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第27話 ファッションセンス
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「あのさ、楓」
「何かな速水くん」
楓は久しぶりに歓太郎に話しかけられ、ドキリとした。だが努めて平静を装った。
歓太郎が怒り散らした後から二人は事務的なことしか話していなかったため、楓は何も起きないことはわかっていたはずが無意識のうちに警戒していた。
歓太郎は何か言うことを迷っているのか伏し目がちに逡巡していたが、意を決したように顔を上げた。
「今度クラスメイト全員誘って、バーベキュー的なことをやろうと思ってるんだ。この間、楓に怒鳴っちまったお詫びにさ。夏目さんもよければどうかな?」
「面白そうだし行くよ」
「楓は?」
「向日葵が、行くなら」
渋々だったが、楓のYESの返事に歓太郎は胸に手を当てて緊張から解放されたように笑みを浮かべた。
「よかったー楓が来てくれなかったら、目的が果たせなかったぜ」
「何か持っていく物とかは?」
「大丈夫。俺が全部用意するから、必要になれば頼むよ。気持ちだけ受け取っとく」
「わかった」
「じゃ、よろしくな」
話し終えると歓太郎はそそくさと楓の前を去った。
去り際にはガッツポーズも見え、相当嬉しかったことがうかがえた。
そうして、クラスメイト全員参加のバーベーキューパーティ的な何かに楓と向日葵は誘われたのだった。
有言実行の男歓太郎は、それからすぐに他のクラスメイトも誘いだしていた。
「楓たんたちは速水くんのバーベキュパーティ行くの?」
話題は桜にもすぐに伝わったようだった。
「行くよ」
「うん」
楓と向日葵の返事に桜は何故か満面の笑みをたたえていた。
そして、うんうんと腕組み頷くと、
「やっぱりね。椿たんも行くって」
「その日はちょうど予定が空いてたからね」
「とか言ってー私が行くって言った後、すぐに行くって言ってたくせに。私が行くからだったんでしょ」
「どうかしらね」
椿は桜の言葉をクールにかわした。桜の扱いに慣れた椿によると今回は乗っかるところではないらしい。
しかし、桜としては椿の反応が面白くないようで今度の矛先は楓に向かった。
「楓たんは私が行くからでしょ」
「そうだね」
「そうだよ。でしょ! もっとガツガツ来てよ」
楓としては精一杯の同意のつもりだったが、これも桜には不満だったようだ。
頬を膨らませ、プンスカプンスカ言いながら、被害は向日葵に及ぶ。
「向日葵たんは私が行くからだよね」
「え、面白そうだからだよ」
「あー」
桜は泣き叫ぶように唸ると、机に突っ伏して両手両足をバタバタさせた。
「みんなひどいー」
「僕はちゃんと同意したよ?」
今の桜には楓の言葉は耳に入らなかったようで、変わらず駄々をこねる子供のようにしていた。
さらに何か声をかけようとした楓に椿は手で制止すると首を横に振った。これ以上何も言うなとのことだ。
なんだかんだ元気なんだなという感想を楓は抱いた。そして、その感想に違わず、すぐに顔を上げた。
「そうだ。みんなツンデレなんだなーもー素直じゃないんだからー」
確かに椿の指示通り、結局はいつもの桜に戻ってテンションが下がることはなかった。
桜は歓太郎の意図は知らないようだが、それでも桜の楽しみな様子に楓も思わず笑みが漏れた。
楓としては距離感はありつつも別段不自然にやってきたつもりもなかったが、歓太郎としては何か区切りがほしかったのだろう。
楓にも歓太郎の気持ちはわかった。
だが、向日葵が行くならという控えめな返事をしてしまった。
それはやはり、どことなく恐怖があったからだ。
急にわけもわからず怒鳴られれば誰でも怖いだろう。
それが解消されずに、触れることを避け今まで来たため、平静は装ってもやはり内心穏やかではなかった。
クラス全員で一対一ではないということもまた楓にとっては安心材料だった。
「さて、バーベキューに着ていく服を決めようか」
いつものように楓の部屋に向日葵がやって来るとなんの脈絡もなく言い出した。
