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第一章 勇者パーティ崩壊
第20話 カイセイを取り合う
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ドラゴンを倒し、俺はスキルを解除した。
一気に視界を覆う雪は晴れた。加えて、ドラゴンが倒れたことで、洞窟の中の暑さは解消されていた。
だが、暑い。探していたスーとノーがべったりと近づいてくるせいで暑い。
「なんで初対面でこんなことしてるの」
「スーはあなたを信用しているの」
「ノーもです」
「いや、にしたって」
戦闘が終了するなり、双子は俺にしゃがめと言ってきた。
何か意味があると思ってしゃがんだのだが、二人とも急にほおずりしてきたのだ。
驚いて逃げようとしても、見た目のわりに力もあるようで、簡単には逃げられなかった。
「あなたの名前はカイセイであってるの?」
「そうだけど」
「ノーのこと見てました?」
「さっきの戦いのこと? なら見てたけど」
なんでか知らないが、二人とも目を輝かせて俺のことを見ている。
一体これはどういうことなんだ? 新しい幹部が入るといつもこんな感じなのか?
「パトラ。二人とも新人の歓迎はこんな感じなの?」
「違うよ」
「ぱ、パトラ? 二人は無事だったしこれで解決ってことでしょ? 雑用ってのも、仲間の救出なら必要なんじゃないかな?」
「そうかもね」
さっきから、なぜだかわからないが、パトラが俺に対してそっけない。
なんでだ? 俺何かしたか?
やっぱり雨降らせてほしかったとかなのか? レバレちゃん同様、強敵の相手をするのにワクワクしていたのか?
うーん。わからん。なんで背中を向けているんだ。
「カイセイ。カイセイはスーの部下になるべきなの。ここまでの実力なら幹部の右腕として魔王軍に貢献すべきなの」
「いいえ。カイセイさんはノーの部下になるべきです。ノーの方がカイセイさんの力を活かせます」
「そんなことないの」
「そんなことあります」
「あ、あの。パトラさん? 助けてくれません?」
「自分でどうにかできるんじゃない? 幹部なら」
「あ、知らなかったか。俺、これでも魔王軍の幹部なんだ。なので、パトラさん。俺の上司として助けてくれません? 幹部にもできないことはあります」
パトラの言葉にハッとした様子のスーとノー。
そして、なぜか勝ち誇った様子のパトラ。
俺はパトラに腕を絡ませられ、引き上げられた。
「カイセイは私の幹部。私の右腕だから」
「え、いつから?」
俺そんな活躍してないぞ?
勇者倒せたのはパトラのおかげだし。
ドラゴンにとどめを刺したのはスーとノーの二人だし。
「俺そんなか」
「いいから」
これは無理矢理にでも右腕にするつもりですね。
俺の意見は関係ないわけだ。
そりゃそうか。
活躍を評価するのは魔王であるパトラの役目なのだから。
「そ、それならスーが魔王になるの。なってカイセイを右腕にするの」
「ノーがなるです。ノーが右腕にするです」
いや、なんでそうなる。
魔王ってぽんぽんなれるものなのか?
それに、なれても俺が右腕か? 大丈夫かこの組織。
「なんだか面白そうな話してるね」
先ほどまで倒れたドラゴンを愛でていたレバレちゃんまでやってきた。
聞こえてたのだろうか。
「何疑わしいって顔してるの?」
「い、いや、そんな顔してないけど」
バレてた。
勇者は心が読めるのか。いや、それならとっとと読んで俺の力を見抜いていたか。
「ま、いいや。ボクだってカイセイ君の力は見込んでるんだ。今だってカイセイ君が雪じゃなくて晴れにしてくれたら、ボクがドラゴンを倒して見せたよ」
自信ありげにレバレちゃんは言う。
まあ、そうかもしれないが、それだとドラゴンも強化されそうな気がするんだけど、それは大丈夫なのか。
「また疑ってるね? でも、ここの全員だって晴れてたらボクが倒せるよ」
「そりゃ得意なところで戦えばそうかもしれないけど」
「だからさ。カイセイ君はボクが魔王になった時の右腕を頼むよ」
「またそれ?」
一段とパトラの腕を引く力が強くなった気がする。
まあ、今は俺はパトラの部下で、レバレちゃんやスーとノーは同じく幹部なのだから、パトラのいうことを聞く立場か?
