魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第26話 勇者の秘奥義

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 脅威の大ジャンプを見せた勇者を前に、俺はレバレちゃんを見た。

「俺がどうにかしましょうか?」

「なんで君はいつもそうやっていいとこ持っていこうとするのさ。せっかくボクがカッコよく決着つけられそうってところでさ」

「確かにそうかもしれませんが、浮いている相手だし、下には俺の落とし穴があるので、俺の攻撃なら都合よく奈落まで落とせるんですよ。それでもやります?」

「そういうの嫌だったんじゃないの?」

「そうですけど、ここまで鬼気迫る攻撃を仕掛けてきたら、やぶさかではないなって」

「そうなんだ」

 若干引いてるように見えるけど気のせいだよな。少なくとも俺に対してじゃないよな。

 まあ俺も、鎧を纏った人間が落とし穴を飛び越えようとしてくるなんて思ってもいなかった。というか、今まさに越えられていまいそうなのは、想定の斜め上を行ってる。

 ということは引いているのは勇者に対してか。

「それでどうするんですか?」

「ボクにやらせて。ここでカイセイ君が落とし穴に落としたら、ボクの登場がただのこけおどしになっちゃうからさ」

「そこまで言うならいいですけど」

 しかし、今の俺ができるサポートは晴れを続けることくらいしかできない。

 落とし穴にレバレちゃんだけ落とさないということは簡単だ。そんなものはサポートとは言えない。

 そもそもレバレちゃんは、浮いている敵に対する攻撃手段なんて持っているのだろうか。

「カイセイ。君にはこの技は見せてなかったね。でも、こんな時こそ秘奥義が役に立つのさ」

「え、なに?」

 急に話しかけてきた勇者に気を取られ、俺は思わず空を見上げた。

「やるんだみんな!」

「『ファイアボール』!」

「『ホーリーボム』!」

「『パワースラッシュ』!」

 何が何だかわからないまま繰り出された技の数々。

 みんなは勇者の秘奥義とやらを知っているらしい。こんなところでもハブられてるのか俺って。

「これが僕の力。『サウザンド』!」

 勇者の叫びにより、最後のスキル発動された。

 発動と同時に、今まで放たれた攻撃と勇者の持っていた剣が数えきれないほどの量へと増加した。

「うわ。何これ」

「どうやら勇者くんの奥義らしいね」

「言ってましたからね」

 と言っても、どれだけ増やしても弱い武器による攻撃に変わりはない。

 俺の力で全て奈落へ落とせば目の前の攻撃が俺に届くことはない。

 ただ。

「本当に任せていいんですか? この量です。俺の天候サポートがあっても、一人の人間でなんとかなるようには思えないんですけど」

「大丈夫大丈夫。ボクは剣聖レバレちゃんだよ? それに、こんな攻撃、本当に強いなら最初にカイセイくんに使っていれば強い武器で使えたはずでしょ?」

「確かに」

 どうしてして使ってこなかったのか不思議なほどだ。

 もし、あの時に同じ技を使われていたら、嵐の鎧をもってしても耐えられたかわからない。

「つまり、反動が大きいんだよ。武器の強さとか、攻撃の強さ。魔法使いの子だって今回使ったのはファイアボールでしょ?」

「ああ。なるほど」

 さきほどは業火をぶつけていたのに今回使った魔法がやけに弱いのはそういうことか。

「じゃ、任せましたよ」

「どうやら覚悟を決めたらしいな。だが、僕がこの技を見せた相手は今まで生きて帰ったことはない。いくら伝説の剣聖が相手でも、これだけの物量には敵うまい」

「どうだろうね」

 レバレちゃんは勇者の言葉を受けてニタリと怪しく笑い、体を揺らし始めた。

 最初はただ横に揺れているだけだったのが、次第に蒸気のように実態がわからなくなっていく。

 俺はそこまでこの場を暑くしたつもりはないが、これは一体。

 そう思っていた次の瞬間、レバレちゃんの姿が霧のように消えてなくなった。

「「え」」

 俺と勇者の声が同時に響いた。

 レバレちゃんを見失った時から、落とし穴に落とされる音が連続して響き出す。

 まるで地割れのように、俺の視界右側から地面に穴が開きまくっていた。

「く、このままでは」

 飛んでいる最中の勇者は飛行はできないようだ。

 攻撃に備えようにも俺に向けて繰り出そうとしている攻撃の向きは変わらない。

「なんで僕より速いんだ」

 悲鳴のような声が響くと、これまで撃墜されてきた武器や攻撃、魔法と同じように勇者も落とし穴に落とされた。

「ほらね。問題なかったでしょ?」

 全ての攻撃を叩き落としたレバレちゃんが笑顔で俺の隣に戻ってきた。

「これなら俺の落とし穴がなくてもよかったですね」

「そうでしょそうでしょ?」

「正直俺、レバレちゃんを完封したんでレバレちゃんのこと舐めてましたよ」

「その話はなしでお願い。でもボクの実力もしっかり目に焼き付けてもらえたならよかったよ」

 ピースを突きつけてくるレバレちゃん。勇者程度の相手ならさすがに余裕そうだ。

 しかし、こんな光景を見せられれば、戦意喪失して帰ってくれるんじゃないか。

 あ、そうか、リーダーである勇者が頭から地面に埋まっていてはそんなわけにもいかないか。

「ほら、バドン。落とし穴にはまってるなんてダサいぞ」

「君がやったんだろ。というかこんなに近づいていいのか?」

「何が?」

「何がって、僕たちが君を殺そうとしてることをわかっているのかと聞いてるんだ」

「わかってるけど、そっちこそもうわかったんじゃない? 今のままじゃ無理だって」

「くっ」

 そっぽを向く勇者を見れば、はいそうですかと言わずとも何を思っているかはわかる。

「ほら、もう帰りな。別に俺がいなくたって平気だから俺のことを執拗に殺そうとしてるんだろ?」

「なんだ。殺さないのか?」

「やだよ。勇者パーティなんて殺してもいいことないじゃん。元仲間を殺したトラウマを一生背負うくらいなら、俺はどこかで勝手に寿命が来てくれるのを待つよ」

「そんなんでいいのか? あまちゃんだと魔王軍でやっていけないんじゃないか?」

「え、心配してるのか?」

「……」

 そっぽ向いたまま勇者は何も言わない。

 そうでもないのか。俺の気のせいか。

「ほら、死に場所を探してるってわけでもないんだろうから。さっさと帰りな。魔王軍とは言え、全員が全員俺みたに人間に友好的ってわけでもないんだからさ」

「それは脅しか?」

「別に。ただ、俺だってよくわからずに喧嘩をふっかけられたんだ。勇者なんていたら狙われると思うけどな」

 自分の立場がわかったのか、勇者は立ち上がった。

 俺はガードンの落とし穴の方も解除して、勇者パーティにしっしっと手を払った。

「チッ。仕方ない。今回ばかりは引き下がってやる。だが、いつの日か人類の悲願である魔王討伐のため、お前をこの手で殺してやるからな」

「はいはい。頑張ってください勇者様」

「……行くぞ。帰るぞ」

「はい」

「わかりました」

「バドンが言うなら仕方ねぇな」

 ぶつぶつ何かを言いながら勇者パーティは魔王城に背を向けて去っていった。
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