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〈成人編〉
57. バレました
しおりを挟む「そういえば、フェローさんに連絡は……」
「できていない。通信の魔道具はナギが持っていたから」
「そうだった……」
見つかったら取り上げられる可能性が高かったので、身に付けてはいなかったのだ。【無限収納EX】に収納していたので、エドに使えるはずはない。
「すぐに連絡しないと」
「そうだな。どちらにしろ、日が暮れているから、迎えに来るのは明日になるだろうが」
「無事なことだけでも伝えておかないとね」
だが、冒険者ギルドに連絡する前に、スキルの小部屋に送った獣人の少女たちの安全を確認する必要がある。
「グレンさんの様子も見ておかないと」
雑に扱ってしまったので、フォローしなければ、オスカーに怒られそうな気がする。
神妙な表情で「そうだな」とうなずくエドと手を繋いで、ナギはスキルを発動する。
【無限収納EX】内の空間へ、瞬時に移動した。
最初に発動した時と比べて、十倍以上に広くなった亜空間。
秘密基地気分で家具やキッチン用品などの魔道具も設置した、居心地のいい場所にはとっさに送り込んだ客人が横たわっていた。
同じ荷台にいた獣人の少女たちは、気持ちよさそうに眠っている。
意識があったのは、獅子とシロクマの二人だけだったようだ。
「うん、彼女たちは無事ね。よかった。問題は荷台ごと送った、こっち」
「壊れてはいないようだぞ」
「うん。……開けてみよう」
崖から落ちて、宙を舞った状態で無理やり収納したのだ。
大きすぎる物や動いている物、生き物は目視収納ができない。
どうにか触れることができたが、壊れ物を扱うように丁寧に『送る』ことができなかったので、心配だった。
扉の枠部分が歪んでおり、なかなか開けることができなかったので、エドが【身体強化】スキルを発動して、扉を外してくれた。
おそるおそる中を覗く。
まるで地震に巻き込まれた後の惨状のようで、嘆息する。
「わぁ……荷が崩れて、ぐちゃぐちゃ」
「幸い、箱の中身は乾燥した薬草やアラクネシルクばかりだ。潰されてはいないと思うぞ?」
エドが慰めてくれるが、胸をなで下ろしている暇はない。
二人で協力して、崩れ落ちた荷物を取り除き、獣人の少女たちを救出する。
「とりあえず、外に寝かせてあげないと」
全員分のベッドはないため、ドロップアイテムの毛皮を敷布団代わりにした。
エドが寝かせてくれた女の子たちを、念の為に【鑑定】で確認していく。
幸い、かすり傷で済んでいたので、ナギの【回復魔法】で充分だった。
「まだ薬が利いているみたいね。怖い思いをしないで済んで良かったのかな」
「自由に動けない状態で崖から落とされたら、トラウマになりそうだからな」
荒事に慣れている冒険者ならともかく、未成年の女の子にとっては恐怖でしかない。
「とにかく、全員が無事でよかったわ。あとは皆を外へ連れ出して、フェローさんに連絡を入れれば……」
「……この人数を、俺一人で助けたというのは少しばかり無理がないか?」
「あー……」
海に落ちた人を助けるのは大変だ。
意識がないため、暴れることはないだろうが、たしかにエドが一人で全員を助け出したというのは無理がありすぎる。
「どうしよう……?」
「食材ダンジョンでドロップした船の魔道具を使って救出したことにするか?」
「! それ、ナイスアイディア! その案で行こう!」
「まぁ、それでも無理はあるが……」
模型サイズの船の魔道具は魔力を通すことで十倍の大きさになる魔道船だ。
食材ダンジョンや海ダンジョンのフィールドでは大活躍の魔道具だが、何度か使ううちに、魔力量を調整すると大きさを変えることができることに気付いたのだ。
(十人乗りのボートサイズに変化させた魔道船なら、女の子たちを乗せることもできるものね)
ゴリ押しで通すことを決めて、二人でうなずき合っていると──
「これはどういうことかな、ナギ」
ふいに背後から詰問されて、文字通り飛び上がって驚いた。
「ひゃっ⁉︎ え、まさか、グレンさんっ?」
「起きていたのか」
ちっ、と軽く舌打ちするエド。
慌てて振り返った先には、薬の効果で眠りについているはずのグレンがいた。
ナギはおそるおそる視線を上げる。
嘘を許さない、真っ直ぐな眼差しに見据えられて、頭を抱えたくなる。
(ちゃんと【鑑定】で状態を確認しておくべきだった……)
反省しても、もう遅い。
「えっと、その……グレンさん、目が覚めていたんですね?」
「ああ。とある事情で、薬物には耐性があるんだ。状態異常を緩和する魔道具も身に付けてある」
返却したアクセサリーの中に、魔道具もあったのか。
「ということは、もしかして……?」
「うん。最初から意識はあったんだよ」
「あー……」
これはもう言い逃れができない。
どうしよう、と混乱するナギの腕がそっと引かれて、庇うようにエドが前に立つ。
(エドが、警戒している)
ダンジョンで初見のフロアボスを前にした時と同じ表情で、グレンを睨み付けている。
気付いたグレンが端整な顔に微苦笑を浮かべて、肩をすくめてみせた。
「そんなに睨まないでくれ。ナギは恩人に等しい。彼女を害することはないと誓おう」
「信用できない」
「それは困った。ただ僕は、何が起こったのかを知りたいだけだよ。内緒にしたいことがあるなら、秘密にすることを約束する」
「…………」
「エド、落ち着いて。グレンさんは、信用できると思う。悪い人じゃないわ」
「それは……知っている」
むぅ、と不機嫌そうな表情で顎を引くエド。仔狼の『中』から、ずっとグレンたちのことを見ていたのだろう。
渋々と身を引くエドのことを、グレンは興味深そうに観察している。
「……で、僕のことを知っているという、君は誰なんだろう?」
「あー……」
まさか、ずっと乗り合い馬車で一緒にいた仔狼ですよ、なんて言えるはずもなく。
「そして、この場所はどこだろう? 周囲を探ってみたが、出入り口はどこにもない、不思議な空間だとしか分からなかったが」
不自由なく生活できるほどの家具や魔道具があり、居住空間の外には土が敷き詰められ、果樹園や菜園があるのだ。
困惑するのも、仕方ない。
(……というか、むしろワクワクしているような?)
戸惑いよりも好奇心が優っているようで、グレンは楽しそうに周囲を見渡している。
まるで、秘密基地を探検する少年のような眼差しだ。
「あと、僕の勘違いでなければ、君は女の子たちを『収納』していたよね? あれはどういうことだろう」
にこりと華やかな笑みを浮かべて追求してくるグレンを前にして、ナギは獣耳をぺたりと寝かせて途方に暮れた。
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