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音痴な学生の放課後練習
卒業式 前編
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「今日という日を僕たちは一生忘れることはないでしょう」
壇上で式辞を読み上げているメガネをかけたクラスメイトを見上げて里見は思わずにやけてしまった。
待ちに待った卒業式。
周りが感傷に包まれる中、里見は1人だけ浮かれていた。
「以上で卒業式を終わります。卒業生、起立」
パイプ椅子からガタリと立ち上がる。
視界に教師の列が入る。
高松は音楽教師なので卒業生が退場する曲を演奏する在校生を監督する立場にいるので、退場時に通る道の脇に立っていた。
すれ違いざま、2人は誰にも気付かれないようにアイコンタクトを取った。
…
「それじゃあ皆、気をつけて帰れよ」
涙目の担任、写真を撮りまくるクラスメイトたちに混じって里見も何枚か思い出を残す。
ただ里見にとっての1番の思い出はこの後だろう。
人目につかないように校内を歩き始める。
卒業式の後片付けで校内はバタついているものの、音楽室の近くにまで来るとあまり人はいなかった。
「げっ」
音楽室から準備室に入ろうとしたら音楽室に先客がいた。
「せ、先生。私、入学してからずっと先生のことが好きだったんです。もう卒業して私生徒じゃなくなるから…私と付き合ってくれませんか?」
女子生徒がちょうど高松に告白していた。
少し開いた扉越しに里見はそれを聞いていた。
ドクンドクンと鼓動が耳の中で大きく響く。
そのせいで高松が何と返答したのか聞き取れなかった。
フラフラとした足取りで里見は音楽準備室の外の扉に向かったのだった。
…
準備室の中に入り、窓辺に近づく。
校庭や学校の入り口には保護者や在校生たちと別れの時間を過ごす多くの卒業生がいる。
里見は俯瞰でその姿を見ている自分が何だか不思議だった。
「今日で卒業か」
ポツリと言葉にしてなんだかその寂しさを改めて感じたような気がした。
ポロポロと頬を涙伝う。
「どうした、里見」
「先生…」
気づくと高松が里見を背中から抱きしめていた。
里見は窓を向いていた身体を反転させて正面から高松に抱きつく。
片付けている最中にスーツの上は脱いだのだろうか、里見の涙が真っ白の高松のワイシャツに吸い込まれていく。
「お前が泣くの初めて見たよ」
頬の涙を舌で掬い取りながら里見の目元に高松は口付ける。
「ん、先生、こっちにも」
里見は高松の胸元から顔を上げると唇にもそれをねだる。
高松はそれに答えて赤く潤ったそこに口付ける。
柔らかく優しかった口付けがどんどんと深まると共に部屋に反響する息遣いや水音も激しくなる。
ただ今日の2人は今までと違ってそこで満足するわけにいかなかったのだった。
壇上で式辞を読み上げているメガネをかけたクラスメイトを見上げて里見は思わずにやけてしまった。
待ちに待った卒業式。
周りが感傷に包まれる中、里見は1人だけ浮かれていた。
「以上で卒業式を終わります。卒業生、起立」
パイプ椅子からガタリと立ち上がる。
視界に教師の列が入る。
高松は音楽教師なので卒業生が退場する曲を演奏する在校生を監督する立場にいるので、退場時に通る道の脇に立っていた。
すれ違いざま、2人は誰にも気付かれないようにアイコンタクトを取った。
…
「それじゃあ皆、気をつけて帰れよ」
涙目の担任、写真を撮りまくるクラスメイトたちに混じって里見も何枚か思い出を残す。
ただ里見にとっての1番の思い出はこの後だろう。
人目につかないように校内を歩き始める。
卒業式の後片付けで校内はバタついているものの、音楽室の近くにまで来るとあまり人はいなかった。
「げっ」
音楽室から準備室に入ろうとしたら音楽室に先客がいた。
「せ、先生。私、入学してからずっと先生のことが好きだったんです。もう卒業して私生徒じゃなくなるから…私と付き合ってくれませんか?」
女子生徒がちょうど高松に告白していた。
少し開いた扉越しに里見はそれを聞いていた。
ドクンドクンと鼓動が耳の中で大きく響く。
そのせいで高松が何と返答したのか聞き取れなかった。
フラフラとした足取りで里見は音楽準備室の外の扉に向かったのだった。
…
準備室の中に入り、窓辺に近づく。
校庭や学校の入り口には保護者や在校生たちと別れの時間を過ごす多くの卒業生がいる。
里見は俯瞰でその姿を見ている自分が何だか不思議だった。
「今日で卒業か」
ポツリと言葉にしてなんだかその寂しさを改めて感じたような気がした。
ポロポロと頬を涙伝う。
「どうした、里見」
「先生…」
気づくと高松が里見を背中から抱きしめていた。
里見は窓を向いていた身体を反転させて正面から高松に抱きつく。
片付けている最中にスーツの上は脱いだのだろうか、里見の涙が真っ白の高松のワイシャツに吸い込まれていく。
「お前が泣くの初めて見たよ」
頬の涙を舌で掬い取りながら里見の目元に高松は口付ける。
「ん、先生、こっちにも」
里見は高松の胸元から顔を上げると唇にもそれをねだる。
高松はそれに答えて赤く潤ったそこに口付ける。
柔らかく優しかった口付けがどんどんと深まると共に部屋に反響する息遣いや水音も激しくなる。
ただ今日の2人は今までと違ってそこで満足するわけにいかなかったのだった。
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