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第一章 勇者パーティ崩壊
第13話 勇者襲来
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「来た」
パトラと自室でゲーム中、壁が攻撃を受けていることを察知した。
この間、先遣隊の人たちがしていた投石よりも大きな攻撃だ。
勇者バドンが来たんだ。
「行こうか。カイセイ」
「ああ」
パトラに促され、俺はゲームを中断し立ち上がった。
「本当にボクは行かなくていいの?」
レバレちゃんに聞かれ、俺は頷いた。
「万一俺が突破された時はお願いします」
「えー。絶対そんなチャンス来ないじゃん。これまでの感じからすると、今の勇者くんの実力じゃカイセイ君に勝ち目ないよ? 勇者くんの実力が気になったのにー。カイセイ君ばっかりずるいー」
「俺だって望んでやってるわけじゃないんです」
「やっぱり、勇者と戦うのは嫌だった?」
パトラの不安そうな表情に俺は首を横に振った。
「そんなわけないじゃん。自分の手を汚さずに殺そうとした相手だよ? 相手にとって不足なしだよ。ただ」
「ただ?」
「かつての仲間だから、戦わないで済むならその方がいいと思っただけ」
「そっか……」
パトラが少ししょんぼりしたように俯いてしまった。
それもそうか、俺が名残惜しさを出してちゃ魔王として戦わせづらいか。
「じゃ、先輩幹部のレバレちゃんが後輩のカイセイ君に一ついいことを教えてあげよう」
「なんですか? ろくでもないことですか?」
「そうだね。そんなところ」
「こんな時に変なこと言い出さないでよ」
パトラに口を押さえられながらも、レバレちゃんは笑顔で俺に言った。
「それは、絶対に敵対しない存在なんていないってこと。ボクがまだ魔王討伐を目指していた頃、いろんな考えでボクの寝首をかこうとしてきた人がいた。人間なんてそんなものだよ」
「レバレちゃん」
「さ、行った行った。ボクが出る幕なんてなくしてね」
「はい」
俺は地味だったせいか、勇者パーティ在籍時、命を狙われることはなかった。
けれど、レバレちゃんほど有名だと、正しいとされることをしていても反抗する人はいるのだ。
「本当にいいの?」
「ああ。俺はもう魔王軍の幹部だから」
ホッと息を吐き出すパトラ。そして、伸ばされた手を掴み俺は頷きかけた。
「あ、でも、ピンチになったらすぐにサインを出してね。ボクが駆けつけるから」
「分かりましたって」
まあ、レバレちゃんが行けば、一人で片付けられるかもしれないが、これは俺の因縁なのだ。
「それじゃ行くよ。『テレポート』!」
視界が白飛びし、不思議な感覚に包まれた。
視界が戻ると、そこはパトラが作った壁のすぐ近く。
俺の作った壁まで距離はあるが、ここからは俺のスキルで加速移動だ。
竜巻、嵐、雨、日照り。
なんでも起こせる俺のスキル「環境操作」を工夫して使い、瞬間移動並みのスピードで現場に到着した。
「カイセイが生きてるって話は本当かな?」
この声は勇者バドン。
「生きてるわけないでしょ。だって、あのダンジョンから脱出する方法なかったんだから。結晶も魔法も使えなかったはずでしょ?」
続いてマジュナが言う。
「その通りです。私たちでもギリギリな相手に、あの人が敵うはずないじゃないですか」
これはヒルギスの声。
「だよな。じゃあ、先遣隊の奴らが見たってのは、一体なんだったんだろうな!」
ガードンの声、加えてゴリゴリと削れる音。
どうやら、俺の壁はしっかりとその役割を果たしているらしい。
「さっきより丈夫になってないか? 並の装備じゃなんも効かないぞ。剣が刀身ごとイカれやがった」
「カイセイが生きているかどうかは気になるが、まずはこの壁をどうにかしないと何もできやしない。地面を掘るか? カイセイの報告は口止めしておいたから、時間がかかっても問題ないはずだ」
