召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
9 / 203

8. これから

しおりを挟む

『……トーマ。なるべく早く力を付けて、強くなる。必ず迎えに行くから』
「ああ。こっちも一応、加護を貰えたから、そんなに心配しなくても平気だぞ、アキ」

 ただし、魔獣や魔物の攻撃は防げても、対人は対象外なので、レベル上げは頑張らなければならない。
 創造神ケサランパサランがやたら大森林で住むことを勧めてくるとは思ったが、そういうことらしい。
 人相手だと無防備になるのなら、魔獣や魔物が棲む大森林は、俺にとってはちょうど良い隠れ家になる。
 浅い箇所には冒険者や狩人が踏み込むことはあるが、滅多に人が来ることはないらしいし。

(サバイバルキャンプ気分で、大森林の奥でレベル上げするか)

 召喚魔法ネット通販と加護の結界があれば、森の奥でも不自由なく暮らせるだろう。

 それに、少し楽しみでもあった。
 熱しやすく冷めやすいと言われる俺がここしばらくハマっていたのは、キャンプの他にもある。パルクールだ。
 障害物があるコースを身体能力だけで素早く、滑らかに飛び跳ねて通り抜ける。
 小柄で目が良く、運動神経にそれなりの自信がある俺とは相性の良い競技。

 格闘技も球技も体格差があると不利だった。その点、陸上競技はそれなりに向いていたが、あまり面白いとは思えなかった。
 誘われるままスケボー、ダンス、と挑戦して、唯一ハマったのがパルクールだ。

(森の住人と呼ばれるエルフ、その上位種に転生したんだ。大森林でパルクールを極められるんじゃないか?)

 この身体がとてつもなく軽く、また強靭な力を秘めているのは、何となく伝わってくる。早く、森の中を駆け巡ってみたい。
 落ち着きなくソワソワとしていると、どうやら聡い従弟に気付かれた。

『……トーマ、楽しそうだな』
「ああ、楽しみだ。この体でどんなことが出来るのか、どこまで出来るのか。異世界キャンプも楽しみで仕方ない」

 に、と笑って答えると、アキを筆頭にハルもナツもふにゃりと眉を寄せた。
 
『巻き込んでしまって、すまない』
『ごめんね、トーマ兄さん』
「何だ、あらたまって? それに巻き込んだのはお前たちじゃない。どっちも被害者だ」
『だけど、トーマにぃは死んじまったじゃねーか!』
「そうだけど、まぁ生き返ったし。お前たちが望んでくれたおかげだな。感謝してるよ」

 やんちゃな奴らが元気がないと調子が狂う。何でもないことのように言い放つと、少しだけホッとしたようだった。

「まぁ、頑張って強くなれ。邪竜を倒すのは百年単位でもいいみたいだから、無茶はするなよ。で、国のトップを捩じ伏せることが出来たら、招いてくれ」

 もっと気の利いたエールを送れたら良いのだけど、これが限界だ。あとはせいぜい「餌」を散らつかせるくらいか。

「レベルが上がったり、新しくスキルを覚えることが出来たら、ご褒美を送ってやるぞ?」

 だから、頑張れ。
 笑顔で告げると、何故か三人とも頬を赤らめている。

『……分かった。努力する』
『トーマにぃ、マジで気を付けろよな……? 破壊力増してんぞ、人たらしの』
「は?」
『とにかく、トーマ兄さんは私たち以外に笑顔を向けるのは禁止。分かった?』
「? おー、分からんが、分かった」

 頷いたところで、毛玉が頭の上にぽすんと落ちてきた。

『生存確認は出来たようだし、通信は切るよ。これ以降はこんな風に会話はできないからね?』
「今後はスキルボードのメールでの連絡だけってことだな。了解」

 えー、とブーイングが聞こえたが、毛玉は容赦なく映像を切った。
 
『ちゅーとりあるは、これで終わり。アイテムボックスの中に叡智を封じた魔法書を送っておいたよ。後はそれを読んで理解してね?』
「ああ、色々とありがとう。助かった」

 素直にお礼を言ったからか、毛玉は驚いたようだった。だけど、感謝の気持ちは本物だ。便宜を図ってくれたおかげで、こうして生き返って、新しい世界に胸を弾ませることが出来ているのだから。

『……そう言ってくれると、嬉しいよ。ああ、そうだ。アイテムボックスに収納している荷物も含めて、君たちの持ち物には僕の加護が掛かっている。傷付かず、汚れることなく、君たちを守ってくれるから、大事に使ってね?』

 慌てて着ている服を【鑑定】すると、破損不可、自動修復機能付きと読み取れた。
 もしかしなくても、下手な鎧よりも頑丈なのでは?

『もしも汚れたり傷が付いても、アイテムボックスに収納すれば元通りになるから。じゃあ、僕はもう還るね。ーー良い、異世界生活を』
「あ……」

 頭の上にいた、ほんのりとしたぬくもりが消えた。随分あっさりとした別れだ。
 賑やかな毛玉がいなくなって、ほんの少し寂しさを覚えたが、それを上回る期待に、今は胸がいっぱいだった。

 周囲を見渡す。広い草原。ハイエルフの視力は凄まじく、かなり遠くまで見通せた。
 北と東方向には集落らしき建物が見える。西は草原がずっと続いていた。そして、南側には濃い緑が広がっている。

「あれが、大森林か。ここからだと、かなりの距離がありそうだな」

 数十キロは先だが、それまでは平坦な草原が続いている。
 今のところ物資や装備にも余裕があるので、のんびりと歩いて行くのも悪くはない。
 太陽はちょうど頭上、夕方まで歩いて、途中でテントを張って休めば良いだろう。

「その途中で魔獣を倒しながらレベル上げかな。ああ、良さそうな素材があれば適宜収納してポイントに換えていこう」

 そうと決まれば、装備の確認だ。
 スタイル的に魔法が攻撃の主な手段なのだろうが、いきなり使いこなせるとは思えない。無手で異世界を闊歩するほど、度胸はないので、何か武器が必要だ。

「アイテムボックスに収納した荷物に、確かあったはず。お、あった!」

 取り出したのは、キャンプ用の手斧だ。他にも草刈り用の鎌やアウトドアナイフがある。
 親戚の山小屋を借りるお礼に周辺の整備を頼まれていたため用意していた諸々が、まさかこんな風に役立つとは。

「薪割り用の斧が魔獣に通じるか不安だったけど、鑑定したらしっかり加護が付いていて、めちゃくちゃ強そうな武器になっているなコレ」

 とても心強い。ありがとう毛玉ーー否、創造神さま。呆れたような気配を感じるが気にしない。現代っ子はちゃっかりしているんですよ。

 先程ポイントで購入召喚したペットボトルの緑茶で喉を湿らせると、手斧を片手に森に向けて歩いて行く。
 アウトドアナイフはいつでも取り出せるように、ジャケットのポケットに突っ込んだ。
 
「よし、楽しむぞ、異世界」

 目指すは魔境、大森林。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

処理中です...