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第一章 勇者パーティ崩壊
第15話 勇者敗走
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「クソッ!」
僕は思わず近くを殴りつけた。
拳で叩けば岩だって簡単に砕けるというのに、あのカイセイはそんな僕の攻撃をものともしなかった。
こんなことありえないだろ。
カイセイがサポーターとして優秀とわかったかと思ったら、今度は単独でも僕たち勇者パーティを圧倒しただって?
「ふざけるな!」
そもそもなんであいつは生きているんだ。魔王がカイセイを助けたって、一体どうなってるんだ。
「なんで僕たちがこんな目にあわなければいけないんだ!」
今の僕たちはカイセイがいないことで、野営も移動もまともにできずボロボロだった。
ひとまず王都まで戻ってくることはできたが、こんな状況は絶対におかしい。
「あの、バドン様。ひとまず街に入りませんか? 頭を冷やすべきだと思います」
「あ? ああ。そうだな。そうするとしようか」
マジュナに言われ、僕は少し冷静さを欠いていたことに気づいた。
いけないいけない。もう相手は人類の敵なんだ。対策は考えたとしても、それ以上のことは必要ない。
王都に入ると、これまたいつもと雰囲気が違っていた。
先遣隊の人たちが情報を持って帰って来ているはず。
カイセイのことについては口封じをしておいたが、嵐が魔王城を囲んでいたことは報告されているはずだ。
何が起きているかわかれば、不安も軽減すると思うのだが、誰一人として街に繰り出していない。
僕たちが以前帰って来た時の混乱とは、また違った様子だった。
「どうなっているのでしょうか。まさか、今度こそ本当に魔王軍が王都を襲ったとか?」
ヒルギスが言いながら辺りを見回している。
ヒルギスの見立ては大抵の場合正しいが、それにしては街が綺麗すぎる。
「にしてもおかしいだろ。戦った痕跡がなさすぎる。まるで、何かを警戒していると言った方が正しいんじゃないか?」
ガードンが続けて言った。
「僕もそう思う。おそらく住民は無事なはずだ。誰もいないんだったら、城に言って王様から話を聞こう」
パーティメンバーの確認を取り、僕たちは城を目指すことに決めた。
この時、民家からヒソヒソと話し声が聞こえて来た気がした。
いつもなら聞こえないはずの小さな小さな声だった。
なんと言っていたのかわからないが、僕たちについて話していたような気がする。
「どうしました? バドン様」
「いや、なんでもない」
「すいません。魔王城に発生した嵐の偵察について、報告に来たのですが」
「……」
城門前に来た僕たちは、衛兵さんに通してもらおうと話しかけたのだが、渋い顔をして通してくれない。
おかしいな。普段ならへこへこしながらすぐに通してくれるのに。
「あの。聞こえませんでしたか? 勇者バドンが魔王城の偵察から戻ったので通してほしいんですけど」
「……チッ。入れ」
「今バドン様に対して舌打ちしませんでした?」
「何かの気のせいだろ。さっさと入れ」
「感じわる。行きましょバドン様」
「あ、ああ」
マジュナにうながされ、僕は開かれた城門をくぐった。
やはり何かおかしい。
まさか、精神操作系の敵が攻めて来たのだろうか。
内部から人類を滅ぼそうという知能犯が来ているかもしれない。
「もしかしたら、人間に化けた魔物が潜んでいるかもしれない。警戒するように」
「なるほど。思考を操られているということですね」
「ああ」
ヒルギスは理解が早くて助かる。
「ふっ」
何故か衛兵さんに鼻で笑われた気がするが、きっとくしゃみでもしたんだろう。
「勇者バドンただいま戻りました」
玉座の前まで珍しく誰もいなかった。
今も王様と衛兵。それに先遣隊の人たち以外の人はいない。
普段はもっと忙しそうに人がいるのだが、今日は暇な日なのか謁見まで待つこともなかった。
それとも僕が知らないだけで、今日は休日なのだろうか。
