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42. 〈幕間〉秋生 2
しおりを挟む神殿での魔法講習、城の騎士との鍛錬も終え、いよいよダンジョンでのレベル上げが始まる。
期間は一週間ほど。シラン国内にある、小規模ダンジョンでの実戦だ。
ハルなどはダンジョンブートキャンプだ、などと喜んでいたが。
「創造神から貰った【アイテムボックス】スキルが役立つな」
「そうね。快適に過ごすには、どうしても荷物が増えてしまうもの」
「手ぶらで行けるのはありがたいよなー」
日本から持ち込まれた荷物類の他に、食料やポーション類、野営道具に武器も大量に預かっている。
初級ダンジョンとは言え、何が起こるか分からないため、備えは幾らあっても良い。
ダンジョンに同行してくれる神官や騎士たちの荷物もまとめて預かっている。
大勢で挑む場所ではないので、今回は少数精鋭だ。
もともと勇者である自分たちのレベル上げのためのダンジョンアタックなので、それも当然か。
ダンジョンは王都から馬車で三日ほど走らせた場所にある。野営はせずに、途中の街や村で宿を取りながら進んで行った。
荷車と変わらない乗り心地に辟易しながら、どうにかダンジョンのある集落に到着する。
途中泊まった宿にも思うところがあったが、どうにかトーマから貰ったシーツやクッションを使い、乗り切ることが出来た。
毛玉には【アイテムボックス】スキルと【生活魔法】を与えてくれたことを深く感謝している。
浄化魔法がなければ、一睡も出来なかったに違いない。
「勇者さま方、準備はよろしいですか」
「はい。いつでも行けます」
神官からの問い掛けに、代表して頷いておく。
今日の自分たちの装備はいつもと違い、革の鎧を身に纏っていた。全身を覆う鎧ではなく、急所を隠す簡易的な装備だ。
革の鎧は軽くて動きやすい。
魔獣の素材を使った防具で、仲良くなった騎士団長から進呈された。
魔物や魔獣を穢れた存在だと忌み嫌う神官は面白くなさそうだったが、気付かないふりをしてやり過ごしている。
鎧の下はいつもの日本製のロングTシャツを着ているので、快適だ。
(まあ、革の鎧よりも、このTシャツの方が防護力は高いだろうが)
何せ、創造神に祝福された破壊不可能の神具と化しているのだ。
うっかり神殿の連中に知られてしまうと、御神体代わりに奪われそうなので、三人ともしっかり口を噤んでいた。
春人は柔道部に所属していたが、格闘技はひと通り経験している。
本来なら素手で戦うことを得意としたが、さすがに魔獣や魔物相手に拳や蹴りを繰り出すのは厳しいため、メイスという殴打用の武器を使っていた。
このメイスに魔力を込めて攻撃すると、威力が倍増する魔道武器だ。上級ダンジョンのドロップアイテムらしい。
棍棒のように振り回し、ぶん殴れば良いだけなので、分かりやすいと本人はいたく気に入ったようだ。
夏希は弓道部所属、趣味で薙刀も振るう。
なので神官から進呈された、こちらも魔力を込めれば矢に属性魔法を付与できる魔道武器の弓を使っている。
【アイテムボックス】にはセカンド武器の薙刀も収納している。こちらの世界ではグレイブと呼ぶらしい。
槍の穂先に剣を仕込んだ武器で、こちらも魔力を込めると威力を増す。
基本は遠距離攻撃でやり過ごすが、撃ち漏らした魔獣が襲ってきた際にはこのグレイブで一閃するつもりなのだろう。
俺の武器は剣だ。
ステータスでは賢者となっており、能力的にも魔法使いだと思うが、魔法の杖ではなく、立派な剣を与えられた。
(子供の頃から剣道を嗜んでいたし、剣が一番しっくりくるが……)
何度か振るい、手に馴染ませた。
基本の動作はそう変わらない。
西洋の剣は日本の刀と違い、切るよりも叩くことに特化していると聞いたことがあるが、こちらの世界の剣は切れ味も良く、肉厚の刃は殴り付ける攻撃も出来そうだ。
重さは相当なはずだが、己の魔力に馴染んだ魔道武器は、自分でも驚くほど軽々と扱えた。これならダンジョンでも通用する。
確認のため、あらためて己のステータスを表示させた。
〈ステータス〉
伊達秋生(16) 〈召喚勇者〉〈賢者〉
レベル10
HP 95000/95000
MP 50000/50000
力 200
防御 400
素早さ 300
