魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第25話 勇者再戦

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「さっきの何してたの?」

「俺のサポートの準備です」

「何も変わってないけど」

「いいんですよ。それで」

「ふーん。よくわかんないけど、カイセイ君がそう言うなら」

 俺たちは勇者を迎撃するため、嵐の壁の外で待機していた。

「本当に同じ装備持ってたんですね」

「当たり前でしょ? いいものは予備を持っておくものさ。ちなみに下も同じだから」

「何言ってるんですか?」

「照れちゃってー。かわいいんだから」

「今日は兜までしてるんですね」

「話ずらすわけね。ま、そうだよ? ちょっとやりたいことがあってさ」

「はあ」

 やりたいことってなんだ?

 まあいいか。

 あと少しで勇者がやってくる。

 なぜか移動は徒歩のようだが、何か考えがあるのだろうか。

「あれがカイセイ君を追放したって勇者たち?」

「そうです」

「僕たちのことを迎えてくれるのか? カイセイ」

 ようやくやってきたバドンたちは、しかし、これまた意外な格好をしていた。

 どういうわけか、前回よりも貧相な武器を装備している。

 俺が嵐の鎧を身に纏っていたせいで粉々にしてしまったとは言え、もっといいものを揃えてきてもよさそうなものだが。

 いや、オリハルコンの件よりも優れた剣なんて こんな短期間に用意できないか。

「じゃ、あれがカイセイ君のいたパーティの勇者くん?」

「そうです」

「前回連れてた彼女さんもお出ましってわけか」

「この人は別の人だ」

「別って嘘でしょ? カイセイがそんなに短期間に女性をたぶらかしてるってわけ?」

「ふっ」

 ここは鼻で笑って誤魔化しておこう。

 どう言っても面倒なことになるに違いない。

「ねえ、何? 彼女って」

 この人は面倒なことを起こしたいのだろうか。

 ただ、答えなかったらより面倒になりそうな気がする。

「前回の戦いでパトラの声を聞かれたんですよ。それで、レバレちゃんを同一人物だと思ったんだと思います」

「あー。なるほど。顔隠してるしね」

 合点がいったのか、レバレちゃんはしきりに頷いている。

「カイセイ。僕たちは魔王軍の手に落ちた君を助けにきた。警戒を解いてくれないか?」

「嫌だ」

「私たちのパーティに戻れば、また人類の手助けができますよ?」

「いいよ別に。俺は俺のやり方で世界に貢献するから」

 俺でもこんな口車に乗るつもりはない。

 本当に? なんて言って近づいたところを、切られるに違いない。ダンジョンに放置して殺そうとした人間の言葉なんて信用できるかって話だ。

 悔しそうな表情を見るに俺の予想は外れていないだろう。

「いいのか? 後悔するぞ? 準備してきた俺たちに一方的にやられ」

 俺たちの方へ向かってきていたガードンの動きが止まった。

 いや、止められた。

 俺の作っておいた落とし穴に足を取られ、動けなくなっている。

「カイセイ。僕たちをおちょくっているのか?」

「そんなことないさ」

「そうね。カイセイ。あんたはこういう小細工しかできなかったものね。ガードン。そんなお遊びに構う必要はないわ。やっちゃっていいわよ」

「そうだな。ぐっ」

 一歩踏み出したガードンはもう片方の足も穴に埋もれてしまった。

「くそ。ふっ。ふん!」

 今では両足が地面に埋まり身動きが取れなくなっている。

「どうしたんですか? ガードンさん」

「いや、これ抜けないぞ。まるで地面が足を締め付けるようになっている。そのせいで足が抜けないんだ」

「それはそうさ。俺のスキルは、環境を操作することができるスキルだからな。落とし穴にはまった後、抜けないようにすることなんて簡単だ。おっと、俺を攻撃しようったって無駄だ。近づけば全員がどこに仕掛けられてるかもわからない落とし穴の餌食になるぞ?」

