召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

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191. 辺境の街、モーカム

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 グランド王国の西南寄り辺境の街、モーカム。防衛のために石造りの壁とランド川で周囲を固めた商業都市だ。
 辺境の地とはいえ、数千人単位の市民が住まう賑やかな街である。
 比較的温暖な気候と豊かなランド川の恩恵で栄えているようだった。

「ランド川は王都にも海にも繋がっているから、水運が発達しているらしい」

 街道の休憩所でさりげなく冒険者たちから聞き出した内容をシェラに教えてやる。

「水運って何ですか?」

 シェラにはぴんと来ていないようだ。
 まぁ、大森林で生まれた少女にとっては、あまり縁のない言葉だろう。

「水面を利用した運送業のことだよ。船で人や荷物を運ぶんだ。だから、こんな国の端の街でも物資が豊かなんだろうな」

 おかげで稼げそうだと、ニヤリと笑う。
 経済が発達した街は自然と人が集まってくる。石壁の外側には果樹園と畑が広がっていた。それを狙った草食の獣が集まり、肉食獣もまた寄ってくる。
 
「魔獣はもちろん、オオカミやらイノシシを倒すために冒険者に依頼が出る。商業都市だから、行商人の護衛依頼も多いだろうな」
「お仕事がたくさんあるから、冒険者も多く集まってくるんですね」
「そ。つまり、大勢の冒険者に紛れたら、俺たちも目立たないで済む」
「それは大事ですね」

 嫌な記憶を思い出したのか、シェラが顔を顰めながら頷いた。

「稼いだばかりの俺たちを狙ってくるような不届者もいるのも納得だよな」
「……私たちの後をついてくる人たちのことですか?」
「シェラも気付いていたか」

 数時間前、街道の休憩所で行商をした際に、遠くからこっちを睨み付けてきた連中だ。
 冒険者ではないと思う。
 武器や防具などの装備もなく、着の身着のままで旅をしているような、見窄らしい連中だった。
 人数は五人。金貨銀貨をあっという間に稼いだ十代の若者がよほど気に入らなかったのか。

「いまは人目があるから何も仕掛けてこないけど、周囲に誰もいなくなったら襲いかかってくると思うぞ」
「盗賊でしょうか?」
「開拓民崩れとかじゃないか。盗賊なら、さすがにもっとマシな装備だろ」

 手にした棒切れで襲い掛かってくるつもりなのだろうか。
 食い詰めているなら、それこそ冒険者にでもなって稼げばいいのに。

「面倒ですね。街に入る前に片付けますか?」
「シェラがどんどん好戦的になる……」
「真面目に働かない人は嫌いなんです」
「同感。だが、まぁ放置しておいて大丈夫だろ。アイツら、街への通行税が払えないだろうし」

 街の入り口はすぐ目の前なのだ。
 砦を守る武装した兵もいる。
 俺たちが足早に街へ入るための列に並ぶと、後を追ってきた連中は舌打ちをしながら離れていった。


◆◇◆


 街へ入るための通行税は一人銀貨三枚だった。夢の国の入園料より高い。
 身分証代わりの冒険者タグを見せると、街に入ることを許された。
 いまだ行商人見習い風の服装でいたが、特に何かを言われることもなく。

「税さえ徴収できたら、問題ないって感じだったな」
「そうですね。荷物をあらためられることもありませんでした」

 街によっては、持ち込み品を詳しく調べるところもあるようだが、この街は人が多く集まる商業都市だけあってか、そこは規制が緩いようだ。

「冒険者じゃなく、商人として稼げそうな街ですね」

 シェラもそう思ったようだ。
 何せ、街の大通り脇には商業広場があり、活気に満ちていた。
 祝日などに日本の公園でもよく見かけたフリーマーケットにそっくりだ。
 通りがかった商人らしき男性に聞いてみると、商業ギルドで場所代を支払えば、半日ほどこの場所で行商が可能らしい。