「何で?」
「彼女のファッションを心配してるだけでしょ。ありがたく受け取ればいいの」
確かにわからないでもなかった。
クラスメイトとは私服で顔を合わせる機会が少ないため、どんなファッションかという探りあいはあるだろう。
だが、そうは言っても楓には向日葵が心配しすぎに思えた。
「もう服ぐらい自分で決められるよ?」
さすがの楓もこの間の向日葵とのデートで自分なりのコーディネートを実践してみせたのだった。
初めてワンピース以外の服で外を出歩いた楓だったが、思っていたよりもやればなんとかなるということを知ることができ、収穫だったと感じていたのだった。
向日葵もその時のことは知っているはずだが、どうにも温度差を感じていた。
「似合ってたでしょ? この間の」
「一応雰囲気を壊さないために言わなかったけど、クソダサだった」
「そんなに?」
楓も向日葵が、周りからなにかとセンスがあると言われていることを知っていたため、その通りなのだろうと思った。
しかし、納得はいかなかった。
せっかく挑戦したものが普通どころかクソダサと言われ、心持ち穏やかではなかった。
「でも、クソダサってひどくない? 別にそこまでひどくないでしょ。ゴキブリに服を選ばせたわけでもないんだし」
「もう、そんな感じだったよ」
「そんな感じだったの!?」
それから、向日葵は楓のファッションセンスのなさをあげつらえ、並べ立てた。
楓は今まで、何をしても並程度にはできていたため、そこまでひどくののしられた体験がなかった。
しかも初めてできた彼女からの罵詈雑言の嵐に、楓は泣き崩れそうになるほどHPを削られたのだった。
「も、もう耐えられないよ」
「でも、服だけなら及第点だったよ」
一応学んだ服装に関しては及第点を取れ、少し持ち返したが、それでも楓の目はうつろだった。
「だから、私が選んであげるって言ったでしょ。遠慮しなくていいから」
「わかったよ。任せるよ」
「でも、これだけあってよくまあ及第点しか取れなかったね」
まだ少し向日葵の罵声は止まらず、とうとう楓は胸を押さえて床にひざまずいた。
これ以上楓は耐えることができなかった。結局実力がないのかと絶望し、天をあおいだ。
そんな楓を嘲笑うかのように向日葵はぱっぱと選んでみせた。
「今度ファッションのファの字から教えてあげるから、今は我慢して」
「はい」
向日葵は体から力の抜けてしまった楓を無理矢理立たせると、服を前に当てだした。
最初のものは違かったらしく、また別のものを引っ張ってきた。
「じゃあ、これ着てみて」
「え、もう決まったの?」
「とりあえず、あとこれもつけて」
楓は恥ずかしがっていても仕方がないと選ばれた服に向日葵の前で着替えた。
「ピンクのスカートは僕にはかわいすぎない?」
「かわいいよ」
そもそも現実としては自分で買ってきたことになっているのだが、楓にはしっくりこなかった。
かわいいと言われたものの、楓には気になる考えがもたげ、これで出かけるのは今度にしようと決めた。
覚えておくために自撮りをし、写真に映る自分を見ると、他人が着ているのを見る分には確かにかわいいかもしれないと思った。
「気に入った?」
「うん。でもバーベキューでしょ? スカートだと困るんじゃない?」
「そうかもね。バーベキューでも大丈夫な服装……」
向日葵は再び戻っていった。
楓も記憶を探り、バーベーキュー向きの服装を探した。
夏だし、暑いし、日焼けをしないようにする。そしてバーベキューも大丈夫ですでに持っている。
そんな都合のいい服。
「ジャージ?」
「うーん。もっとかわいさを求めようよ」
どうやらかわいさが足りなかったらしく、向日葵は納得しなかった。
条件にさらにかわいさを足して、記憶の検索を再開する。
楓もまだ自分が持っている服装をいまいち把握していなかった。
見慣れたものでもなく、使い慣れたものでもないため、選べるほどではなかった。
「パーカーとパンツ?」
「そうね。薄手のならそれもアリかもね。じゃあこれは?」
季節感もあっていて向日葵基準でかわいいらしい服が選ばれたのだろう。
