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190. 行商します
しおりを挟む「ほぅ。これはガラス製だね。中に入っているコレは……?」
「飴玉です。良かったら、味見をどうぞ」
「いいのかね?」
「どうぞ。あ、護衛の方も良かったら」
ふくよかな体格の商人の男性に飴玉を差し出す。両脇に立つ冒険者二人にも勧めてみた。まずは冒険者の一人が毒味を兼ねてか、飴玉を口に含む。
「ん! 甘くて美味いな」
「どれ。おお、確かに」
「うっま!」
シンプルなべっこう飴だったが、意外と好評だった。商人の男は目を輝かせながら、地面に並べた商品を隅々まで確認している。
意外にも飴玉に惹かれたのは、壮年の冒険者二人だった。
「これはいいな。甘いもんは疲れがとれる」
「腹持ちもするぞ。買うか?」
「値段によるな。兄ちゃん、これはいくらになる?」
頬に傷のある大男の方に尋ねられて、俺は飴入りの瓶を手に取った。
「飴玉三十個入り、ガラスの瓶付きで銀貨一枚と銅貨五枚です」
「高っ……くはないな? 買えなくもない値段だ」
もう一人の男も熱心に頷いた。
「いや、むしろ安いだろ。飴は美味いし、食い終わったら、このガラスの瓶は売れるだろうし」
「買いだな」
「買おう」
さっそく飴が二点売れた。
「ありがとうございます!」
「こっちこそ良い買い物ができたよ」
「ありがとなー」
さっそく背嚢に大事そうに詰めている。
と、そんなやりとりの中でも熱心に商品を観察していた商人が真剣な表情で石鹸を指差した。
「君、これはもしかして……」
「石鹸です」
「おお……! まさか、こんなに美しい形と素晴らしい香りがする石鹸があるとは」
感動する商人を目にしたシェラがぎらりと目を煌めかせた。
ずいっと俺を後ろに押し退けて、身を乗り出す。
「さすが、商人のおじさま。お目が高いです。これは香りや形だけが良いわけではないんですよ? 汚れも綺麗に落ちるんです」
「試してみても?」
「もちろん」
俺が何かを言う前に、シェラが素早く石鹸を商人に握らせた。
傍らに控えていた従業員らしき若者が心得たようにタライと水を運んでくる。
さっそく両手を洗う商人。泡が立つ様子に、おおっと歓声が上がった。
「これはすごい。汚れがするする落ちるぞ!」
「ふふふ。素晴らしい石鹸でしょう?」
「ああ、こんな見事な品は見たことがない。いくらだろう?」
ここでシェラはなぜか黙り込んで、にこりと笑う。
一個銅貨一枚と決めていたはずだ。
俺が口を開こうとしたところ、シェラの指で脇腹を抓られた。痛い。
「…………」
「ふふ、いくらだと思いますか?」
「ううむ。これだけの品、ご領主さまに献上するレベルだぞ。銀貨三枚か?」
「ぎっ……⁉︎」
千円でもぼったくりのところ、まさかの三万円の値付けにギョッとした。
それ以上叫ばないで済んだのは、脇腹の痛みがさらに強くなったからだ。めっちゃ痛いです。
シェラがにっこりと、それはもう良い笑顔を商人に向けた。
「なんと、銀貨二枚で売っております!」
厳かな口調でシェラがそう告げると、間髪入れずに商人が叫んだ。
「買った! ここにある石鹸、全て引き取ろう!」
「え……全部で二十個ありますけど」
「支払おう。おい、財布を持ってきてくれ」
「はい、旦那さま!」
シェラだけがにこにこしながら、「銀貨四十枚になります」などとちゃっかり伝えている。
「意外と商売上手なんだな、シェラ」
「にゃ」
コテツとこっそり感心し合う。
相手に金額を予想させ、それより安価に設定して全部引き取らせるなんて考えもしなかった。
ちょっとやり過ぎな気もしたが、相場を知っている商人の値付けなので、もう気にしないことにする。
「銀貨ではなく、金貨で支払わせてくれ」
「あ、はい。金貨四枚、たしかに受け取りました。ありがとうございます」
石鹸の他にも、彼はハチミツと爪研ぎ、髭剃り用のナイフも五点ずつ購入してくれた。
雇い主である商人の買い物が終わると、従業員や護衛の冒険者たちが集まってくる。
冒険者たちは先の二人から聞いていたようで、飴玉を味見したいからとねだられた。
「いいですよ、どうぞ」
「おお! ありがとな!」
「うめぇな」
「こんな甘いもの、初めて食った」
味見だけするつもりのようだったが、甘味の少ない世界に生きる男たちには日本産の飴玉は随分と刺激的だったようで。
「俺も買うぞ!」
「私はそっちのハチミツを買うわ」
「なぁ、パーティで買おうぜ。皆で出し合ったら買えるぞ」
「おお、そりゃあ良い考えだ」
飴玉だけでなく、ハチミツも売れ行きがいい。銀貨二枚のハチミツは皆で割り勘して買うことにしたようだ。
(二万円のハチミツか。なんか申し訳ないな)
ハチミツ入りのガラス瓶を宝物のようにそっと頬擦りしている様子にいたたまれなくなり、「これはオマケ」と売り物のリボンを渡してやった。
これも百円ショップで購入した物なので、特に懐は痛まない。
シェラがリボンを喜んでいたので、つい大量にカートに放り込んでしまったものなので、気兼ねなく渡せたのだが。
「いいのか⁉︎」
「こんなに素敵なもの、貰ってもいいの?」
「おおー! これ、あれだろ。絹! お貴族サマが使う良い布なんじゃねぇのか?」
意外なことに女性冒険者だけでなく、男性冒険者にも喜ばれてしまった。
「いや、これはシルクじゃないよ。もっと安いやつだから、気に入ったなら買ってください」
俺もシェラを見習って、営業用の笑顔を浮かべてみる。
リボンやシュシュの値段は銅貨一枚だ。そのくらいなら、冒険者でも支払える金額である。
女性冒険者は自分用に、男性冒険者は妻や恋人、娘たちへのお土産用に購入してくれた。
冒険者たちが買い物を済ませると、店の従業員たちがやって来て、残った装飾品の類をひとつ残らず買ってくれる。
(これは土産用じゃないな。転売するつもりだな)
買ってくれるなら文句はない。
リボンにシュシュ、レースやカチューシャは多めに仕入れた分もすべて買い取ってもらえた。財布にしている革袋がずしりと重い。
「髭剃りナイフも無事に捌けたな」
「爪研ぎも売れましたよー」
どちらも実用品なので、冒険者たちが購入してくれた。
「ハチミツ以外、完売だな」
「二個だけ残っちゃいましたね。でも、自分たちで食べちゃえば問題ないです!」
「だなー。今日はいっぱい売れたから、業務用アイスを買ってやろう」
「業務用アイス!」
シェラは「業務用」の言葉が大好きだ。
「バニラアイスに売れ残りのハチミツをトッピングして食おう」
「天才ですか、トーマさん」
「今日のうちに食パンを卵液に仕込んでおいて、明日の朝はフレンチトーストにしよう。ハチミツかけ放題で」
「神さまでしたね、トーマさん。一生ついて行きます!」
「一生はちょっと」
無事に目的を達したので、笑顔で休憩所を後にする。
街までは徒歩で三時間ほど。
通行税どころか、しばらくは高級宿で連泊できるほど稼げたので、二人と一匹の足取りは軽い。
「王国の名物料理が楽しみです!」
無邪気に笑うシェラと並んで街道を歩いていく。
この国のダンジョンは王都にある。
徒歩での旅だと、さすがに時間が掛かりすぎるので、どこかで馬車を手に入れるべきかもしれないが。
(レイと合流したら、馬が不要になりそうだしなー……)
どんなに馬車よりも、ドラゴンタクシーの方が早いので。
雲ひとつない青空を見上げて、ふっと口元を綻ばせた。
「まぁ、しばらくは王国観光を楽しみながら進むことにするか」
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