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第一章 勇者パーティ崩壊

第22話 村人の反感を買う元勇者たち

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 僕たちより先に装備を買って出ていった少女。今、僕たちはその子に足止めされていた。

 訳もわからず少女の目を見つめていると、今度は手を引かれ店の裏まで移動させられた。

 ふむ。いくら装備がオンボロとはいえ、今の少女に負ける気はしないが、一体なんのつもりだろうか。

「こんなところで僕たちに何か用かな?」

「武器を買った自慢なら別の人にしてもらえませんか!」

 いきなり怒鳴り散らすマジュナに僕は首を横に振った。

 少女は確かに、僕たちの先に装備を買って店を出て行った。

 マジュナの考え方はおかしくないが、どうもそんな風には見えない。

「あの。これを受け取ってほしいんです」

「え」

 少女は重そうに持っていた装備一式を僕たちに差し出してきた。

「君は僕たちが何者かをわかって言ってるのかな?」

「わかってます。でも、私は村のみんながやってることが間違ってると思うんです。いくら王様の言葉だからって簡単に信じすぎだと思います」

「そうか。けど、こんなことしてるって知れたら、君もタダじゃ済まないと思うよ?」

「いいんです。恩には恩で返す。当たり前のことでしょ?」

 確かにその通りだ。

 僕は当たり前のことをされて何疑っているんだ。

「その通りです。恩返しは当たり前。むしろしないことは罰当たりなことです」

 ヒルギスの言う通りだ。

 だが、村が少し騒がしくなってきた。

 狭いコミュニティほど噂が流れるのが早い。

 受け取って何事もなく村を出られればいいが。

「君、受け身は取れるか?」

「え? 押されて怪我しない程度なら」

「それでいい」

 頭上に疑問符の浮かんでいる少女から装備を受け取り、僕たちは装備を更新した。

「やはり、新品の方が似合いますね。直せるまででいいので使ってください」

「わかったよ」

 なんだか懐かしい気持ちだ。

 全員が全員。初めて旅立った時のように、加護の付いていない装備に身を包んだ。

 初心に返って、カイセイを倒す。

 悪くないな。

「いたぞ!」

 どうやら探していたのは少女と僕たちらしい。

 店の裏にやってきた男が僕たちを見て指差した。

 後からすぐにきた女性は少女の母親だろうか。

「メアリア! そんなところにいないで早くこっちに来なさい!」

 そろそろこの村から出ていく頃合いらしい。

「装備はありがたく頂戴させてもらった!」

 仲間たちに頷きかけ、僕は次の指示を出した。

「これでこの村での用は住んだ。ありがとうな嬢ちゃん。俺たちの養分になってくれて」

「はい。勇者様の力になれたならよかったです」

 少女は状況がわかっていないのか、僕たちを見て目を輝かせている。

 なんだかやりづらいがまあいいか。

「わかればいい。僕たちは村を出て行く。どけっ」

 通り道にいる少女を突き飛ばし、僕たちは村へと歩みを進めた。

「あっ。さっきの質問はそういう。あくまで演出を」

「うるさい!」

「わ、私の娘に何するんですか!」

 やはり女性は少女の母親だったようだ。

 なるほど、なら都合がいい。

「今僕たちはお宅のお嬢さんに冒険者の厳しさを教えていたところなんですよ。力こそ全ての冒険者の世界をね」

「娘はまだ子供ですよ?」

「子供なら嘘をついてもいいと? それじゃ冒険者としてやっていけませんよ。いいか少女よ。冒険者になるならこれくらいの困難は一人で乗り越えられないとダメだからな」

「ハイ!」

 ダメだ。この子は本当に善意で教えていると思っている。

「メアリア!」

 母親に怒鳴られても期待に満ちた目で見るのは本当にやめてほしい。

「娘から道具を奪って何が勇者ですか。せっかく少ない小遣いで買ったのに」

「これはいいものだ。有効活用させてもらう。いい道具はいい人間が使った方がいいからな」

「その通りです!」

「メアリア! 何言ってるの」

「だって事実」

「僕たちはもうこの村に来ることはないだろう。恨むなら手のひら返しをした自分たちを恨むんだな。そして少女よ」

「はい!」

「旅立ちたいなら力を持て。力こそ正義だ。力なき者は奪われるだけだ……今の僕たちのように」

「はい!」

「わかったら帰れ」

 背中に有象無象から罵詈雑言を浴びせられるがそんなこと構ったもんじゃない。

 これでいい。装備という望んだ成果が手に入れられたのだ。

 これでいい。

「ありがとうございました!」

 振り返ると頭を下げて僕たちを見送る少女の姿が見えた。

 最後まで調子狂うな。

 これでよかったのか?



「よかったんですかさっきので」

「何が?」

 村を出てまで迫害してくるような荒くれた村人は存在しなかった。

 安心してしまったのか、マジュナの不思議そうな雰囲気が理解できず、思わず聞き返してしまった。

「いえ、あの子、パーティの一員にスカウトしてあげてもよかったんじゃないかと思って」

「ああ。そういうこと?」

 確かに、自分で考えられる人間なんて僕たちの国にはそうそういない。

 大抵誰かの言葉を信じて、疑うことなく一生を過ごす。

 そんな中で、今の僕たちの状況を考えても、なお手助けしようなんて人間はどう転んでも面白い存在になる。僕としては全員そんな人間だと思ってたんだが、期待外れだったらしい。

 まあ。

「今の僕たちじゃ支えてあげられないよ。だから、いつか芽が開くのを期待してればいいんじゃない? それに、今のままじゃ戦力外の足手まといだし」

「これまでの反省からですか?」

「痛いとこついてくるな」

 ヒルギスの言う通りだ。

 カイセイのような僕より強い人間を出さない方法。それは、もう僕が人を育てるのをやめることだ。

 結局カイセイが強いのも、僕がパーティにスカウトしてしまったのが原因だ。

 いつぞやの剣聖のように勇者の血筋でもないのに、とんでもなく強くなる人間がいるが、あんなのはまれだ。

 少女もきっと強くなるだろう、どこまで育つかはわからないが。

「ま、バドンがいいってんなら俺たちは構わないぜ。な?」

「はい」

「もちろんです」

 理解のある仲間を持ってよかった。

 これで、存分に僕もカイセイを叩きのめせるというもんだ。

「あとは、なんとかして、カイセイをあそこから引きずり出す方法を考えるだけか」

 うーん。どうすればいいんだろう。
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