学校にいる人たちの卑猥な日常

浅上秀

文字の大きさ
43 / 62
雨の日の純情

前編

しおりを挟む
FILE9 葉山 (生徒)× 奥野 (教師)



「先生、さよなら~」

「おー、気を付けて帰れよー」

「はーい」

放課後は部活の生徒もいれば下校する生徒もいる。
奥野は自分の受け持つクラスの生徒たちが各々解散するのを見届けると職員室に戻った。

「奥野先生、今日、この後雨らしいですよ」

隣に座る野球部の監督もしている教師が話しかけてきた。

「え、そうなんですか」

奥野は慌ててカバンの中に手を突っ込んだ。
幸い折り畳み傘が入っていた。

「この後の練習どうするか悩むなぁ」

声をかけてきた教師は頭を掻きながら職員室を出ていった。
奥野はパソコンを立ち上げて残してあった作業を早く終わらせてなるべく雨が降らないうちに帰ろうと思った。
今日は車を家族が使用していて電車で来たのだ。
なるべく濡れたくない。

「さて、やるか」



「んー、よし、こんなものか」

ぐーっと背伸びをする。
時計を見上げると午後六時を示している。

「そろそろ帰るか」

職員室の窓ガラスはまだ濡れていない。
今なら雨に濡れずに帰れる。

「お疲れさまでした。お先に失礼します」

「お疲れ様です」

職員室に残っていた他の教師たちに声をかけて奥野は先に出る。
誰もいない廊下を一人で玄関まで歩く。
教師専用の下駄箱に近づいた時だった。

「あ、奥野先生」

「葉山、どうしたんだ、珍しいな」

「図書委員の当番だったんです」

「そうか」

葉山は奥野の受け持つクラスの中でも小柄でわりと大人しい少年だ。
態度もまじめだし成績もどちらかといえば優秀な方だが、目立った特徴はない。

「先生も帰るところですか?」

「あぁ、まぁな」

下駄箱から外靴を取り出して履き替える。

「今日はお車ですか?」

「いや、電車だよ」

「え、本当ですか!?」

葉山は驚いたような声を上げた。

「どうした、俺が電車だとおかしいか?」

「い、いえいえ、あの良かったら一緒に駅まで帰りませんか?」

「ん?あ、い、いいぞ」

「やった!」

葉山は嬉しそうに自分の靴箱まで走っていった。
奥野は既に靴を履いていただので昇降口の外に出た。
ポツリポツリと地面を雨粒が濡らし始めていた。

「あー、間に合わなかったか」

「え、雨降ってるんですか!?」

息を切らして奥野の隣に葉山が現れた。

「なんだ葉山、傘持ってきてないのか?」

「は、はい、降ると思っていなくて…」

しょんぼりした様子は小型犬のようだった。
クスクス笑いながら奥野はカバンの中に手を入れて自身の傘を開いた。

「俺のでよかったら入ってくか?」

「いいんですか!?」

小型犬が尻尾を振って喜んでいる。
奥野は噴き出してしまった。

「っはは、いいぞ」

「お邪魔します!!」

地味な紺色の傘が少しだけ華やいだ気がした。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

チョコのように蕩ける露出狂と5歳児

ミクリ21
BL
露出狂と5歳児の話。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

少年探偵は恥部を徹底的に調べあげられる

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

塾の先生を舐めてはいけません(性的な意味で)

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
個別指導塾で講師のアルバイトを始めたが、妙にスキンシップ多めで懐いてくる生徒がいた。 そしてやがてその生徒の行為はエスカレートし、ついに一線を超えてくる――。

真・身体検査

RIKUTO
BL
とある男子高校生の身体検査。 特別に選出されたS君は保健室でどんな検査を受けるのだろうか?

処理中です...