「あの」
あっぶな。
後から後から、壁に攻撃がぶち当たる音が響いてくる。
「大丈夫?」
「ああ。すんでのところで当たらなかった」
顔出しただけで引っ込んだが、あの顔はガチだった。瞳孔開きすぎだった。
バドン。あれは殺人鬼の顔だろ。勇者が人間を見てまず攻撃に向かっちゃダメだろ。
「う、嘘だろ?」
「そんな。あり得ないわ」
「これでは、これでは」
「おいおい。マジかよ」
どうかしたのか。いや、壁から伝わる感覚だけでわかる。
勇者の聖剣が俺の壁にぶつかり、壊れたのだろう。
「この剣はオリハルコンでできてるんだぞ。なんで、この壁一体何でできてるんだ。おい。カイセイ! いるんだろ。お前なんで生きてるんだ。どうしてそんなところにいるんだよ。いい加減出てこい」
嫌だよ。絶対俺のこと殺すじゃん。全員で総攻撃してきた相手のところに行きたくないわ。
パトラが近くにいることで発生する身体能力強化がなければ、どれかが当たってたかもしれない。
でも、ここは俺がなんとかするって雰囲気だしな。
「どうするの?」
パトラも俺の躊躇を察知したのか、少し不安げに聞いてくる。
「行くさ」
「でも、相手は勇者パーティでしょ? さっきは壁で防げたけど」
「俺に考えがある」
今はパトラが用意してくれた装備だってあるし、パトラがいることで力が増している。
俺は壁を通り抜けながら、嵐を体に身に纏った。
「くらえ! 『スターダストソード』!」
残された刀身が俺の嵐に当たりそして消えてなくなった。
「星屑になったのは剣の方だったな」
「くそっ! くそっ! 君さえ生きていなければ、僕たちは今頃魔王攻略のために準備を進めていたんだ」
「ということは、この状況はイレギュラーってことか」
「そうだよ。この嵐の発生に、カイセイ生存。僕たちがここに来た理由はその二つだ。壁と同じものを装備しているところを見ると、この嵐とカイセイは関係があるんだろう?」
「そうさ。これは俺がやった」
「僕達の後衛で突っ立ってただけのくせに」
「今俺に攻撃が通らないくせに何て?」
「くっ」
さすがに聖剣による攻撃を防がれ、聖剣を砕かれては戦意喪失しても仕方ないか。
いくら勇者と言えど、戦うことができなければただの人。
「最初から魔王軍のスパイだったのね?」
「それは違う。俺はダンジョンで魔王様に助けていただいたのだ。今の俺は魔王軍幹部だ」
俺は言いながら、勇者たちにパトラからもらったペンダントを突き出し見せつけた。
「それが魔王軍の証ですか? それじゃあ本当に魔王軍に? しかし、魔王が人助けを? そんなこと聞いたこともありません」
「しかも、今の魔王は先代に助けられた人間だ」
「はっ! 何を寝ぼけたことを言ってるんだ。そんなわけないだろ」
「カイセイ。まだかかりそう?」
「大丈夫。もうすぐ終わるから」
「もうすぐ、終わるだって? しかも女性を連れて来てるのか?」
バドンは剣を強く握り締めた。
いや、もうそれは剣とすら言えない。ただの棒切れだ。
俺は思わず鼻で笑ってしまった。
「今の勇者パーティが俺に攻撃する手段があるか?」
「……」
誰も答えない。
本人たちもわかっているのだろう。今の俺との実力差を。
「いい気になるなよ。壁に聖剣を砕かれなければ、こんなことにはならなかったんだからな」
爽やかな態度も今の勇者からは消えている。
そんな負け犬の遠吠えに俺は笑みを浮かべた。
「この壁も俺が作ったものだがな」
「は?」
「だから、この壁も俺が作ったものだ。そろそろパトラも心配しているし、終わりにしないといけなんだが」
俺は片手を前に突き出した。
「まだやると言うなら、魔王様が見出してくれた俺の力で戦うことになるが」
「チッ。引き返すぞ」
「バドン様?」
「こいつには勝てない。後のことはこれから考える。いいか、僕達は負けたわけじゃない。次来る時は君を殺す時だ。今殺さないことを後悔するぞ。覚えてるといい」