「トーマさん、稼ぐチャンスですよ!」
「必要な分はさっき稼いだぞ?」

 通行税とその日の宿代があれば、どうにかなるのだ。
 食事は【アイテムボックス】内の食料を使って自炊してもいいし、【召喚魔法ネット通販】で購入してもいい。
 てっきり食いしん坊なシェラなら、そっちを選ぶのかと思いきや。

「グランド王国の名物料理を食べてみたいんです!」
「なるほど、そっちか」

 そういえば、王国内での食べ歩きを楽しみにしていた。
 ハチミツや飴、リボンや折り畳みのヒゲ剃りナイフなどが売れたので、食べ歩きくらいは余裕でできそうだったが。

(これは多分、物を売るのが楽しくなったんだろうなぁ……)

 空色の瞳を期待に輝かせる少女の姿に苦笑する。

「まぁ、楽しいもんな。お店屋さんごっこ」
「たくさん売れると楽しいです!」
「はいはい。分かった。とりあえず今夜の宿を決めて、冒険者ギルドに寄ってからな」
「はいっ!」

 まずは本日泊まる宿を探さなければ。
 タイニーハウスの方がよほど居心地は良さそうだが、銀貨を何枚か支払えば、それなりに清潔そうな宿を押さえることができるだろう。
 
「となると、高級宿だな。シェラ、コテツ。大通りで探すぞ」
「ニャッ」
「あっちですね。大きな建物がたくさんあります」

 立派な建物を探せば、すぐに宿は見つけることができた。宿というか、ホテルに近い豪華さだ。
 とある没落貴族から買い取ったタウンハウスらしい。どうりで内装がやたらと煌びやかだと思った。

 シンプルだが仕立ての良い服装の二人は特にホテルから摘み出されることもなく、無事に部屋を取ることができた。

「一泊銀貨三枚の部屋だけあるな」
「ベッドに屋根があります。お姫さまベッドですね」

 【召喚魔法ネット通販】の大型家具店ショップで購入したシェラのベッドも天蓋付きだ。
 が、ここまで豪奢な作りではなく、見た目もふわっとしたファンシーなデザインだ。
 
(天蓋カーテンじゃなくて、モスキーネットだし)

 だが、ここにある家具類はさすがにすごい。貴族の持ち物だったのも納得の豪奢さだ。これは寝心地も期待ができるのでは。
 わくわくしながら寝台に腰を下ろして──途端にスンッと表情を無くした。

(全然やわらかくない……)

 ベッドカバーやクッションカバーは美しい刺繍が施されてはいたが、生地はごわごわしている。

(しかも、マットがない。そりゃ固いよな)

 期待した自分が悪い。
 同じように期待したらしきシェラとコテツがベッドにダイブして、絶望に満ちた顔をしている。

「ベッドは収納して、いつも使っている自分のを使うか」
「それがいいですね……」
「うみゅ……」

 この部屋では、ふかふかの絨毯と窓からの景色を楽しむことにした。
 

◆◇◆


 宿が決まったので、次は冒険者ギルドだ。
 場所はホテルの従業員に聞いてある。
 魔道具で色を変えた髪はそのままにして、いつもの冒険者スタイルの服装に着替えた。
 エルフの里で仕立ててもらった服は着心地はいいが、冒険者ギルドでは軽く見られる。

「じゃあ、行くか。あんまり大量に買取りに回したら怪しまれそうだから、少しずつ売ろう」
「アンハイムダンジョンのドロップアイテム、ものすごい量ですもんね」
「ポイントに換えるよりは、今は王国通貨が欲しいから、値崩れしない程度に売り抜けよう」

 方針を決めた二人と一匹は颯爽と冒険者ギルドに向かった。

 見慣れない小柄な冒険者が次々と魔物素材をカウンターに積み上げて、ギルド内が騒然とすることを、この時の俺たちはまだ知らないでいた。



◆◆◆

いつも拍手をありがとうございます。
書籍化作業で多忙になるため、しばらく更新頻度が落ちます。

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