Noble Оrdre‐白と黒の騎士団‐

宿理漣緒

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第一章 導かれた少女

5 先輩の手ほどき

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「全員がそろうのが遅くなってしまいましたが、改めまして今春から西館特殊部隊は5人体制となります。左茲、紫月、リントの3人は例年以上の働きを目指し、千歳さんは騎士として更なる成長ができるように頑張っていきましょう。俺もみんなを支えられるようにもっと強くなります」

 丁度おやつ時、ケーキの前に紅茶を口にし、呼吸を整えてから阿朱羅はそう言った。

「と言ってる本人が早速トラブルを起こしているのですがね」
「……仕方ない。これも……例年通り」
「リーダーがリーダーである限り解決しない問題なんだよ」
「3人そろってなんですか。俺は道を聞かれてただけなんですっ……何の脈絡もなく仁樹さんは突き飛ばしてくるし、大変だったんですから」

 あたしと2人が離れてしまった経緯を聞いている間、3人はやっぱりそうかという顔をして、たった1人状況が分かっていない阿朱羅に生温かいまなざしを送っていた。
 でもあたしはもう一度宇賀神に言われたことを考える。うわさの一つや二つは聞いたことがあるはずって言葉……絶対にああなるのは阿朱羅だけじゃない。紫月も左茲もリントも本館に行ったら黄色い歓声を浴びる側の人なんだろうな。
 そんな男子たちの中に放り込まれたことを実感し、今後本館に行った時のことを考えると嫌な寒気を感じた。

「そういえばにっきー遅いね」

 早々に完食したリントが懐中時計を取り出す。この部屋に併設されているアイランドキッチンへ皿を置いた紫月もリントの時計をのぞき込んで少し困ったように眉をさげた。

「いつ帰ってくるんでしょうね。これでは、いつまでたっても始められません」
「始めるって何を」
「模擬戦だよー!リーダーの解説を聞きながら千歳に僕らの2対2の試合を見てもらおうって計画してたんだ」
「見習騎士の学ぶ内容は個人での戦い方で、集団戦については所属騎士になったあと実践で身につけるというのが通例です。今日はその第一歩ということだったのですが」

 試合が見れる。そう聞いて胸が高鳴った。普通の見習騎士は週に何度か新人スタージュの一クラス上、正騎士ルギドの所属騎士の模擬戦を見る授業があるんだけど、あたしは見る機会がなかった。紫月の言葉から察するにそれを知っているわけでも、意図したわけでもないんだろうけど、すごく嬉しいのに変わりはない。

「…………どうするの。2対1にする……?」
「連携と言ったら左茲さんとリントじゃないですか。私が相手でどうでしょう」
「いやいや!僕の方が耐久性あるから壁にするならもってこいだよ。組むなら菊さんとすーさん!」
「……今回は連携が大事でしょ。だったら……特殊な戦い方をするリントが組むべき」
「そうそう俺がさっじーと組んで、リンリンとすーちゃんの相手をするから本気で来てよ~?」

 あぁ、だったら2対2のフェアな戦いが見れてばっちりだ。
 ……あれ?2対2?
 そこにいた全員、頭で理解するよりも早く、空席だったはずのあたしの隣に目が行った。
 注目を集める中、意にも介さず優雅に紅茶を飲むそいつは、最初に目が合ったあたしに一言。

「お嬢さんさっきぶり~さっじーのお菓子おいしいでしょ?これから毎日おいしいご飯も待ってるよ」
「仁樹さんいつからそこに!?」

 いつの間にか帰ってきていた宇賀神は一服し、大きく伸びをすると、満面の笑みを浮かべ阿朱羅の方へ向き直る。

「え?なに?あしゅちゃん……俺に会いたかったって言った?」
「言ってません!!それに突き飛ばされたのも許してませんから!」
「はいはいごめんね~なんでもいうこと聞いてあげるから許して?ね?」
「にっきー遅かったけど大丈夫だった!?なにかトラブル?」
「ちょっと面倒なこと片づけてたら遅くなっちゃって、ごめんね。今晩の夕食、食べさせてくれるなら俺は準備おっけ~だよ」

 話を振られた今晩の料理長は小さくかぶりを振って

「……今日は千歳のために作るからリクエストはだめ。メニューは……ブイヤベース」

 なぜか知っているあたしの好物を出すことを宣言した。情報源は多分阿朱羅なんだろうけど……試験結果のほかにどのくらいあたしの個人情報共有されてるんだろう。

「なんだ今日も最高じゃん。よろしくね」

 席を立ち、腰に帯びていた杖を持つと、宇賀神はその大きな背丈くらいある窓を開けて、裏庭に出た。リント、紫月、左茲も続いて、二手に分かれ向かい合う。

「同期同クラス同部隊コンビとして負けるわけにはいかないよね!すーさん!」
「いつも通り泰然自若の構えでいきましょう」

 これから始まる勝負の流れ弾を受けないように、阿朱羅が懐から羊皮紙を取り出し、予め仕込んでいた風使いの結界を展開すると、両者の纏う空気が、その瞳の輝きが変わった。
 あの場に流れているのは緊張感だけじゃない。顔を見て、みんなあたしと同じなんだとわかる。勝ちたい気持ち、この勝負を楽しみにする気持ち、一秒毎に高まっていくのが伝わってくる。

