172 / 203
171. 後片付けは大事です
しおりを挟む「っし! 取りこぼしはなさそうだ」
念入りに【気配察知】スキルで確認したが、他にハイオークの気配は感じない。
『お肉、たくさんゲットできましたね!』
ご機嫌な様子で元集落の上を飛び回る白銀色のカラス。
シェラにとっては、地面に横たわるハイオークは既にお肉扱いのようだ。
「後始末をしていくから、シェラは周囲の見張りを頼む」
『任せてください!』
張り切って、空を旋回するシェラを見送り、足元を眺めてため息を吐く。
大森林を進む中で、ハイオークの集落を見つけて、さくっと殲滅した。
五十頭ほどの群れだったので、さして苦労することなく倒すことができたが、魔物の集落は後始末が面倒なのだ。
とりあえず、周辺にバラけて倒れているハイオークの死骸の回収をしなければ。
「ニャッ」
「手伝ってくれるのか? 助かる」
愛猫のコテツは収納スキル持ちなため、ありがたく手伝いの申し出を受けた。
黙々とシェラ曰くの『お肉』を回収すると、次は集落を潰さなければならない。
跡地に他の魔物が巣食わないように、丁寧に破壊していく。
火を放てば簡単だが、ここは大森林。森林火災は恐ろしい。
なので、ダンジョンでドロップした戦鎚で徹底的に叩き潰していく。
念入りに土魔法で均した土地にはせっかくなので、野菜のタネや果樹の苗を植えてみた。
他にも、ショップ内のホームセンターで色んな種類の種芋を見つけたので、ジャガイモやサツマイモなど適当に土に突っ込んでいく。
異世界のイモも悪くはないが、地球産のイモの方が食べやすいので、ここから増えていくと嬉しい。
「よし、後片付けも終わり! 先に進むぞ」
『トーマさん、トーマさんっ。ここから真っ直ぐ行った先に良さげな広場がありました!』
周辺を見回ってくれていたシェラの報告を頼りに、北に進んだ。
距離にして1キロほど離れた場所に案内されたので、本日の拠点はここにすることに。
古い大木が朽ちて倒れており、たしかに良さげな広場ではあった。
邪魔な倒木は【アイテムボックス】に収納し、ポイントに換えておく。古木は意外と買取ポイントが高いので、地味にありがたい。
二階建てのコテージを設置して、本日は家で休むことにした。
◆◇◆
カラスの姿のまま二階の自室に飛び立ったシェラは三十分後にリビングへ降りてきた。
人の姿に戻るついでにシャワーを浴びてきたようだ。
コンビニショップで販売していたレディースのルームウェア──もこもこのTシャツとハーフパンツ姿。
無防備にも程がある格好だが、もう慣れた。
年末年始、お盆の時期に親戚が一堂に集まる際に披露される従妹たちのルームウェア姿も似たようなものだった。
おかげで、すっかり見慣れてしまったため、シェラの風呂上がりの姿もスルーすることができた。
当のシェラも特に気にした様子もなく、得意の風魔法で濡れた髪を器用に乾かしている。
何となくだが、身軽なことを良しとする『鳥の人』は薄着姿が普通なのかもしれない、などと考えた。
他所で肌も露わな服装になるなら全力で止めるつもりだが、我が家でなら放置することにしている。
「ほら、アイス。食うだろ?」
湯上がりで暑そうだったので、コンビニで購入したアイスをシェラに手渡してやった。
「ありがとうございます! ソーダ味のコレ、大好きなんですっ」
さっそく袋を開けて、ソーダ味の氷菓に齧り付いている。シャクシャク。幸せそうに食べている。
シェラがアイスに夢中になっている間に、夕食の準備に取り掛かることにした。
「ハイオーク肉が大量に手に入ったから、今夜は焼き肉にするか」
「焼き肉……!」
シェラの笑みが深くなる。
やきにく、やきにっく、と何やら自作の鼻歌まで聞こえてきた。
心の中でそっと『肉食女子の歌』と名付けておく。
大森林内は魔素が濃いが、ダンジョンではないため、倒した魔物の素材はまるっと一匹分そのまま手に入る。
なので、大量のハイオークの死骸は【素材解体】で枝肉に解体した。可食部と魔石だけ残して、それ以外はポイントに換えておく。
