魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第7話 カイセイが来て

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「ふんふふーん。ふふふーん」

 魔王城へ戻るまでの道のり私は思わずスキップしてしまっていた。

 こんな簡単にカイセイが魔王軍に入ってくれるなんて。

 これなら別に、勇者パーティを追放される前にお願いしていても、それはそれで入ってくれたんじゃないかとすら思えてしまう。

「いやいや」

 さすがにカイセイも人間ができてる。

 まだ勇者パーティの一員だったら、裏切るような真似はしないだろう。

 このタイミングを待って正解だったのだ。

 そうそう。長々と待ったけど、必要な時間だったんだ。

「帰ったよー」

 私は門番さんに頭を下げ、自分より何倍も大きな扉を開けた。

「あ、魔王様おかえりなさい」

 真っ先に出迎えてくれたのは、私と同じく人間のレバレちゃん。

 すり寄せてくる頭を撫でながら私は、自分の部屋に向かって歩きだした。

「とうとう少年に会いに行ったみたいだけど、結果はどうだったの?」

「もうバッチリだよ」

 私は親指を立ててレバレちゃんに教えてあげた。

 戦闘に関してはピカイチのレバレちゃんなら、私のやったことの凄さをわかってくれるはずだ。

 しかし、どうしてだろう。キョロキョロして返事が返ってこない。

「何か探し物の最中だった?」

「ん? そうじゃなくて、魔王様が見てた子がいないなーと思って。まさか置いてきちゃった?」

「そんなわけないでしょ。カイセイなら、もう外で壁を作るのを任せてあるよ。魔王の私に気を遣って中で待ってていいってさ」

「それでいいの?」

 不安そうにしているレバレちゃん。

 いくら戦闘のスペシャリストとはいえ仕方ないか。レバレちゃんはカイセイの凄さを知らないんだから。

 ここで幼馴染の私がカイセイの凄さを教えてあげよう。

「大丈夫だよ。カイセイはちっちゃい時からすごかったんだから。そりゃもう、天変地異はお手のもの。魔王城周辺に誰も入ってこられない壁を展開することなんて、私よりずっと適してるよ」

 私の作った壁はかなりの条件と制約の中で作ったものだ。そのせいで、これからカイセイが作ると思うものとは比べ物にならないほど脆い。よくて、勇者の全力の攻撃を二、三回防ぐのが限界じゃないかと思う。

 それに引き換えカイセイなら、見えない壁にはできないかもしれないが、すぐに壁を修復させられるはずだ。

 なら、魔王城周辺の防衛くらいどうってことないだろう。

「他にも」

「いや、その話は何度も聞いたって」

「あれ、そうだっけ?」

「いつもあの子のことになると魔王様は熱くなるんだから。そんなに好きなの?」

「べ、別にそんなんじゃないって。私はただ、カイセイの能力を小さい頃から知ってて信じてるだけだから」

「にしてはいつも、スキルよりカイセイ君本人の情報が多い気がするけど」

「き、気のせいだよ」

 嘘。私そんなにカイセイのこと話してた?

 いやいや、そりゃそうだ。話していた。

 だって、これから外から急に幹部になるのだ。話しておかないわけにはいかない。

 これから味方になる人間のことを内緒にしておく必要なんてない。

 私は何も間違ったことはしてない。そう。おかしくない。

「なら、ボクがカイセイ君にちょっかい出してもいいの?」

「え、なんでそんな話になるの?」

「いいからいいから」

「うーん。まあ、ほどほどなら」

 どういう意図かわからないけど、レバレちゃんは楽しそうに笑っている。

 これはどういう質問なんだろう。

「えー。気にしてないなら、気にならないんじゃない?」

「一応。幼馴染だし? あんまりいじめられたら可哀想じゃない」

「別にちょっかいって。ボクが本気を出して攻撃するなんて話じゃないよ?」

「じゃあどんなの?」

 レバレちゃんはうーんと唸りながら、少し考えるようにした。

「たとえば、カイセイ君と手を繋いだり」

「うん」

「カイセイ君と見つめ合ったり」

「うん?」

「カイセイ君とキス」

「ただの幹部同士ならそんなことしないよ?」

 何を考えているんだろうレバレちゃんは。

 カイセイは別におもちゃじゃないのに。

 これから仲間としてやってくのに、心配だな。

「えー。じゃあ、ただの幹部同士じゃなきゃいいの?」

「まあ、ほら、幹部なら魔王軍の兵士の模範になる行動をしないとでしょ?」

「なるほどー」

「でも、私はカイセイのなんでもないから。カイセイにそう言う人がいたらとやかく言うつもりはないけど……」

「ふーん。なるほどー。そっかー。やっぱりねー。ふーん。ずっと見てたもんねー」

「何?」

「なんでもない」

 やたらニヤニヤした顔でレバレちゃんが見てくる。

 そんなにカイセイが嫌なのだろうか?

 別に私だって仕事するし、させるつもりだし、今だってさせてるんだから、自分の推薦で人を入れてもいいと思うのだけど。

 私、魔王軍を指揮する立場の魔王なんだし。

「話がそれちゃったけど、レバレちゃんは何を心配してたの? 実力は話を聞いてたらわかるはずでしょ?」

「まあ、これまでちろっと見てきたところによれば、魔王様が実力を過大評価しているところはないと思うけどね。ただ、そんなに想いを寄せてるのに、簡単に離れていいのかなって?」

「だから言ってるでしょ? 私はカイセイを信用してるって」

「わかるけどさ。それは実力の話でしょ? これまでのボクの話から同じ流れなんだけどさ。ほら、魔王軍には悪魔がいて、その中には人間を誘惑する子たちもいるでしょ? そんな子たちとカイセイ君が会ったら、どうなちゃうかなーって思ってさ」

 人差し指を立てて、レバレちゃんが言ってきた。

 ん?

 ちょっと、待って。

「つまり、どう言うこと?」

「魔王城近辺をうろうろしてたら、サキュバスあたりにカイセイ君が誘惑されちゃうんじゃない?」

 私は駆け出した。

 置いてきたカイセイ目指して、全力で。

 下手にテレポートをして、カイセイのスキルに巻き込まれてはたまらないから、テレポートはできない。

 もどかしい。

「あー。魔王様ー! 行っちゃった。半分は冗談のつもりだったんだけどなぁ。でも、そっか。へー。口では認めないけど、カイセイ君か。面白そうな子じゃん」

「ああーもう! 間に合わない。『スピードエンチャント』!」

 移動速度上昇の魔法をかけた。

 後ろでぶつぶつ言うレバレちゃんの言葉は気になったが、私は最大速度で走った。
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