召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
128 / 203

127. アンハイムダンジョン 2

しおりを挟む
 
 四階層の平原フロアに棲息する大蜥蜴おおとかげは岩に擬態しているため、視認しにくい。
 が、俺とコテツには【気配察知】スキルがあるので、遠方からの魔法攻撃であっさりと倒せた。
 ダンジョンなので、火力の強い魔法をぶつけて四散させてもドロップアイテムが手に入るので、むしろ楽な方だと思う。
 ダンジョン外の魔獣や魔物は過剰に攻撃すると素材や肉が台無しになるので。
 ちなみにドロップアイテムは魔石と皮、たまに肉を落としてくれた。

「トーマさん、お肉! お肉ですよっ!」
「あーそうだな。肉が出ちゃったなぁ」
「残念ながら尻尾じゃなくて、手足のお肉みたいですけど」
「うわぁ……」

 笑顔のシェラが差し出してくれたのは、ほぼワニの前脚。
 鋭い爪や皮もそのままで、ぶつ切りにされた状態なため、ピンク色の肉が生々しい。
 シェラはお肉だと喜んでいるが、俺からしたら、あまり食べたくない──というか調理さえしたくないドロップアイテムだった。

「そういや、都内のジビエ料理店でワニ肉もメニューに載っていたなぁ……」

 鹿、イノシシにエゾシカ、熊の肉などはまだしも、ワニやカンガルーには驚かされた。
 山羊刺しにカンガルーのケバブ、ダチョウのヒレステーキもインパクトがあったが、原型を留めていないため、意外と美味しく食べられそうだなと思った記憶がある。
 だが、ワニのハンドステーキ。あれは注文する勇気を持てなかった。
 大蜥蜴の前脚──手羽、だっけ? ドロップした肉をそっと鑑定してみる。

「低脂肪、高タンパク、低カロリーのヘルシーな肉。上質なコラーゲンを含む」

 うん、とってもヘルシーな良いお肉だ。
 これが普通のブロック肉なら躊躇なく調理して食べていたかもしれないが、あいにく大蜥蜴の手羽である。
 クロコダイルそっくりの皮付き、三本指に鋭い爪付きのワイルドなお肉なのだ。

「よく分からないですけど、綺麗で美味しそうなお肉です! 毒はないんですよね?」
「毒はないなぁ……残念ながら…」
「? 毒がないなら食べられます! お昼に食べちゃいましょう、せっかくですし!」
「ニャッ」
「嘘だろ……コテツ、お前もか……」

 乗り気なのは、シェラだけではなかったようで。可愛い愛猫におねだりされて、俺は早々に白旗を掲げた。

「分かった。昼飯にワニ、じゃない……大蜥蜴の料理を作ってやる」
「やったー! 楽しみですね、てっちゃん!」
「にゃーん」

 それから先は無心で大蜥蜴を倒していった。ワニ皮ならぬ大蜥蜴の皮は人気な素材のため、買取り額は悪くないらしい。
 買取りポイントも高いと嬉しいのだが。

「お肉はあんまりドロップしないんですね」
「そうだな。十匹倒して、一つ肉を落とすくらいの割合みたいだ」

 残念そうなシェラとは裏腹に、その割合に胸を撫で下ろす俺。
 とはいえ、四階層はそれなりの広さがあるエリアらしく、大蜥蜴の手羽はきっちり三つドロップした。


◆◇◆


 五階層は砂丘広がるフィールドで、サンドアルマジロが出没した。
 名前の通り、大型のアルマジロの魔獣で防御体勢を取られると倒しにくいと評判だ。
 くるんと丸まった姿は愛嬌があって可愛らしいが、その球体のままでこちらに転がって攻撃してくるのは厄介だった。
 とはいえ、固い背中ではなく柔らかな腹部分を狙えば狩りやすいので、これも遠方から攻撃した。
 シェラの弓の腕前はますます上達し、風魔法の補助のおかげで威力も精度も素晴らしく、ほぼ百発百中だ。
 俺とコテツも風の魔法でさくさくアルマジロを倒していった。
 幸い、サンドアルマジロは肉をドロップしなかったので安堵したのは内緒である。
 土属性の魔石と皮をドロップした。


 六階層は森林フィールドで、ワイルドウルフの縄張りだった。
 オオカミたちは群れで襲ってくるが、これも二人と一匹で蹴散らした。
 ドロップするのは魔石と毛皮、牙。
 魔石や毛皮はともかく、牙はあまり使い道がないらしく、買取り額は期待できそうになかった。

「毛皮は人気らしいな」
「冬に大活躍ですからね。寝床に敷き詰めると暖かいんです」

 冒険者ギルドが運営する宿泊所でも良く使われているようだ。
 冷え込む冬には絨毯代わりにも使うらしく、それなりに重宝されていた。

「なら、たくさん狩っておこう」
「はい! 稼ぎ時です!」

 向こうから集団で襲ってくるため、探しに行く手間を掛けないで済むのが良い。
 七階層へ続く転移扉に到着するまでに、ワイルドウルフもかなりの数を狩ることが出来た。

「ここで休憩ですか?」
「ああ、ちょうど良い時間だし、ここで飯にしよう」

 転移扉の周辺はセーフティエリアになっている。十メートル四方は魔獣が近寄れないため、安心して休むことが出来た。
 ダンジョンに通い慣れた冒険者たちはもっと下層に挑んでいるため、俺たちの他には四人組のパーティが一組いるだけだった。
 こちらを見つめてくる連中に、一応軽く会釈をしておき、少し離れた場所で昼食にすることにした。

