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第一章 勇者パーティ崩壊
第9話 魔王の部屋にいたのは
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「ここが食堂。あっちは空き部屋。まあ、使ってないわけじゃなくて、娯楽室になってるんだ。息抜きの部屋も必要だからね」
「な、なるほどー。そうなんだねー」
パトラがくっついて離れない。
魔王城へ移動してきてからも、パトラは腕を絡めて離してくれない。
そのままの状態で魔王城の案内を始めてしまった。
俺が何かしたことの罰なら受け入れるつもりだから抵抗する気はないけど、これは一体何に対しての罰なんだ。
毎度毎度誰かと出会うたびに後ろから悲鳴が聞こえてくるけど、一体俺は何されるんだ。
「で、あそこが……」
「そっかー。すごいなー」
「私まだ何も言ってないけど」
しまった。
頭が回らないせいでテキトーに相槌打っていたのがバレた。
怒っているのか、パトラが下から睨みつけてくる。
いや、こんな状況で冷静に紹介を聞けってのが無理な話だろ。
なんにも入ってこないよ情報が。
「ねえ、ちゃんと話聞いてる?」
「き、聞いてるよ。あそこが食堂でしょ?」
「あれは空き部屋だって言ったじゃん。カイセイ聞いてないでしょ」
じっとりとした目つきで見てくるパトラ。
目を泳がせるも、言い訳も何も思いつかない。
汗ばっかりかくが、頭は働かない。
「すみません。聞いてませんでした」
「もー。しっかりしてよー」
「返す言葉もない」
これは罰が増えるのか。
俺が罰を気にするのにも理由がある。
それは、俺がまだ勇者パーティにいた頃、ことあるごとに勇者たちの逆鱗に触れ、罰を受けていたからだ。
以来、何をするにも罰、罰、罰、罰。そればっかり気にするようになってしまった。
今もきっと何か追加の罰があるのだろう。パトラは長く息を吐き出した。
「まあ、初日から全体を把握するなんてできることでもないしね。とりあえず今日は、軽く覚えておいてくれればそれでいいから」
「わ、わかった」
あれ、そこまで怒ってない?
まあ、部屋の名前はわからないけど、軽くでいいなら大丈夫だ。
俺のスキルなら、どの部屋に何があって、何人くらい中にいるかということなら把握できる。あとは名前と部屋の位置を覚えるだけなんだが、それが難しいんだよな。
休憩室に攻撃なんてしたら、罰どころじゃ済まないだろうし。
「じゃ、ここだけ覚えておいてって場所に連れてくから、そこは覚えててね」
「そういうことなら」
「と言っても、これから行く場所は、集合場所にもなってるから、すぐに覚えると思うよ?」
「なら安心だけど」
集合場所になる部屋ってなんだ?
目印でもおいてあるのか?
詳細を気にしながら長い道を歩いていると、ついたのは一際大きな扉。
魔王城で一番高い階層の部屋だった。
ん、ここって。
「お、やっと帰ってきたんだね。どうだった?」
扉が開けられると中には一人の女の子の姿があった。
「どうだったじゃないよ。それよりどうして私の椅子に座ってるの?」
「えー。誰もいなかったんだし、いいじゃん」
やっぱり、魔王の間だ。
今女の子が座っている椅子には本来パトラが座るのだろう。
なら、そんな魔王様の椅子にいなかったという理由で座っている女の子は一体誰なんだ。
緋色の髪をした少女。煌びやかな剣を腰に下げ、赤を基調とした装飾の多い服を着ている。
パトラの落ち着いた色味の服装とは正反対の、明るい雰囲気のその見た目からは明らかに強者だとわかる存在感があった。
「全く、レバレちゃんは自由なんだから」
「いつものことだしいいじゃん」
少女はレバレちゃんと言うらしい。ん? レバレ? レバレだって?
「え、レバレって。あの、剣聖レバレ・アラマンダ? 本人? う、嘘だ。レバレ・アラマンダは魔王と戦って死んだはずじゃ」
パトラにレバレちゃんと呼ばれた女の子は、やっと俺に気づいたのか手を振ってきた。
「そうだよ。ボクは剣聖レバレ・アラマンダ本人だよ。君が噂のカイセイ君だね?」
「は、はい」
伝説の英雄が生きていた。しかも、魔王城で。なんだこれ。なんだこれ。
「なんか私と再会した時と様子が違うんだけど」
こんな時にもパトラは不服そうだ。
しかし、それはそうだ。だって、だって。
「当たり前だろ? 幼馴染と再会するのと、死んだとされる人間と会うのじゃ次元が違うって。え、俺ファンなんです。握手してもらっていいですか?」
「いいよ」
うわぁ。すごい。本物だ。
天才的な剣筋で誰もまともに相手が務まらなかったあの剣聖、レバレさんだ。
生きてたんだ。
感動だな。
俺、生きててよかった。
「でも、パトラさんが前の魔王と戦ったのってずっと前の話ですよね? なんで生きてるんですか? 今何さ」
「何かな?」
見えなかった。
いつの間にか喉元に剣が突きつけられてる。
笑顔が怖い。
「なんでもないです」
「そっかー。ま、ボクのことは魔王様が呼んでるみたいに、レバレちゃんって呼んでね」
「はい。レバレちゃん」
いつの間にか剣がなくなってる。
まじか。こりゃ、誰も練習相手にならないわ。
「それで、私に何か聞きたいことがあったみたいだけど、いいの?」
「いえ、その、話したいことはたくさんあったんですけど、もういいかなと思って」
いつ、他の地雷を踏むかわからないし、怖くて話せたもんじゃない。
「えー。そんなこと言わないでさー。遠慮しないでいいから。ボクと楽しくお話ししようよ」
「いや、いいですって」
「ほら、カイセイがいいって言ってるでしょ。レバレちゃんは英雄だけど、気になることがある人とない人がいるんだから」
「でも、カイセイ君は気になってる方じゃなかった?」
「いえ、全然。レバレちゃんの手を煩わせるほどじゃないです」
「ほーら」
魔王の部屋に来て解放されたかと思ったら、またしてもパトラに捕まってしまった。
まだ続いてたのか。
「カイセイ君はボクとお話ししたいでしょ?」
「いいの。カイセイは私とこの部屋を見て回るんだから」
「見て回るほどのものないでしょここ」
「あるって。ほら、ここの飾りとか、ここの明かりとか」
「そんなの見なくてもいいじゃん。もっと他のところのが大事なんじゃないの?」
「見るの! カイセイと見るの!」
あれ、ちょっと待って、二人なんて言ってる?
剣が引っ込んでからなんか体に力が入らないんだけど、おかしいな。
攻撃は絶対に当たってないのに。
「ほら、カイセイ君ふらふらだよ? それ嫌なんじゃないの?」
「嫌じゃないよね? カイセイはずっとこのままでよかったよね?」
なんだか、不安そうにパトラが見てくるけど、何してるんだ?
なんでレバレちゃんは勝ったような表情してるんだ?
あれか? 今、遅効性の罰がここで効いてきてるのか?
まじかよ。嘘、嘘だ。俺、ここまでなのか。
あーあ。これならもうちょっと何かできてればよかったのに。
「本当に大丈夫? ちょっとボクが怒りすぎちゃった?」
「そうだよ。そのせいだよ。私は悪くないの。レバレちゃんが剣なんて向けるからだよ」
「そんなことないでしょ。あれくらい。ねえ」
ダメだ。
もうダメだ。
ふっと俺の体から力が抜けた。
「な、なるほどー。そうなんだねー」
パトラがくっついて離れない。
魔王城へ移動してきてからも、パトラは腕を絡めて離してくれない。
そのままの状態で魔王城の案内を始めてしまった。
俺が何かしたことの罰なら受け入れるつもりだから抵抗する気はないけど、これは一体何に対しての罰なんだ。
毎度毎度誰かと出会うたびに後ろから悲鳴が聞こえてくるけど、一体俺は何されるんだ。
「で、あそこが……」
「そっかー。すごいなー」
「私まだ何も言ってないけど」
しまった。
頭が回らないせいでテキトーに相槌打っていたのがバレた。
怒っているのか、パトラが下から睨みつけてくる。
いや、こんな状況で冷静に紹介を聞けってのが無理な話だろ。
なんにも入ってこないよ情報が。
「ねえ、ちゃんと話聞いてる?」
「き、聞いてるよ。あそこが食堂でしょ?」
「あれは空き部屋だって言ったじゃん。カイセイ聞いてないでしょ」
じっとりとした目つきで見てくるパトラ。
目を泳がせるも、言い訳も何も思いつかない。
汗ばっかりかくが、頭は働かない。
「すみません。聞いてませんでした」
「もー。しっかりしてよー」
「返す言葉もない」
これは罰が増えるのか。
俺が罰を気にするのにも理由がある。
それは、俺がまだ勇者パーティにいた頃、ことあるごとに勇者たちの逆鱗に触れ、罰を受けていたからだ。
以来、何をするにも罰、罰、罰、罰。そればっかり気にするようになってしまった。
今もきっと何か追加の罰があるのだろう。パトラは長く息を吐き出した。
「まあ、初日から全体を把握するなんてできることでもないしね。とりあえず今日は、軽く覚えておいてくれればそれでいいから」
「わ、わかった」
あれ、そこまで怒ってない?
まあ、部屋の名前はわからないけど、軽くでいいなら大丈夫だ。
俺のスキルなら、どの部屋に何があって、何人くらい中にいるかということなら把握できる。あとは名前と部屋の位置を覚えるだけなんだが、それが難しいんだよな。
休憩室に攻撃なんてしたら、罰どころじゃ済まないだろうし。
「じゃ、ここだけ覚えておいてって場所に連れてくから、そこは覚えててね」
「そういうことなら」
「と言っても、これから行く場所は、集合場所にもなってるから、すぐに覚えると思うよ?」
「なら安心だけど」
集合場所になる部屋ってなんだ?