確かにあんまり着込むようだと確かにまた熱中症で運ばれかねない。
それでは、せっかくの歓太郎の気持ちを踏みにじることになるわけだ。
早速着替えようと向日葵が選んだものを受け取る。
しかし、楓の手はピタリと止まった。
「いや、陸上のユニフォームか」
楓視点ではまるで陸上のユニフォームのようなボトムスに思わずツッコんでいた。
「それ、楓ちゃんが買ったんだよね?」
「そうだよ」
そうだったが、そうではなかった。
楓が買ったことになっているが、楓の意識で買ったわけではなかった。
ショート丈のパンツをはいている女の子は見ていたが、これまた自分がはくことになるとはと思った。
スカートとはまた違った羞恥心を抱きつつ、楓はせっかく向日葵が選んでくれたのだと意を決して着替えた。
着てみると、これなら動きやすく日焼けもある程度抑えられるだろう。
なんなら下も長いものがよかったが、向日葵が渡してきたのが短かった時点で諦めていた。
長くてかわいいものは今のところ手持ちにはないのだろう。
「うーん」
楓としてはよかったが、向日葵は今回も納得いかない様子だった。
楓は向日葵の様子が気になり、一つ息を吐くと口を開いた。
「どうしてそんなにこだわるの?」
「やっぱり楓ちゃんは私の彼女だし、せっかくならみんなにかわいいと思ってもらいたいじゃん?」
楓は咄嗟に両手で顔を抑えてしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
驚いた様子の向日葵だったが、楓は向日葵の顔を見られなかった。
泣き出したわけではなかった。
ただ、恥ずかしくて照れただけだった。
かわいいと思ってもらいたい。その気持ちで服を選んでくれていたのかと思うと、面倒臭いからとさっさと済ませたくなったことを後悔した。
向日葵は全力で提案してくれているのに、手を抜いているのでは無礼ではないかと気づくと楓は立ち上がった。
「僕も全力で付き合うよ」
「うん!」
結局、向日葵の納得が行く組み合わせが見つかった頃には日が暮れていた。
だが、二人の間に時間を無駄にしたという意識はなく、笑顔を浮かべ、ただ充足感があふれているだけだった。
「何かな速水くん」
楓は久しぶりに歓太郎に話しかけられ、ドキリとした。だが努めて平静を装った。
歓太郎が怒り散らした後から二人は事務的なことしか話していなかったため、楓は何も起きないことはわかっていたはずが無意識のうちに警戒していた。
歓太郎は何か言うことを迷っているのか伏し目がちに逡巡していたが、意を決したように顔を上げた。
「今度クラスメイト全員誘って、バーベキュー的なことをやろうと思ってるんだ。この間、楓に怒鳴っちまったお詫びにさ。夏目さんもよければどうかな?」
「面白そうだし行くよ」
「楓は?」
「向日葵が、行くなら」
渋々だったが、楓のYESの返事に歓太郎は胸に手を当てて緊張から解放されたように笑みを浮かべた。
「よかったー楓が来てくれなかったら、目的が果たせなかったぜ」
「何か持っていく物とかは?」
「大丈夫。俺が全部用意するから、必要になれば頼むよ。気持ちだけ受け取っとく」
「わかった」
「じゃ、よろしくな」
話し終えると歓太郎はそそくさと楓の前を去った。
去り際にはガッツポーズも見え、相当嬉しかったことがうかがえた。
そうして、クラスメイト全員参加のバーベーキューパーティ的な何かに楓と向日葵は誘われたのだった。
有言実行の男歓太郎は、それからすぐに他のクラスメイトも誘いだしていた。
「楓たんたちは速水くんのバーベキュパーティ行くの?」
話題は桜にもすぐに伝わったようだった。
「行くよ」
「うん」
楓と向日葵の返事に桜は何故か満面の笑みをたたえていた。
そして、うんうんと腕組み頷くと、
「やっぱりね。椿たんも行くって」
「その日はちょうど予定が空いてたからね」
「とか言ってー私が行くって言った後、すぐに行くって言ってたくせに。私が行くからだったんでしょ」
「どうかしらね」
椿は桜の言葉をクールにかわした。桜の扱いに慣れた椿によると今回は乗っかるところではないらしい。
しかし、桜としては椿の反応が面白くないようで今度の矛先は楓に向かった。
「楓たんは私が行くからでしょ」
「そうだね」
「そうだよ。でしょ! もっとガツガツ来てよ」
楓としては精一杯の同意のつもりだったが、これも桜には不満だったようだ。
頬を膨らませ、プンスカプンスカ言いながら、被害は向日葵に及ぶ。
「向日葵たんは私が行くからだよね」
「え、面白そうだからだよ」
「あー」
桜は泣き叫ぶように唸ると、机に突っ伏して両手両足をバタバタさせた。
「みんなひどいー」
「僕はちゃんと同意したよ?」
今の桜には楓の言葉は耳に入らなかったようで、変わらず駄々をこねる子供のようにしていた。
さらに何か声をかけようとした楓に椿は手で制止すると首を横に振った。これ以上何も言うなとのことだ。
なんだかんだ元気なんだなという感想を楓は抱いた。そして、その感想に違わず、すぐに顔を上げた。
「そうだ。みんなツンデレなんだなーもー素直じゃないんだからー」
確かに椿の指示通り、結局はいつもの桜に戻ってテンションが下がることはなかった。
桜は歓太郎の意図は知らないようだが、それでも桜の楽しみな様子に楓も思わず笑みが漏れた。
楓としては距離感はありつつも別段不自然にやってきたつもりもなかったが、歓太郎としては何か区切りがほしかったのだろう。
楓にも歓太郎の気持ちはわかった。
だが、向日葵が行くならという控えめな返事をしてしまった。
それはやはり、どことなく恐怖があったからだ。
急にわけもわからず怒鳴られれば誰でも怖いだろう。
それが解消されずに、触れることを避け今まで来たため、平静は装ってもやはり内心穏やかではなかった。
クラス全員で一対一ではないということもまた楓にとっては安心材料だった。
「さて、バーベキューに着ていく服を決めようか」
いつものように楓の部屋に向日葵がやって来るとなんの脈絡もなく言い出した。
「何で?」
「彼女のファッションを心配してるだけでしょ。ありがたく受け取ればいいの」
確かにわからないでもなかった。
クラスメイトとは私服で顔を合わせる機会が少ないため、どんなファッションかという探りあいはあるだろう。
だが、そうは言っても楓には向日葵が心配しすぎに思えた。
「もう服ぐらい自分で決められるよ?」
さすがの楓もこの間の向日葵とのデートで自分なりのコーディネートを実践してみせたのだった。
初めてワンピース以外の服で外を出歩いた楓だったが、思っていたよりもやればなんとかなるということを知ることができ、収穫だったと感じていたのだった。
向日葵もその時のことは知っているはずだが、どうにも温度差を感じていた。
「似合ってたでしょ? この間の」
「一応雰囲気を壊さないために言わなかったけど、クソダサだった」
「そんなに?」
楓も向日葵が、周りからなにかとセンスがあると言われていることを知っていたため、その通りなのだろうと思った。
しかし、納得はいかなかった。
せっかく挑戦したものが普通どころかクソダサと言われ、心持ち穏やかではなかった。
「でも、クソダサってひどくない? 別にそこまでひどくないでしょ。ゴキブリに服を選ばせたわけでもないんだし」
「もう、そんな感じだったよ」
「そんな感じだったの!?」
それから、向日葵は楓のファッションセンスのなさをあげつらえ、並べ立てた。
楓は今まで、何をしても並程度にはできていたため、そこまでひどくののしられた体験がなかった。
しかも初めてできた彼女からの罵詈雑言の嵐に、楓は泣き崩れそうになるほどHPを削られたのだった。
「も、もう耐えられないよ」
「でも、服だけなら及第点だったよ」
一応学んだ服装に関しては及第点を取れ、少し持ち返したが、それでも楓の目はうつろだった。
「だから、私が選んであげるって言ったでしょ。遠慮しなくていいから」
「わかったよ。任せるよ」
「でも、これだけあってよくまあ及第点しか取れなかったね」
まだ少し向日葵の罵声は止まらず、とうとう楓は胸を押さえて床にひざまずいた。
これ以上楓は耐えることができなかった。結局実力がないのかと絶望し、天をあおいだ。