「くそっ」

 さすがのバドンも俺の脅しに身動きが取れないようだ。

 一番力の強いガードンが落とし穴程度に手こずっている。

 そうなれば、他の全員は動けなくなることなど必然。

「もしかして準備してたのってあれ?」

「そうですよ?」

「結構しょうもないことするんだね」

「いいじゃないですか。俺だって全力で痛めつけるのは嫌なんですよ」

「言ってたね。でも、これはウザさでは普通の攻撃より上なんじゃ」

 味方なのに若干引いてる様子のレバレちゃん。

 俺としては、魔王軍に席を置いているのに、この選択は甘えてるかもしれないと思ったが、そうでもないのかもしれない。

 何にしても、結果的に倒せれば問題ないはずだ。

「ここはあたしに任せてください。『ボルカニックファイアボール』!」

 マジュナの詠唱により、弱そうな杖から信じられないほどの大きさの火球が俺目がけて飛んできた。

 呪文なら動く必要なく打てるって訳か。

 だが。

「おっと」

 そこにレバレちゃんが飛び入り、火球を剣に吸わせるように一瞬でかき消してしまった。

「こんな時ボクがいれば便利でしょ?」

「いや、俺だってあれくらいの攻撃防げますよ」

「えー。本当?」

 疑った様子で俺を突っついてくるレバレちゃん。

 いや、そもそもそうでなきゃパトラが俺にこんな場所を任せるはずがないってもんだろう。

「嘘でしょ!?」

「あれほどの火球が効かないんて、一体何者なんだ?」

 そして、レバレちゃんのことを認識していない勇者たち。

 兜かぶってるし、わからないか。

 まあ、知らなきゃ似た誰かか何かだと思うだろうし、それもそうか。

「カイセイ君。そろそろボクが全力を出す頃合いじゃない?」

「わかりました」

 俺は一つ深呼吸した。

 せっかく来てくれたのだし、存分に戦ってもらうか。

「『サンシャイニング』!」

 俺のスキル発動と同時に、辺り一体を熱が包み込み、魔王城上空の曇り空を吹き飛ばす。

「な、青空? こんなところで青空だって?」

 驚いた様子でバドンが言葉を漏らした。

 そんな矢先、レバレちゃんは急に兜を外した。

「何してるんですか?」

「なんかかっこいいでしょ?」

「ずるい。レバレちゃんがやったみたいになるじゃないですか」

「えっへっへー。これが歴戦の勇者ってやつよ」

 いや、それは関係ないんじゃ。

「その顔立ち、さっきの炎をいなしたのもそうだし、この快晴。まさか……!」

「伝説の剣聖、レバレ・アラマンダ様ですか? 生きておられたのですね! もしかして私たちが来るのを知って、これまでスパイとして潜んでいたのですか?」

「ううん。期待してるところ悪いけど、ほら」

 レバレちゃんは首元から俺と同じペンダントを取り出し、バドンたちに見せた。

「ほら、カイセイ君も」

「いや、俺のまで強調しなくても」

「いいから!」

「わかりましたよ」

 俺も先輩の言いつけでペンダントを取り出した。

「カイセイ君とお揃いでしょ? 実はボクも魔王軍でね。幹部やらせてもらってるんだ」

「嘘だ! 嘘だと言ってくれ。なあ、俺は剣聖に憧れてこの世界に入ったんだ。そんな人間が魔王軍だなんて」

 ガードンが叫び声をあげた。

「ごめんね。ボク魔王に勝てなかったからさ」

「は? 引き分けたって話じゃ」

「ボクが魔王軍に入ったことでそういうことにしてもらったんだ。魔王様いい人だよ? ま、生存を人類側に報告することは、交渉の都合上できなかったけどね」

「嘘だ。嘘だ嘘だ嘘だ!」

 ガードンに続けて激昂したバドンが飛びかかってきた。

 いや、嘘だはこっちのセリフだ。

 助走もなく、小さい川より幅のある落とし穴をしかけておいたところを飛び越えてくるか? 普通。
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