「みんな。それは私への宣戦布告ってことでいいのかな?」
「そ、そんなつもりはないの」
「でも、少しはある気もするのです」
「ボクだって元は勇者だからね。魔王を倒すのは仕事の一部とも言えるけど」
「別に倒さなくったっていいんじゃ」
俺としてもせっかく再開した幼馴染が同僚に殺されたとかなったらかなりショックだ。
それで協力しろと言われても、受けられるかどうか怪しい。
「そうだね。別に倒さなくてもいいんだよね」
「そうなの?」
てっきり下克上みたいなもので、血で血を洗う戦いとかしないといけないかと思ったけど、そんなこともないのか。
「だって思い出してもみなよ。先代魔王だって生きてたでしょ?」
「ああ」
確かにそうだ。なんならパトラとも仲良くしていた。
あれで、殺されかけたってんなら、すごく特殊な感覚をしていそうなものだけど。そうじゃなさそうだったし。
いや、感覚は変わっていたか。でも、仲は良さそうだったことに変わりはない。
とすると、力を認めさせるくらいでいいのか。
ん? ってことは、レバレちゃんが勝てなかった魔王を納得させたパトラがこの場で一番強いってことなんじゃ。
「ね。ところでカイセイは誰につくつもりなの?」
いきなりパトラがささやくように話しかけてきたせいで、俺も思わず身震いしてしまった。
「え、そ、それは」
俺がパトラの顔を見ると、じっと黙って見つめ返してくる。
なんだか、俺の知っているパトラとは違うような、ただのやんちゃな女の子じゃない様子で俺を見ている。
えーと、これはあくまであれだよな。もし争うことになったらっていう仮定だよな。
だったら。
「お、俺は」
「うん」
「俺は」
気づけば全員の視線が俺に集中していた。
そんなに重要なことか?
ま、俺の結論は決まっている。
「俺は誰にもつかない」
「え!?」
パトラの驚きの声。
他の三人も俺の選択に驚いた様子だ。
誰かを選ぶ流れだったしな。けど、俺は誰も選ばない。
「ど、どうして? 今のは私を選んでくれる流れじゃないの?」
「まあ、パトラに協力したいって気持ちはあるけど」
「なら」
上目遣いで見つめてくるパトラに俺は首を横に振った。
「俺、思ったんだ。誰かを排除して自分がいい思いしようってのは、避けられるなら避けたいって。もちろん綺麗事かもしれない。だから、もし争うようなことがあったら、全員に俺の力を認めさせて。俺が魔王になる。それで、みんなにはおとなしくしてもらう」
そう。綺麗事には覚悟が必要だ。
自分が何もしない。綺麗なままで理想を掲げ続けることは難しい。
無理矢理認めさせても、誰もついて来ないかもしれない。なら、後から説得すればいい。
しかし、これは仮定だ。実現はしないだろう。
それでも、もしそうなったら。そう考えることは無駄じゃないはずだ。
「そっか。そうだね。確かにそうかもしれない。でも、別に喧嘩したからって関係が終わるわけじゃないんだし」
「まあ、確かに」
「そうだよ。カイセイ君真剣に考えすぎ」
「俺がおかしいの?」
「おかしくはないの。真剣に考えてくれて嬉しいの」
「でも、考えておいてください。ノーと一緒に過ごすこと」
今までは硬い表情だったノーが、ほんのり笑いながら言ってきた。
あれ。なんか趣旨変わってきてる気がするけど。ま、いいか。
この場は丸く収まったってことで。
「ここに長居しても仕方ないし帰ろう」
俺たちは魔王城に帰ることにした。
一気に視界を覆う雪は晴れた。加えて、ドラゴンが倒れたことで、洞窟の中の暑さは解消されていた。
だが、暑い。探していたスーとノーがべったりと近づいてくるせいで暑い。
「なんで初対面でこんなことしてるの」
「スーはあなたを信用しているの」
「ノーもです」
「いや、にしたって」
戦闘が終了するなり、双子は俺にしゃがめと言ってきた。
何か意味があると思ってしゃがんだのだが、二人とも急にほおずりしてきたのだ。
驚いて逃げようとしても、見た目のわりに力もあるようで、簡単には逃げられなかった。
「あなたの名前はカイセイであってるの?」
「そうだけど」
「ノーのこと見てました?」
「さっきの戦いのこと? なら見てたけど」
なんでか知らないが、二人とも目を輝かせて俺のことを見ている。
一体これはどういうことなんだ? 新しい幹部が入るといつもこんな感じなのか?
