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4.思い出しました
「高貴なご令嬢どころか、平民でも無理ではなくて?」
呆れたようにため息を吐くと、シェリーはそろりと身を起こした。
体中がまだ痛かったが、気にしない。後ろ手に拘束されているので動きにくいが、どうにか壁に身を預けることができた。
「凶悪な囚人ではないのだから、拘束を外すべきでしょうに……」
魔道具のチョーカーを外すことも、怪我の様子を見ることも、手首の拘束を外すという最低限のことさえしてくれなかった近衛騎士たちをシェリーは苦々しく思う。
「普段は騎士道を滔々と語るくせに、紳士とはほど遠い連中ね」
嘆息まじりに吐き捨てる。
不思議と、頭の中が冴えわたっていた。
(わたくし、これほどに毒舌だったかしら……?)
ふと、違和感を覚えた。
何かが違う、そんな気がする。
不思議に感じて、ぼんやりと思考を辿ると、思い出したことがあった。
「意識をなくした間、夢を見たわ。黒髪、黒い瞳の女の子がいた」
夢の中で彼女と言葉を交わした気がする。
何を話したのだったか──
「……そう、彼女はとても怒っていた。わたくしのために、怒ってくれた」
それは、久しぶりの感覚だった。
家族と離されて、五年。シェリーのことを案じて本気の感情をぶつけてくれた人はこの王城にはいなかった。
十二歳の誕生日に、王都で受けた鑑定の儀。
そこで彼女の類まれな才能が判明し、すぐに国に抱え込まれてしまったのだ。
家族は反対したかったが、初代のクリステン辺境伯と建国の王との約定があり、その王命を断れなかった。
(わたくしが王国でも屈指の魔力量を保有していたから、第二王子殿下の婚約者として召されてしまった)
建国から数百年の時を経て、魔力を持つ王族は生まれにくくなってしまった。
第二王子であるアルスは魔力を持たずに生まれてきたため、その補佐としてシェリーが選ばれたのだ。
高魔力の持ち主である彼女の血を王族に入れるのが目的だった。
文字通りの政略婚。そこには愛も情も皆無だった。
思春期の真っ最中に将来の伴侶を突然押し付けられたアルスにとっては災難だったかもしれないが、それはシェリーだって同じこと。
(なのに、あの方はわたくしを虐げた。気に入らない、たったそれだけの理由で)
あれから五年間。
領地への里帰りも許されず、ずっとこの冷たい王宮に閉じ込められるようにして暮らしてきた。
家族と会えるのは、年に一度だけ。
社交シーズンのため、王都のタウンハウスに滞在する父と兄が王城に出向いてくれた時のみ。
(窮状を嘆いても、どうにもならない。王命だもの。お父さまやお兄さまを悲しませるだけ。わたくしはここの暮らしが辛いことを家族に話せなかった……)
だから、シェリーの境遇に怒ってくれたのは夢の中の彼女だけ。
それがとても嬉しくて、涙をこぼしたシェリーのことを夢の中の少女はぎゅっと抱き締めてくれて──
「ああ……思い出したわ」
シェリーはぽつりとつぶやいた。
そう、思い出した。すべてを、とは言えないが、とても大事なことを。
自分が前世、日本という国で女子高生をしていた、普通の女の子だったことを。
とても懐かしい──そして、少しだけ胸が痛い記憶。
「そういえば、わたくし前世は大魔法使いでした」
呆れたようにため息を吐くと、シェリーはそろりと身を起こした。
体中がまだ痛かったが、気にしない。後ろ手に拘束されているので動きにくいが、どうにか壁に身を預けることができた。
「凶悪な囚人ではないのだから、拘束を外すべきでしょうに……」
魔道具のチョーカーを外すことも、怪我の様子を見ることも、手首の拘束を外すという最低限のことさえしてくれなかった近衛騎士たちをシェリーは苦々しく思う。
「普段は騎士道を滔々と語るくせに、紳士とはほど遠い連中ね」
嘆息まじりに吐き捨てる。
不思議と、頭の中が冴えわたっていた。
(わたくし、これほどに毒舌だったかしら……?)
ふと、違和感を覚えた。
何かが違う、そんな気がする。
不思議に感じて、ぼんやりと思考を辿ると、思い出したことがあった。
「意識をなくした間、夢を見たわ。黒髪、黒い瞳の女の子がいた」
夢の中で彼女と言葉を交わした気がする。
何を話したのだったか──
「……そう、彼女はとても怒っていた。わたくしのために、怒ってくれた」
それは、久しぶりの感覚だった。
家族と離されて、五年。シェリーのことを案じて本気の感情をぶつけてくれた人はこの王城にはいなかった。
十二歳の誕生日に、王都で受けた鑑定の儀。
そこで彼女の類まれな才能が判明し、すぐに国に抱え込まれてしまったのだ。
家族は反対したかったが、初代のクリステン辺境伯と建国の王との約定があり、その王命を断れなかった。
(わたくしが王国でも屈指の魔力量を保有していたから、第二王子殿下の婚約者として召されてしまった)
建国から数百年の時を経て、魔力を持つ王族は生まれにくくなってしまった。
第二王子であるアルスは魔力を持たずに生まれてきたため、その補佐としてシェリーが選ばれたのだ。
高魔力の持ち主である彼女の血を王族に入れるのが目的だった。
文字通りの政略婚。そこには愛も情も皆無だった。
思春期の真っ最中に将来の伴侶を突然押し付けられたアルスにとっては災難だったかもしれないが、それはシェリーだって同じこと。
(なのに、あの方はわたくしを虐げた。気に入らない、たったそれだけの理由で)
あれから五年間。
領地への里帰りも許されず、ずっとこの冷たい王宮に閉じ込められるようにして暮らしてきた。
家族と会えるのは、年に一度だけ。
社交シーズンのため、王都のタウンハウスに滞在する父と兄が王城に出向いてくれた時のみ。
(窮状を嘆いても、どうにもならない。王命だもの。お父さまやお兄さまを悲しませるだけ。わたくしはここの暮らしが辛いことを家族に話せなかった……)
だから、シェリーの境遇に怒ってくれたのは夢の中の彼女だけ。
それがとても嬉しくて、涙をこぼしたシェリーのことを夢の中の少女はぎゅっと抱き締めてくれて──
「ああ……思い出したわ」
シェリーはぽつりとつぶやいた。
そう、思い出した。すべてを、とは言えないが、とても大事なことを。
自分が前世、日本という国で女子高生をしていた、普通の女の子だったことを。
とても懐かしい──そして、少しだけ胸が痛い記憶。
「そういえば、わたくし前世は大魔法使いでした」
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