目印でもおいてあるのか?
詳細を気にしながら長い道を歩いていると、ついたのは一際大きな扉。
魔王城で一番高い階層の部屋だった。
ん、ここって。
「お、やっと帰ってきたんだね。どうだった?」
扉が開けられると中には一人の女の子の姿があった。
「どうだったじゃないよ。それよりどうして私の椅子に座ってるの?」
「えー。誰もいなかったんだし、いいじゃん」
やっぱり、魔王の間だ。
今女の子が座っている椅子には本来パトラが座るのだろう。
なら、そんな魔王様の椅子にいなかったという理由で座っている女の子は一体誰なんだ。
緋色の髪をした少女。煌びやかな剣を腰に下げ、赤を基調とした装飾の多い服を着ている。
パトラの落ち着いた色味の服装とは正反対の、明るい雰囲気のその見た目からは明らかに強者だとわかる存在感があった。
「全く、レバレちゃんは自由なんだから」
「いつものことだしいいじゃん」
少女はレバレちゃんと言うらしい。ん? レバレ? レバレだって?
「え、レバレって。あの、剣聖レバレ・アラマンダ? 本人? う、嘘だ。レバレ・アラマンダは魔王と戦って死んだはずじゃ」
パトラにレバレちゃんと呼ばれた女の子は、やっと俺に気づいたのか手を振ってきた。
「そうだよ。ボクは剣聖レバレ・アラマンダ本人だよ。君が噂のカイセイ君だね?」
「は、はい」
伝説の英雄が生きていた。しかも、魔王城で。なんだこれ。なんだこれ。
「なんか私と再会した時と様子が違うんだけど」
こんな時にもパトラは不服そうだ。
しかし、それはそうだ。だって、だって。
「当たり前だろ? 幼馴染と再会するのと、死んだとされる人間と会うのじゃ次元が違うって。え、俺ファンなんです。握手してもらっていいですか?」
「いいよ」
うわぁ。すごい。本物だ。
天才的な剣筋で誰もまともに相手が務まらなかったあの剣聖、レバレさんだ。
生きてたんだ。
感動だな。
俺、生きててよかった。
「でも、パトラさんが前の魔王と戦ったのってずっと前の話ですよね? なんで生きてるんですか? 今何さ」
「何かな?」
見えなかった。
いつの間にか喉元に剣が突きつけられてる。
笑顔が怖い。
「なんでもないです」
「そっかー。ま、ボクのことは魔王様が呼んでるみたいに、レバレちゃんって呼んでね」
「はい。レバレちゃん」
いつの間にか剣がなくなってる。
まじか。こりゃ、誰も練習相手にならないわ。
「それで、私に何か聞きたいことがあったみたいだけど、いいの?」
「いえ、その、話したいことはたくさんあったんですけど、もういいかなと思って」
いつ、他の地雷を踏むかわからないし、怖くて話せたもんじゃない。
「えー。そんなこと言わないでさー。遠慮しないでいいから。ボクと楽しくお話ししようよ」
「いや、いいですって」
「ほら、カイセイがいいって言ってるでしょ。レバレちゃんは英雄だけど、気になることがある人とない人がいるんだから」
「でも、カイセイ君は気になってる方じゃなかった?」
「いえ、全然。レバレちゃんの手を煩わせるほどじゃないです」
「ほーら」
魔王の部屋に来て解放されたかと思ったら、またしてもパトラに捕まってしまった。
まだ続いてたのか。
「カイセイ君はボクとお話ししたいでしょ?」
「いいの。カイセイは私とこの部屋を見て回るんだから」
「見て回るほどのものないでしょここ」
「あるって。ほら、ここの飾りとか、ここの明かりとか」
「そんなの見なくてもいいじゃん。もっと他のところのが大事なんじゃないの?」
「見るの! カイセイと見るの!」
あれ、ちょっと待って、二人なんて言ってる?
剣が引っ込んでからなんか体に力が入らないんだけど、おかしいな。
攻撃は絶対に当たってないのに。
「ほら、カイセイ君ふらふらだよ? それ嫌なんじゃないの?」
「嫌じゃないよね? カイセイはずっとこのままでよかったよね?」
なんだか、不安そうにパトラが見てくるけど、何してるんだ?
なんでレバレちゃんは勝ったような表情してるんだ?
あれか? 今、遅効性の罰がここで効いてきてるのか?
まじかよ。嘘、嘘だ。俺、ここまでなのか。
あーあ。これならもうちょっと何かできてればよかったのに。
「本当に大丈夫? ちょっとボクが怒りすぎちゃった?」
「そうだよ。そのせいだよ。私は悪くないの。レバレちゃんが剣なんて向けるからだよ」
「そんなことないでしょ。あれくらい。ねえ」
ダメだ。
もうダメだ。
ふっと俺の体から力が抜けた。
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