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21. 大森林へ 3
しおりを挟む昼食の後片付けをすると、さっそく周囲の探索だ。まずは拠点を見失わないよう、目印を置くことにした。
拠点にしたキャンプ場所で一番高い木に登り、なるべく天辺に近い枝にオレンジ色のマフラータオルを結びつける。
それだけだと不安なので、念のため銀テープを召喚し、タオルの隣に結んでおいた。
「緑の中ではオレンジ色が目立つって聞いたから、大丈夫だとは思うが……」
太陽光に反射して光る銀テープもあるし、目印としては充分だろう。
一応、あまり離れた場所には行かず、拠点の周辺を回ってみることにした。
採取が目的なため、革の手袋と小さめのナイフを装備し、折り畳んだビニール袋はポケットに入れておく。
ザルやボウルの方が採取物は放り込みやすいが、持ち歩くにはビニール袋が便利だ。
魔獣は見付けたら水魔法で倒すつもりだけど、念の為にすぐに取り出せるように手斧はリュックに突っ込んでおいた。
「よし、行くか」
遠足気分なのは否めない。
どんな植生なのか、じっくり確認するのが楽しみだった。片端から【鑑定】していけば、きっとスキルのレベルも上がるはず。
レアな薬草なら、高ポイントにもなるので、食べられる木の実やキノコ以外も積極的に採取しようと考えている。
新しく得た【気配察知】と【隠密】スキルを発動させ、慎重に周囲を探索した。
予想通り、大森林は豊かだった。
食べられる野草やキノコ、木の実が大量に採取できた。薬草も多く生えており、ポイント目当てに黙々と摘み取った。
食用の野草と鑑定で判明した植物の中には、日本で見知ったハーブも含まれている。
旬の味として愛されている山菜も見付けて、懐かしい気持ちで採取した。
「それにしても立派なキノコが多いな」
広大な森林には倒木も多い。
それらを養分としているのか、大きく育ったキノコがたくさん採れた。もちろん食用の物を厳選している。
中には異世界産の怪しげなキノコもあったが、それらはポイント化しておいた。
ポーションの材料になる素材も多いらしく、ポイントは順調に溜まっていった。
「ベリー系が多い。ブルーベリー、ラズベリー、ブラックベリーか。どれも実が大きくて甘そうだ」
たまにつまみ食いしながらの採取は、順調に成果を上げている。
青りんごを見つけた時には、思わず歓声を上げそうになってしまった。もちろん、熟した実は採れるだけ採っている。
うきうきしながら森を歩き、魔獣の気配に気付くと、木の影から水魔法を放って倒していった。
「ラージマウス? こんなデカいネズミの魔獣がいるのか……」
中型犬サイズのネズミは間近で目にするとかなりインパクトがある。齧歯類の牙は凶悪だ。これならまだ、キツネやオオカミの方が可愛げがある。
まぁ、どちらも容赦なく狩るけれど。
「ん? これは、ニンニクの芽か?」
ネギかニラかと鑑定してみたが、ニンニクだった。もちろん食用。肉と一緒に炒めると美味いので、大喜びで採取した。
正確には芽ではなく、茎のようだが、どちらにしろ美味しい上に栄養があるので見付けたら確保していく。
周辺の土を掘り返して、ニンニクもゲットした。芽が生えていても食べられるので、これも料理に使おう。
「なかなか順調じゃないか?」
植生を調べようと思っていたが、早々に諦めた。なにせ、この森の植物はおかしい。
今の季節がいつ頃なのかは分からないが、春の山菜が生えている、すぐ隣で夏に熟すベリーが採取出来るのだから。
季節や気候や土地柄を無視した植生。まるで幼い子供が玩具箱をひっくり返したような、ごちゃ混ぜ具合に感じた。
気にしていたら、胃が痛くなりそうだったので「ここは異世界だし」を合言葉に、スルーしている。
「うん、食える物がたくさん手に入るのはありがたいし。これも創造神の恵みとして感謝しておこう」
形だけでも感謝したのが良かったのか。
その後、野生の玉ねぎやニンジン、ラディッシュを見付けることが出来た。
拠点に戻り、採取した植物を浄化で汚れを落としていく。どれもたくさん採れたので、ひとつずつポイントを確認してみた。
「キノコは50から100Pか。錬金素材になる異世界産のキノコは1500Pもある。ベリー類や食用の野菜に山菜も、日本でも珍しくない素材はポイントが低い……」
異世界産の素材の方が高ポイントに変換されると分かったので、見知った食材は遠慮なく使うことにした。
「今日の夕食はホーンラビットの唐揚げと山菜の天ぷらにしよう」
拠点には既に簡易かまどがあるので、スープ類はそこで作ることにした。
揚げ物料理はガスコンロを使う。
作業台が足りないので、土魔法で即席のテーブルを用意した。
まずはホーンラビットを一口サイズに切り分けて、100円ショップで購入した味付きのからあげ粉をまぶして寝かせておく。
その間にスープを仕込んだ。ホーンラビットの細切れと出汁の素を入れた鍋に、採取してきた玉ねぎとニンジンを投入する。
くつくつと弱火で煮込んでいる間に、山菜の準備だ。蕗の薹とこごみの天ぷらなので、アク抜きは不要。
100円ショップで購入していたサラダ油を熱して、まずは山菜を揚げていく。
「唐揚げを先に作ったら、油に肉の匂いがつくからな。山菜はさっぱりと食いたい」
キッチンペーパーを敷いた皿の上に山菜の天ぷらを移し、冷える前に【アイテムボックス】に収納する。
「さて、本命の唐揚げといくか」
味付きの唐揚げ粉は、肉にまぶして揚げるだけなので楽で良い。
油に落とすと、ジュワリと良い音が弾ける。作り置きも兼ねて、大量に揚げることにしたので、地味に大変だ。
「あー、良い匂い。たまらん」
我慢が出来ずに、揚げたてをひとつ頬張った。はふはふ、と口の中の熱を逃しながら、うっとりと噛み締める。
鶏肉よりも、かなり柔らかい。噛み締めるごとに口の中に溢れる肉汁に溺れそうだ。
にんにく風味の衣は醤油ベースの味付けで、ホーンラビット肉にはよく合っている。
「旨すぎ。これはもう我慢ならん! 解禁するぞ、ビールを!」
どうせ今日はもうこのまま眠るだけなのだ。気にせず、ビールを開けることにした。
プルタブを引くとプシュッと弾ける爽快な音に目を細めながら、久々の冷えたビールで喉を潤す。
爽やかな苦味と炭酸がたまらない。油断すると一気に飲み干しそうで、どうにか理性を総動員して、缶をテーブルに置いた。
「っはー…。最高だな。唐揚げもビールも最強の組み合わせだ。これはヤバい」
黙々とホーンラビット肉を揚げ、合間にサラダを作る。
湖の側で見付けた水菜をメインに生玉ねぎとラディッシュをスライスし、ドレッシングを回しかけただけの簡単サラダだ。
肉と野菜が煮えた鍋に味噌を投入し、味噌汁も完成した。三つ葉の代わりに水菜を散らすと、見栄えも良い。
「よし、完成! 昼のうちに湯煎しておいたパック飯をよそえば、豪華定食に見えるな」
せっかくなので、夕食も写真に撮って『勇者メッセ』に送っておいた。
優雅なキャンプ風景に対抗してか、昼食時にハルから焼肉を堪能している写真が送られてきたので、その返信も兼ねている。
ホーンラビットの唐揚げ、白飯に味噌汁、山菜の天ぷらに新鮮サラダ。シンプルだけど、食欲をそそるラインナップだと思う。
冷えたビールと一緒に味わう唐揚げ定食は絶品だ。さくりと噛み締めると、ほのかな苦味のある山菜の天ぷらはどこか懐かしい味がする。味噌汁も美味い。
シャキシャキと新鮮なサラダをこんなに美味しいと思ったのは初めてかもしれない。
何よりも、ホーンラビットの唐揚げと白飯の夢のコラボレーションときたら!
「ヤバいな。これは、いくらでも食べられそうだ……」
わしわしと掻き込みながら食べたくなる。肉汁をビールで洗い流すと、また味わいたくなって、唐揚げを咀嚼してしまう。
「ダメだ。数少ないビールをあっという間に飲み尽くしてしまいそうだ。我慢しないと」
ビールの代わりに味噌汁を飲む。うん、これも美味い。食後の青りんごに至るまで、大森林産の食材は絶品だった。
明日からの採取と狩猟が楽しみだ。
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