魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第38話 記憶喪失の勇者、スキルも喪失する

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 アジトの外に出ると、確かにそこには一対一で戦うには十分そうな場所が広がっていた。

 僕はランドリアさんにガードンと呼ばれた男性と戦うことになった。

 ガードンは僕のパーティで戦士をしていたらしい。

 武器はお互い剣。ガードンの武器の方が少し大ぶりだが、やはり体格の差か。

「だ、誰だかわからないが、俺だって本気だ。思い出すために戦ってもらうぞ」

「ああ。かかってこい。僕は勇者だ。僕だって記憶を思い出さないといけないんだ」

「それでは二人ともいいですか?」

「はい」

「も、もちろんだ」

「それでは、始め!」

 技。勇者と言うからには何か技を使っていたはずだ。

 僕が考えている間にも、いきなり一撃目を放ってきたガードン。

 僕はそれをなんとかかわしたが、地面が抉れるほどのダメージ。

 剣は剣でも木でできているはずだが、くらえば一撃で動けなくなるだろう。

「ふっ。かわすか。さすが勇者だ」

「まあね。そっちこそやるな」

 僕はスキのできたガードンに、すかさず剣をに当てた。

「ぐっ」

 声を漏らしたが倒れる様子はない。

 技は出せなかった。こうじゃないのか。

 もっと、派手な何かがあるんじゃないのか?

「ふぅむ。二人とも、もっと全力でやっていいのですよ?」

「は、はい」

「わかってるさ」

 やはり、ランドリアさんの様子からしても、僕のできることはもっとあるようだ。だけど、何ができるんだ?

 技? 技。

 このまま、地道に攻撃を当てる。それは違うよな。

 お互い、相手の攻撃を警戒し、少し離れて見合っている。

「であああああ!」

 先に動いたのはガードン。

 一撃必殺の雰囲気。

 これはかわさないと、武器をなくせば勝ちが無理になる。

「ふん!」

「っとと」

 今回もすんでのところでかわす。

 体勢を整えて、すかさず。

「二度も同じ手をくらうかよ!」

「何っ」

 武器ばかりに集中していた僕は、武器を離したガードンの拳によって、顔面にもろに攻撃をくらってしまった。

 これが勇者パーティのスキル。

 見切れなかった。

 かわして攻撃だけじゃ倒せないのか。

「さすがだな」

「俺だって成長するんだ」

「二人とも、もっと全力でやっていいのですよ? 私に遠慮する必要はありません。じゃんじゃんスキルを使ってください」

 と言うことは、今のガードンの攻撃も技にはなっていない?

 僕たちの技って本当にどんなのなんだ?

 体が勝手に動くこともないし、全く思い出せない。

 それに、顔を殴られて頭がくらくらする。

 まともに思考できない。

「く、くそう」

 構えも雑になりながら、僕は剣をどうにか構えた。

 なんだ。体が熱いような。

「おお?」

「いけえ!」

 僕は剣を振った。

 しかし、空を切るだけ、何も切ることはできなかった。

「ああ」

「バドン。頭がおかしくなったか?」

「そうかもしれない」

「なら、大人しく寝てな」

 ガードンの剣が振り上げられた。

 僕がパーティのリーダーなのに、情けない。

 先に思い出したガードンの勝ちか。

「そこまで!」

 ランドリアさんの止めが入った。

 攻撃が当たる寸前だった。

「あ、危ないですよ」

「大丈夫ですよ。これくらい。それに、二人ともスキルを使えないらしい。それほどまでの相手だったということでしょうか」

「すみません。役に立てそうになく」

「いいんですよ。仕方のないことです。……だが、本当にこれだと魔王を倒すためのスキなぞ作れないぞ? 捨て駒にして新たな魔王の首を持ち帰るつもりだったが。これでは私の名を上げる計画が」

「どうかしました?」

「いいや、なんでもないさ。次の二人にもやってもらおうか」



 ランドリアさんが仕切り、マジュナとヒルギスの二人が構え出した。

 魔法使いに聖女だったということで、肉弾戦は不慣れらしいが、一応やるとのことだった。

「始め!」

 ランドリアさんの声とともに二人は駆け出した。

「てぇい!」

「はぁあ!」

 手に持つ武器による殴り合い。

 い、痛そうだ。

「ここは魔法じゃないかな? 二人は魔法を使った方がいいんじゃないかな?」

「ま、魔法? ってどうやって出すのよ」

 聖女はわからないけど、魔法使いって魔法を使うんじゃないの?

「ランドリアさんどうしたら?」

「詠唱だよ。私に続けて言ってみるんだ」

 ランドリアさんはゆっくり、謎の言葉を呟き始めた。

 マジュナもランドリアさんに続けて唱える。

 どうだろうか。

「低レベルの魔法だがね。『ファイアボール』だ」

「ファ、ファイアボール!」

 ランドリアさんの手からは火の玉が空へと打ち上げられた。

 しかし、マジュナの方は何も変化がない。

「出ないじゃないですか!」

「う、嘘!」

 やっとランドリアさんの素の反応が見れた気がする。

 あまりいいタイミングではないが。

「……魔法は適性があれば詠唱によって使えるはずじゃ。まさか、魔法の適性も魂の方にあるのか?」

 何やら真剣な顔でぶつぶつ言っている。

 新しい魔法だろうか。

「聖女様はどうだ? 私に続けてください」

「は、はい」

 違ったのかな?

 別の言葉を唱えながら、ランドリアさんはヒルギスに続けさせる。

「これでいいはず。今回は私は使えませんが、ホーリーライトです」

「ホーリーライト!」

 今度も何も起きない。

「……まさか。砕き散った魂の方に重要なものが残っていたというのか? これは想定外だ」

「どうしてダメなんだ!」

 悔しい。僕だけでなく仲間たちまで、技の使用ができなくなっているなんて。

「もっと鍛えていれば、敵にも負けずこんなことにもならなかったはずなのに」

「気にしても仕方ありません。できないなら、これから少しずつ思い出していけばいいのです。みなさんならできますよ」

「ランドリアさん」

「あたしたちを助けたくらいだしとてもいい人だわ」

「これは感謝しなくては」

「お、俺もしてるぜ。感謝」

「ははは。しかし、今日は疲れたでしょう。アジトで休んでください」

「「「「ありがとうございます」」」」

 僕たちはランドリアさんの言葉に甘えることにした。
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