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第一章 勇者パーティ崩壊

第14話 勇者撃退

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 よかった帰ってくれて。

 勇者たちが引き返したため、俺は嵐の壁の中に戻り、ほっと息を吐き出した。

 いくら俺を殺そうとした勇者とは言え、自分の手にかけたとなれば寝覚めが悪いだろうからな。

 俺が任されたのは防衛であって殺戮ではない。

「カイセイ。無事? 怪我はない?」

 身に纏った嵐を解除した俺の体をペタペタと触りながらパトラが聞いてきた。

「無事だよ。大丈夫だよ」

「本当? 無理してない? 相手は勇者パーティでしょ? もしかしたらってこともあるんじゃ……」

 俺の言葉を聞いても、パトラは俺の体を念入りに調べている。

 心配性なパトラだ。

 念の為、俺も自分の体をチェックしておくか。

 と言っても。

「うーん。特に怪我も何もないけどな」

 一斉攻撃を受けそうになった時は少しひやっとしただけで、攻撃は防いだし痛いところも何もない。

「俺はなんともないよ。無事だよ」

「そう? そう、みたいね。よかった」

 やっと納得したのかパトラもほっと息を吐き出した。

「でも、さすが私が見込んだ通りね。相手が勇者パーティでも追い返しちゃうなんて」

 安心したかと思えば、今度は自分ごとのように胸を張って自慢げだ。

「それを期待して俺をスカウトに来たんじゃなかったの?」

「そうだけど、やっぱり四対一なんて状況は不利だと思うでしょ?」

「まあ、それもそうか」

 俺だって能力を封印していた時は、勇者パーティと戦おうなんて思いもしなかった。

 反抗すれば人数で不利だし、そもそも目的は魔王を倒すことだった。

 そのうえ、実力にも自信がなかったとなれば、不満があっても押し込めてしまうというものだ。

 サポーターだからと持てる以上の荷物を持たされたり、無理矢理前衛のトレーニングをさせられたり。パーティをクビにされる前からも俺に対しての扱いは雑だった。

 俺もスキルを使えたからこそなんとかなったが、正真正銘ただのサポーターなら今頃くたばっていたかもしれない。

「でも、さっきの様子だと勇者の聖剣を砕いちゃったの?」

「ん? ああ。そう、みたい」

「それ大丈夫なの!?」

 大げさに驚くパトラに俺は吹き出してしまった。

「何その反応」

「いや、魔王様でも驚くことあるんだと思って」

「あるよ。それに、こんな時だけ魔王様なんて」

「からかってごめんって。でも、わかんない。魔王軍としてはよかったんじゃない?」

「まあ、敵の戦力を削げるなら願ったり叶ったりかな」

 ならいいのだろう。

 命を取らない程度に困らせられるなら、俺としても少し胸のつかえが取れる気がするし。

「じゃ、レバレちゃんにも報告だね」

「報告するの?」

「そりゃそうだよ。これでレバレちゃんもカイセイの実力を認めてくれるよ」

 別に俺の能力に否定的ではなかった気がするが。

「ま、パトラが言うならそうするか」

「戻ろう魔王城に」

 パトラが俺に向けて手を差し出してきた。

「ああ」

 俺は伸ばされたパトラの手を掴んだ。

「それじゃ行くよ? 『テレポート』!」

 パトラが呪文を唱えると、俺の視界はすぐに真っ白く染まった。



 テレポート先は色々と登録しているようで、今回は魔王の間。

 今回もレバレちゃんは魔王の椅子に肩肘をついて座っていた。

「レバレちゃーん。戻ったよー」

「……」

 返事がない。

「レバレちゃん? ねえ、レバレちゃん。戻ったよ。私だよ。パトラだよ」

「んな? 何? 勇者が来たの? おはよう魔王様。とうとうボクの出番?」

 寝ぼけた様子で目をこすりながらレバレちゃんは言った。

「おはようって。寝てたの?」

「ああ。ごめんごめん。遅かったからさ。あれ? カイセイ君? ってことは、ボクの応援がとうとう必要になったってこと? 魔王様直々に呼びに来てくれたの?」

「違うよ。勇者パーティが帰ったからレバレちゃんに報告に来たの」

 ふふん。と鼻を鳴らすパトラ。

 しかし、目の前で座っているレバレちゃんは、なんだか不服そうに口を尖らせた。

「なんで不満そうなの? 勇者の侵入を防いだのは嬉しいことでしょ?」

「だって、それってカイセイ君が片付けちゃったってことでしょ?」

「そうだよ? まるで自分の出番を待ってるようだったけど、レバレちゃんの出る幕はなかったよ。これでカイセイがすごいってちゃんとわかったでしょ?」

「わかってたよそれくらい」

「え?」

 やっぱり? いや、なんかやっぱりってのも自画自賛みたいで変か。

 でも、言ってたもんな。出る幕を無くしてって。

「ボクだって剣聖と呼ばれた魔王軍幹部なんだよ? カイセイ君と勇者パーティの実力差くらいわかるよ」

「そうなの?」

「当たり前でしょ。それに、ボクは別に人間が魔王軍に入ることを反対している人たちと違うんだよ。初めからカイセイ君が入ることには反対してないよ」

「じゃあ、なんで不服そうなの?」

「ボクの出番がなかったからに決まってるでしょ? ただでさえ雑用、雑用、雑用、雑用で、最近はまともに剣を振ってないんだから」

「雑用って言うけど立派な仕事だよ?」

「やってることは生活に必要なことだけじゃん。地味!」

「地味って言った! レバレちゃん。生活に必要なものを地味って言った!」

「ボクはもっと血湧き肉躍る戦いを望んでたの!」

 剣聖ってそんな野蛮な人だったのか。

 まあ、さらに強く、そして上を目指すという意味では、血湧き肉躍る戦いを求めることは合ってるのか?

「カイセイ君もそう思うでしょ?」

「え、俺ですか?」

 突然話を振られた。

「カイセイはレバレちゃんとは違うよね?」

 え、いやどうなんだろう。

 レバレちゃんとパトラから同時に見られている。

 レバレちゃんは戦いを望んでいて、パトラは必要な雑用をこなそうとしている。

「必要ない雑務ならやらなくていいんじゃない?」

「ほら」

 レバレちゃんが自慢そうに言う。

「でも、カイセイは私たちがやってること何も知らないでしょ?」

「確かに、魔王軍の活動って知らないかも」

「だったら見てから決めるべきだよ」

「そんなー」

 レバレちゃんは納得いかないようだが、俺は少し気になっている。

「じゃ、これからレバレちゃんに任せようと思ってたことをみんなでやろうか」

 パトラが嬉しそうに言い出した。
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