召喚勇者の餌として転生させられました

猫野美羽

文字の大きさ
196 / 203

195.〈幕間〉勇者たち 11

しおりを挟む

 従兄トーマが大森林内にあるエルフの集落で世話になっている旨は、定期報告で知っていた。
 同族以外には排他的なイメージのあるエルフだが、こころよく受け入れてもらったようだ。

「トーマ兄のことだから、餌付けしたんだぜ、きっと」
「だろうな。腹を空かせた子供がいたら、ほいほい飯を食わせてやっている姿が目に浮かぶ」

 兄と従兄が少しだけ呆れた表情でボヤいているが、同感だ。

「異世界でも、人たらしスキルを発揮しなくてもいいのに……!」

 とはいえ、そのおかげでこんなに素敵な服が手に入ったので、それ以上は追求がしにくい。
 夏希は複雑そうな表情で手にした衣服を見下ろした。

「ちゃんと帝国風なデザインの服だな」
「秋冬用の衣装なのもありがたい」

 シラン国で手に入れた服はどれも肌触りが微妙だった。
 日本製の衣服に慣れた身からしたら、生地も縫製も眉を顰めてしまうレベルで、着心地も悪い。
 
 冬馬とうまの【召喚魔法ネット通販】で購入してもらった下着やインナー、Tシャツにジャージが無ければ、とっくに根を上げていたかもしれない。
 
「ミリアの街で買った服よりも、生地がいいな」
「作りも丁寧だ」
「分かる。袖口や襟の刺繍を見て。とんでもなく繊細な手仕事だわ」
「さすがエルフ。職人技だな!」

 従兄が【アイテムボックス】経由で送ってくれた三人分の衣装。
 どうやら、生地や糸を提供したのは冬馬らしい。
 手芸ショップが【召喚魔法ネット通販】に追加されたのか、と期待したのだが。

「これ、どうやらシーツやカーテン生地を使ったらしいぞ?」
「それで手触りに既視感があったのか」

 メッセージを読んだ春人はるとがギョッとしている。秋生あきみは何となく察していたようだ。
 あらためてワンピースに触ってみた夏希なつきも納得した。これは、たしかにカーテン素材。
 光沢のあるベルベット生地のワンピース。付け襟の縁にはレースが縫い込んであり、クラシカルなデザインだ。
 貿易の盛んな、ここミリアの街でも上流階級のご令嬢が着ている服とよく似ている。

 もう一着のワンピースはそれよりも普段着に近い。
 これはおそらくリネン。柔らかな肌触りからして、シーツ生地で仕立てられたものだ。
 チュニック風のワンピースで袖口がふわりと広がっており、腰のあたりはコルセットで調節するようだ。
 細いリボンできゅっと絞ると、綺麗なシルエットになる。
 リネンシーツを草木染めで染め上げているため、柔らかな優しい色合いだ。
 深緑色の服が多いが、中には淡い赤紫色のスカートもある。
 
 春人はると秋生あきみの服はチュニックとパンツ。
 パンツは濃い深緑色か、黒ばかり。これは汚れが目立たないようにするためで、街の人々も濃い色のズボンを着ている。
 夏希なつきの令嬢服ワンピースと同じく、ベルベット生地のジャケットとパンツ、ベストのセットもあった。

「高級宿や店に出入りする際に使えそうだな」
「そうね。アキの言う通り。こっちの世界でも、いえ、こっちの世界の方が見栄えが重視されている気がするわ」
「金を持っていても、薄汚い格好でいたら、宿の入り口で追い払われるみたいだしなー」

 幸い、というか。
 日本人な三人は身嗜みに気を付けているため、あっさりとフロントまで通してもらえたが、頓着しない冒険者などは嫌われそうだ。

「このエルフ製の服を着て、しばらくは情報を集めよう」
「おう。合間にこっちの冒険者ギルドも覗いてみようぜ。依頼内容が気になる」
「魔族に関してと、ダンジョンの情報を集めないといけないものね」

 上級ダンジョンを踏破した三人は、レベルが上がりにくくなっている。
 魔族を倒せば停滞していたレベルも上がるし、邪竜の力を削ぐことができるのだ。
 
 さっそく三人は冬馬が送ってくれた衣服に着替えると、街で購入したコートを羽織って、まずはギルドを目指すことにした。


◆◇◆


 港町の冒険者ギルドは、魔獣退治や薬草採取などの依頼はほとんど無かった。
 いちばん多いのは護衛依頼。しかも、海上。
 浅瀬にはいないが、漁場にはサハギンが跋扈するらしく、船や漁師たちの護衛が冒険者の花形任務だった。依頼料もすこぶる良い。
 他にも船からの荷下ろし作業は良い稼ぎになるらしい。
 人の出入りも多いため、経済もほどよく回っているようで、活気がある。
 