「ご苦労。報告は」
重々しい雰囲気で王様は言った。
王様はいつもより真面目だが、衛兵さんと違って変化は少ないな。
「はい。魔王城に発生した嵐は魔王城を取り囲むようにあり、中への侵入が不可能になっていました。特別、この辺りまで移動して災害をもたらすといったことは考えられないと思います。破壊も試みましたが、なにぶん嵐なもので、変化は見られませんでした」
「ふむ。それだけか?」
「それだけ、とは。どういうことでしょうか」
「報告はそれだけかと聞いているのだ」
僕は王様の言葉を受けて、パーティメンバーと顔を見合わせた。
他に何もないはずだ。
確かに、カイセイがいないせいで行きも帰りも遅くなってしまったことは腹立たしいが、報告することなど他に何もないはずだが。
「嵐の消滅を求められていたのなら申し訳ありませんが、今の我々には不可能です」
「そんなことを聞いているのではない。勇者バドンよ。大臣に嘘の報告をしたことに対する抗弁はないのかと聞いておるのだ」
「嘘?」
嘘ってなんだ。大臣に対する嘘。
「お主らのパーティの一員だったカイセイについてだ。彼は今も魔王城に幽閉されておるのだろう。何故それを報告しない。死んだのではなく生きているようではないか。つまりお主らはダンジョンで見殺しにするつもりだったということだろう」
「カイ、セイ……」
なんで王様がカイセイ生存を知っているんだ。
近くにいる先遣隊の人たちに視線を向けると、全員が僕から目線をそらした。
そうか。誰だか知らないが報告したらしいな。
「そのうえ、この者たちに余に伝えぬように言っていたようだな。それは一体どういうことだ?」
「王よ。そのことに関してでしたら、説明させてください」
「よかろう。話せ」
そうか、噂は王都全体まで広がっているんだな。
口の軽い誰かが、誰彼構わずに話しまくったわけだ。
それで、仲間を見殺しにした勇者として街の人々も僕たちが帰って来たことに気づいて家の中に引きこもったと。
くそ。事実じゃないか。カイセイはあの場で死んで、死人に口なし。それで丸く収まるはずだったのに。
やばいな。説明するとは言ったが、さて、どう言ったものか。
僕は思わず近くを殴りつけた。
拳で叩けば岩だって簡単に砕けるというのに、あのカイセイはそんな僕の攻撃をものともしなかった。
こんなことありえないだろ。
カイセイがサポーターとして優秀とわかったかと思ったら、今度は単独でも僕たち勇者パーティを圧倒しただって?
「ふざけるな!」
そもそもなんであいつは生きているんだ。魔王がカイセイを助けたって、一体どうなってるんだ。
「なんで僕たちがこんな目にあわなければいけないんだ!」
今の僕たちはカイセイがいないことで、野営も移動もまともにできずボロボロだった。
ひとまず王都まで戻ってくることはできたが、こんな状況は絶対におかしい。
「あの、バドン様。ひとまず街に入りませんか? 頭を冷やすべきだと思います」
「あ? ああ。そうだな。そうするとしようか」
マジュナに言われ、僕は少し冷静さを欠いていたことに気づいた。
いけないいけない。もう相手は人類の敵なんだ。対策は考えたとしても、それ以上のことは必要ない。
王都に入ると、これまたいつもと雰囲気が違っていた。
先遣隊の人たちが情報を持って帰って来ているはず。
カイセイのことについては口封じをしておいたが、嵐が魔王城を囲んでいたことは報告されているはずだ。
何が起きているかわかれば、不安も軽減すると思うのだが、誰一人として街に繰り出していない。
僕たちが以前帰って来た時の混乱とは、また違った様子だった。
「どうなっているのでしょうか。まさか、今度こそ本当に魔王軍が王都を襲ったとか?」
ヒルギスが言いながら辺りを見回している。
ヒルギスの見立ては大抵の場合正しいが、それにしては街が綺麗すぎる。
「にしてもおかしいだろ。戦った痕跡がなさすぎる。まるで、何かを警戒していると言った方が正しいんじゃないか?」
ガードンが続けて言った。
「僕もそう思う。おそらく住民は無事なはずだ。誰もいないんだったら、城に言って王様から話を聞こう」
パーティメンバーの確認を取り、僕たちは城を目指すことに決めた。
この時、民家からヒソヒソと話し声が聞こえて来た気がした。
いつもなら聞こえないはずの小さな小さな声だった。
なんと言っていたのかわからないが、僕たちについて話していたような気がする。
「どうしました? バドン様」
「いや、なんでもない」
「すいません。魔王城に発生した嵐の偵察について、報告に来たのですが」
「……」
城門前に来た僕たちは、衛兵さんに通してもらおうと話しかけたのだが、渋い顔をして通してくれない。
おかしいな。普段ならへこへこしながらすぐに通してくれるのに。
「あの。聞こえませんでしたか? 勇者バドンが魔王城の偵察から戻ったので通してほしいんですけど」
「……チッ。入れ」
「今バドン様に対して舌打ちしませんでした?」
「何かの気のせいだろ。さっさと入れ」
「感じわる。行きましょバドン様」
「あ、ああ」
マジュナにうながされ、僕は開かれた城門をくぐった。
やはり何かおかしい。
まさか、精神操作系の敵が攻めて来たのだろうか。
内部から人類を滅ぼそうという知能犯が来ているかもしれない。
「もしかしたら、人間に化けた魔物が潜んでいるかもしれない。警戒するように」
「なるほど。思考を操られているということですね」
「ああ」
ヒルギスは理解が早くて助かる。
「ふっ」
何故か衛兵さんに鼻で笑われた気がするが、きっとくしゃみでもしたんだろう。
「勇者バドンただいま戻りました」
玉座の前まで珍しく誰もいなかった。
今も王様と衛兵。それに先遣隊の人たち以外の人はいない。
普段はもっと忙しそうに人がいるのだが、今日は暇な日なのか謁見まで待つこともなかった。
それとも僕が知らないだけで、今日は休日なのだろうか。
「ご苦労。報告は」
重々しい雰囲気で王様は言った。
王様はいつもより真面目だが、衛兵さんと違って変化は少ないな。
「はい。魔王城に発生した嵐は魔王城を取り囲むようにあり、中への侵入が不可能になっていました。特別、この辺りまで移動して災害をもたらすといったことは考えられないと思います。破壊も試みましたが、なにぶん嵐なもので、変化は見られませんでした」
「ふむ。それだけか?」
「それだけ、とは。どういうことでしょうか」
「報告はそれだけかと聞いているのだ」
僕は王様の言葉を受けて、パーティメンバーと顔を見合わせた。
他に何もないはずだ。
確かに、カイセイがいないせいで行きも帰りも遅くなってしまったことは腹立たしいが、報告することなど他に何もないはずだが。
「嵐の消滅を求められていたのなら申し訳ありませんが、今の我々には不可能です」
「そんなことを聞いているのではない。勇者バドンよ。大臣に嘘の報告をしたことに対する抗弁はないのかと聞いておるのだ」
「嘘?」
嘘ってなんだ。大臣に対する嘘。
「お主らのパーティの一員だったカイセイについてだ。彼は今も魔王城に幽閉されておるのだろう。何故それを報告しない。死んだのではなく生きているようではないか。つまりお主らはダンジョンで見殺しにするつもりだったということだろう」
「カイ、セイ……」
なんで王様がカイセイ生存を知っているんだ。
近くにいる先遣隊の人たちに視線を向けると、全員が僕から目線をそらした。
そうか。誰だか知らないが報告したらしいな。
「そのうえ、この者たちに余に伝えぬように言っていたようだな。それは一体どういうことだ?」
「王よ。そのことに関してでしたら、説明させてください」
「よかろう。話せ」
そうか、噂は王都全体まで広がっているんだな。
口の軽い誰かが、誰彼構わずに話しまくったわけだ。
それで、仲間を見殺しにした勇者として街の人々も僕たちが帰って来たことに気づいて家の中に引きこもったと。
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