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第一章 勇者パーティ崩壊

第47話 勇者の父

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「さてと」

 みんな存分に戦ってくれてるらしい。

 フィールドの準備は効果てきめんかな?

 俺は俺で、別のフィールドを霧で満たさないと。

「カイセイ? これじゃ何も見えないよ?」

「いいんだよ。これで」

 パトラは見えないかもしれないけど、俺はよく見えてるし。

「カイセイが言うんならそうなんだろうけど」

 パトラのおかげで前よりもすんなり霧を出せる。やはり、魔王軍の戦士は魔王の近くにいるほど、いつもより力を発揮できるみたいだ。

 そして、予想通り。

「やっと見つけた」

「……」

「黙ってたってそうはいかない。久しぶりですね。首だけのキモい人」

「キモいか。まさか、同じようなことをできる人間が出てくるとはね。しかも、私があぶり出されるとは」

「そりゃ見つからないわけだ。自分の体を霧にしてるんだから」

 ニヤリと笑って初対面時のように首だけ実体化したキモい人。

 レーダーの感度を高めても完治できなかった理由もわかり、俺はすかさず壁を狭め、逃げ道を小さくした。

「そして、分断されたと。ククク。ハハハ」

 自暴自棄になったのか首だけの人は笑い出した。

「ねぇ。カイセイ。何あれ。首が笑ってる。キモいんだけど」

「あれが俺が狙ってた敵だ。キモいからな。早く処分しなくては」

「揃いも揃ってキモいキモいと。私のスキルを甘く見ているな? そもそも今まで見つけられなかったのだろう。もしかしたら中に潜入されてるんではないかなどと考えなかったのか!」

 逆ギレって。キモい。

「黙ってないでなんとか言わないか」

「その可能性は少ないと考えた。そもそもそんなスキルなら、あの壁通ったら存在できないだろ」

「うっ」

 図星みたいだ。

 本当に神出鬼没なら、早々城内で騒ぎを起こしたはずだ。

 だが、それはなかった。

 つまり、神出鬼没のトリックはあくまでそう感じるだけ。移動が速いとか、そういう類で、瞬間移動ではないと感じていた。

 重力に逆らってとにかく上へって登れるわけでもなさそうだし、できて高速移動までみたいだ。ま、上に吹く突風に乗られてたらわからないけど、俺はそんなの起こすつもりなかったしな。

「何にせよ。全員できた意味がなくなってしまったわけか」

「まとまって戦えば勝てると思ったのか?」

「どうやらわかっていないらしいな。しかし、私も負ける気はない。冥土の土産に教えてあげよう」

 何やら自信ありげに鼻まで鳴らしている。

 何かを仕掛けてきている様子はない。

 ここは俺の準備も兼ねて大人しく聞いてやるか。

「私の狙いは魔王の首だけだ!」

「魔王の首?」

「そうさ。魔王城には今も魔王がいるのだろう? 勇者が目指していたのはその討伐。ただそれだけ。息子たちはそのための捨て石さ」

「捨て石?」

 魔王は俺のすぐ後ろにいるけど、まあいいか。

 息子。バドンたちはパトラを倒すための捨て石だって?

 なるほど。通りでフラフラしてるわけだ。

 あの体の霧を一部吸わせて、実質的に行動を操作していたわけか。

「私の作戦に気づいたって顔をしているね?」

「まあな」

「だが、これでわかっただろう? どんなことにも大いなる犠牲はつきものだ。息子たちだって冒険者。たとえどんな終わりでも文句はないさ」

「自分の意思で冒険に出たんならな」

「何?」

 そう。冒険者なら、いつ死んだっておかしくない。

 そんなことは百も承知だ。

 俺だって、ダンジョンで死にかけた。もちろん死にたくないと思った。

 でも、いつかは来る日が来たのだと思ったところもあった。

 だが。

「冒険に出たそもそもから操作されてたんなら、そうもいかないだろ」

「はっ! 私が最初から息子たちをコントロールしていたと?」

「できなかったわけじゃないんだろう?」

「だとしても今はそんなこと関係ないだろう」

「否定しないんだな」

 いきなり吸わせたのではなく、少しずつ着実に浸透させ、本人にも気づかれないようにことを進めていた。

 卑劣で卑怯なやり方。

 自分は安全圏にいながら、報酬を掠め取ろうという魂胆。

「だからなんだっていうんだ?」

「人を道具みたいに扱うな」

「君がどう思おうが知ったこっちゃない。私はそれができる人間だったんだ。だからやった。ただそれだけだ。私の利益のために、私のスキルを、私のために使って何が悪い」

「……カイセイ」

「その首飾り。魔王軍の幹部なんだろ? それなのに後衛をつけるのか? 他の魔王軍幹部らしく一対一で戦ったらどうだ?」

 やっぱり、三人の状況も把握済みか。だが、そんな挑発には乗らない。

 俺にとってここで確実に勝つ方が、意地を通すより大事だ。

「そもそも君も人間だろ? 魔王の首を取るために壁を取り除いてくれないか? そうすれば生かしてやってもいいぞ。もちろん、私の奴隷としてな」

「そうか。それならやだね」

「いいだろう。受けて立とうじゃないか」

 顔だけの男は、俺の作り出した霧に溶けるように全身を霧に変えた。

 だが、一度捉えた反応を逃すわけがないだろう。

「甘い」

「甘い? 何を言う。もう戦いは始まっていたんだ。油断もいいところだ。そもそも、魔王を倒すためには君を倒さないといけない。それくらいわかっていた。どちらにしろ戦うんだ。それがそっちから来てくれるとはありがたい。もしや君が魔王なんじゃないか?」

「悪いが俺は魔王なんかじゃない」

「その力で?」

「魔王軍は力が全てじゃないってことさ。俺はただの部下」

 何か勘違いしているらしい。

 素直に直進してきているが、そんなものはどうにもならないぞ。

「君のスキルは重力操作じゃないのか? 霧は後ろの小娘のだろう」

「どうだろうな。だが、それだけなら魔王軍に入れないさ」

「やはり力はいるんじゃないか」

「多少な」

「ま、知能が足りないんだろ? 甘い甘いのはそっちだよ」

 霧に溶け進んできたのはどうやらバドンたちにやったのと同じことをするためだったらしい。

 俺の中に入り込み、俺を操作する。

 それも、バドンたちとは違い、霧の男は自分を全部吸わせることで俺自体を直接操作するつもりだったようだ。

「ぐあああああ!」
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