「パトラ。二人とも新人の歓迎はこんな感じなの?」
「違うよ」
「ぱ、パトラ? 二人は無事だったしこれで解決ってことでしょ? 雑用ってのも、仲間の救出なら必要なんじゃないかな?」
「そうかもね」
さっきから、なぜだかわからないが、パトラが俺に対してそっけない。
なんでだ? 俺何かしたか?
やっぱり雨降らせてほしかったとかなのか? レバレちゃん同様、強敵の相手をするのにワクワクしていたのか?
うーん。わからん。なんで背中を向けているんだ。
「カイセイ。カイセイはスーの部下になるべきなの。ここまでの実力なら幹部の右腕として魔王軍に貢献すべきなの」
「いいえ。カイセイさんはノーの部下になるべきです。ノーの方がカイセイさんの力を活かせます」
「そんなことないの」
「そんなことあります」
「あ、あの。パトラさん? 助けてくれません?」
「自分でどうにかできるんじゃない? 幹部なら」
「あ、知らなかったか。俺、これでも魔王軍の幹部なんだ。なので、パトラさん。俺の上司として助けてくれません? 幹部にもできないことはあります」
パトラの言葉にハッとした様子のスーとノー。
そして、なぜか勝ち誇った様子のパトラ。
俺はパトラに腕を絡ませられ、引き上げられた。
「カイセイは私の幹部。私の右腕だから」
「え、いつから?」
俺そんな活躍してないぞ?
勇者倒せたのはパトラのおかげだし。
ドラゴンにとどめを刺したのはスーとノーの二人だし。
「俺そんなか」
「いいから」
これは無理矢理にでも右腕にするつもりですね。
俺の意見は関係ないわけだ。
そりゃそうか。
活躍を評価するのは魔王であるパトラの役目なのだから。
「そ、それならスーが魔王になるの。なってカイセイを右腕にするの」
「ノーがなるです。ノーが右腕にするです」
いや、なんでそうなる。
魔王ってぽんぽんなれるものなのか?
それに、なれても俺が右腕か? 大丈夫かこの組織。
「なんだか面白そうな話してるね」
先ほどまで倒れたドラゴンを愛でていたレバレちゃんまでやってきた。
聞こえてたのだろうか。
「何疑わしいって顔してるの?」
「い、いや、そんな顔してないけど」
バレてた。
勇者は心が読めるのか。いや、それならとっとと読んで俺の力を見抜いていたか。
「ま、いいや。ボクだってカイセイ君の力は見込んでるんだ。今だってカイセイ君が雪じゃなくて晴れにしてくれたら、ボクがドラゴンを倒して見せたよ」
自信ありげにレバレちゃんは言う。
まあ、そうかもしれないが、それだとドラゴンも強化されそうな気がするんだけど、それは大丈夫なのか。
「また疑ってるね? でも、ここの全員だって晴れてたらボクが倒せるよ」
「そりゃ得意なところで戦えばそうかもしれないけど」
「だからさ。カイセイ君はボクが魔王になった時の右腕を頼むよ」
「またそれ?」
一段とパトラの腕を引く力が強くなった気がする。
まあ、今は俺はパトラの部下で、レバレちゃんやスーとノーは同じく幹部なのだから、パトラのいうことを聞く立場か?