「大蜥蜴のお肉楽しみです」
「忘れてなかったかー……」

 残念だが、やはりここで調理をせねばならないらしい。
 例の冒険者グループの視線が気になるが、どうせこの先も自炊はするつもりなので、自重するのはやめておこう。
 まずは調理用のテーブルと魔道コンロを【アイテムボックス】から取り出した。
 ざわっ、と息を呑む気配を複数感じたが、無視してフライパンや皿、調味料を用意する。
 本当は炊き立ての米が食べたかったが、時間が掛かるので諦めた。
 コンビニショップで買っておいた食パンを添えて食おう。

「シンプルにステーキにするか? いや、やはりここは揚げ物だな。揚げると、大抵の肉は食えるようになる」

 深めのフライパンがあるので、揚げ焼きにすることにした。
 大蜥蜴の手羽は念のために浄化魔法クリーンで綺麗にしておき、すりおろしたニンニクと生姜醤油で漬け込んで揉んでおく。
 汁気を切って、片栗粉をまぶしてカラリと揚げるだけなので簡単だ。
 いちばん大きなフライパンに押し込んで、じっくりと油で揚げ焼きにしていく。両面をきつね色になるまで火を通せば完成だ。

 付け合わせはキャベツの千切りに茹で野菜とトマトの串切り。シンプルが一番。
 我ながら、良い色に揚げることが出来たと自画自賛しながら、調理器具を片付けたテーブルで昼食を取ることにした。
 大蜥蜴の手羽はかなりデカい。折り畳んで、どうにかフライパンに押し込めたが、人の頭二つ分くらいの大きさだ。
 お上品にナイフとフォークで切り分けて食べるよりも、手づかみの方が良い。

「いい匂いです」
「好みでレモンを絞るといいぞ」
「私はそのままでいきます!」
「うん……どうぞ召し上がれ」
「いただきます!」

 清楚で可憐な外見のシェラだが、中身はサバイバル慣れした異世界冒険者。
 ワイルドに大蜥蜴の手羽をつかむと、がぶりと豪快に齧り付いた。
 ザクザク、と小気味良い音を響かせながら、大蜥蜴の竜田揚げを幸せそうな表情で堪能している。

「んー! 美味しいですっ! お肉は脂身が少ないですけど、柔らかくって食べやすいです」
「そうか。美味いなら良かった」
「ウミャイ」

 コテツもさっそく肉に齧り付いている。
 自分よりもデカい肉に果敢に挑戦する姿はさすが猫サマ。ワイルドかわいい。

「良し、食うか」

 衣のおかげで、ワニ皮は目立たない。
 念のために爪と指先は切り落としておいたので、見た目的にはそれほど気にならなくなっている。
 異世界に転生して、オーク肉だって美味しく食べているのだ。
 大蜥蜴なんて、鶏肉みたいなものだと言い聞かせながら口を開いた。
 勢い込んで、がぶりと竜田揚げに食いつく。じゅわりと衣の油と肉汁が口の中いっぱいに広がった。
 
「ササミっぽいイメージだったけど、どちらかといえば鶏の胸肉だな」

 しかも、かなり柔らかい。
 ニンニク醤油がしっかり染み込んでいるから、味も美味しい。
 サクサクと夢中で食べ進めていくと、鑑定にあったコラーゲン部分に到達したようだ。

「なんだ、これ。めちゃくちゃ美味いな?」

 料亭で食べたスッポンの肉に近い食感だ。ぷるぷるしたゼラチン質っぽい部分は噛み締めると旨味がじゅわっと溢れ出す。
 気が付いたら、いつの間にか皿には骨だけが残されていた。

「異世界の大蜥蜴、めちゃくちゃ美味かった……」

 新しい扉を開いた瞬間だった。

 

◆◆◆

更新が遅くなりました。すみません…!
風邪薬眠いです…( ˘ω˘)スヤァ

◆◆◆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。

☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。 前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。 ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。 「この家は、もうすぐ潰れます」 家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。 手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい

あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。 誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。 それが私の最後の記憶。 ※わかっている、これはご都合主義! ※設定はゆるんゆるん ※実在しない ※全五話

兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?

志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。 そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄? え、なにをやってんの兄よ!? …‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。 今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。 ※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。

猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める

遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】 猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。 そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。 まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。

スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~

白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」 マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。 そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。 だが、この世には例外というものがある。 ストロング家の次女であるアールマティだ。 実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。 そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】 戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。 「仰せのままに」 父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。 「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」 脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。 アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃 ストロング領は大飢饉となっていた。 農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。 主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。 短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。

処理中です...