「冒険者ギルドって言うより、職業斡旋所って感じ?」
「街中依頼は、元々そんなものじゃない? 討伐依頼は今のところ無し。海の近くは魔獣が少ないのかしら」

 夏希なつきは嘆息する。
 女性冒険者の募集はほとんどが接客業だ。飲食店の臨時店員が特に多い。

「……この街では冒険者活動は休むことにしよう」

 秋生あきみの提案に、二人とも賛成した。

「なら、ここでは調べ物をするのね?」
「情報収集には、やっぱ酒場だろ!」
「ハル……」

 じろりと秋生あきみに睨まれるが、春人はるとはからりと笑って受け流す。

「ギルドマスターのおっさんも言ってたぞ。口が硬い冒険者でも、酒で湿らせてやれば上機嫌で秘密を漏らしてくれるってな」
「うわ、最低……」
「そうは言うけど、酒の力でも借りなきゃ、そうそう都合よく情報は得られないと思うぞ? ナツは男の口を割らせることができるのか?」
「それは……」

 珍しくも強気の兄に詰問され、夏希なつきが怯んだ。男嫌いな彼女にそんなことができるはずがない。

「ハル、そういうのは俺たちの仕事だ。ナツを危険な目に遭わせるわけにはいかないだろ」
「分かってるさ、アキ。ナツにそんな真似をさせたことが分かったら、トーマ兄に半殺しにされちまう」
「だが、酒に酔わせて聞き出すのはアリだな」
「でもさー、そういう場所では俺らも飲まなきゃいけないんだろ?」
「飲んだふりをすればいい」
「えぇ? そんなこと、できるのか」
「トーマに協力してもらえば、できる」

 また悪いことを考えている──夏希は胡乱げな表情で秋生あきみを見やった。
 冒険者たちがたむろする酒場は確かに最前線の情報が集まる場所だろう。
 ただでさえ苦手な男性が、しかも大勢が酔っ払っている場所なんて、夏希が行けるはずもない。
 秋生がスマホを取り出して、冬馬に送ったメッセージの内容から何を頼むのかは理解した。

(……なら、私は私でしかできない方法で情報を仕入れよう)

 冒険者ギルドだけでなく、商業ギルドや宿の近くの雑貨店などに足を運び、注意深く観察していたので、ひとつ思い付いたことがあるのだ。

(これもトーマ兄さんの協力が必要なんだけど……)

 対価は何がいいだろう? 
 異世界の食事に興味を持っている彼のことだ。帝国料理を送ってあげれば、喜んでくれるのは確実。

「シュニッツェルは持ち帰りができるのかしら……?」

 美味しかったので、持ち帰りができるのなら、自分たち用に何食分か、購入しておきたい。ついでに、りんごのコンポートも。
 他にも美味しい料理を見つけたら、従兄への交渉材料として確保しておきたい。


 後日、従弟たちからは大量の酒とノンアルコール飲料を。
 従妹からは紅茶と焼き菓子を大量に注文されて、大いに戸惑うことになることを、冬馬は知らない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい

ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。 強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。 ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。

神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします

夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。 アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。 いわゆる"神々の愛し子"というもの。 神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。 そういうことだ。 そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。 簡単でしょう? えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか?? −−−−−− 新連載始まりました。 私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。 会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。 余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。 会話がわからない!となるよりは・・ 試みですね。 誤字・脱字・文章修正 随時行います。 短編タグが長編に変更になることがございます。 *タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

神様のミスで死んだので、神獣もふもふと異世界インターネットで快適スローライフ始めます ~最強生活チートと1000万ポイントでポチりまくり!~

幸せのオムライス
ファンタジー
★HOTランキング1位感謝!(2026.1.23) カクヨムコン部門別 週間ランキング4位! なろう四半期ランクイン中!(異世界転生/ファンタジー/連載中) ★ 山根ことり、28歳OL。私の平凡な毎日は、上から降ってきた神様の植木鉢が頭に直撃したことで、あっけなく幕を閉じた。 神様の100%過失による事故死ということで、お詫びにもらったのは3つのチート能力。 ①通販サイトや検索が使える【異世界インターネット接続】 ②もふもふ動物と話せる【もふもふテイマー&翻訳】 ③戦闘はできないけど生活は最強な【生活魔法 Lv.99】 私の願いはただ一つ。働かずに、可愛いペットともふもふしながら快適なスローライフを送ること! のはずが、転生先は森のど真ん中。おまけに保護された先の孤児院は、ご飯はまずいしお風呂もない劣悪環境!? 「私の安眠のため、改革します!」 チート能力を駆使して、ボロ屋敷がピカピカに大変身! 現代知識と通販調味料で絶品ごはんを振る舞えば、心を閉ざした子供たちも次々と懐いてきて……? 気づけばギルドに登録し、薬草採取で荒稼ぎ。謎の天才少女として街の注目株に!? あれ、私のスローライフはどこへ? これは、うっかりチートで快適な生活基盤を整えすぎた元OLが、最強神獣もふもふや仲間たちとのんびり暮らすために、ついでに周りも幸せにしちゃう、そんな物語。 【今後のストーリー構想(全11章完結予定)】 第1章 森の生活と孤児院改革(完結済) 第2章 ヤマネコ商会、爆誕!(連載中、2026年3月完結予定) 第3章 ようこそ、ヤマネコ冒険部へ! 第4章 王都は誘惑の香り 第5章 救国のセラピー 第6章 戦場のロジスティクス・イノベーション 第7章 領主様はスローライフをご所望です 第8章 プロジェクト・コトリランド 第9章 ヤマネコ式教育改革 第10章 魔王対策は役員会にて 第11章 魔王城、買収しました(完結予定)

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

処理中です...