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2話
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「はーい、気を付けてねー」
閉まりかけの扉の間を母の声がすり抜けてくる。
…
車庫のシャッターを開けると、母の白い愛車の横に謙吾の銀色の自転車があった。
「さすが母さん…」
長らく地下室にあったため、ほこりやカビが付いていないか心配だったが、謙吾の母が雑巾をかけてくれたようでとてもきれいな状態だ。
謙吾はお礼に、母の分のたい焼きも買おうかなと思いながら微笑んだ。
サドルの位置を調整して、ブレーキやタイヤのパンクなどを確認した。
一通り確認が終わると、スタンドを足で払い自転車に跨る。
サドルに腰を下ろしてハンドルを握る。
謙吾は久しぶりの感覚に興奮していた。
「よっしゃ、行くぞ」
…
地面を蹴り、ペダルに足を乗せて漕ぐ。
まだ感覚が完全に戻っていないせいか最初は少しハンドルが揺れたが、それもすぐに安定した。
「気持ち良いなぁ」
春のやわらかい日差しの下を駆け抜けていく。
心地よいそよ風が顔に当たり、そのまま髪をなびかせて謙吾の後ろに流れていく。
路上にはある雪解けでできた水たまりを通過すると、水しぶきが小さく上がった。
「うおっ」
泥跳ねに気を付けながら家の前の人通りの少ない道をぐんぐん進んで行くと大通りに出た。
車がひっきりなしに往来している。
人通りもさきほどの道に比べると、ぐんと増えた。
目の前の信号が青になった。
信号を横切り加速する。
「この調子で行ったら、もうすぐスーパーか…」
謙吾はまだまだ身軽な状態で自転車に乗っていたかった。
そのため今スーパーに寄ってしまうと荷物が増えて邪魔になる。
「たい焼き屋に先に行くかな」
スーパーの前を通らずにたい焼き屋に行く道はもう一つある。
「遠回りして、あの道を通ってみようかな」
大通りを越えた住宅街を抜け、スーパーへと繋がっている道を逸れる。
すると、いつもと違う雑草が目立つ道に出た。
今までこちら側には一度も来たことがない。
だんだんと民家もまばらになってきて、景色には植物たちが増えてきた。
謙吾はあまり気に留めずペダルを漕いだ。
実はこの道は今まで一度しか通ったことがない。
その一度というのも、小学五年生の頃に、遠回りをしようとしたら迷子になった時だった。
その時は親切な人が、泣きながら自転車を押す謙吾に帰り道を教えてくれた。
あの頃は携帯という強い味方がいなかったためとても不安だった。
そんな思い出が謙吾の頭をよぎった。
しばらくすると、右側に分かれ道が出てきた。
謙吾は一度、その道を通り過ぎた。
しかしなんだか気になってしまい引き返す。
道の奥の方をそっと覗いてみた。
真っ直ぐとそこだけ木が生えておらず、ひたすら砂利道が続いている。
どこまで先を見ても行き止まりは見えない。
「うーん、中学生にもなって恥ずかしいけど……やっぱり迷ったかなぁ。いや俺は母さんと違って、方向音痴ではないはず…。母さんなんて未だに近所ですら迷うからなぁ」
少しだけ悩んだものの、果てしなく続く砂利道への好奇心には勝てずに自転車をその道に向けた。
舗装されていないため、ハンドル操作がとても大変だ。
ガタガタと揺れながら、木の間を通り抜けて進んでいく。
一度ブレーキをかけて、足を地面につけてふと立ち止まってみた。
周りを見回すと、木や多くの植物があり見渡す限り緑一色。
大きく息を吸い込むと、何だか気持ちが軽くなる気がした。
満足した謙吾は再び、ペダルを漕ぎだした。
閉まりかけの扉の間を母の声がすり抜けてくる。
…
車庫のシャッターを開けると、母の白い愛車の横に謙吾の銀色の自転車があった。
「さすが母さん…」
長らく地下室にあったため、ほこりやカビが付いていないか心配だったが、謙吾の母が雑巾をかけてくれたようでとてもきれいな状態だ。
謙吾はお礼に、母の分のたい焼きも買おうかなと思いながら微笑んだ。
サドルの位置を調整して、ブレーキやタイヤのパンクなどを確認した。
一通り確認が終わると、スタンドを足で払い自転車に跨る。
サドルに腰を下ろしてハンドルを握る。
謙吾は久しぶりの感覚に興奮していた。
「よっしゃ、行くぞ」
…
地面を蹴り、ペダルに足を乗せて漕ぐ。
まだ感覚が完全に戻っていないせいか最初は少しハンドルが揺れたが、それもすぐに安定した。
「気持ち良いなぁ」
春のやわらかい日差しの下を駆け抜けていく。
心地よいそよ風が顔に当たり、そのまま髪をなびかせて謙吾の後ろに流れていく。
路上にはある雪解けでできた水たまりを通過すると、水しぶきが小さく上がった。
「うおっ」
泥跳ねに気を付けながら家の前の人通りの少ない道をぐんぐん進んで行くと大通りに出た。
車がひっきりなしに往来している。
人通りもさきほどの道に比べると、ぐんと増えた。
目の前の信号が青になった。
信号を横切り加速する。
「この調子で行ったら、もうすぐスーパーか…」
謙吾はまだまだ身軽な状態で自転車に乗っていたかった。
そのため今スーパーに寄ってしまうと荷物が増えて邪魔になる。
「たい焼き屋に先に行くかな」
スーパーの前を通らずにたい焼き屋に行く道はもう一つある。
「遠回りして、あの道を通ってみようかな」
大通りを越えた住宅街を抜け、スーパーへと繋がっている道を逸れる。
すると、いつもと違う雑草が目立つ道に出た。
今までこちら側には一度も来たことがない。
だんだんと民家もまばらになってきて、景色には植物たちが増えてきた。
謙吾はあまり気に留めずペダルを漕いだ。
実はこの道は今まで一度しか通ったことがない。
その一度というのも、小学五年生の頃に、遠回りをしようとしたら迷子になった時だった。
その時は親切な人が、泣きながら自転車を押す謙吾に帰り道を教えてくれた。
あの頃は携帯という強い味方がいなかったためとても不安だった。
そんな思い出が謙吾の頭をよぎった。
しばらくすると、右側に分かれ道が出てきた。
謙吾は一度、その道を通り過ぎた。
しかしなんだか気になってしまい引き返す。
道の奥の方をそっと覗いてみた。
真っ直ぐとそこだけ木が生えておらず、ひたすら砂利道が続いている。
どこまで先を見ても行き止まりは見えない。
「うーん、中学生にもなって恥ずかしいけど……やっぱり迷ったかなぁ。いや俺は母さんと違って、方向音痴ではないはず…。母さんなんて未だに近所ですら迷うからなぁ」
少しだけ悩んだものの、果てしなく続く砂利道への好奇心には勝てずに自転車をその道に向けた。
舗装されていないため、ハンドル操作がとても大変だ。
ガタガタと揺れながら、木の間を通り抜けて進んでいく。
一度ブレーキをかけて、足を地面につけてふと立ち止まってみた。
周りを見回すと、木や多くの植物があり見渡す限り緑一色。
大きく息を吸い込むと、何だか気持ちが軽くなる気がした。
満足した謙吾は再び、ペダルを漕ぎだした。
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