「では皆さん…………勝負開始です」

 そう告げた次の瞬間、目に飛び込んできたのは白く眩い光。再び目を開けた時には、状況が一変していた。
 先ほどまで宇賀神以外何も武器を持っていなかったはずなのに、それぞれ杖、槍、弓をもって魔法を使っている。
 加えて気がついたのが左茲の槍の不思議な太刀筋。弓矢を撃ち落とした刃は止まることなく、美しい軌跡を描きながら次の攻撃に移っている。矢をつがえる紫月の懐に踏み込むと左茲は踊るように一回転、螺旋を描きながら切り裂く、すんでのところで突然紫月の姿が消えた。地を軽く蹴って空気に溶けるように……

「武器が魔法で……?紫月が消えちゃって……?ていうか左茲の槍が……」

 初めて目にするものだらけでどれもこれも最後まで言い切らないうちに、阿朱羅に答えを求める。

「驚きましたよね。武器のことは多分明日リントから説明があると思います。重要なのはここです」

 次に起こることを知っているらしい阿朱羅は左茲の死角を指さす。瞬間、そこに音もなく紫月が現れ、超至近距離から3つの青白く光る矢を放った。

「遅いですよ」

 速度も速い、かわしきれない……!そう思ったのに

「……今日は当てさせない」

 左茲の目は紫月をしっかりとらえていた。一太刀で全て薙ぎ払いすぐさまカウンター攻撃を仕掛ける。それも先ほど同様、僅かな動きでかわすと、また姿が消えた。

「背中ががら空き!」

 隙を見てリントが杖を構え魔方陣を描く。

「そこもわかってるんだよね」

 宇賀神が目ざとく光の玉で攻撃を仕掛けるも

「にっきーのそれ待ってたんだよね!」

 左茲とリント、二人の足元に魔方陣が現れ、指を鳴らした瞬間立ち位置が入れ替わり、攻撃は左茲に命中した。

「うっそさっきの眠り魔法の魔方陣ダミー!?」
「…………めちゃくちゃ痛い」

 槍を持つ腕に電流が絡みついて動きが鈍くなる。そこに出てきたのが既に構えている紫月……!

「しまった……!」

 左茲に向けて結界を展開する宇賀神、だけど、矢を放つと思われた刹那、紫月の体は一瞬のうちに左茲ではなく宇賀神の方を向いていて、ワンテンポ遅れ放たれた青白い矢がノーガードの宇賀神に命中する。

「これが連携……!」
「紫月は他の弓射師と違って前衛でも戦うことができます。むしろそっちの方が生き生きしますよ。そしてリントも後衛ではなく前衛向きです。魔術ではなく魔法しか使わないのがリント流なので、攻撃が飛んでくる攻め手のそばが一番強いんですよ。対して左茲と仁樹さんは前衛と後衛に分かれたスタンダードな立ち回りです」

 攻撃を受けた2人はすでに態勢を立て直していて、一撃をあしらってカウンターするという流れを確立しリントと紫月の猛攻に対処している。

「実質的には2対1の状況だけど……左茲が崩れないのは宇賀神のサポートとあの槍さばきね」
「左茲はとにかく自由に戦わせるのが強いんです。先発で場のペースを完璧に自分のものにするんですよ」
「西館って前衛が多いの」
「えぇ、全員前に出ますよ。後衛はいません」
「それって大丈夫なの?」
「あのとおりだいじょうぶです。西館の騎士は横ならびで戦うのが特徴。それは攻守ともに隙が無いからこそできるフォーメーションです。だから、対人戦も今まで負けなしですよ。千歳さんもそうなります」
「あたしが……?」
「はい。強くなりたいって言ってましたよね」

 一瞬ドキッとする。それはいつか、先生に言った言葉そのままだったから。所属に際して先生からあたしのことを聞いたのかもしれない、だからわかるんだろうと頭では思っていても、どこか似ている阿朱羅を前に、先生がそこにいるんじゃないかって錯覚してしまう。

「ゆっくりでいいですから、着実に進んでいきましょう」
「ありがと……」

 この言葉もそうだ。先生があたしに言ってくれたもので……いや、違う。今話してるのは阿朱羅だから。だから、これ以上心をかき乱されないようにあたしは4人の勝負の行方に集中した。




 ────────────────────



 テンポを奪い奪われ、目まぐるしく変わる戦いの中、4人は言葉を交わす。

「千歳、すごく楽しそうに見てくれてるね!作戦大成功!」
「実技に優れていて、分析型の剣士とは聞いてましたけど、予想以上のいい反応です」
「……俺、今日は負ける気しない」
「だね~もっとかっこいいとこ見せちゃおうっか」

 人知れず、宇賀神仁樹はその顔から笑みを消し、千歳を一瞥したのち、本館の方角に目をやった。
 
「仁樹……!」
「ぇ……っ痛!」

 左茲の声に反応し、被害を最小限に抑えるが青白い矢をまたもやくらう。回復魔術ですぐに傷を癒しつつ、今度こそは追撃をかわしてみせた。

「よそ見してるのが悪いんですよ」
「このまま押し切っちゃうよ!」

 日が沈むまでその戦いは続き、リントと紫月のペアが勝利し幕を閉じた。
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