召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
197 / 203

196. 宿の朝食

しおりを挟む

 ホテルの朝食を期待して、一階の食堂に向かう。さすがに食堂に猫は連れていけないので、コテツは部屋で留守番だ。

 上級の宿に泊まったので、客は裕福そうな商人や中流以上の階級の人々が多い。
 上流階級のお貴族さまは部屋食だと思われるので、気楽に食堂のテーブルに着いた。
 メニューは選べないようで、従業員が二人分のトレイを運んできた。

「どうぞ」
「ありがとう」
「ありがとうございます!」

 シェラが元気よくお礼を言う。
 昨夜あれだけ食べたのに、もうお腹がぺこぺこだと嘆いていたので、笑顔でフォークを手にしていた。
 
 トレイには木皿のワンプレートにパンとスクランブルエッグにハムステーキ、蒸したジャガイモが添えられている。
 木製のカップには野菜スープ。
 小さな小皿はジャムが盛られていた。

「シンプルだな」
「嫌な予感がします」

 シェラは野菜スープを警戒した表情で見下ろしている。
 気持ちは分かるので、苦笑するしかない。

「大丈夫だ。コンソメの素をこっそり持ってきたから、これで味を整えよう」
「天才ですか。そうしましょう」
「待て待て。まずは一口味を確認してから……まっず」
「入れましょう」

 やはり、昨夜、外で食べた野菜スープと同じく、味がほとんどなかったので、こっそりコンソメを足しておいた。
 野菜の味はしないし、煮込みすぎてドロドロだが、どうにか飲める味にはなったと思う。

 ハードパンは予想通り。硬いし、口の中の水分を持っていかれる。これは野菜スープにつけて食べる。
 慣れると、まあ味は悪くない。小麦の味が濃くて、腹に溜まる主食ではある。
 ジャムはシェラが欲しそうにしていたので、二人分を彼女のトレイに置いてやった。
 
「ありがとうございますっ。えへへ。なんのジャムだろう」

 にこにこ笑顔で、ちぎったパンにジャムを塗って口にする。

「すっぱ!」
「え?」
「……酸味がきついです。というか、砂糖がほとんど使われていません……」

 涙目だ。スプーンの先を少し舐めさせてもらって、納得。キイチゴのジャムだ。申し分程度のハチミツで煮込まれている。
 日本製のジャムやハチミツ、メイプルシロップに慣れたシェラには酸味が強くてキツいのだろう。
 肩を落とす少女を見兼ねたのか、隣のテーブルの男性が教えてくれた。

「キイチゴのジャムは、食後のお茶に入れて飲むといいよ」
「ジャムをお茶に入れるんですか?」
「ああ。茶葉の苦味が薄れて、飲みやすくなるんだ。それに香りも良くなるからね」
「美味しそうな飲み方ですね。教えてくれて、ありがとうございます」

 王国の紅茶がどんな味なのか、楽しみだ。
 イギリスっぽい国なので、茶葉は期待ができそうだと思う。
 そっと周りを伺ってみたが、たしかに皆、ジャムはパンに使わず、お茶に入れて楽しんでいた。

「ん! ハムが美味しいですよ、トーマさん」
「だな。昨日と同じく、豚肉みたいだけど、加工技術がいいんだろうな」

 感心しながら、ハムステーキを食べる。塩加減が絶妙で、脂もほどよい。
 端っこが少し焦げているところもカリッとした食感が楽しめる。
 胡椒はこの国では高価なため、宿でも使われてはいないようだ。残念。その代わり、香り高いハーブが添えられている。
 スクランブルエッグも美味しい。バターとミルクの風味がする。

「卵料理も旨いな」
「はい。ふわふわの卵が素晴らしいです」

 ジャガイモは普通。蒸したジャガイモに塩味のみのシンプルな一品だ。不味くはない。
 食べ終わった頃合いで、食後のお茶が給された。色はかなり黒い。香りに何となく覚えがあった。

「中国茶と似ているかも?」

 一度、ナツに付き合わされて入った中国料理の店で出されたお茶とよく似ている。
 こっそり【鑑定】してみると、ブラックティー。半発酵茶とあった。
 日本のお茶は香りを控えめに、味を重視しているが、中国のお茶はその逆だと聞いた覚えがある。
 味は薄めで、だが、香りが強い。
 苦味や旨味は少ないが、比較的飲みやすいお茶だと思ったが、この王国のお茶もそんな感じだった。

「味が薄い。ジャムを入れたくなる気持ちは分かるな」

 隣のテーブルの男性はブラックティーにジャムを投入して美味しそうに飲んでいる。
 この茶を苦いと感じるとは。

(日本茶の味に慣れているもんなー……)

 自分の舌の好みで淹れていたお茶だが、もしかしてシェラやレイには苦く感じていたかもしれないと反省する。
 それはそれとして、キイチゴのジャムを入れて飲んだブラックティーは意外と美味しかった。

「飲みやすいです。これなら酸っぱさも気になりません!」

 ぱあっと顔を輝かせるシェラを、先ほど飲み方を教えてくれた男性が微笑ましく見守っている。
 二人とも昨日のまま焦茶色の髪と瞳でいるので、仲の良い兄妹だと思われているのだろう。魔道具がいい仕事をしてくれている。 


 お腹も満たされたので、部屋に戻った。
 テイクアウトは難しそうだったので、コテツの朝食は【召喚魔法ネット通販】のコンビニで購入したサンドイッチで我慢してもらう。

「いい料理人だと思うけど、やっぱり肉は魔獣肉の方が旨いよな。豚肉も悪くはないけど」
「お肉の加工技術が進んでいるんですよね? なら、この国のお肉屋さんで魔獣肉を加工してもらえばいいのでは?」
「それだ!」

 さすが肉食女子。その発想はなかった。
 燻製用の道具も揃えたけれど、やはりプロの仕事には勝てないので、滞在期間中に【アイテムボックス】内で持て余している肉を加工してもらうことにした。

「高級宿も悪くないけど、やっぱり自分の家がいいよなー……」

 食休めと言い訳をしながら転がるベッドも結局、【召喚魔法ネット通販】で購入した物だ。
 宿の料理も食べたことだし、しばらく街に滞在するなら、住み慣れた我が家がいい。

「アンハイムの街のように、また土地を借りましょう!」
「そうだな。多少、値段が高くても快適さには代えられない」

 そういうわけで、二人と一匹は商業ギルドに向かった。


◆◇◆


 さすがに、景気が良く賑わう商業都市。
 空き家や空き地はほとんど無く。どうにか探し回って見つけたのは、空き倉庫。
 港から少し離れた立地のため、あまり人気がなかったらしい。
 倉庫とはいえ、かなり大きい。
 小学校の体育館サイズはあったので、これはいい物件だと、契約した。
 レンタル期間は十日間。賃料は金貨十枚。さすがにお高い。

「金貨十枚……ッ!」

 ひゅっ、と息を呑むシェラ。
 金額に慄いているけれど、冒険者ギルドに売り払ったドロップアイテムのおかげで、そのくらいは余裕で払えるくらい稼いでいる。

「落ち着け、シェラ。これだけ広くて、しかも天井も高い倉庫なんだ。二階建てのコテージはさすがに無理だが、コンテナハウスは設置できるぞ?」
「コンテナハウス……!」
「それともタイニーハウスがいいか?」
「コンテナハウスがいいです!」
「おう。じゃあ、久しぶりのコンテナハウス暮らしだな」

 異世界不動産で最初に購入したコンテナハウスには愛着がある。
 コンパクトだが、機能的で快適に暮らせるので、コテツもレイも気に入っていた。
 シェラも自分用のコンテナハウスが貰えて、とても喜んでいたのだ。
 商業ギルドで契約を済ませて、さっそく借りた倉庫のある場所に向かった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

家族転生 ~父、勇者 母、大魔導師 兄、宰相 姉、公爵夫人 弟、S級暗殺者 妹、宮廷薬師 ……俺、門番~

北条新九郎
ファンタジー
 三好家は一家揃って全滅し、そして一家揃って異世界転生を果たしていた。  父は勇者として、母は大魔導師として異世界で名声を博し、現地人の期待に応えて魔王討伐に旅立つ。またその子供たちも兄は宰相、姉は公爵夫人、弟はS級暗殺者、妹は宮廷薬師として異世界を謳歌していた。  ただ、三好家第三子の神太郎だけは異世界において冴えない立場だった。  彼の職業は………………ただの門番である。  そして、そんな彼の目的はスローライフを送りつつ、異世界ハーレムを作ることだった。  お気に入り・感想、宜しくお願いします。

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

精霊さんと一緒にスローライフ ~異世界でも現代知識とチートな精霊さんがいれば安心です~

ファンタジー
かわいい精霊さんと送る、スローライフ。 異世界に送り込まれたおっさんは、精霊さんと手を取り、スローライフをおくる。 夢は優しい国づくり。 『くに、つくりますか?』 『あめのぬぼこ、ぐるぐる』 『みぎまわりか、ひだりまわりか。それがもんだいなの』 いや、それはもう過ぎてますから。

処理中です...