走り出した勇者一行を見て俺は壁の中に戻った。
パトラと自室でゲーム中、壁が攻撃を受けていることを察知した。
この間、先遣隊の人たちがしていた投石よりも大きな攻撃だ。
勇者バドンが来たんだ。
「行こうか。カイセイ」
「ああ」
パトラに促され、俺はゲームを中断し立ち上がった。
「本当にボクは行かなくていいの?」
レバレちゃんに聞かれ、俺は頷いた。
「万一俺が突破された時はお願いします」
「えー。絶対そんなチャンス来ないじゃん。これまでの感じからすると、今の勇者くんの実力じゃカイセイ君に勝ち目ないよ? 勇者くんの実力が気になったのにー。カイセイ君ばっかりずるいー」
「俺だって望んでやってるわけじゃないんです」
「やっぱり、勇者と戦うのは嫌だった?」
パトラの不安そうな表情に俺は首を横に振った。
「そんなわけないじゃん。自分の手を汚さずに殺そうとした相手だよ? 相手にとって不足なしだよ。ただ」
「ただ?」
「かつての仲間だから、戦わないで済むならその方がいいと思っただけ」
「そっか……」
パトラが少ししょんぼりしたように俯いてしまった。
それもそうか、俺が名残惜しさを出してちゃ魔王として戦わせづらいか。
「じゃ、先輩幹部のレバレちゃんが後輩のカイセイ君に一ついいことを教えてあげよう」
「なんですか? ろくでもないことですか?」
「そうだね。そんなところ」
「こんな時に変なこと言い出さないでよ」
パトラに口を押さえられながらも、レバレちゃんは笑顔で俺に言った。
「それは、絶対に敵対しない存在なんていないってこと。ボクがまだ魔王討伐を目指していた頃、いろんな考えでボクの寝首をかこうとしてきた人がいた。人間なんてそんなものだよ」
「レバレちゃん」
「さ、行った行った。ボクが出る幕なんてなくしてね」
「はい」
俺は地味だったせいか、勇者パーティ在籍時、命を狙われることはなかった。
けれど、レバレちゃんほど有名だと、正しいとされることをしていても反抗する人はいるのだ。
「本当にいいの?」
「ああ。俺はもう魔王軍の幹部だから」
ホッと息を吐き出すパトラ。そして、伸ばされた手を掴み俺は頷きかけた。
「あ、でも、ピンチになったらすぐにサインを出してね。ボクが駆けつけるから」
「分かりましたって」
まあ、レバレちゃんが行けば、一人で片付けられるかもしれないが、これは俺の因縁なのだ。
「それじゃ行くよ。『テレポート』!」
視界が白飛びし、不思議な感覚に包まれた。
視界が戻ると、そこはパトラが作った壁のすぐ近く。
俺の作った壁まで距離はあるが、ここからは俺のスキルで加速移動だ。
竜巻、嵐、雨、日照り。
なんでも起こせる俺のスキル「環境操作」を工夫して使い、瞬間移動並みのスピードで現場に到着した。
「カイセイが生きてるって話は本当かな?」
この声は勇者バドン。
「生きてるわけないでしょ。だって、あのダンジョンから脱出する方法なかったんだから。結晶も魔法も使えなかったはずでしょ?」
続いてマジュナが言う。
「その通りです。私たちでもギリギリな相手に、あの人が敵うはずないじゃないですか」
これはヒルギスの声。
「だよな。じゃあ、先遣隊の奴らが見たってのは、一体なんだったんだろうな!」
ガードンの声、加えてゴリゴリと削れる音。
どうやら、俺の壁はしっかりとその役割を果たしているらしい。
「さっきより丈夫になってないか? 並の装備じゃなんも効かないぞ。剣が刀身ごとイカれやがった」
「カイセイが生きているかどうかは気になるが、まずはこの壁をどうにかしないと何もできやしない。地面を掘るか? カイセイの報告は口止めしておいたから、時間がかかっても問題ないはずだ」
「あの」
あっぶな。
後から後から、壁に攻撃がぶち当たる音が響いてくる。
「大丈夫?」
「ああ。すんでのところで当たらなかった」
