21 / 48
第一章 勇者パーティ崩壊
第21話 装備も買えない元勇者たち
しおりを挟む
「なんかやけに暑い気がしないか?」
「確かにそうですね。この辺はもっと過ごしやすかったような」
僕の言ったことに対して、マジュナだけでなく全員が頷いた。
僕たちは今、ヒルギスの言う近くの村を目指していた。馬車も、テレポートのための魔力もない僕たちは、徒歩で移動しているのだが、やたらと暑さを感じていた。
移動中、いや、休憩中も戦闘中もだ。今まではいつでも、どこでも、どんな服装でも、快適な気温で過ごしていたはずだ。
それが急にどうしてこんなに暑くなってるんだ。
「もしかして……いえ、なんでもないです」
ヒルギスが僕の顔を見て何かを言うのをひかえた。
誰よりも察しがいいヒルギスはすでに気づいていたのだろう。
「わかってる。これもカイセイのおかげだったってことだろ? 全く。僕はどうしてカイセイの力を見抜けなかったんだ。こんなことになるなら、いっそ魔王城に行った時に、呼び戻そうとしておけばよかった」
「だが、まるでそんなことできる雰囲気じゃなかったがな」
ガードンが珍しく否定的だ。
まあ、あの時のカイセイはどう見ても僕たちに敵対していた。
あんな人間をどう説得して連れ帰るんだって話だ。
「ああ。思い出しただけで悔しさが込み上げてくる。絶対にあの嵐の壁だけでも壊してやらないと気が済まない」
「そうですバドン様。バドン様はたとえ他人に認められなくても、勇者なんですから」
「そうだな。僕は勇者。他人の不可能を可能にする者」
いつの間にか、王に認められて勇者になっていたが、そもそも僕の家系は代々勇者なのだ。
資格がなくとも勇者であることに変わりはない。
「それにしても、村にはいつになったら着くんだ?」
「もう少しです。はい。もう少しの、はずです」
暑さでやられてきているのか、不測の事態に動揺しているのか。ヒルギスのサポートもいつもより精度が落ちている。
これもカイセイがいないせいだとは思いたくないな。
このままでは他の一般パーティ以下になってしまう。
さっさと装備を整えて、魔王城に向かわなければならないというのに。
しばらく歩いて村にたどり着いた。
だが、うん。王の伝令の方が早く着いていたらしく、僕たちを見るなり村人は家の中に入ってしまった。
「ここ。見覚えあるな」
「ああ。ここは俺たちが勇者パーティとして王都を旅立ってすぐ、魔獣による被害を受けていたところを助けた村のはずだ。感謝はされても、警戒されるようなことはしなかったはずだが」
つまり、僕たちがしてきたことよりも、カイセイに対してしたこと、王の言い分の方が村人にとっては納得できるってことか。
なんだそれ。あいつの方が、僕より信頼されてたってことか?
「気にしても仕方ない。今必要なものを揃えるだけだ。金さえあれば売ってくれるはずだろう」
「さすがですバドン様。切り替えは大事ですからね」
「そうだな。こんな時こそ、冷静冷静」
あんまりじっともしていられない。
僕たちは、村の武器屋に移動した。
「売れない」
「売れない!?」
店に入るなり言われたことがこれだ。
おいおい。そんなことってあるか?
これが恩人に対する態度か?
「おかしいだろう。売れないなんてことはないはずだ。金だって用意してある。この村で買うには困らない額のはずだ」
「あんたらから金をもらったら、俺まで立場が悪くなるだろ。帰ってくれ。確かに感謝はしているが、それとこれとは別の話だ」
くそ。金を積んでもたかだか武器一つ買えないなんて。
どうしてだ。感謝してるなら恩を返すものだろ。
そうやって教わらなかったのか? こいつは。
僕たちのやっていることが正義だというのに。
「おい」
僕がカウンターに手をついたタイミングで、店のドアが開けられた。
入り口に立っているのは一人の少女。
武器屋に来るような見た目じゃない。普通の女の子だった。
「何しに来たんだ? 今は危ない。帰るんだ」
「いや、私がほしいものを買いに来たの。誰がいようと関係ないでしょ」
「そりゃそうかもしれないが、こんなところにほしいものなんて」
「私武器がほしいの」
「は?」
武器屋のおじさんも少女の言葉に面食らったようだ。
僕も話が飲めない。
将来冒険者志望ということか。
大人も引きこもって出てこないというのに、なかなか度胸があるらしい。
「そんな話聞いたことないぞ。親御さんは許したのか」
「私のことは私が決めるわ。だから、ほら」
少女は懐からお金を取り出し。乱暴にカウンターに置いた。
この店で装備を買い揃えるには十分な額があるようだ。
「これで、勇者と戦士と魔法使いに聖女の使える武器を用意して」
「そんなに必要か?」
「私はこれから何になるか決まるんだから。どれになってもいいようにってこと」
「まあ、ならわかるが、勇者ってことは」
「わからないでしょ!」
おじさんは僕たちのことをチラチラ見ている。
確かに僕たちのメンバー構成と同じご注文だ。
しかし、僕はこの少女のことは知らない。
前に来た時に会ったのかもしれないが覚えていない。
「ありがとうございました」
「お、おう。こちらこそありがとうな」
「あなたたちのほしいものは私が買ったのでもうありませんよ」
「そうか」
これ見よがしに少女は言うと店を出て行った。
「さあ、売り物がなくなったんだ。帰った帰った」
少女の言葉は冗談ではなく、本当に品揃えの悪い店だったらしい。
いくら元勇者でも、ないものは買えない。
「わかった。みんな。この村にもう用はない。出よう」
それぞれ思うところはある様子だが、仕方ない。
こうなったら、ダンジョンで取り漏らした装備を探すか?
もしくは、かなり遠回りだが、自分で鍛治スキルを鍛えるか?
どちらにせよ面倒だ。
「なんだあれ。なんだあの態度。おい、バドン。よかったのか? あんな寸劇に付き合わされて。ありゃ、あらかじめ話し合って決めてたぞ。どっか探せばまだ在庫があるはずだ」
店を出るなり、ガードンが激昂して言った。
悔しい気持ちはわかる。がしかし。
「よそう。今の僕たちに権力はないんだ。それに、これ以上悪評が立つのも困る。今以上に動きづらくなるだろうし、たとえカイセイの首を取っても元の地位に戻れないかもしれない」
「ぐっ。確かにな。悪い。頭に血が登ってた」
「いいんだ。僕だって、どうしたらいいかなんてわかってないんだからさ」
何も状況は改善していない。
未だ装備はボロボロの状態で、次に撃つ手も思いつかない。
僕にはもっと人望があると思っていたが、どうやら勇者という資格によって、人が群がっていただけだったようだ。
僕が持っていたものは全て、ただのまやかしだったらしい。
「はあーあ。ん? 君はさっきの」
「あ、あの」
膝に手をつきため息をついたところで、先ほどの少女が僕の服の裾を引っ張ってきた。
明らかに警戒する仲間たちを大人しくさせ、僕は少女の目を見つめた。
「確かにそうですね。この辺はもっと過ごしやすかったような」
僕の言ったことに対して、マジュナだけでなく全員が頷いた。
僕たちは今、ヒルギスの言う近くの村を目指していた。馬車も、テレポートのための魔力もない僕たちは、徒歩で移動しているのだが、やたらと暑さを感じていた。
移動中、いや、休憩中も戦闘中もだ。今まではいつでも、どこでも、どんな服装でも、快適な気温で過ごしていたはずだ。
それが急にどうしてこんなに暑くなってるんだ。
「もしかして……いえ、なんでもないです」
ヒルギスが僕の顔を見て何かを言うのをひかえた。
誰よりも察しがいいヒルギスはすでに気づいていたのだろう。
「わかってる。これもカイセイのおかげだったってことだろ? 全く。僕はどうしてカイセイの力を見抜けなかったんだ。こんなことになるなら、いっそ魔王城に行った時に、呼び戻そうとしておけばよかった」
「だが、まるでそんなことできる雰囲気じゃなかったがな」
ガードンが珍しく否定的だ。
まあ、あの時のカイセイはどう見ても僕たちに敵対していた。
あんな人間をどう説得して連れ帰るんだって話だ。
「ああ。思い出しただけで悔しさが込み上げてくる。絶対にあの嵐の壁だけでも壊してやらないと気が済まない」
「そうですバドン様。バドン様はたとえ他人に認められなくても、勇者なんですから」
「そうだな。僕は勇者。他人の不可能を可能にする者」
いつの間にか、王に認められて勇者になっていたが、そもそも僕の家系は代々勇者なのだ。
資格がなくとも勇者であることに変わりはない。
「それにしても、村にはいつになったら着くんだ?」
「もう少しです。はい。もう少しの、はずです」
暑さでやられてきているのか、不測の事態に動揺しているのか。ヒルギスのサポートもいつもより精度が落ちている。
これもカイセイがいないせいだとは思いたくないな。
このままでは他の一般パーティ以下になってしまう。
さっさと装備を整えて、魔王城に向かわなければならないというのに。
しばらく歩いて村にたどり着いた。
だが、うん。王の伝令の方が早く着いていたらしく、僕たちを見るなり村人は家の中に入ってしまった。
「ここ。見覚えあるな」
「ああ。ここは俺たちが勇者パーティとして王都を旅立ってすぐ、魔獣による被害を受けていたところを助けた村のはずだ。感謝はされても、警戒されるようなことはしなかったはずだが」
つまり、僕たちがしてきたことよりも、カイセイに対してしたこと、王の言い分の方が村人にとっては納得できるってことか。
なんだそれ。あいつの方が、僕より信頼されてたってことか?
