魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第35話 勇者の魂を発見

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 俺は現場に戻ってきた。老人と戦った現場。勇者の殺された現場。

 何度も戻ってくると今まで見えて来なかったことに気づきそうなものだが、何もない場所だと気づきようがないと思わされる。

 だが、今回は何も考えなしにやってきたわけではない。

「さて、アルチさんは帰らないんですか?」

 何故かアルチさんが帰らずに俺の隣に佇んでいた。

「カイセイさんこそてっきり魔王城に向かうんだと思ってたのですが、帰らないんですか?」

「俺はここでやることがあるので」

「ならここにいます。ダメ、ですか? 自分、カイセイさんのことを知らないので、一緒にいて何か知ることができればと思ったんですけど」

「いいですよ別に。俺の方こそ変な聞き方してすみませんでした」

「いえ、いいんです。自分が疑われることはいつものことなので」

 何してるんだ一体。と思ったが、俺はあえてツッコまないことにした。きっと風を探しているのだろう。

 それと、俺のことを興味津々といった様子で見てくるせいで、なんか聞きづらかった。

 別にそんな派手なことするつもりはないんだけどな。

「それで何をされるんですか?」

「今から俺の感知スキルの精度を上げてみる。何か見つかるかもしれないからね」

「なるほど」

 風を起こせなくて申し訳ない。と思いつつ、俺は目をつぶって、周囲に意識を集中した。

 反応はやはり、俺とアルチさんのものしか感知できない。

 息子の方はずっとこの辺にいたわけではなく、やはり、あの時は霧の魔竜と似た何かによって感知しにくくなっていただけなのか。

「ん?」

「どうかしました?」

「いや、ちょっと待って」

「はい」

 アルチさんには悪いが反応がある。それも複数。いや、大量だ。どうして気づかなかったのか不思議なほどの量。

 無数の数えきれないほど小さな反応。反応があるのは地下でも空でもない。今俺がいる地上周辺に大量の反応がある。

 しかし、目を開いて見回してみるも誰もいない。

 アルチさんと比べると、ものすごい小さな反応。

 一つ一つは小指の爪程度の反応しかない。だが、何故か似ている、というより同じ反応がいくつも重なっているようだ。

「アルチさん。少し距離をとっていてもらえますか? もしかしたら危ないかもしれないので」

「風? 風ですか? 風なんですね? いいでしょう。受けて立ちますよ!」

「風じゃないです」

「す、すいません。そうですよね。自分に攻撃するって話じゃないですよね」

「はい」

 風に興奮するのは素でも同じなのか。

 じゃない。

「もしかしたら敵かもしれないので、離れててください」

「……? 敵なんてどこにも……。カイセイさんが言うなら離れておきますけど」

 今はこの程度しか説明できない。すまない。

 俺はアルチさんが十分離れたことを確認してから、小さな反応を同じ反応で集めていった。

 全部で四つの反応。それが粉々に小さくわかれて空気中を漂っている。

 こんなの普通に生活していたら絶対に気がつかなかった。アルチさんも気づいていないようだったし、一体何が起きたらこんなことになるんだ?

「……本当に敵が?」

 驚いた様子のアルチさんの声が聞こえてきた。

 集めていた反応は徐々に大きくなり、いつしか四つの光の球のように変わっていた。

 全てを集め終えると、それぞれが握り拳くらいの大きさをしたかたまりきらない何かとなった。

 そしてどれも人間と同じサイズの反応をしている。

 だが。

「これは、これは一体どういうことだ?」

 俺は思わず頭を抱えた。

「どうしたんですか? やられたんですか?」

 すぐに弓矢を構えるアルチさんに俺は手を出して止めた。

「違います。少し疲れましたがそうじゃありません。この四つの球、いや塊。勇者パーティと同じ反応なんです」

「勇者パーティって、確か謎の老人に殺されたって話じゃ?」

 さすが幹部。もう情報を掴んでいるのか。

 そう、勇者パーティは死んだはず。実際に俺は地面に倒れているところを見たばかりだ。

 誰か詳しい人に聞いた方がいいか。

「アルチさん。魔王城で一番賢い人って誰ですか? 物知りな人でもいいです」

「えーと、賢い人ですか? そう、ですね。……魔王様、ですかね?」

「ありがとうございます」

 俺は球を引き連れて、魔王城に全力で地面を蹴った。

「アルチさんも帰るってことでよかったですか?」

「はい。カイセイさんの観察ができるなら」

 球を嵐の壁に当てないよう穴の開閉をしながら、俺は全力で魔王城を目指した。



「あっぶな!」

「……チッ」

 どこからともなく不意打ちを狙ってきたのは先代魔王様だった。

 いや、今のまたあれだ。女の子になる攻撃だ。なんなんだこの人マジで。

「やあ、カイセイじゃったかな? 元気にしてたかい?」

 うわ。しかも何事もなかったかのように挨拶してきた。

 さっき舌打ちしてたよな? どんなメンタルしてるんだ。

「カイセイさんって先代魔王様ともお知り合いだったんですか?」

「ま、まあね」

「魔王様も呼び捨てでしたし、カイセイさんって一体何者……?」

 ただの勇者に追放されたおことですよ。ただの。

 戦々恐々としているアルチさんを放っておき、俺は先代魔王様を警戒しながら見た。

「お久しぶりです先代魔王様」

「ドーリーでよい。サドンでもいいぞ? ま、どうせ、いずれワレの攻撃で堕ちるのだからな。ちゃんづけでもいいぞ? ほれ、ドーリーちゃーんと呼んでみ?」

「いいです。遠慮しときます」

「えー。けちー」

 本当になんなんだこの人。

 ってそうじゃない。

「今はそんなこと話に来たんじゃないんです」

「そんなこととは、ほほう。そういうことか」

 なんだか怒ったように見えたが、俺の後ろに浮かぶ四つの球に気づいたのか。先代魔王様は目を細め、アゴに手を当てた。

「知ってるんですか? パトラに聞こうと思ったんですけど、先代魔王様が知っているならそれでもいいです」

「ああ。知っているとも、我に早くに会えてよかったな。あれは魂じゃ。早く容れ物に入れないと崩壊するぞ」

「そんな! ……って。俺別に助けなくてもいいんですけど、そういうことなんですね。魂。なるほど。ありがとうございました」

 やっと納得できた。倒れたのは魂が抜け出したから、粉々になったから。

 だから、この四つの球は勇者パーティそれぞれと同じ反応をしているのか。

 おそらく老人が使ったソウルブレイカーとか言うのが魂を砕く攻撃だったのだろう。

「何満足してるのじゃ! それを持ってきたのはお主だろう。我が容れ物を持ってくる。お主は地下に行って待っておれ!」

「はあ」

「いいか。急ぐのだぞ! 崩壊しては大変だ!」

「はい」

 先代魔王様はどこかへ走り出してしまった。

 そういえば部屋出てよかったのか。あの人。

 しかし、地下ねえ。何があったっけ。

「崩壊すると何か問題があるんですかね」

「ああ。そうか。何かされても困るな確かに。仕方ない地下に行くか」

「自分でよければ案内しますよ」

「地下に一人も嫌だしお願いします」

 おれはアルチさんを連れ立って魔王城の地下へと場所を移した。
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