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51. 大森林の梅雨
しおりを挟む大森林に雨季がきた。
深夜から降り始めた雨は明け方になっても止まず、徐々に勢いを増していく。
拠点とした洞窟内の住処はそれなりに快適だ。心配だった雨の降り込みも殆どなく、入り口は傾斜にしているため、中に水溜りが出来ることもない。
雨風が強くなると心配だが、今のところは召喚魔法で手に入れたシャワーカーテンでも充分そうだった。
「雨雲の所為で暗いけど、ランタンの灯りでも生活は出来るしな。せっかくだから、梅雨の間に読書に励むか」
コンビニの店舗で直接扱っている商品しか召喚出来ないのだと思い込んでいたが、暇な時間に隅々まで商品一覧を確認して気付いた。
書籍欄とは別に、コンビニのネットショッピングのカテゴリーがあることに。
タップすると、雑誌やコミックスに小説だけでなく、写真集や専門書まで扱っていた。
「アイドルやアニメの円盤まであるな。特典付き映画のチケットは買ってもしょうがないけど」
あいにく、円盤は購入しても本体がないので視聴は出来ない。
ゲーム機は本体も別売りで一覧にあったけれど、充電ができないので諦めた。
「あ、でもハルならキャンプにもゲーム機を持ち込んでそうだな。持ち込み分は創造神の力で充電不要なチート機械になっているから、ゲームし放題か」
アイツのことだ。新作のゲームソフトがこちらでも購入出来ると知れば、熱中して遊びそうなので黙っておこうと思う。
ちなみにコンビニのネットショップには、アニメやゲーム、人気アーティストの限定グッズも販売しており、Tシャツを買えたのは嬉しかった。
三百円ショップで購入できる室内着はレディース用のみなのだ。
購入したTシャツは夏に開催されるロックフェス合わせのグッズらしく、デザインもなかなか格好良い。
「うん。これはアイツらにも教えてやろう。Tシャツは何枚あっても良いよなー」
その他にも地味に嬉しかったのは、ギフトコーナーだ。お中元、お歳暮のみならず、結婚祝いや出産祝いなどの品があり、特にカタログギフトはありがたかった。
上質な寝具やタオル類は快適に過ごすには必須な品物だ。一万円台の商品なので、シーツやブランケット、枕しか購入できなかったのは残念だったが。
「あと、高級フルーツもありがたいよな。こっちの世界にない果物の種を植えて増やしてみるのも面白そうだ」
外来種問題は気にしなくても良いと、創造神も推奨していたので、そのうち育ててみようと思う。
ハイエルフは森に棲む種族なので、植物を育てるのは得意なはず。
「……ま、それもこの雨季を乗り越えてからだな。それまではのんびり読書を楽しもう」
せっかくなので、ずっと気になっていた人気コミックスを全巻購入してみた。
読み終わったら、従弟たちに送ってやればアイツらも良い気分転換になるだろう。
幸い、この数日間ひたすら狩猟に精を出したので結構なポイントが貯まっている。
「ん、この小説も気になっていたんだよな。長編で手を出しにくかったけど、今なら時間もあるし、挑戦してみよう」
二十巻以上続く小説もカートに突っ込んでいく。娯楽系を中心に、たまにネイチャー系や癒し系小動物の本も買ってみる。可愛いもふもふに癒されたい。
あとはこっそり好みの女優の写真集も買った。これはアイツらには回さない。
「異世界転生したんだから、好みの女子と仲良くしたいよな……。女っ気どころか、人っ子一人いないけど」
第一異世界人に、いまだ遭遇していないとはどういうことだろう。まぁ、襲われたくはないので仕方ないけれど。
「人族と会えないのはここが魔境──大森林だから仕方ないとして。せめて、可愛いもふもふに会いたい。もふりたい。この際、毛玉でいいから癒されたいぞ……」
百円ショップで購入した、ひんやりぬいぐるみをぎゅっと抱き締めた。もふもふだ。生きてないけど。
「ここで出会える動物、だいたい魔獣だし。俺を見ると襲ってくるし。せめて、可愛い魔獣をテイムできたらなぁ……」
あいにく、この世界の魔獣はふわふわのホーンラビットさえ目付きが悪く凶悪だ。
手触りの良い毛皮持ちの魔獣はそれなりに見つけたが、どれも可愛くはなかった。
「……大森林を出るまでは我慢するか」
ふう、と溜め息を吐くと、紅茶とクッキーをお供に読書に集中することにした。
昼食はディア肉のカツサンドと作り置きのポトフ。シャキシャキのキャベツの千切りとタルタルソースが良く合っていて美味しかった。
行儀が悪いが、本を読みながら片手で食べられるメニューは良い。
人気のコミックスはどれも面白く、あっという間に読破した。
「さすがに目が疲れたな。休憩して、午後からは料理でもするか」
せっかくだ。購入した料理のレシピ本を参考に、作り置きしておきたい。
魔獣肉の在庫は山ほどある。ウサギに鹿、イノシシ、豚もどき、鶏肉にトカゲ肉。使い放題だ。残念ながら牛肉系の魔獣にはまだお目にかかっていなかったが。
「牛と馬の魔獣もいるのか。楽しみだな」
魔法書で調べると、ダンジョンの深階層では珍しくもない魔獣らしい。しかも、どちらも美味だと言う。絶対に狩りたい。
あいにく今は手元にないので、大量に在庫のあるボア肉とオーク肉を中心に豚肉料理のレシピを試すことにした。
オーク肉の生姜焼き、ボア肉の薄切りで作ったポーク風チャップに味噌炒め。アスパラ巻きとロールキャベツもたっぷり作った。
コンロは二口あるので、フライパン料理と鍋料理にと、それぞれ並行して挑戦する。
たっぷりのオーク肉を使ったブラウンシチューは、玉ねぎを丸ごとひとつ溶かし込んだ自信作だ。ライスにもパンにも合うので、作り置きとしては優秀だろう。
「……結構楽しいな、料理も」
レシピ本はどれも分かりやすく説明されており、作りやすかった。
味見をしたが、かなり美味しい。満足できる味に仕上がって嬉しかった。
「明日は和食に挑戦するか」
肉じゃがやすき煮、照り焼きなど試したいレシピに付箋を貼っていく。
そういえば、味噌汁も作り置きしたかったことを思い出す。百円ショップで鍋を幾つか追加で購入しておこう。
「味噌汁と、豚汁もいいな。魚が釣れたら、あら汁も作りたいけど。あと、米も炊いておこう。土鍋があったよな」
炊き上がったら土鍋ごと【アイテムボックス】に収納しておけば、いつでも炊き立てが食べられる。
白米を用意するなら、カレーも必須だ。こちらも大鍋いっぱいに作っておこう。
鳥の魔獣肉もたくさんあるので、ホワイトシチューに使いたい。
「あとは揚げ物だな。面倒だから、一度に揚げよう」
唐揚げにカツ、天ぷら。コロッケも作りたい。ミートボールも美味いよな。
天ぷらは野菜をメインに。かしわ天に半熟卵の天ぷらも食いたい。雨が止んだら、山菜の採取も出来るといいのだが。
耳をすませば、葉を叩く雨音が響いてくる。恵みの雨を喜ぶ、小さな生き物たちの唄声が大森林に紡がれていた。
「短くても二週間。長引くと一ヶ月か。大森林の雨季、せめて楽しく過ごすとするか」
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