「気にしても仕方ない。今必要なものを揃えるだけだ。金さえあれば売ってくれるはずだろう」
「さすがですバドン様。切り替えは大事ですからね」
「そうだな。こんな時こそ、冷静冷静」
あんまりじっともしていられない。
僕たちは、村の武器屋に移動した。
「売れない」
「売れない!?」
店に入るなり言われたことがこれだ。
おいおい。そんなことってあるか?
これが恩人に対する態度か?
「おかしいだろう。売れないなんてことはないはずだ。金だって用意してある。この村で買うには困らない額のはずだ」
「あんたらから金をもらったら、俺まで立場が悪くなるだろ。帰ってくれ。確かに感謝はしているが、それとこれとは別の話だ」
くそ。金を積んでもたかだか武器一つ買えないなんて。
どうしてだ。感謝してるなら恩を返すものだろ。
そうやって教わらなかったのか? こいつは。
僕たちのやっていることが正義だというのに。
「おい」
僕がカウンターに手をついたタイミングで、店のドアが開けられた。
入り口に立っているのは一人の少女。
武器屋に来るような見た目じゃない。普通の女の子だった。
「何しに来たんだ? 今は危ない。帰るんだ」
「いや、私がほしいものを買いに来たの。誰がいようと関係ないでしょ」
「そりゃそうかもしれないが、こんなところにほしいものなんて」
「私武器がほしいの」
「は?」
武器屋のおじさんも少女の言葉に面食らったようだ。
僕も話が飲めない。
将来冒険者志望ということか。
大人も引きこもって出てこないというのに、なかなか度胸があるらしい。
「そんな話聞いたことないぞ。親御さんは許したのか」
「私のことは私が決めるわ。だから、ほら」
少女は懐からお金を取り出し。乱暴にカウンターに置いた。
この店で装備を買い揃えるには十分な額があるようだ。
「これで、勇者と戦士と魔法使いに聖女の使える武器を用意して」
「そんなに必要か?」
「私はこれから何になるか決まるんだから。どれになってもいいようにってこと」
「まあ、ならわかるが、勇者ってことは」
「わからないでしょ!」
おじさんは僕たちのことをチラチラ見ている。
確かに僕たちのメンバー構成と同じご注文だ。
しかし、僕はこの少女のことは知らない。
前に来た時に会ったのかもしれないが覚えていない。
「ありがとうございました」
「お、おう。こちらこそありがとうな」
「あなたたちのほしいものは私が買ったのでもうありませんよ」
「そうか」
これ見よがしに少女は言うと店を出て行った。
「さあ、売り物がなくなったんだ。帰った帰った」
少女の言葉は冗談ではなく、本当に品揃えの悪い店だったらしい。
いくら元勇者でも、ないものは買えない。
「わかった。みんな。この村にもう用はない。出よう」
それぞれ思うところはある様子だが、仕方ない。
こうなったら、ダンジョンで取り漏らした装備を探すか?
もしくは、かなり遠回りだが、自分で鍛治スキルを鍛えるか?
どちらにせよ面倒だ。
「なんだあれ。なんだあの態度。おい、バドン。よかったのか? あんな寸劇に付き合わされて。ありゃ、あらかじめ話し合って決めてたぞ。どっか探せばまだ在庫があるはずだ」
店を出るなり、ガードンが激昂して言った。
悔しい気持ちはわかる。がしかし。
「よそう。今の僕たちに権力はないんだ。それに、これ以上悪評が立つのも困る。今以上に動きづらくなるだろうし、たとえカイセイの首を取っても元の地位に戻れないかもしれない」
「ぐっ。確かにな。悪い。頭に血が登ってた」
「いいんだ。僕だって、どうしたらいいかなんてわかってないんだからさ」
何も状況は改善していない。
未だ装備はボロボロの状態で、次に撃つ手も思いつかない。
僕にはもっと人望があると思っていたが、どうやら勇者という資格によって、人が群がっていただけだったようだ。
僕が持っていたものは全て、ただのまやかしだったらしい。
「はあーあ。ん? 君はさっきの」
「あ、あの」
膝に手をつきため息をついたところで、先ほどの少女が僕の服の裾を引っ張ってきた。
明らかに警戒する仲間たちを大人しくさせ、僕は少女の目を見つめた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
769
1 / 2
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる