96 / 203
95. タイニーハウス
しおりを挟む外観はミニサイズのログハウス。
所謂、タイニーログハウスというやつなのだろう。
小さめの窓がドアの両脇に二つある。まるでおもちゃの家のようで可愛らしい。
初期設定ではシャワールーム付きだったが、俺にはダンジョンで手に入れた魔道具がある。
「コンテナハウス住みになって、あんまり使わなくなったけど、ドロップして良かったよなートイレルーム……」
てのひらサイズの長方形の箱だが、設置すると高級ホテルのサニタリールームが顕現するのだ。
初期設備は洗面台とトイレだけだったが、色々と買い足して今は充実している。
従弟たちに頼んで送って貰った樽風呂はもちろんのこと、大型家具ショップで購入したお風呂セットに棚やワゴン、タオルに着替えも置いてある。
「狭いシャワールームより、こっちの魔道具を設置した方が断然快適だよな」
箱型のトイレルームは中に入ると拡張機能が付与されており、タイニーハウスとそう変わらない広さだ。
幅や奥行きが1メートル、高さ2メートルのボックス型のため、部屋の中に設置すると少し嵩張るが、普段は【アイテムボックス】に収納しておけば良い。
シャワールームは外して、代わりに付けて貰ったのはミニキッチンだ。
シンクとコンロが一口ついただけのシンプルなキッチン。
旅の途中の宿代わりに使うには充分だろう。
幸い、追加のポイントは不要だった。
なかなか良い買い物が出来たと、タイニーハウスの外観を眺めながら悦に入っていると、焦れたコテツに足を突かれた。
「なぁん?」
「ああ、ごめん。入ろうか。旅の間の我が家に」
ドアを開けると、狭い室内が全て見渡せる。新築の木材の香りが心地よい。
フローリングの床が敷き詰められた、シンプルな部屋だ。設備はミニキッチンだけで、収納スペースもなく、かなり狭い。
「まぁ、寝るためだけに使う家だし、こんなものか……?」
部屋の探検が一瞬で終わってしまったコテツは詰まらなそうにしている。
「仕方ない。ちょっとだけ広くしておこう」
もう少しゆったり過ごせるように、空間魔法で部屋の中を拡張する。
増やしたのは一畳分ほどのスペースだ。
このタイニーハウスには人を招く可能性があるので、あまり外観と見た目で違いが違いすぎないように気を付けた。
「眠るための家だからな、ベッドは良い物を使いたい。コテツと使うからダブルサイズのを買おう」
大型家具ショップではナチュラル系、クラシックモダン系なるコーディネート販売をしており、ありがたく利用させてもらった。
壁際に沿って、寝心地の良さそうなベッドを設置し、シーツや枕をセッティングする。
布団セットは天然素材の物を選んだ。シーツや枕も無地で生成色。
違和感がないように、その内キルトのベッドカバーを街で仕入れたい。
「ナチュラルな暮らしっぽく、……ちょっとアンティーク風が良いか。こっちの世界でも違和感がないような、木造の家具だな」
ベッドの他に置く物はそう多くない。
食事用のテーブルセットと最低限の調理道具や食器類を収納するための棚とワゴンを購入した。
ソファは置かずにベッドで寛ぐことにして、あとはコテツ用のキャットタワーを設置する。
「シェルフはテントで使っていたやつでいいか。……うん、なかなか良い感じじゃないか? これなら、誰かを招いてもそんなに変には思われないよな」
ぐるりと室内を見渡して、大きく頷く。
ベッド以外に大きな家具を置かないことにしたので、スペースには余裕がある。
シャワールームがあった場所には、そのまま魔道具のトイレルームを設置した。
なかなかに良い感じだ。
キャンピングカーの内部みたいで、何となくワクワクしてくる。
暇そうにしていたコテツが上目遣いで甘えたように「なーん」と鳴いた。
「ん、そうだな。風呂に入るか。旅の最中はゆっくり入れなかったからな」
主人に似たのか、コテツも綺麗好き。
毎日きちんと浄化魔法で汚れを落としていたが、のんびりと風呂に入るのはまた別の楽しみなのだ。
今夜はのんびり樽風呂を楽しんで、早めに就寝することにした。
◆◇◆
狭い家は意外と快適だった。
広いベッドでゆったり眠れたので、朝から爽快な気分で起きることができた。
だらしなくヘソ天姿で熟睡するコテツの柔らかなお腹に顔を埋め、やる気を充填する。
んみゃおう、と肉球パンチを喰らってしまったが、ご褒美だ。
存分に猫吸いを堪能すると、ミニキッチンに立つ。
「今日はサラダたっぷりのサンドイッチにしよう」
大森林の拠点で作っていた野菜は【アイテムボックス】にたっぷり収納してある。
レタスとトマト、キュウリを使い、野菜メインのサンドイッチを作っていく。
野菜だけだとコテツが拗ねてしまうので、ゆで卵とハム、照り焼きチキンも挟んだ。
照り焼きチキンはダンジョンで入手したロックバードの肉を使っている。
マヨラーの猫のためにマヨネーズソースもたっぷりのサンドイッチは我ながら美味しく出来上がったように思う。
余った分はランチに回すことにした。
「さて、定期報告をするか」
従弟たちに念押しされているので、一日置きに連絡を入れるようにしている。
面倒なので、近況報告は大抵が写真を撮ってメッセージアプリで送るだけだった。
今回は旅用のタイニーハウスを手に入れたので、ちょっと自慢したい。
玄関前にコテツと立って自撮りを一枚。
小さいけれど自慢の小屋もしっかり収まっていることを確認して、グループメッセに送っておいた。
「タイニーハウス買いました、っと」
写真はなるべく現地の、とくに女性と写したものは送らないようにとアキとハルに念押しされたので、送るとしたらコテツとのツーショットくらいだ。
なんでもナツが怒り狂うらしい。
「女性とイチャついているように見えたのかな。そりゃナツも怒るか。真面目に勇者修行してるもんな……」
従弟たちへの連絡の後は、黄金竜のレイへの報告だ。
通信用の魔道具、手鏡を取り出して、対になる手鏡へと呼び掛ける。
しばらく待つと、手鏡が光ってレイが映し出された。わざわざ人型に変化してくれたらしい。
「トーマか。どうした?」
「ん、久しぶりだな、レイ。何もないけど、一応定期報告な」
「そうか。無事で何よりだ。……随分と楽しそうだな?」
「分かる? じゃーん! 旅用のタイニーハウスを手に入れたんだ!」
「ほう。小さいな」
「そりゃ、タイニーハウスだもん。テントよりかは快適だぞ?」
「そうか。また今度会った時に見せてくれ」
「おう。……そういや、レイは今は何処にいるんだ?」
「帝国の領土内にいる。上級、特級ダンジョンが幾つかあるから、その確認に行くつもりだ」
生真面目で勤勉な神獣らしく、きちんと働いているようだ。
こっちはまだ大森林内を移動中だと伝えて、近況報告は終わり。
美味い飯と本に飢えている、と切なく訴えられてしまったが、旅に出る前に結構な量の食料と本は渡しておいたはずだ。
自信満々に胸を張られて「全部食ったし、読破した」と宣言されてしまう。
我慢ができない子供か!
「もっとじっくり味わえ」
「仕方がないから、今は本を再読している」
「飯は調味料を譲ってやったから、肉を焼いて食えばいいだろ」
「自分で作るより、トーマに作ってもらった方が美味い……」
「あーもう! 帰ってきたら、腹いっぱい食わせてやるから!」
「約束だぞ、トーマ。楽しみだ」
にっこりと微笑まれてしまった。
うまく誘導された気がしないでもないが、手料理を気に入ってもらえているのは、素直に嬉しい。
「じゃあ、またな」
「ああ。何かあれば、すぐに連絡しろ」
「なに? 飛んで助けに来てくれるのか?」
くすりと笑って茶化すと、大真面目な表情で頷かれてしまう。
「どんなに遠く離れていても、すぐに駆け付けてやろう」
「お、おう」
危ない危ない。ちょっとキュンとしそうになってしまった。
イケメンはこれだから!
本竜的には何てことない発言だろうが、こんなキラキラの顔面でそこらの女性に同じように語りかけていたら、修羅場待ったなしだ。
手鏡の魔道具通信を終えて、次の集落へ行く準備をする。
人気商品の髭剃り、ハサミ、裁縫道具を中心にショップで購入した。
今回は調味料やジャムを用意するのはやめて、ガラス製の小瓶を多めに持って行くことにした。野菜の種も忘れずに。
「森の終わりも近付いてきたから、そろそろ獣人以外の集落があるかな」
近くの集落の場所を聞いて、移動しながら寄り道しているため、まっすぐ森を抜けるよりも時間が掛かっていた。
どうせなら、色んな種族と交流してみたかったので、行商ついでの遠回りを楽しんでいる。
「他のエルフも気になるけど、ドワーフも会ってみたいよな。ついでにコテツの仲間の妖精も探してみるか」
「ニャッ!」
次の目的地は集落よりも大きな村だと聞いている。
新しい出会いが楽しみだった。
317
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる