魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第28話 勇者殺しを任された勇者の祖父

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「バドン様のおじいさま?」

 カイセイに負けた僕たちの前に、突然僕の祖父が現れた。

「フォッフォッフォ」

 殺風景な風景の中で、楽しそうにヒゲをもてあそんでいる老人。それが僕の祖父だ。

 明らかにスキだらけだが、おそらくまともな装備も持たない今の僕たちじゃ勝てるかどうか怪しい。

 カイセイがいるならおそらく。そう考えている自分が悔しい。

「まずはご挨拶といこうかワシはラドルフ・カリバー。そこのバドンの祖父だ」

「そんなこと知っている」

「ふむ。どうやら気勢まで削がれたか。バドン。お前がワシに優っていることはもうない」

「そ、そんなこと」

「いい加減認めろ。何も実力がないことを恥じる必要はない。才能がなかったんだ。ポッと出でも、血筋以上に優秀な能力を持っている人間はいる」

 祖父が言うとその言葉は重く感じた。

 僕の祖父は、当時活躍していた勇者だった。これまでの誰よりも強く、誰よりも人望があったらしい。

 だが、剣聖と呼ばれたレバレがどこからともなく現れてからというもの、誰も祖父の話をしなくなった。

 見た目も能力もよかった剣聖は、一気に大衆の心理を奪い取り、ファンを集め、一世を風靡した。そして魔王と相討ち、伝説となった。ということになっている。実際はさっき戦ったし、そんなことはなかったのだが。

 魔王軍を壊滅させられなかったが、それだけのことをしたのだ。誰も剣聖を嫌うことはない。少なくとも僕は見たことがない。

「やっぱり気にしてるのか?」

「当たり前だ。あれは無理だ。ワシでも無理だ。お前たちと力を合わせたとしても、十年鍛えても無理だろうな。魔王軍は人類じゃ手のつけられない存在になったってことだ」

 祖父の言葉は本当だろう。一戦交えたらしいが、手も足も出なかったらしい。

 だからこそ余計に剣聖人気に火がついたのだろう。

「そんなこと知ってる」

「またそれか。だが、あれの片方はお前が育てたんだろ? そこは誇っていいんじゃないか。戦うより育てる方が才能があったということだろう。何もないよりいいじゃないか」

「……は?」

 いや、なぜそんなことを知っている。

 この人は今ここに来たのではないのか?

「まさか、さっきの戦いを見ていたってことか?」

「ああ。お前が剣聖ともう一人に無様に負け、ここまで歩いてくるまでな」

 あの光景を全て見ていたのか。

 だが、せっかくのお褒めの言葉も僕に受け取る資格はない。

「僕はカイセイを育てていない。あれはカイセイが最初から持っていた力なんだと思う。あんなに急に能力を開花する様は見たことがない。今まで見えなかった才能が急に見えるようになったんだから、封印か何かが解かれたんじゃないかな」

「ほう。勇者に育てられた訳じゃないと? 才能だというのか。ふうむ……やはり魂の出来が違うのか」

 何かぶつぶつと言っているがなんの話だ?

「そんなことはいいんです。勇者の祖父でありながら、あなたはどうして援護してくださらなかったんですか?」

 ヒルギスの疑問はもっともだ。

 だが、僕たちの立場を考えれば、僕の祖父が僕たちの手助けをする訳ないとわかる。

「僕たちが国に追われる立場だからだろ?」

「その通り。わかっているじゃないか。頼まれたんだよ。国にな」

 そりゃそうだ。この間の村での出来事で自分の立場が弱くなっているどころか、無になっていることくらい身に染みて実感している。

 そこで村娘から物を奪ったとなれば、追っ手が来ることなんて容易に想像できる。

「だがまあ、ワシとてバドンを見た時は協力しようか考えたさ。魔王軍は人類の敵。たとえ元勇者とて協力し倒せるのならそれに越したことはないからな」

「なら、あんたはどうして助けてくれなかったんだよ。俺たちはボロボロになるまでやったんだぞ?」

「だから言っただろう。協力しても勝てないと。あれはワシらにどうこうできるレベルを超えている」

「それで、僕たちが弱ったところを殺そうと?」

「そんなところだな。ま、今のお前らの装備なら、ワシは万全でも勝てただろうが」

「なんですって?」

「よせ」

 僕はマジュナをなだめ、後ろに下げた。

「今ここで冷静さを欠くのは良くない。ただでさえ僕たちは疲労している。少しでも生存確率を高めるんだ」

「冷静な判断だな」

「まだこんなところで死ぬわけにはいかないからな。『ハンドレット』!」

 僕は手持ちの剣を空中に百まで倍化し、迎撃体制に入った。

「その程度の量でワシに敵うと思っているのか? 歳をとったとはいえ、舐められたものよ」

 確かにその通りだ。相手は仮にも元勇者。自分の祖父だ。

 いくらおいぼれたからといって、百じゃ敵うことはないだろう。

「僕だって今の状態でもできることはまだあるさ。何もこれが限界なんて言ってないだろう?」

「面白い。見せてみろ」

「はあああああ! 『ミリオン』いや、『ビリオン』!!!」

 段階を踏み、僕は今用意できる最大限の量まで剣を倍加した。

 僕は祖父を半球状に剣で取り囲んだ。

 これで身動き取れないだろう。

「さすがにこれだけの元気は残っていたか。だが、ワシとて無策でこんなところに来てないわ」

 僕の祖父はそう言うと、懐から光り輝く何かを取り出した。
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