魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第23話 剣聖に力を見せつけよう

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 南の果ての洞窟から戻ってきた俺は、ソファに腰かけ天井を見ていた。

 帰って来てゆっくり考えてみると、魔王軍の雑務ってのは必要なものだと思えてきた。

 ようは、幹部の苦戦するような相手をどうにかしてるってことだろ? なら、早めに芽を摘んでおいた方がいいって考えも頷ける。

 それに、レバレちゃんはドラゴンを一人で相手できると思われていたわけだ。

「レバレちゃんすげぇな。それに比べて俺ってまだまだだな」

「さすが伝説の剣聖。弟子入りしてぇでげすなぁ」

「うぉあ!」

 いきなり聞こえた耳元で囁く声に、俺は部屋の角まで移動すると右手を突き出した。

 いつの間にか俺の座っていた場所の隣に座り、耳元で囁きかけていたのは、噂をしていたレバレちゃんだった。

「驚きすぎだよ。すっかり自分の世界に浸ってさ。ノックの音にも気づかないんだから」

「すいませ、って、それと俺の心の声を捏造することは関係ないと思うんですけど! 何やってるんですか」

「へー。さっきのが心の声かぁ。じゃ、ボクのことすごいって思ってくれてるんだね」

「い、いや、そりゃ、まあ。そうですよ。伝説の剣聖ですよ? 握手してほしいほどの人間ですよ? すごいってくらい思ってますよ!」

「もっと言って」

「嫌ですよ恥ずかしい」

 一体なんなんだ。さっきまで、ドラゴンと戦ってたはずなのにピンピンしてるし。

 どれだけ体力あるんだこの人は。

 あんな炎に全身包まれたら普通丸焦げになってるところだろ。

「ふぅん。ま、いいや」

「レバレちゃんは俺に何か用があって来たんじゃないんですか?」

「あ、そうそう。それね」

 完全に忘れてた雰囲気だけど、大丈夫か?

「カイセイ君さ。本格的にボクの弟子にならない?」

「また冗談ですか?」

「冗談じゃないよ」

 今度は真剣な目つきで、冷静に、かつ俺に気づかれずに部屋に入って来た時のように、静かに俺の喉元に剣を突きつけてきた。

 え、俺今回は何も失礼なことしてないよな?

 どうしてこんなことになってるんだ?

「あの。これは一体……?」

「カイセイ君ってさ。女の子一人に壁際に追い詰められるほど物理的にはひ弱なわけじゃん?」

「女の子……?」

 急に剣を突きつけてくるような人間が女の子?

「何かな?」

「なんでもないです。すいません。間違ってました。レバレちゃんは女の子です。かわいい女の子です。なので剣を少しずつ近づけるのはやめてもらえませんか?」

「よろしい」

 危なかった。

 しかし、レバレちゃんは年齢結構気にしてるのか。

 ってことは、やっぱりどこかで変なこと言ってたのか?

「それでさ。女の子一人くらい守れるように剣術くらい修めてもいいんじゃないかなって思ってさ」

「はあ」

 突然話戻しましたねこの人。

 でもなぁ。勇者パーティにいた時に一通り試したけど、剣に関しては才能ないってことだったし。

 俺を追放した存在だが、パーティメンバーを見てる限り、俺のスキル以外を見る目は確かだったし。

「俺は無理ですよ」

「じゃ、カイセイ君はこんな状況になったらなすすべなくやられるの?」

「いや、レバレちゃんは仲間なので手出ししないだけで、もし相手がレバレちゃんじゃなくて敵だったら、この状況をなんとかしますよ」

「やってみてくれる?」

「えー。嫌ですよ」

「恥ずかしいから?」

「そうじゃなく、レバレちゃんがどうなるかわかりませんし」

「へー。ボクの心配してくれるんだ」

「そりゃそうですよ。レバレちゃん女の子でしょ?」

「そ、そうね? そうだけどね?」

 このままレバレちゃんを女の子って言えばやらなくて済むか?

 まあ、そんな単純な話じゃないよな。

 でも、俺だって不意をつかれなければなんとかできるくらい、自分のスキルに自信を持てるようになってきたのだ。

 全部パトラが気づかせてくれたおかげだけど。

「うーん。カイセイ君の心配は嬉しいけど、いいよ。やって。ボクだって剣聖って呼ばれた人間だよ? いくら魔王様のお眼鏡にかなう存在とは言え、その辺のポッと出カイセイ君に遅れを取るような訓練はしてないから」

「言いましたね?」

「言った」

 挑戦的な目つきでレバレちゃんは俺を見てきた。

 確かにこの状況、一歩でも前に動いた時点で詰みだ。

 だが、いくら剣聖とは言え俺とは相性が悪い。

 ドラゴン戦での反応を見る限り、俺に勝機がある。

「ちなみにレバレちゃんの装備って替えあります?」

「あるある。おんなじの何個もあるよ」

「なら大丈夫ですね。それじゃ、このコインが地面に落ちたらスタートでいいですか?」

「いいよ」

 俺はコインを手に乗せ弾いた。

 数秒の静止。

 コインが地面にぶつかるのと同時、俺はその場で部屋を極寒にし、レバレちゃんの装備を塵に変えた。

 これで、武器も防具もなく、弱点にさらされている。

 特化した特技があるということは、正反対の部分がとんでもなく弱いということ。今の状況がまさにそうだ。レバレちゃんは下着姿で一歩も動いていない。

「これで俺が近接でも戦えるってわかりました? スキルの発動にかけ声はなくてもいいんですよ」

「わかったけど、まだボク負けてないよ?」

「降参してくれないんですか?」

「しないよ。筋力的に殴り合いでボクの勝ちでしょ?」

「えー」

 さすがに諦めてくれると思ったがダメなようだ。

「それともあれかな? ボクの魅惑的な肉体にカイセイ君が降参かな?」

「レバレちゃんはなんで見せびらかすようにしてるんですか。寒くないんですか?」

「そりゃ、鍛えてるからね。どんな格好だって恥ずかしいと思うような鍛え方してないからさ。寒いのはまだなんとかなる方」

「やっぱり剣聖は伊達じゃないってことっすね」

 俺もレバレちゃんを舐めていたようだ。

 なら、容赦はいらない。

「じゃ、これでどうですか」

 レバレちゃんが動き出すより早く、俺はレバレちゃんの首から下を氷漬けにした。

「ふふふ。これくらいでボクを無力化したと? このくらいの氷、ボクぐらいなら自力で溶かせ、とか、と、溶けない!」

「そりゃそうですよ。俺がずっとスキルで凍らせ続けてるんですから、あとは頭まで凍らせれば部屋の飾りにできますね。でもどうします? まだ続けます?」

「ふ……負けました」

 レバレちゃんの敗北宣言を聞いて俺は全てのスキルを解除し、部屋を元の状態に戻した。

 本気なんて出そうとすら思っていなかったが、今の俺は伝説の剣聖を圧倒できるようだ。

「な……この反応は……」
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