器用さ 150
頭脳 500
運 40
スキル 【全言語理解】【鑑定】【アイテムボックス】【生活魔法】【剣術】【居合術】【全魔法】
固有ギフト 【聖剣召喚】
称号 【創造神の祝福】
レベル1の頃と比べても、あらゆる数値が上がっている。特に体力と魔力は大幅に増えており、自覚できるほど強くなった。
訓練に付き合ってくれた騎士たちも、その成長には驚いていた。
さすが勇者だと褒め称えられたが、あからさまに煽られて喜ぶほどバカじゃない。
レベル10になれば、ダンジョンでの実地訓練に行ける。
てっとり早く強くなりたい三人は、ダンジョンでのレベル上げを目的に、文句も言わずに鍛錬に励んだ。
おかげで最速でダンジョンキャンプに挑戦が出来ることになったのだ。
「行くぞ。ナツ、アキ」
「ああ」
「行くわよ、もちろん」
気負いなく先頭を歩くハルの後を追う。
付き添いの神官や騎士たちは、俺たちと離れた位置で待機している。
初級ダンジョンの一階層に出没する魔獣は最弱だと聞いた。彼らなりに俺たちを信頼してくれているのだろう。
このダンジョンアタックで俺たちに求められているのは、「殺す」ことに慣れること、なのだ。もちろんレベル上げも重要だが。
日本では、せいぜい虫を殺した程度の平和ボケした高校生に、いきなり魔獣を倒せなどと押し付けるとは、とんでもないと思うが。
(でも、それがトーマを取り戻し、俺たちが日本に帰るために必要な行為ならば、喜んで挑戦してやるさ)
ハルもナツも覚悟を決めている。
むしろ、やる気に満ち溢れているようだ。
「魔獣との初戦闘がダンジョンで良かったよなー、アキ」
「……どうしてだ?」
「倒したらドロップアイテムに変わるんだろ? 俺、グロいのはそんな得意じゃないから、解体しないで済むのは正直助かる」
からりと笑いながら言うハル。ナツも真剣な表情で頷いている。
「そうね、それはすごく思う。倒した際に着いた返り血もアイテムがドロップした瞬間、綺麗に消えるって聞いたわ」
「確かに、親切だな。ダンジョンシステム」
ダンジョンとは元々、この世界の創造神が人々に恩恵をもたらすために与えた試練の場なのだと言われている。
己の力を高め、倒した魔獣からの糧を得ることができる、神の修練場だ。
「ちゃんとエサで釣ってくるところが、賢いよな。特殊個体の魔物や、大物を倒すとレアなドロップで宝物が手に入るらしいぞ」
「ハル、まずはトーマのための武器入手が一番の目的だ」
「わーってるって!」
「武器がドロップしなくても、手に入れた素材は私たちの好きにして良いんでしょう? なら、素材の売上げで魔道武器を買ってもいいんじゃないの」
ナツの言う通りだが、何となく彼には、自分たちの力で手に入れた武器を渡したいと思ってしまう。
兄貴分の従兄に、こんなに強くなったんだぞ、と胸を張りたい気持ちに近い。
子供みたいな、くだらないプライドなのかもしれないが、ハルも似たような気持ちでいるようだ。
現実的な女子、ナツが一番しっかりしているのかもしれない。
洞窟タイプの一階層を進んで行くと、猫ほどの大きさのネズミの魔獣が集団で現れた。
愛らしい動物の姿をしていれば攻撃しにくいか、と不安だったが、実物の魔獣を目にして、逡巡は消え去った。
鑑定するまでもなく、その生き物が禍々しい気配を発していたからだ。瞳は赤く染まり、鋭い殺気を感じる。
(これは、排除しなければいけない存在だ)
本能でそう思った。
手加減も忘れることが出来たので、ある意味ありがたい。
まずは遠距離攻撃から。ナツが放った魔法の矢は狙い違わず、モンスターラットを貫いた。
もう一匹はハルがメイスで叩き潰している。俺は風の魔法を剣に纏わせて、数メートル離れた場所から攻撃した。
バシュッ、と鋭い風の音が響き、モンスターラットを二匹まとめて切り裂いた。
「……こんなものか」
直接、切った感触がなかったからか、魔獣を殺しても何も感じない。
ハルはむしろ笑顔でドロップアイテムを拾っている。ナツも平気そうな表情で、さっそくアイテムを鑑定していた。
「うん、行けそうだ。とっとと初級ダンジョンを攻略して、力をつけて行こう」
新たな自信を胸に、俺たちは一歩を踏み出した。
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