魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第37話 記憶をなくした勇者本体

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「……ン。……ドン。……バドン!」

 急に怒鳴られ目が覚めた。

「ここは?」

「ここは私のアジトです」

「アジト?」

「不満ですか?」

「あ、いや、そんなことありません」

「ありません? まあ、いいでしょう」

 誰だこの人、というより、

「僕は誰なんだ?」

 なぜだろう。何も思い出せない。

 僕はここにどうしているんだ? 僕は今まで何をしてきたんだ?

「今なんと言いました?」

 僕を怒鳴った人は急に顔を寄せてきた。

「僕は誰なんだ?」

「自分のことを覚えていないと?」

「は、はい」

「そうか。……これがソウルブレイカーの効果。ならばいいかもしれない。バドンは私を嫌っていたからな。心置きなく利用できるというもの」

「あの……」

「大丈夫です。記憶がないことを不安に思うことはありません。私が思い出させてあげますよ」

「本当ですか?」

「はい。早速ですが、あなたはバドン。勇者をしていたのです」

「僕が勇者?」

 信じられない。勇者ってのがすごいことはわかる。

 なんとなくだが、人のために行動していた人なんだろう。

 それが僕? 僕はそんな人物なのか?

「じゃあ、この人たちは?」

 僕のそばには三人の見知らぬ人が寝かされている。

 一人は女性。とんがり帽子をかぶっている。

 二人目も女性。頭が良さそうな雰囲気だ。

 そして最後に男性。僕よりもガタイがよさそうだ。

「あなたのパーティメンバー。いわば仲間です」

「仲間」

「あなたはこの三人と共に今まで冒険してきたのです」

「それじゃあ、あなたは?」

「私は一人の冒険者ランドリアです。あなたのことは噂で聞いていました。通りすがり倒れていたところを、なんとかここまで運んできたのです。……そんなわけないだろ。父親のことも忘れているとは本当に覚えていないらしい。記憶は魂の方にあるのか?」

「ありがとうございます!」

「いえいえ、冒険者は助け合いですよ。それに、勇者パーティが倒れているとなると、とてつもない強敵がいたのでしょう。記憶を失っても仕方ありません」

「そうですかね」

 でも、本当にこの人は僕を助けただけ?

 最初の呼びかけがどうにも乱暴だったような。

 僕のことを詳しく知ってる人なのか?

「ところで、あなたがずっと手に持っている武器は?」

 とてもきらびやかで、アジトという場所には似合わない武器。

 どんなものよりも強力そうなそれは、どうしてだろうものすごく使ってみたい。

「これは私の武器です。勇者の剣には劣るでしょうが、これでも私、なかなかのやり手なんですよ?」

「すごいですね。でも、僕には武器が……」

 武器も持たない勇者なんて、勇者失格だろうか。

「おそらく、勇者の剣すら折ってしまうような、恐ろしい敵だったのでしょう」

「なるほど」

「ですが、武器や防具は私が用意します。安心してください」

「あ、ありがとうございます」

 やはり、あの剣は使わせてくれないか。

 ちょっと期待しちゃったが、ダメか。

「……これを使わせるわけないだろ。やっと私の手にやってきたのだ。本来なら勇者を継承するたびに、子へと渡さなければいけないものだ。それを自分の元へ置いていた父が悪い。これはバドンにも渡さない」

「僕がどうかしました?」

「い、いえ、なんでもありません」

 独り言が多い人なのかな?

 まあ、一人で冒険しているようだし、状況の把握のために独り言を使うのかな?

「ここどこ?」

「教会、じゃなさそうですね」

「な、なんだあ?」

 僕のパーティメンバーたちも目を覚ましたようだ。

「おはよう」

「だ、誰? い、イケメン?」

「イケメンだなんてそんな」

「イケメンでも許しません。あなたは女性をさらうような不届き者ですか?」

「い、いや違う。僕たちは仲間なんだよ」

「お、俺たちが仲間? なんの集まり? どんな集まり?」

「勇者パーティだよ」

「どうやら皆さん記憶をなくしておられるようですね」

 僕と同じ状況だ。

 記憶をなくすほどの強敵、一体どんなのと戦ったんだろう。

「誰?」

「私はあなたたちを助けた者です」

「あなたが?」

「そうです」

「あ、ありがとよ」

「いえいえ。そうだ。せっかくです。皆さんで手合わせをしてみてはいかがでしょう」

「手合わせ?」

「そうです。実際に軽く戦ってみれば、何か思い出すかもしれません。技も身近な仲間なら、うまくかわすこともできるでしょう。いざという時は私も助けますし」

 そうか、その手があったか。

 何かヒントがあれば思い出せるかもしれない。

 僕たちが戦った敵のこと。

 今の状況のこと。

 僕は勇者なんだ。それが本当なら、早く記憶を取り戻して、その強敵を倒しに行かないと。

「どうして手合わせなの?」

「あ、そうか。まだ説明してなかったね。僕たちは勇者パーティなんだ。冒険者なんだよ。だからじゃないかな?」

「私はただの、ただの……」

 頭のよさそうな女性は続く言葉を探している。

「俺も、自分がなんだかわからない。それが手合わせをすればわかるってのか?」

「かもしれないって話ですけど」

「何もしないよりいいんじゃないかな?」

 全員が頷く。

 やはり、失ったものは取り戻したいようだ。

「それでは決まりですね。表に出てください。アジトですからね。軽く手合わせできるくらいの広さはあります。同性同士でやりましょうか」
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