魔王城でスローライフ〜勇者パーティを追放されたので可愛い魔王たちとのんびり暮らします〜

マグローK

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第一章 勇者パーティ崩壊

第44話 アルチVSマジュナ

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 カイセイさんが作ってくれたフィールド。

 自分のところは風のフィールド。

「えっ?」

 自分が壁を出るなり、短剣を投げつけてきた。

「板を持って来ていてよかった」

 まあ、戦闘となればこれがなくっちゃなんだけどね。

 壁で囲ってくれた世界の中には、とんがり帽子の女の子が一人。多分短剣を投げつけてきたのはあの子。

 真っ直ぐこちらを見る目はぼんやりとしていて、生気を感じられない。

「これがカイセイさんのパーティメンバーだった魔法使いの子?」

 マジュナさんと言った魔法使いの子。

 見た目も合っているし、先代魔王様と一緒に牢屋に入っているから名前くらいは知っている。

 遠巻きに見た限りでは、元から女の子で、もっと意志の強そうな雰囲気だった気がするけど。

「まあ、体調が悪くても大人しくしてもらいます」

 カイセイさんの風のせいでなかなか詠唱ができないのか、マジュナさんは攻撃をうまく繰り出してこない。

 この風の中短剣を正確に投げてきたのはたまたま?

「油断はしない方がいいってことかな」

 ワタシは板に乗り、敵を捕捉した。

 上に一気に駆け上がり、マジュナを見下ろす。

 壁を見下ろすつもりで勢いよく登ったが、壁はまだまだ上に伸びている。

「さすがカイセイ。ワタシじゃ届かないってわけね」

 でも、そんなこと気にしない。風乗りは楽しいけど、今はただ楽しみに来たわけじゃない。

「ワタシはアルチ・フォーグナー。魔王軍幹部。あんたに恨みはないけど、力試しは好きだからさ!」

 ワタシは思いっきり降下。一撃で沈められるといいけど。

 そう思っていると、狙っていたのか、慣れてきたのか火球がいくつか飛んでくる。

 どれも、風によってかき消されたり、あらぬ方向へ飛んでいく。

 だが、真っ直ぐくるとわからない以上、不意に当たりそうだ。

「これは厄介」

 でも、関係ない。

 できる限りのスピードで降下すると、ワタシは正確にマジュナに矢を叩きつけた。

 加速が乗ってる。人間なら伸びてもおかしくない。

 いくら勇者パーティの魔法使いでも、そこまで防御力は高くな。

「嘘でしょ?」

 全体を見渡すため、ワタシが上に上がると、マジュナは立ち上がった。

 なるほど、拘束をわざわざワタシたちに任せたのはこういうことか。

 ただ倒すだけじゃダメなわけね。

 危うく壊れるんじゃないかと、手を抜いたのが仇になったか。

「いいじゃない。縛り上げて持ち帰れるようにってことでしょ? だったら、ワタシにうってつけの仕事ってもん」

 狩りなんてのは道具を使えてなんぼだ。

 森は木をかわしながら、正確に狩らないといけない。

 しかし、今は違う。目に見えてわかりやすい標的一つを確実に捕まえればそれでいい。

「楽勝だっての」

 ポーチからロープを取り出し、ワタシは様子をうかがった。

 狙っても当てられないとわかったのか、火球はそこかしこに放たれている。

 スレスレを通る火球を見ても、当たったところで大したダメージにはならないとわかる。

 だが、ロープの方はそうもいかない。

「これだけの風を準備してくれたんだ。わざわざ動きを止めておくだけなんてのは無粋でしょ」

 魔法を詠唱するには口が必要。

 なら、まず口をふさいで仕舞えばいい。

 近接武器も投げてきた短剣だけの様子。

 あれは魔王城の方へ投げておいたから、武器として使い物にならない。

「見えた」

 風乗りに慣れたワタシにはマジュナへつながる一本の道が見える。

「行くぞ! 覚悟しな!」

「……」

 返事はない。なんだか、虚しい。

 ワタシは構わず、様子見をやめ、急降下を始めた。

 螺旋状に回転しながら、火球をかわし、どんどんと高度を下げる。

 当てずっぽうでは誰にも当たらない。

 狙うからこそ当たるってもんだ。

「ふん!」

 板を地面に突き立て、手でマジュナの口を押さえる。

 抵抗しても意味はない。すぐに体にロープを巻き、杖を壁へぶつける。

 ついでに口にも縄を通す。

「これにて」

 一件落着。そう言おうとして、ワタシは一気に飛びのいた。

 マジュナの体が燃え上がった。

 詠唱ができないから、魔力が暴走した?

 カイセイが準備した風に炎が移り、風はファイアストームとでも呼べそうな熱風へと変わった。

 これほどまでの魔力。暴走とは言え、素養もあったはず。直接くらっていればタダでは済まなかった。

「ま、直接くらっていればだけど」

 相手、そして状況が悪かった。

 何もない状態であればワタシだってタダじゃ済まなかった。

 そう、今は直接くらっているわけじゃない。

「風はワタシを攻撃できない。風はワタシに力を与える」

 それが例え、ただの風でなくても。

 熱風だろうとなんだろうと風は風。

 燃え上がったマジュナの体も、次第に炎が収まると、傷ひとつついていないロープと共に現れた。

「さて、これで本当に一件落着っと」

 あとは板と共に中に戻るだけか。

「これ、中に入れていいのかな?」

 女の子一人魔王城に運ぶのは容易いけど。ま、試してみればいいか。

「お、通れるのね」

 仲間かどうか、壁を通れるかどうかはカイセイの匙加減ってことかな?

 それとも、それができるようになったのか。

 さすがに魔力が切れたのか、マジュナは眠っている。

 さて、ワタシの戦いは終わり、カイセイたちの決着を待つかな。
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