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第一章 勇者パーティ崩壊

第21話 装備も買えない元勇者たち

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「なんかやけに暑い気がしないか?」

「確かにそうですね。この辺はもっと過ごしやすかったような」

 僕の言ったことに対して、マジュナだけでなく全員が頷いた。

 僕たちは今、ヒルギスの言う近くの村を目指していた。馬車も、テレポートのための魔力もない僕たちは、徒歩で移動しているのだが、やたらと暑さを感じていた。

 移動中、いや、休憩中も戦闘中もだ。今まではいつでも、どこでも、どんな服装でも、快適な気温で過ごしていたはずだ。

 それが急にどうしてこんなに暑くなってるんだ。

「もしかして……いえ、なんでもないです」

 ヒルギスが僕の顔を見て何かを言うのをひかえた。

 誰よりも察しがいいヒルギスはすでに気づいていたのだろう。

「わかってる。これもカイセイのおかげだったってことだろ? 全く。僕はどうしてカイセイの力を見抜けなかったんだ。こんなことになるなら、いっそ魔王城に行った時に、呼び戻そうとしておけばよかった」

「だが、まるでそんなことできる雰囲気じゃなかったがな」

 ガードンが珍しく否定的だ。

 まあ、あの時のカイセイはどう見ても僕たちに敵対していた。

 あんな人間をどう説得して連れ帰るんだって話だ。

「ああ。思い出しただけで悔しさが込み上げてくる。絶対にあの嵐の壁だけでも壊してやらないと気が済まない」

「そうですバドン様。バドン様はたとえ他人に認められなくても、勇者なんですから」

「そうだな。僕は勇者。他人の不可能を可能にする者」

 いつの間にか、王に認められて勇者になっていたが、そもそも僕の家系は代々勇者なのだ。

 資格がなくとも勇者であることに変わりはない。

「それにしても、村にはいつになったら着くんだ?」

「もう少しです。はい。もう少しの、はずです」

 暑さでやられてきているのか、不測の事態に動揺しているのか。ヒルギスのサポートもいつもより精度が落ちている。

 これもカイセイがいないせいだとは思いたくないな。

 このままでは他の一般パーティ以下になってしまう。

 さっさと装備を整えて、魔王城に向かわなければならないというのに。



 しばらく歩いて村にたどり着いた。

 だが、うん。王の伝令の方が早く着いていたらしく、僕たちを見るなり村人は家の中に入ってしまった。

「ここ。見覚えあるな」

「ああ。ここは俺たちが勇者パーティとして王都を旅立ってすぐ、魔獣による被害を受けていたところを助けた村のはずだ。感謝はされても、警戒されるようなことはしなかったはずだが」

 つまり、僕たちがしてきたことよりも、カイセイに対してしたこと、王の言い分の方が村人にとっては納得できるってことか。

 なんだそれ。あいつの方が、僕より信頼されてたってことか?

「気にしても仕方ない。今必要なものを揃えるだけだ。金さえあれば売ってくれるはずだろう」

「さすがですバドン様。切り替えは大事ですからね」

「そうだな。こんな時こそ、冷静冷静」

 あんまりじっともしていられない。

 僕たちは、村の武器屋に移動した。



「売れない」

「売れない!?」

 店に入るなり言われたことがこれだ。

 おいおい。そんなことってあるか?

 これが恩人に対する態度か?

「おかしいだろう。売れないなんてことはないはずだ。金だって用意してある。この村で買うには困らない額のはずだ」

「あんたらから金をもらったら、俺まで立場が悪くなるだろ。帰ってくれ。確かに感謝はしているが、それとこれとは別の話だ」

 くそ。金を積んでもたかだか武器一つ買えないなんて。

 どうしてだ。感謝してるなら恩を返すものだろ。

 そうやって教わらなかったのか? こいつは。

 僕たちのやっていることが正義だというのに。

「おい」

 僕がカウンターに手をついたタイミングで、店のドアが開けられた。

 入り口に立っているのは一人の少女。

 武器屋に来るような見た目じゃない。普通の女の子だった。

「何しに来たんだ? 今は危ない。帰るんだ」

「いや、私がほしいものを買いに来たの。誰がいようと関係ないでしょ」

「そりゃそうかもしれないが、こんなところにほしいものなんて」

「私武器がほしいの」

「は?」

 武器屋のおじさんも少女の言葉に面食らったようだ。

 僕も話が飲めない。

 将来冒険者志望ということか。

 大人も引きこもって出てこないというのに、なかなか度胸があるらしい。

「そんな話聞いたことないぞ。親御さんは許したのか」

「私のことは私が決めるわ。だから、ほら」

 少女は懐からお金を取り出し。乱暴にカウンターに置いた。

 この店で装備を買い揃えるには十分な額があるようだ。

「これで、勇者と戦士と魔法使いに聖女の使える武器を用意して」

「そんなに必要か?」

「私はこれから何になるか決まるんだから。どれになってもいいようにってこと」

「まあ、ならわかるが、勇者ってことは」

「わからないでしょ!」

 おじさんは僕たちのことをチラチラ見ている。

 確かに僕たちのメンバー構成と同じご注文だ。

 しかし、僕はこの少女のことは知らない。

 前に来た時に会ったのかもしれないが覚えていない。

「ありがとうございました」

「お、おう。こちらこそありがとうな」

「あなたたちのほしいものは私が買ったのでもうありませんよ」

「そうか」

 これ見よがしに少女は言うと店を出て行った。

「さあ、売り物がなくなったんだ。帰った帰った」

 少女の言葉は冗談ではなく、本当に品揃えの悪い店だったらしい。

 いくら元勇者でも、ないものは買えない。

「わかった。みんな。この村にもう用はない。出よう」

 それぞれ思うところはある様子だが、仕方ない。

 こうなったら、ダンジョンで取り漏らした装備を探すか?

 もしくは、かなり遠回りだが、自分で鍛治スキルを鍛えるか?

 どちらにせよ面倒だ。



「なんだあれ。なんだあの態度。おい、バドン。よかったのか? あんな寸劇に付き合わされて。ありゃ、あらかじめ話し合って決めてたぞ。どっか探せばまだ在庫があるはずだ」

 店を出るなり、ガードンが激昂して言った。

 悔しい気持ちはわかる。がしかし。

「よそう。今の僕たちに権力はないんだ。それに、これ以上悪評が立つのも困る。今以上に動きづらくなるだろうし、たとえカイセイの首を取っても元の地位に戻れないかもしれない」

「ぐっ。確かにな。悪い。頭に血が登ってた」

「いいんだ。僕だって、どうしたらいいかなんてわかってないんだからさ」

 何も状況は改善していない。

 未だ装備はボロボロの状態で、次に撃つ手も思いつかない。

 僕にはもっと人望があると思っていたが、どうやら勇者という資格によって、人が群がっていただけだったようだ。

 僕が持っていたものは全て、ただのまやかしだったらしい。

「はあーあ。ん? 君はさっきの」

「あ、あの」

 膝に手をつきため息をついたところで、先ほどの少女が僕の服の裾を引っ張ってきた。

 明らかに警戒する仲間たちを大人しくさせ、僕は少女の目を見つめた。
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