魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第36話 勇者の魂の成れの果て

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「って牢屋じゃねぇか」

「はい。地下は牢屋になってます」

 地下に広がっていたのは牢屋、牢屋、牢屋。

 どれも鉄格子のかけられただけの簡素な。

 簡素、じゃないな。

「いや、中が俺の部屋と同じような見た目してるのはなんでなんだ? やけに豪華というか……おもてなしの心を感じる」

「先代魔王様の趣味じゃないですか? 自分が知る限り、使われたのは今の魔王様の時くらいで、それ以降は使われていなかったと思いますし。捕虜なんて来ませんしね」

「そ、うなんですか」

 相変わらず変わったご趣味をしていらっしゃる。使わないのに維持してるのか。

 しかし納得できてしまうのが先代魔王様の凄さだな。

 でも、牢屋の理由はわかったが、なんでこんなところに呼び出したんだ?

「遅いぞカイセイ。ほれ、この中に早く魂を入れるのだ」

「いやなんでもういるんですか」

「いいから入れるのだ」

「入れるったってこれ」

「いいから!」

「は、はい」

 なんだか勢いに圧倒された感じになったが、先代魔王様の指示のもと、四つの魂を牢屋の中の四つの人形の中にそれぞれ入れた。

 これでよかったのかはわからないが、先代といえど魔王様だ。きっと何か考えあっての行動に違いない。

「ふふふ。はーはっはっは」

 なんだか楽しそうに笑っているが、どういうことだろう。

 安心か?

「あの。ところで魂が崩壊するとどうなるんですか?」

「どうもならんぞ? ただ消えてなくなるだけだが」

「え。じゃあ、急いで入れる必要なかったじゃないですか。勇者の魂ですよ? 天敵じゃないですか、なんで復活させてるんですか」

「よいよい。勇者など恐るるに足らん。それに、これは我の嗜好じゃ」

「しこう?」

 やっぱり何か考えがあるのか?

 それとも本当に楽しみでやってるってことか?

 しかし、人形に魂は入れたはずだが、うんともすんとも言わない。

 これが嗜好って一体どういうことなんだ?

「あの。先代魔王様はどうしてこんなことを?」

「決まっておるだろう。今の魔王が構ってくれないからじゃ。遊び相手がいないからじゃ。幹部を呼び出したらもれなく怒られるしな。それなら、遊び相手が必要だろう? 勇者なら遊び相手になりそうだろう?」

「はあ」

 何考えてんのこの人。よく魔王できてたな。

 本当にレバレちゃんが負けるような強い人なのか? 信じがたいが、レバレちゃんが言ってたし事実なのだろう。

「それで、このまま放置するんですか?」

「そうじゃなな。魂と肉体が分離する現象などほとんど起きん。目を覚ますかどうかさえわからん。強いショックでも受ければ目を覚ますだろうがな」

「強いショック。それなら今の状態を認識すれば目が覚めるんじゃないですか? 勇者が牢屋なんてびっくりでしょ」

 俺が言い終わるとほとんど同時に、檻を勢いよく握りしめる少女の姿。

 先代魔王様が用意した人形の一つが動き出したようだ。えっとあれは確か。

「おい! カイセイ! 何してる! って、なんだこの声は!」

 可愛らしい声を響かせながら、俺に対して怒鳴っていた。

「あれは勇者バドンさんっスね。何してるかと聞かれたら、あなたを見てますね。今は」

「ふざけるな。なんで僕が牢屋に閉じ込められてるんだ。それにこの体はどういうことだ! これじゃまるで女の子じゃないか! カイセイの趣味か?」

「俺は違う! 俺のせいじゃないから! この先代魔王様の策略だから。怒るならこっちの人を怒って」

「は? 先代魔王様? 魔王様!? な、なんで僕のこと、いや、僕たちのことを女の子になんかしたんだ?」

 俺に対するのとは違い、少し怯えた様子でバドンは先代魔王様に聞き直した。

 そう、先代魔王様が用意したのは、全て女の子の人形。

 にしても用意がよすぎる。暇すぎて人形遊びでもしてたのか? 先代は暇なのか?

 それぞれ印象の違う見た目をした人形だったが、魂を入れても形は変わらなかったようだ。

「それは、我の遊び相手になってもらうためじゃよ」

「遊び相手?」

「そうそう。だから身構えなくていいのじゃ。ただ女の子の方が好きだから女の子の見た目になってもらっただけじゃ」

「意味がわからん」

「意味なんて考えても仕方ないぞ。それに、かわいいことを恥じる必要はない。もっと堂々とするがいい」

「いや、なんでそんなこと言われなきゃならないんだ」

 先代魔王様は睨みつけていたバドンの頭をポンポンと撫で、そしてなぜか牢屋の中に入り込んだ。

「ここで我が可愛がってやろう」

「い、嫌だ。なんだか大切なものを奪われそうな気がする」

「そんなことにはならんさ。なに、緊張することはないと言っただろう」

「おい。カイセイ。僕のパーティから追放したことは謝る。一生かけて償う。この見た目も見るだけなら好きにしていい。だから、この魔王をどうにかしてくれないか?」

「どうし、あっぶな」

 またギリギリのところを攻撃が通り過ぎ、自然と冷や汗が出る。

 当たらないから自動では防がないのだが、わかっていても結構ヒヤッとする。

「カイセイ。これは我の遊び相手だ。いくら今の魔王と仲がよくとも、我とて友を奪われることを許しはしないぞ」

「友になったつもりはないのだが」

「これからなるからいいのじゃ」

「か、カイセイぃ……」

 すがるように弱々しい声を漏らすバドン。

 今までならこんなことあり得なかった。

 見た目も状況もどちらもあり得なかった。

 だが、俺は正直体を張ってまでバドンのことを守る義理はない。

「先代魔王様は悪い人じゃないから遊んでもらいなって。俺も時々差し入れくらい持ってくるからさ」

「か、カイセイ! 何が欲しい。僕の与えられるものならなんでもやる。だから」

「それじゃ」

「カイセーイ!」

 俺が背中を向け歩き出してからも、バドンの可愛らしい叫び声が地下に響き続けていた。
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