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3話
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ようやくガタガタの砂利道を抜けると、一軒の民家らしきものが見えてきた。
昔ながらの和を感じさせる雰囲気を持っている平屋建てだ。
家の左に視線をずらすと畑なのだろうか、凹凸の黄土色の土が広大に広がっていて、少しだけだが植物の芽が生えている様子が見える。
…
謙吾が近づいてみると扉には、商い中の札が掛かっている。
扉の上には看板があり『お食事処 水菓子』と達筆に書いてあった。
そして扉の横のすりガラスには季節のランチ六百五十円也という張り紙があった。
腕時計を確認してみると、ちょうど正午を回ったところだ。
謙吾は先ほど朝食を食べたばかりだったが、食べ盛りの食欲は並大抵ではないようである。
「お小遣いもあるし、ちょっとお腹すいたから入ってみるかな」
謙吾は自転車から降りてスタンドを立てる。
そして後輪に鍵をかけると自転車から離れた。
扉は引き戸になっている。
ガラガラと音を立てて重たそうに開いた。
中に入ると店内には二人掛けのテーブルが六つほど並んでいた。
しばらくの間、謙吾はキョロキョロとしていた。
「いらっしゃいませ」
やがてレジの後ろの暖簾の奥から、白い割烹着姿のおばあさんが出てきた。
優しそうに微笑んでいたが、謙吾の姿を確認すると少し驚いたようだ。
「おや、これは初めて見るお客さんだねぇ。ようこそ、お好きな席へどうぞ」
「あ、はい」
謙吾は日当たりのいい窓側の席に座った。
畑とは逆の席のようで、物干し竿や盆栽等、店の人の生活の様子が見て取れる。
まるで遠くに住んでいる祖父母の家に来たかのような雰囲気だ。
謙吾がその雰囲気に浸っていると、おばあさんがラミネートの掛かったA4紙とお水を持ってきた。
「これがうちのメニューね。今は四月だから『初春』と『春』のどちらかから選んでおくれ」
「へぇ…何が違うんですか?」
謙吾はメニューをのぞき込みながら尋ねた。
「今の季節柄、春に旬の野菜や山菜を使った料理が多めなのが『春』。そして雪解けの名残りとがまだ見えるころ、三寒四温で振り回された体調を整えられるような料理の多い『初春』といったところかね」
「ふ~ん」
まず両方ともに白米がついている。
しかしおばあさんのいう通り、おかずや汁物が全く違っている。
また使われている野菜も春野菜中心であり、どれも名前を見るだけで食欲がそそられた。
『春』のメニューは和風よりだ。
○ウドと筍のおひたし
○焼き魚 にしん フキ味噌添え
○春キャベツの味噌汁
たしかに山菜と野菜がふんだんに使われているメニューである。
それに対して『初春』のメニューは少し洋風だ。
○ひき肉と桜の葉の塩漬けの生春巻き
○カブと菜の花と鳥団子のだし煮込み
○水菜とカリフラワーのスープ
お品書きの最後には両方とも今日の水菓子と緑茶がついている。
しかし謙吾は、水菓子の意味がわからなかった。
「水のお菓子か、水羊羹かなぁ…」
どちらのメニューも魅力的で決めかねていた。
すると迷っている謙吾の様子を見かねたのかおばあさんがそっとつぶやいた。
「そうそう、今日でもう『初春』は終わりだよ。もう雪もすっかり溶けてしまったからねぇ」
「じゃあ、折角なので『初春』でお願いします」
今日で終わりといわれたらそちらを選びたくなるものである。
「はいよぉ、少々お待ちください」
メニューの紙をもっておばあさんは暖簾の奥に戻っていった。
昔ながらの和を感じさせる雰囲気を持っている平屋建てだ。
家の左に視線をずらすと畑なのだろうか、凹凸の黄土色の土が広大に広がっていて、少しだけだが植物の芽が生えている様子が見える。
…
謙吾が近づいてみると扉には、商い中の札が掛かっている。
扉の上には看板があり『お食事処 水菓子』と達筆に書いてあった。
そして扉の横のすりガラスには季節のランチ六百五十円也という張り紙があった。
腕時計を確認してみると、ちょうど正午を回ったところだ。
謙吾は先ほど朝食を食べたばかりだったが、食べ盛りの食欲は並大抵ではないようである。
「お小遣いもあるし、ちょっとお腹すいたから入ってみるかな」
謙吾は自転車から降りてスタンドを立てる。
そして後輪に鍵をかけると自転車から離れた。
扉は引き戸になっている。
ガラガラと音を立てて重たそうに開いた。
中に入ると店内には二人掛けのテーブルが六つほど並んでいた。
しばらくの間、謙吾はキョロキョロとしていた。
「いらっしゃいませ」
やがてレジの後ろの暖簾の奥から、白い割烹着姿のおばあさんが出てきた。
優しそうに微笑んでいたが、謙吾の姿を確認すると少し驚いたようだ。
「おや、これは初めて見るお客さんだねぇ。ようこそ、お好きな席へどうぞ」
「あ、はい」
謙吾は日当たりのいい窓側の席に座った。
畑とは逆の席のようで、物干し竿や盆栽等、店の人の生活の様子が見て取れる。
まるで遠くに住んでいる祖父母の家に来たかのような雰囲気だ。
謙吾がその雰囲気に浸っていると、おばあさんがラミネートの掛かったA4紙とお水を持ってきた。
「これがうちのメニューね。今は四月だから『初春』と『春』のどちらかから選んでおくれ」
「へぇ…何が違うんですか?」
謙吾はメニューをのぞき込みながら尋ねた。
「今の季節柄、春に旬の野菜や山菜を使った料理が多めなのが『春』。そして雪解けの名残りとがまだ見えるころ、三寒四温で振り回された体調を整えられるような料理の多い『初春』といったところかね」
「ふ~ん」
まず両方ともに白米がついている。
しかしおばあさんのいう通り、おかずや汁物が全く違っている。
また使われている野菜も春野菜中心であり、どれも名前を見るだけで食欲がそそられた。
『春』のメニューは和風よりだ。
○ウドと筍のおひたし
○焼き魚 にしん フキ味噌添え
○春キャベツの味噌汁
たしかに山菜と野菜がふんだんに使われているメニューである。
それに対して『初春』のメニューは少し洋風だ。
○ひき肉と桜の葉の塩漬けの生春巻き
○カブと菜の花と鳥団子のだし煮込み
○水菜とカリフラワーのスープ
お品書きの最後には両方とも今日の水菓子と緑茶がついている。
しかし謙吾は、水菓子の意味がわからなかった。
「水のお菓子か、水羊羹かなぁ…」
どちらのメニューも魅力的で決めかねていた。
すると迷っている謙吾の様子を見かねたのかおばあさんがそっとつぶやいた。
「そうそう、今日でもう『初春』は終わりだよ。もう雪もすっかり溶けてしまったからねぇ」
「じゃあ、折角なので『初春』でお願いします」
今日で終わりといわれたらそちらを選びたくなるものである。
「はいよぉ、少々お待ちください」
メニューの紙をもっておばあさんは暖簾の奥に戻っていった。
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