そんな楓を嘲笑うかのように向日葵はぱっぱと選んでみせた。
「今度ファッションのファの字から教えてあげるから、今は我慢して」
「はい」
向日葵は体から力の抜けてしまった楓を無理矢理立たせると、服を前に当てだした。
最初のものは違かったらしく、また別のものを引っ張ってきた。
「じゃあ、これ着てみて」
「え、もう決まったの?」
「とりあえず、あとこれもつけて」
楓は恥ずかしがっていても仕方がないと選ばれた服に向日葵の前で着替えた。
「ピンクのスカートは僕にはかわいすぎない?」
「かわいいよ」
そもそも現実としては自分で買ってきたことになっているのだが、楓にはしっくりこなかった。
かわいいと言われたものの、楓には気になる考えがもたげ、これで出かけるのは今度にしようと決めた。
覚えておくために自撮りをし、写真に映る自分を見ると、他人が着ているのを見る分には確かにかわいいかもしれないと思った。
「気に入った?」
「うん。でもバーベキューでしょ? スカートだと困るんじゃない?」
「そうかもね。バーベキューでも大丈夫な服装……」
向日葵は再び戻っていった。
楓も記憶を探り、バーベーキュー向きの服装を探した。
夏だし、暑いし、日焼けをしないようにする。そしてバーベキューも大丈夫ですでに持っている。
そんな都合のいい服。
「ジャージ?」
「うーん。もっとかわいさを求めようよ」
どうやらかわいさが足りなかったらしく、向日葵は納得しなかった。
条件にさらにかわいさを足して、記憶の検索を再開する。
楓もまだ自分が持っている服装をいまいち把握していなかった。
見慣れたものでもなく、使い慣れたものでもないため、選べるほどではなかった。
「パーカーとパンツ?」
「そうね。薄手のならそれもアリかもね。じゃあこれは?」
季節感もあっていて向日葵基準でかわいいらしい服が選ばれたのだろう。
確かにあんまり着込むようだと確かにまた熱中症で運ばれかねない。
それでは、せっかくの歓太郎の気持ちを踏みにじることになるわけだ。
早速着替えようと向日葵が選んだものを受け取る。
しかし、楓の手はピタリと止まった。
「いや、陸上のユニフォームか」
楓視点ではまるで陸上のユニフォームのようなボトムスに思わずツッコんでいた。
「それ、楓ちゃんが買ったんだよね?」
「そうだよ」
そうだったが、そうではなかった。
楓が買ったことになっているが、楓の意識で買ったわけではなかった。
ショート丈のパンツをはいている女の子は見ていたが、これまた自分がはくことになるとはと思った。
スカートとはまた違った羞恥心を抱きつつ、楓はせっかく向日葵が選んでくれたのだと意を決して着替えた。
着てみると、これなら動きやすく日焼けもある程度抑えられるだろう。
なんなら下も長いものがよかったが、向日葵が渡してきたのが短かった時点で諦めていた。
長くてかわいいものは今のところ手持ちにはないのだろう。
「うーん」
楓としてはよかったが、向日葵は今回も納得いかない様子だった。
楓は向日葵の様子が気になり、一つ息を吐くと口を開いた。
「どうしてそんなにこだわるの?」
「やっぱり楓ちゃんは私の彼女だし、せっかくならみんなにかわいいと思ってもらいたいじゃん?」
楓は咄嗟に両手で顔を抑えてしゃがみ込んだ。
「どうしたの?」
驚いた様子の向日葵だったが、楓は向日葵の顔を見られなかった。
泣き出したわけではなかった。
ただ、恥ずかしくて照れただけだった。
かわいいと思ってもらいたい。その気持ちで服を選んでくれていたのかと思うと、面倒臭いからとさっさと済ませたくなったことを後悔した。
向日葵は全力で提案してくれているのに、手を抜いているのでは無礼ではないかと気づくと楓は立ち上がった。
「僕も全力で付き合うよ」
「うん!」
結局、向日葵の納得が行く組み合わせが見つかった頃には日が暮れていた。
だが、二人の間に時間を無駄にしたという意識はなく、笑顔を浮かべ、ただ充足感があふれているだけだった。
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