顔出しただけで引っ込んだが、あの顔はガチだった。瞳孔開きすぎだった。
バドン。あれは殺人鬼の顔だろ。勇者が人間を見てまず攻撃に向かっちゃダメだろ。
「う、嘘だろ?」
「そんな。あり得ないわ」
「これでは、これでは」
「おいおい。マジかよ」
どうかしたのか。いや、壁から伝わる感覚だけでわかる。
勇者の聖剣が俺の壁にぶつかり、壊れたのだろう。
「この剣はオリハルコンでできてるんだぞ。なんで、この壁一体何でできてるんだ。おい。カイセイ! いるんだろ。お前なんで生きてるんだ。どうしてそんなところにいるんだよ。いい加減出てこい」
嫌だよ。絶対俺のこと殺すじゃん。全員で総攻撃してきた相手のところに行きたくないわ。
パトラが近くにいることで発生する身体能力強化がなければ、どれかが当たってたかもしれない。
でも、ここは俺がなんとかするって雰囲気だしな。
「どうするの?」
パトラも俺の躊躇を察知したのか、少し不安げに聞いてくる。
「行くさ」
「でも、相手は勇者パーティでしょ? さっきは壁で防げたけど」
「俺に考えがある」
今はパトラが用意してくれた装備だってあるし、パトラがいることで力が増している。
俺は壁を通り抜けながら、嵐を体に身に纏った。
「くらえ! 『スターダストソード』!」
残された刀身が俺の嵐に当たりそして消えてなくなった。
「星屑になったのは剣の方だったな」
「くそっ! くそっ! 君さえ生きていなければ、僕たちは今頃魔王攻略のために準備を進めていたんだ」
「ということは、この状況はイレギュラーってことか」
「そうだよ。この嵐の発生に、カイセイ生存。僕たちがここに来た理由はその二つだ。壁と同じものを装備しているところを見ると、この嵐とカイセイは関係があるんだろう?」
「そうさ。これは俺がやった」
「僕達の後衛で突っ立ってただけのくせに」
「今俺に攻撃が通らないくせに何て?」
「くっ」
さすがに聖剣による攻撃を防がれ、聖剣を砕かれては戦意喪失しても仕方ないか。
いくら勇者と言えど、戦うことができなければただの人。
「最初から魔王軍のスパイだったのね?」
「それは違う。俺はダンジョンで魔王様に助けていただいたのだ。今の俺は魔王軍幹部だ」
俺は言いながら、勇者たちにパトラからもらったペンダントを突き出し見せつけた。
「それが魔王軍の証ですか? それじゃあ本当に魔王軍に? しかし、魔王が人助けを? そんなこと聞いたこともありません」
「しかも、今の魔王は先代に助けられた人間だ」
「はっ! 何を寝ぼけたことを言ってるんだ。そんなわけないだろ」
「カイセイ。まだかかりそう?」
「大丈夫。もうすぐ終わるから」
「もうすぐ、終わるだって? しかも女性を連れて来てるのか?」
バドンは剣を強く握り締めた。
いや、もうそれは剣とすら言えない。ただの棒切れだ。
俺は思わず鼻で笑ってしまった。
「今の勇者パーティが俺に攻撃する手段があるか?」
「……」
誰も答えない。
本人たちもわかっているのだろう。今の俺との実力差を。
「いい気になるなよ。壁に聖剣を砕かれなければ、こんなことにはならなかったんだからな」
爽やかな態度も今の勇者からは消えている。
そんな負け犬の遠吠えに俺は笑みを浮かべた。
「この壁も俺が作ったものだがな」
「は?」
「だから、この壁も俺が作ったものだ。そろそろパトラも心配しているし、終わりにしないといけなんだが」
俺は片手を前に突き出した。
「まだやると言うなら、魔王様が見出してくれた俺の力で戦うことになるが」
「チッ。引き返すぞ」
「バドン様?」
「こいつには勝てない。後のことはこれから考える。いいか、僕達は負けたわけじゃない。次来る時は君を殺す時だ。今殺さないことを後悔するぞ。覚えてるといい」
走り出した勇者一行を見て俺は壁の中に戻った。
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