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第一章 勇者パーティ崩壊

第11話 魔王よりも偉い人

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 目指す先も聞かされぬまま、俺は着替えを済ませ部屋を出た。

「お待たせ」

 俺が部屋を出ると、昨日と同じような黒のドレスを着たパトラと、赤い鎧を身につけたレバレちゃんの姿があった。

「よかった。大きさ合ってたみたいで」

「ああ。前の装備はだいぶ消耗してたしありがたいよ」

「どういたしまして」

「よかったね魔王様。これもじゅ」

 じゅ、なんだ?

「レバレちゃん。今から行くところはレバレちゃんの恩人のところだから、もう少し落ち着いてね」

「はーい」

 一応魔王なだけあり、パトラの方が偉いらしく、レバレちゃんが静かになった。

 じゅ、なんだったんだ。

 わからないものは仕方ない。

 パトラが用意してくれた装備は、魔王軍の幹部にふさわしいものなのかわからないが、なんとも禍々しい雰囲気を放っていた。

 呪われないことを祈りながら、俺はパトラについて歩き出した。



「ここよ」

「ここがその行くべきだった場所?」

「そう」

 パトラがさしたのは特別装飾が豪華なわけでもない、他の部屋と同じ雰囲気の部屋だった。

 中にいるのも一人のようだし、一体なぜこの部屋が大事なのかわからない。

「失礼しまーす」

 中がなんなのか俺が聞く前に、パトラは部屋の扉を開けてしまった。

「おや、魔王様じゃないか」

 返事が返ってくる。

 女性の声だ。

「魔王様はやめてください。私はまだひよっこですから」

「そうかい。じゃ、パトラ。今日は何か用かい? 人類殲滅の魔法かな? それとも、もっと強大な魔法を知りたいとか?」

「知りたいって言ってもどうせ教えてくれないんでしょう?」

「当たり前だ。人間を無差別に殺す理由がないからな」

「じゃなくて、今日は新入りを紹介したくて来ました」

「新入り?」

 何やら親しげに話しているが、どうやら魔王であるパトラよりも偉い人らしい。

 偉ぶっているわけじゃないが、パトラの接し方からそんなことはわかる。

 そして、この人は強い。

 視線が向けられただけで冷や汗が出てくる。

「紹介します。新しく魔王軍の幹部になったカイセイです」

「はい。カイセイ・アークランドです。よろしくお願いします」

「ふむ」

 俺が頭を下げた瞬間、俺のスキルが自動的に俺を防御した。

 え、いきなり何された? だいぶスキルが本調子に戻ってきたみたいだけど、俺、何されたんだ? 下向いてて見えなかったんだが。

「ほう。これを防ぐか。人間としてはなかなかやるではないか」

「何してるんですか。ドーリーさん。私、カイセイは新しい幹部だって言いましたよね?」

「言ったな」

「それなのに、何してるんですか」

「何って、我が使った魔法は攻撃魔法じゃない。単に我好みに見た目を変える魔法さ」

「そんなの必要ないでしょ」

「ある」

「えー」

 堂々と言い張ったドーリー。

 いや、なんてことしてくれようとしたんだこの人。

「我は人間は好きだ。特に女子供の方が好きだ。現にパトラ。お前も女だろう」

「そうですけど」

「レバレだって女じゃないか」

「そうですね」

「なら、カイセイとやらも女でいいじゃないか」

「なんでそうなるんですか」

「だから言っただろう。我は女子供の方が好きだと」

 なんだろう。とんでもないこと言ってる気がする。

 そして、パトラの魔王権限でも止まることを知らないらしい。

「誰なの? あれ」

 俺は、いきなり俺を女にしようとした人物が気になり、隣のレバレちゃんにヒソヒソと話しかけた。

 このまま黙って見ていても話が進みそうにない。

「あれね。先代魔王のドーリー・サドンさんだよ。ボクが戦った魔王様で、今は現役を退いてる魔王様」

「マジで?」

「マジマジ。ボクが相打ちになったって相手はドーリーさんだから」

「じゃあ、なんで生きてるの? 二人とも」

「そりゃ、あくまで話は広めただけだからだよ。勇者一人じゃ魔王軍には敵わなかった。それで、なんやかんやあって敵ながら情けをかけてもらったってわけ」

「なんやかんやが重要じゃない?」

「いいんだよ。細かいことは。それよりほら」

「カイセイはカイセイなんです。いいでしょ。今の魔王は私なんですから。人間を幹部にしても」

「育ての親になんて態度を! 我はパトラをそんなわがままに育てた覚えはないぞ」

「わがままはドーリーさんの方でしょ」

 何この親子喧嘩。魔王同士でなにしてるのこの人たち。

 壁を作ったとは言え、いつ勇者たちが攻めてくるかもわからないのに、呑気すぎやしないか?

「もう知らない。わがままな人は自分がわがままだって知らないからいけないと思うの。当分構ってあげませんから」

「な、わ、悪かった。我も久しぶりにパトラに会えてテンションがあがっちゃっただけだから。それに新しい幹部が入ってきて嬉しかっただけだから。調子に乗って申し訳なかったと思ってるから」

「知らない。行こうカイセイ。レバレちゃん。じゃーねードーリーさん」

 俺はパトラに背中を押され部屋から出た。

「ま、待って、もうちょっとだけ、攻めてカイセイ君をお」

 扉が閉められてしまった。

 俺、謎の攻撃を防いだだけで何もしてない気がするんだけど。

「パトラ、これでよかったの?」

「いいの。見た目は若いけど、もうおばあさんなんだから、無茶させないために私が魔王になったのに全然大人しくしてる様子ないし」

「いいじゃん。魔王様。ドーリーさんだってサポートしたいんだよ」

「それはありがたいけどさ」

 魔王軍に拾われてからも色々あったんだなパトラ。

 あと、俺に会った時の喋り方は若干ドーリーさんを意識してのことだったんだな。

「何笑ってるの?」

 パトラに睨みつけられ、俺は首を横に振った。

「なんでもない」

 言ってることも心配してる様子だし、本当にドーリーさんのことが好きなんだなパトラは。

「気になるじゃん」

「なんでもないって」

「なんでもないことないでしょ」

 隠し通しても仕方のないことだが、話したら違うと言われそうだし、俺はくすぐられながらも言うまいと抵抗した。

「君たち、ボクもいるってこと忘れてない?」

「忘れてないよ」

「うん。忘れてないって」

「そんな楽しそうな魔王様、今まで見なかったけどな」

「そりゃ、昔の知り合いと会えるのは嬉しいものだよ」

「そういうものかな」

 少し寂しそうな顔でレバレちゃんはどこかを向いた。

 その表情は、レバレちゃんが生きている理由と関係があるのだろうか。

 そこで、俺は何かを感知した。

「どうしたの?」

 なんだこれ、初めての感覚。そうか。

「俺が作った壁が攻撃されてる」

「え?」
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