「みんな。それは私への宣戦布告ってことでいいのかな?」
「そ、そんなつもりはないの」
「でも、少しはある気もするのです」
「ボクだって元は勇者だからね。魔王を倒すのは仕事の一部とも言えるけど」
「別に倒さなくったっていいんじゃ」
俺としてもせっかく再開した幼馴染が同僚に殺されたとかなったらかなりショックだ。
それで協力しろと言われても、受けられるかどうか怪しい。
「そうだね。別に倒さなくてもいいんだよね」
「そうなの?」
てっきり下克上みたいなもので、血で血を洗う戦いとかしないといけないかと思ったけど、そんなこともないのか。
「だって思い出してもみなよ。先代魔王だって生きてたでしょ?」
「ああ」
確かにそうだ。なんならパトラとも仲良くしていた。
あれで、殺されかけたってんなら、すごく特殊な感覚をしていそうなものだけど。そうじゃなさそうだったし。
いや、感覚は変わっていたか。でも、仲は良さそうだったことに変わりはない。
とすると、力を認めさせるくらいでいいのか。
ん? ってことは、レバレちゃんが勝てなかった魔王を納得させたパトラがこの場で一番強いってことなんじゃ。
「ね。ところでカイセイは誰につくつもりなの?」
いきなりパトラがささやくように話しかけてきたせいで、俺も思わず身震いしてしまった。
「え、そ、それは」
俺がパトラの顔を見ると、じっと黙って見つめ返してくる。
なんだか、俺の知っているパトラとは違うような、ただのやんちゃな女の子じゃない様子で俺を見ている。
えーと、これはあくまであれだよな。もし争うことになったらっていう仮定だよな。
だったら。
「お、俺は」
「うん」
「俺は」
気づけば全員の視線が俺に集中していた。
そんなに重要なことか?
ま、俺の結論は決まっている。
「俺は誰にもつかない」
「え!?」
パトラの驚きの声。
他の三人も俺の選択に驚いた様子だ。
誰かを選ぶ流れだったしな。けど、俺は誰も選ばない。
「ど、どうして? 今のは私を選んでくれる流れじゃないの?」
「まあ、パトラに協力したいって気持ちはあるけど」
「なら」
上目遣いで見つめてくるパトラに俺は首を横に振った。
「俺、思ったんだ。誰かを排除して自分がいい思いしようってのは、避けられるなら避けたいって。もちろん綺麗事かもしれない。だから、もし争うようなことがあったら、全員に俺の力を認めさせて。俺が魔王になる。それで、みんなにはおとなしくしてもらう」
そう。綺麗事には覚悟が必要だ。
自分が何もしない。綺麗なままで理想を掲げ続けることは難しい。
無理矢理認めさせても、誰もついて来ないかもしれない。なら、後から説得すればいい。
しかし、これは仮定だ。実現はしないだろう。
それでも、もしそうなったら。そう考えることは無駄じゃないはずだ。
「そっか。そうだね。確かにそうかもしれない。でも、別に喧嘩したからって関係が終わるわけじゃないんだし」
「まあ、確かに」
「そうだよ。カイセイ君真剣に考えすぎ」
「俺がおかしいの?」
「おかしくはないの。真剣に考えてくれて嬉しいの」
「でも、考えておいてください。ノーと一緒に過ごすこと」
今までは硬い表情だったノーが、ほんのり笑いながら言ってきた。
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