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47.〈幕間〉春人 3
しおりを挟む「っしゃあ、五階層! 順調だな!」
四階層を突破して、危なげなく五階層に到着。レベル上げは順調だ。
低階層の魔獣をコツコツと倒していき、命を奪う感覚にもすっかり慣れてしまった。
あいにく、ドロップ品はまだ微妙な物しか手に入れてはいないが、魔石はそれなりの金額で買い取ってもらえるらしい。
買取先は、冒険者ギルドだ。
ダンジョンに潜るためにはギルドへの登録が必須だったので、先に手続きは済ませてある。
教会の連中は面白くなさそうだったが、規則だから仕方ない。
仕方ないよなー、と言いながらも大喜びでギルドに登録したのは言うまでもないだろう。俺だけじゃなくて、アキも口元がニヨニヨしていたから、こっそり喜んでいたはずだ。
ナツはギルド自体は何とも思っていないようだったが、ドロップした素材を買い取ってくれる場所と聞くと、率先して登録していた。さすが、俺の妹。しっかりしている。
ドロップ品は【アイテムボックス】に収納していく。一週間のダンジョンブートキャンプ後に、冒険者ギルドでまとめて買い取ってもらう予定だ。
今のところレアドロップはないが、十階層以下になると、稀に魔道具や魔道武器がドロップするらしいので、それを目当てに頑張っている。
ちなみにフロアボスが現れるのは、二十階層以下らしい。
「今現在のステータス、っと」
オープンと念じると、目の前に透明のボードが現れる。見慣れたステータスボードをじっくりと確認した。
〈ステータス〉
伊達春人(17) 〈召喚勇者〉〈騎士〉
レベル13
HP 150000/150000
MP 8000/8000
力 520
防御 340
素早さ 200
器用さ 50
頭脳 100
運 30
スキル 【全言語理解】【鑑定】【アイテムボックス】【生活魔法】【柔術】【拳闘術】【火魔法】
固有ギフト 【滅魔の拳】
称号 【創造神の祝福】
「んー…。まだレベル13か。もっとゲームみたいに一気に上がるかと思ったけど、意外と堅実な感じ?」
「ハル、そこのセーフティエリアで休憩しよう」
「おお。テントは要らないよな。テーブルとイスだけ出しておくか」
「そうね。一時間の昼休憩の後、すぐに先へ進む予定だし、テントは要らないわ」
三人でセーフティエリアに向かう。
このダンジョンのセーフティエリアは、分かりやすく小部屋になっている。
ダンジョンは洞窟になっていて、分かれ道もなく延々と一本道だったが、階層を跨ぐ周辺に小部屋が幾つか現れるのだ。
広さは十畳くらいで、ぽつんと空洞になっている。なぜか奥に小さな泉があり、冒険者たちの憩いの場となっていた。
「水が使えるのはありがたいな。俺たちには、必要ないが」
「そうね。手洗いも浄化で済むものね」
「飯時に湯を使うから便利じゃね?」
ナツとアキはあまり泉の水を使いたくなさそうだったが、俺は気にせず使っている。
だって便利だもん。
城から樽に詰めた水は持参しているけれど、いちいち【アイテムボックス】から取り出して汲み出すのは面倒なのだ。
「鑑定しても、飲用水って出るし、腹が痛くなったこともないぞ?」
「……そうね」
「まあ、たしかに」
理性では納得していても、どうにも嫌悪感というか、警戒心? が抑えられないらしい。まぁ性格だからな、仕方ない。
「じゃあ、飯食うか!」
折り畳みのテーブルと小さめなチェアはトーマ兄から購入した、三百円ショップの品だ。百円ショップの物よりも質が良かったので買い換えて、今はこれを愛用している。
ちなみに百円ショップ品は、付き添いの騎士連中が買い取ってくれた。結構良い値段で買ってくれたので、かなり儲けてしまった。
このダンジョン内で彼らも愛用しているらしい。折り畳みの商品、便利だからな。
「今日はカップ麺とおにぎりと串焼き肉にしよう」
おにぎりと串焼き肉は、城で調理したものを【アイテムボックス】に大量に収納してあるのだ。
パック飯を生活魔法の加熱で温めて、混ぜご飯系のふりかけと和えて握った、おにぎりはカップ麺との相性がとても良いのだ。
主食だけだと物足りないので、俺はこれに串焼き肉を追加する。厨房には日本産の塩胡椒を手渡してあるので、味付けもバッチリだ。
ナツは栄養を考えて野菜や果物類もきっちり食べるようにしているらしい。
トーマ兄からランチボックスを買って、彩り良く惣菜を詰めて貰っているようだ。
主食はおにぎりにしたり、パスタだったり、パンケーキだったりと色々だ。
スープは寸胴鍋いっぱいに何種類か作ってもらったものを、日替わりで皆で食べている。今日は具沢山のコンソメスープだ。
アキは元々パン派なので、朝と昼はパン食が多い。トーマ兄から購入した菓子パンを黙々と食べている。
最近は百均商品の小麦粉やパンを柔らかくする粉? なんかを仕入れて、厨房でパンを焼いて貰っているようで、先日はとうとうハンバーガーを作っていた。
食パンはまだ成功していないのでサンドイッチはないが、ホットドッグは成功したそうだ。
流石に食べ盛りで、しかも魔力を使うと腹が減るので、肉や卵がたくさん詰まった惣菜パンとスープを食べている。
「付き添いの騎士や神官たちは携帯食なんだっけ?」
「ハルがカップ麺を売りつけた連中以外はな」
「私もこっそりカロリーバー売り付けちゃった。どっちにしろ、私たちはまだ恵まれた方よね。トーマ兄さんのおかげで」
「まーなー。日本食どころか、調味料が塩だけの段階でやる気なくなるよな、この世界」
「とは言え、すこし飽きてきたのも確かだな。俺たちじゃ、トーマほどの料理も出来ないから、アレンジレシピもほど遠い」
「ナツは家庭科で習ったんじゃねーの?」
「アンタ達も習ったじゃない。そして三人とも、覚えてる? 習った内容」
「………」
家庭科に全く興味がなかった三人は、適当に授業をやり過ごしたので、あまり覚えていない。家で自炊をしたこともなかった。
だって、そんなのは必要なかったから。
「大人になったら一人暮らしするんだから、少しは自炊を覚えとけって、トーマ兄に叱られたのにな……」
「……こっちで少しは覚えるわ」
「だなー。魔獣肉を野営調理できる程度には腕を磨きたいよ」
「俺は揚げ物をマスターする」
「いいな、アキ。俺、からあげ食いたい」
「私はフライドチキンとコロッケがいいわ」
「言うな。コンビニが恋しくなる」
「あ、バカ。アキのアホ! コンビニ思い出しちまったじゃねーか!」
「知るか」
だらだらと昼食を楽しみながらのお喋りが終わった頃、ピロンと電子音が響いた。
トーマ兄からだ。創造神のアプリ『勇者メッセ』のグループチャットへの投稿だろう。
「なになに? コンビニはじめました……?」
一言。それだけだ。
三人ともスマホを見下ろしたまま固まってしまった。コンビニ。コンビニはじめました? まさか!
「俺は金貨一枚を課金する」
静かにアキが言い放った。
ぱっと顔を上げて確認したが、奴の表情は本気だ。金貨一枚、日本円だと十万円だ。
日本にいる時でさえ、そんな金額を一度に使ったことはない。しかもコンビニでなんて、ありえなかった。けれど───
「俺も金貨一枚出すわ。コンビニ商品買い尽くしてやろうぜ」
からあげやフライドチキン、コロッケだってコンビニでは販売している。
迷いはなかった。
もちろん、我が妹も真剣な表情で金貨一枚を取り出している。
「私も払うわ。コンビニのホットスナックにスイーツ! 金貨一枚の価値はあるもの」
「ま、価値はあるが、今んとこ教会と城の紐付き勇者だから、小遣いの無駄遣いは出来ねぇよなぁ……」
「なら、ダンジョンで稼げば良い」
「アキ?」
「一週間の予定だったが、延長しよう。二十階層まで降りれば、フロアボスが現れる。奴らは変異種や上位種ばかりで、ドロップアイテムも期待できる。稼ぎ時だぞ」
三人で顔を見合わせて、ゆっくりと頷いた。先程までとは本気度が違う、真剣な表情である。
「コンビニ商品のために」
「ダンジョンアタック頑張るぞ!」
「おー!」
久々のホットスナック類は涙が出るほど美味しかったので、きっとダンジョン探索はめちゃくちゃ捗ると思う。
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