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春休みのある日の午前十時、謙吾はベッドからむくりと起き上がった。
彼はそのままカーテンを開け、窓の外の景色を眺めガッツポーズをした。
「よっしゃー!」
三か月以上もの間、1メートル以上の雪に閉ざされていたアスファルトがしばらくぶりに顔を出したのが窓から見える。
謙吾が初雪に恨みを感じ、荒れ狂う吹雪を忌まわしく思いながらもずっと待ち焦がれていた春がついにやって来たのである。
…
謙吾はパジャマを脱ぎ捨てるとクローゼットを開いた。
そこから動きやすそうなカーキのカーゴパンツ、真っ白い長そでのTシャツ、黒いお気に入りのシンプルなパーカーを取り出すと急いで着替えて階段を駆け下りる。
リビングを通り抜け洗面所で顔を洗う。
顔の水分をタオルで拭い、うがいをしてすっきりした後、食卓にむかった。
テーブルにはトーストとベーコンエッグを載せた皿が並んでいた。
おなかを鳴らす謙吾のもとに黄色い春らしいエプロンをした母がコーンスープを運んでくる。
「おはよう謙吾、今日は久しぶりに天気が良いわね。そろそろかと思って、自転車出しておいたわよ」
「母さんおはよう、サンキュー!」
つけっぱなしの居間のテレビから流れてくるニュースをBGMに、謙吾はコーンスープを飲み干す。
トーストを咀嚼していると、母が尋ねてきた。
「今日、自転車乗る?」
「うん、そのつもり」
「どこまで行く予定なの?」
「最初だから足慣らし程度に、あそこのたい焼き屋に行ってみようかなと思ってる」
謙吾は幼少期から自転車で三十分位の距離にある、たい焼き屋の粒あんぎっしりのたい焼きが好物だ。
そこの店主はとても愛想が良く、たい焼きも好評だからかファンが多く、休日だと三時ごろにはたい焼きが売り切れてしまうほどだ。
それに謙吾の家からたい焼き屋までの距離はサイクリングするには疲れすぎずちょうど良い。
「ならついでにスーパーで、食パン買ってきてくれない?」
母親がテレビのチャンネルを弄りながら謙吾に尋ねる。
「スーパーくらいなら車で行ってくれば良いじゃないか」
フォークにベーコンを刺した謙吾が答える。
「最近またガソリン代が高くなってるのよ。お駄賃におつりで、好きなもの買って良いから、ねっ?」
母は近所のおばさま方の影響で、最近、倹約や節約を口煩く言うようになった。
「そんなガキ向けのお願いの仕方したって、俺には通じないっての」
謙吾は軽く母をにらみつけた。
「あら? 謙吾なんて私から見たら、まだまだお子様よ」
揶揄うように母は笑う。
「そりゃ四十歳から見たら……」
「失礼ね!私の心は永遠に十八歳よ」
「はいはい」
スーパーはたい焼き屋と謙吾の家のほぼ中間にあるため、すこし寄り道する形にはなり面倒だ。
けれどその分、自転車に長く乗っていられるとポジティブに考えた謙吾は渋々承諾することにした。
「はぁ、しょうがないから行ってきてやるよ」
朝食を食べ終えると自分の部屋に戻り、携帯と財布と自転車の鍵を取り出した。
手荷物をすべて小さな斜め掛けのカバンに入れると部屋を飛び出し玄関へとむかう。
「いってきまーす」
靴を履いて玄関の扉を笑顔で開いた。
彼はそのままカーテンを開け、窓の外の景色を眺めガッツポーズをした。
「よっしゃー!」
三か月以上もの間、1メートル以上の雪に閉ざされていたアスファルトがしばらくぶりに顔を出したのが窓から見える。
謙吾が初雪に恨みを感じ、荒れ狂う吹雪を忌まわしく思いながらもずっと待ち焦がれていた春がついにやって来たのである。
…
謙吾はパジャマを脱ぎ捨てるとクローゼットを開いた。
そこから動きやすそうなカーキのカーゴパンツ、真っ白い長そでのTシャツ、黒いお気に入りのシンプルなパーカーを取り出すと急いで着替えて階段を駆け下りる。
リビングを通り抜け洗面所で顔を洗う。
顔の水分をタオルで拭い、うがいをしてすっきりした後、食卓にむかった。
テーブルにはトーストとベーコンエッグを載せた皿が並んでいた。
おなかを鳴らす謙吾のもとに黄色い春らしいエプロンをした母がコーンスープを運んでくる。
「おはよう謙吾、今日は久しぶりに天気が良いわね。そろそろかと思って、自転車出しておいたわよ」
「母さんおはよう、サンキュー!」
つけっぱなしの居間のテレビから流れてくるニュースをBGMに、謙吾はコーンスープを飲み干す。
トーストを咀嚼していると、母が尋ねてきた。
「今日、自転車乗る?」
「うん、そのつもり」
「どこまで行く予定なの?」
「最初だから足慣らし程度に、あそこのたい焼き屋に行ってみようかなと思ってる」
謙吾は幼少期から自転車で三十分位の距離にある、たい焼き屋の粒あんぎっしりのたい焼きが好物だ。
そこの店主はとても愛想が良く、たい焼きも好評だからかファンが多く、休日だと三時ごろにはたい焼きが売り切れてしまうほどだ。
それに謙吾の家からたい焼き屋までの距離はサイクリングするには疲れすぎずちょうど良い。
「ならついでにスーパーで、食パン買ってきてくれない?」
母親がテレビのチャンネルを弄りながら謙吾に尋ねる。
「スーパーくらいなら車で行ってくれば良いじゃないか」
フォークにベーコンを刺した謙吾が答える。
「最近またガソリン代が高くなってるのよ。お駄賃におつりで、好きなもの買って良いから、ねっ?」
母は近所のおばさま方の影響で、最近、倹約や節約を口煩く言うようになった。
「そんなガキ向けのお願いの仕方したって、俺には通じないっての」
謙吾は軽く母をにらみつけた。
「あら? 謙吾なんて私から見たら、まだまだお子様よ」
揶揄うように母は笑う。
「そりゃ四十歳から見たら……」
「失礼ね!私の心は永遠に十八歳よ」
「はいはい」
スーパーはたい焼き屋と謙吾の家のほぼ中間にあるため、すこし寄り道する形にはなり面倒だ。
けれどその分、自転車に長く乗っていられるとポジティブに考えた謙吾は渋々承諾することにした。
「はぁ、しょうがないから行ってきてやるよ」
朝食を食べ終えると自分の部屋に戻り、携帯と財布と自転車の鍵を取り出した。
手荷物をすべて小さな斜め掛けのカバンに入れると部屋を飛び出し玄関へとむかう。
「いってきまーす」
靴を履いて玄関の扉を笑顔で開いた。
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