールと3300万まで付いてくる。
 後日またなんて眠たいこと言わないで、いい女ならワンナイトラブで決着付けようぜ」
「ふ~ん、言うわね。
 あなた見立て以上に男なのね」
「そうさ。勝てば大金もいい女も可愛いドールも総取りだ、男として挑まない理由がないぜ」
 大金もいい女も興味は無いが、俺はアウトローを装い大物ぶった物言いをする。
 いい女は、男の嫉妬を呼び寄せる。そもそも俺には時雨さんがいる。
 泡のように湧いた大金には、害虫が湧き出てくる。
 どちらも過ぎたるは身の破滅、いりはしない。
 だが賀田 弓流。その男の運気を喰うという力、メンヘラ思い込みか魔人の力か見極める為、300万という失ったら痛い身銭を切って同じ土俵に俺は乗る乗ってやる。
 なぜそこまでするかだと?
 退魔官として目の前の魔人を放っておけないという気持ち、いや嘘はよそう今はオフ、オフに働くほど俺はホーリーワックじゃ無い。
 流れなどという概念が本当にあるのか?
 仮にあったとして流れなどという概念を操ることが人に可能なのか?
 知りたい、人の可能性を、知りたくば手に入れるしか無い。
 運も大金もいい女も、今だけは欲して手に入れる。欲して手に入れた先にしか見えてこない世界がある。
「いいだろう、受けてやろう。だが後一人はどうするだ? サンマは今一なんだが」
「そうだな、雀荘に行けば適当な奴がいるだろ」
「ここでやるんじゃないのか」
「冗談。こんなあんたのアジトで出来るかよ。どんないかさまを仕込まれるかわからないからな。適当に街を歩いて目に入った雀荘で勝負をしよう。当然積み込み防止で全自動を導入している店が最低条件だがな。
 公平だろう?」
「分かった」
 更に言えば勝負に俺か弓流が勝った時の為の保険でもある。ここと違い外なら負けをご破算にしようと簡単に暴力に訴え出れない。
 さて果無 迫、純粋賭け勝負、せめて楽しませて貰おうじゃ無いか。
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