魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

文字の大きさ
34 / 48
第一章 勇者パーティ崩壊

第34話 霧の魔竜との戦い

しおりを挟む
 音が近い。

 ドラゴンの咆哮も聞こえてくる。

 これはもう戦いは始まっているのか。

「アルチさん!」

 俺が洞窟の奥まで辿り着くと、そこでは板に乗り、宙に浮くアルチさんの姿。そして、そのアルチさんに翻弄されるドラゴンの姿があった。

「遅いよカイセイ。もう風が止みそうだよ。霧も濃くなってきたし追加お願い」

「え……」

「追加だよ追加」

「は、え?」

 いや、誰? テンションが変わりすぎじゃないか?

「ほらはーやーく! 移動まで順調だったんだからいけるでしょ。風の追加。さっきのよりすごいのあるんでしょ? 壁に使ってるようなやつ。アレにしてよ」

「いやあれは」

「いいから!」

 アルチさんのテンションがおかしいが、霧が濃くなってきているのは事実なようだ。

 吹き飛ばした直後は鮮明だったドラゴンの反応も徐々にわからなくなってきている。

 霧でも隠しきれない大きな反応ということはわかるが、近くにいるのにドラゴンとは思えない弱い反応しか感知できない。

 なるほど、ヒントになるとはこういうことか。

 このまま霧と一体化されては相手できなくなる。

「わかった。『デストロイディザスター』!」

 俺はなんとか壁と同じ嵐を洞窟最奥に作り出した。

 ひとまず全体を眺めてみると、少し頭が冷えてくる。

 なんなんだあれ。板に乗ってたし、話し方違ったし、見た目は同じだけど本当にさっきまでのアルチさんか?

「いいじゃん。最高じゃん! いい風! いい風! これだよこれ。魔王様の言う通りだ。ワタシが求めたのはこれだよ」

 目にも止まらぬ速さで矢を放ち、攻撃を加えていくアルチさん。

 俺はその姿を黙って見ていることにした。攻撃に参加すれば巻き添えをくらいそうだ。

 そもそも、嵐によるダメージに加え、アルチさんの攻撃でドラゴンがみるみるうちに弱っている。俺の出る幕はこれ以上なさそうだ。

 よく見ると、嵐により鱗の剥がれたところをしっかりと矢で射抜いていることがわかる。

「これで決まり! 『スプレッドシュート』!」

 一度に何発もの矢が放たれると、ドラゴンは力尽きたように地面に倒れ込んだ。

 霧の発生もなくなり、ドラゴンの反応も徐々に弱まっていく。

 レーダーに集中し反応を確かめる精度を上げると、弱まるドラゴンの反応もしっかりと掴める。

 今の実力だと練習は必要かもしれないが、出たり消えたりは霧の魔竜と同じような対処でなんとかなるかもしれない。

「イエーイ! カイセイ!」

 急に手を上げて笑顔で近づいてきたアルチさん。

 なんだ。なんの儀式だ?

「ノリ悪いなー。ハイタッチでしょ?」

「あ、ああ。ハイタッチ」

 そうだ。戦闘は終わったんだった。

 俺は片手を上げ、アルチさんに手を叩かれた。

 そして、アルチさんはすぐに肩を組んでくると、笑顔で俺のことを見た。

「いいじゃん。カイセイ! カイセイさ。ワタシの専属幹部にならない? いわばパートナー? 報酬は弾むからさ。こんなにいい風、自然じゃ起こせないよ。カイセイが専属で起こしてくれたら、ワタシいつでも乗れるじゃん。戦闘でもベストパートナーっぽいし、よくない?」

「え、いや、俺は」

「まー考えといてよ。すぐに答えは出ないだろうしさ。でも、ワタシ幹部の中でも実力には自信があるから。少なくともスピード勝負じゃ誰にも負けないよ」

 まあ、確かに素のスピードも、俺の作り出す環境の中でのスピードも群を抜いていた。

 ただ、他の人には別で得意な環境があり、別で得意な戦い方がある。

 一概に比較はできないんじゃないかな。

「あ、あの」

 俺が話しかけようとした時、アルチさんは急に肩組みを止めると、俺から距離を取り顔を隠して縮こまった。

 戻った、のか?

「あの」

「……ごめ、なさい」

「はい?」

「ごめんなさい。急にくっついたりしてうざかったですよね。いつもやってしまうんです。テンションが上がるとああなるんです」

 ああって、ドラゴンと戦ってた時のやつか?

「いや、うざくないですよ。そんなに気にしないでください。それに、専属だなんだってのはアルチさんが初めてじゃないので」

「ほ、本当ですか?」

「本当ですよ。勝手に色々言うのは魔王軍の宿命みたいなものなんじゃないんですか?」

 知らないけど。というかこれフォローになってないよな。毎回そんなテンションだから、急な変化には驚いたが、俺としては別にもう慣れっこだ。

 受けるかどうかと聞かれれば微妙だが。

 俺の言葉をどう受け取ったのかわからないが、アルチさんは立ち上がると俺のことをまっすぐ見つめてきた。

「自分。頑張りますので、よろしくお願いします」

「よ、よろしくお願いします」

 ダークエルフって聞いて、もっととっつくにくい人なのかと思ったが、アルチさんはそうでもないんだな。

 基本真面目で礼儀正しいというか。

 ま、人間にも色々な性格の人がいるしそういうことなんだろう。

 にしても、俺に頑張るって言ってきたのはどう言うことなんだろう。

「自分は先ほど見せたように、カイセイさんが起こしてくれた風や、自然の風に乗って攻撃するのが得意なんです。もちろん遠くからの狙撃もできます。自分の力が必要な時はいつでも言ってください」

「なるほど。わかった」

 そういうことね。今後協力関係になった時のためのよろしくってことか。

 俺もお返しに自分の能力について軽く説明した。

 何から何まで話してもわかってもらえるものじゃないし、器用にできる手近なところの操作について話した。

「俺からもよろしく」

「はい。よろしくお願いします。できれば、その」

「何ですか?」

「何かあった時は、じ、自分を呼んでもらえると嬉しいです!」

 急に大きな声を出してアルチさんは言った。

 助っ人としてってことか。

 まあ、出番があればきっと頼むだろう。

「わかった。俺もアルチさんに頼れる時は頼ろうと思うよ」

「はい。じゃんじゃん頼ってください。ふふ」

 人助けが好きなのか。嬉しそうなアルチさんを見ていると俺まで嬉しくなってくる。

 しかし、これで霧の魔竜がいなくなり道に迷う人も減るはずだ。

 ヒントも得られたし、いい戦いだった。

「あれ、アルチさんって服装まで変えてましたっけ?」

 いつの間にやらアルチさんは掴みどころのない服から、丈夫そうな服へと変わっていた。

 実体化に伴ってか、最低限隠すべきところだけ隠すような形に変わっているが、一体どんな素材でできているんだ。

 よっぽと恥ずかしいのか、アルチさんは急にしゃがみ込んだ。

「服は見ないで!」

 アルチさんは怒鳴られてしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜

平明神
ファンタジー
 ユーゴ・タカトー。  それは、女神の「推し」になった男。  見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。  彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。  彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。  その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!  女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!  さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?  英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───  なんでもありの異世界アベンジャーズ!  女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕! ※不定期更新。最低週1回は投稿出来るように頑張ります。 ※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

最難関ダンジョンをクリアした成功報酬は勇者パーティーの裏切りでした

新緑あらた
ファンタジー
最難関であるS級ダンジョン最深部の隠し部屋。金銀財宝を前に告げられた言葉は労いでも喜びでもなく、解雇通告だった。 「もうオマエはいらん」 勇者アレクサンダー、癒し手エリーゼ、赤魔道士フェルノに、自身の黒髪黒目を忌避しないことから期待していた俺は大きなショックを受ける。 ヤツらは俺の外見を受け入れていたわけじゃない。ただ仲間と思っていなかっただけ、眼中になかっただけなのだ。 転生者は曾祖父だけどチートは隔世遺伝した「俺」にも受け継がれています。 勇者達は大富豪スタートで貧民窟の住人がゴールです(笑)

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

お荷物認定を受けてSSS級PTを追放されました。でも実は俺がいたからSSS級になれていたようです。

幌須 慶治
ファンタジー
S級冒険者PT『疾風の英雄』 電光石火の攻撃で凶悪なモンスターを次々討伐して瞬く間に最上級ランクまで上がった冒険者の夢を体現するPTである。 龍狩りの一閃ゲラートを筆頭に極炎のバーバラ、岩盤砕きガイル、地竜射抜くローラの4人の圧倒的な火力を以って凶悪モンスターを次々と打ち倒していく姿は冒険者どころか庶民の憧れを一身に集めていた。 そんな中で俺、ロイドはただの盾持ち兼荷物運びとして見られている。 盾持ちなのだからと他の4人が動く前に現地で相手の注意を引き、模擬戦の時は2対1での攻撃を受ける。 当然地味な役割なのだから居ても居なくても気にも留められずに居ないものとして扱われる。 今日もそうして地竜を討伐して、俺は1人後処理をしてからギルドに戻る。 ようやく帰り着いた頃には日も沈み酒場で祝杯を挙げる仲間たちに報酬を私に近づいた時にそれは起こる。 ニヤついた目をしたゲラートが言い放つ 「ロイド、お前役にたたなすぎるからクビな!」 全員の目と口が弧を描いたのが見えた。 一応毎日更新目指して、15話位で終わる予定です。 作品紹介に出てる人物、主人公以外重要じゃないのはご愛嬌() 15話で終わる気がしないので終わるまで延長します、脱線多くてごめんなさい 2020/7/26

処理中です...