塊肉は食べやすいよう、焼き肉用にカットした。箸で摘めるサイズがベスト。
部屋の中だと脂や匂いが気になるので、外で食べることにした。
バーベキューコンロの網を外して、焼き肉用の鉄板に交換する。
用意した肉は、ロース、バラ、肩肉にモモ、ヒレにタン。忘れずにレバー、ハツ、ハラミにホルモンも皿に並べておく。
「っと。野菜も食わないとな」
「お野菜はあんまり要らないと思います」
「好き嫌いはダメって言ったろ? ほら、ニンニクは好きだろ、シェラ。玉ねぎにキャベツ、カボチャ、アスパラに椎茸も焼こう。あとはピーマン、トウモロコシ!」
「ううぅ…多いですぅ……」
火が通りやすいように、薄くスライスしてあるので食べやすいはずだ。
コテージの結界が届く範囲内でテーブルやイスをセッティングして、炭火で肉と野菜を焼き始めたところで、チビドラゴンが帰還した。
バサバサと羽音を立てながら、器用にイスの背もたれを止まり木代わりに着地する。
『帰ったぞ』
「はいはい、おかえり。お前、ほんっとタイミングぴったりだよな。どっかで見張っているのか?」
『まさか。家路に誘う馨しい香りには釣られているかもしれんが』
食べ物の匂いに釣られて戻って来たらしい。
いいのか、それで。黄金竜。
「旨そうだな」
チビドラゴンから、瞬時に人の姿に戻ったレイが笑顔で箸と小皿を手にする。
シェラが羨ましそうにレイを見上げていた。
彼女の【獣化】スキルによる変化だと、服はその都度、脱ぎ着が必要なので、瞬時に姿を変えることのできる彼が心底羨ましいのだろう。
(でも、レイの服は魔法でそれらしく見せているだけだしな。さすがにシェラにその真似はできないだろ)
普通に嫌だと思う。人には見えなくても、素っ裸なのだ。無防備すぎて不安になるし、そういう特殊な性癖でもなければ、耐えられるとは思えない。
(ドラゴンはまぁ、普段から服なんて着ていないもんなー)
魔法で思い描いた服に着替えられるのはめちゃくちゃ便利そうだが。
ともあれ、今夜は焼き肉だ。
白飯の他にも焼きそばもちゃんと用意してあるので、締めの麺も楽しめる。
バーベキューも嫌いではないが、鉄板で焼く肉はまたそれとは違った魅力があるのだ。
「さぁ、食うぞ!」
「いただきまーす!」
「ニャーン」
「うむ、いただきます」
さっそく、それぞれで好みの肉を育てていく。コテツの分は俺が焼いた。
牛肉ならぬハイオーク肉オンリーの焼き肉だったが、どれも美味しく平らげることができた。
普通のオーク肉よりも身が引き締まっており、脂身が少ない。そのくせ、赤身肉は柔らかく、肉の味が濃かった。
「美味いな」
「うむ。この焼き肉のタレで食うと、特に旨いぞ」
わしわしと白米を肉と共に掻き込むようにして食べるレイ。焼き肉の食い方を理解しているな。
コテツは流石で、肉をサンチュで挟んで味わいながら食べている。うちの子、天才では?
ちなみにシェラは肉を肉で挟んで食べていた。この子、腕白すぎでは?
色々な部位の肉を食べ比べ、舌鼓を打ちながら、レイにねだられたビールを飲む。
肉や野菜、焼きそばも食べ尽くしたところで、ようやくお開きとなった。
963
あなたにおすすめの小説
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは
オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~
鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。
そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。
そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。
「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」
オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く!
ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。
いざ……はじまり、はじまり……。
※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。
私の生前がだいぶ不幸でカミサマにそれを話したら、何故かそれが役に立ったらしい
あとさん♪
ファンタジー
その瞬間を、何故かよく覚えている。
誰かに押されて、誰?と思って振り向いた。私の背を押したのはクラスメイトだった。私の背を押したままの、手を突き出した恰好で嘲笑っていた。
それが私の最後の記憶。
※わかっている、これはご都合主義!
※設定はゆるんゆるん
※実在しない
※全五話
兄がやらかしてくれました 何をやってくれてんの!?
志位斗 茂家波
ファンタジー
モッチ王国の第2王子であった僕は、将来の国王は兄になると思って、王弟となるための勉学に励んでいた。
そんなある日、兄の卒業式があり、祝うために家族の枠で出席したのだが‥‥‥婚約破棄?
え、なにをやってんの兄よ!?
…‥‥月に1度ぐらいでやりたくなる婚約破棄物。
今回は悪役令嬢でも、ヒロインでもない視点です。
※ご指摘により、少々追加ですが、名前の呼び方などの決まりはゆるめです。そのあたりは稚拙な部分もあるので、どうかご理解いただけるようにお願いしマス。
猫好きのぼっちおじさん、招かれた異世界で気ままに【亜空間倉庫】で移動販売を始める
遥風 かずら
ファンタジー
【HOTランキング1位作品(9月2週目)】
猫好きを公言する独身おじさん麦山湯治(49)は商売で使っているキッチンカーを車検に出し、常連カードの更新も兼ねていつもの猫カフェに来ていた。猫カフェの一番人気かつ美人トラ猫のコムギに特に好かれており、湯治が声をかけなくても、自発的に膝に乗ってきては抱っこを要求されるほどの猫好き上級者でもあった。
そんないつものもふもふタイム中、スタッフに信頼されている湯治は他の客がいないこともあって、数分ほど猫たちの見守りを頼まれる。二つ返事で猫たちに温かい眼差しを向ける湯治。そんな時、コムギに手招きをされた湯治は細長い廊下をついて歩く。おかしいと感じながら延々と続く長い廊下を進んだ湯治だったが、コムギが突然湯治の顔をめがけて引き返してくる。怒ることのない湯治がコムギを顔から離して目を開けると、そこは猫カフェではなくのどかな厩舎の中。
まるで招かれるように異世界に降り立った湯治は、好きな猫と一緒に生きることを目指して外に向かうのだった。
スキルが農業と豊穣だったので追放されました~辺境伯令嬢はおひとり様を満喫しています~
白雪の雫
ファンタジー
「アールマティ、当主の名において穀潰しのお前を追放する!」
マッスル王国のストロング辺境伯家は【軍神】【武神】【戦神】【剣聖】【剣豪】といった戦闘に関するスキルを神より授かるからなのか、代々優れた軍人・武人を輩出してきた家柄だ。
そんな家に産まれたからなのか、ストロング家の者は【力こそ正義】と言わんばかりに見事なまでに脳筋思考の持ち主だった。
だが、この世には例外というものがある。
ストロング家の次女であるアールマティだ。
実はアールマティ、日本人として生きていた前世の記憶を持っているのだが、その事を話せば病院に送られてしまうという恐怖があるからなのか誰にも打ち明けていない。
そんなアールマティが授かったスキルは【農業】と【豊穣】
戦いに役に立たないスキルという事で、アールマティは父からストロング家追放を宣告されたのだ。
「仰せのままに」
父の言葉に頭を下げた後、屋敷を出て行こうとしているアールマティを母と兄弟姉妹、そして家令と使用人達までもが嘲笑いながら罵っている。
「食糧と食料って人間の生命活動に置いて一番大事なことなのに・・・」
脳筋に何を言っても無駄だと子供の頃から悟っていたアールマティは他国へと亡命する。
アールマティが森の奥でおひとり様を満喫している頃
ストロング領は大飢饉となっていた。
農業系のゲームをやっていた時に思い付いた話です。
主人公のスキルはゲームがベースになっているので、作物が実るのに時間を要しないし、追放された後は現代的な暮らしをしているという実にご都合主義です。
短い話という理由で色々深く考えた話ではないからツッコミどころ満載です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる