Noble Оrdre‐白と黒の騎士団‐

宿理漣緒

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第一章 導かれた少女

6 この力は誰のため

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 3人それぞれと過ごす日を終えた翌日、裏庭での朝練後にあの部屋へ行くのもだいぶ慣れてきた。廊下を歩いている時からおいしそうなパンとスープのにおいがする。ちょっと歩みを速めて扉を開けると、左茲と紫月が先に来ていた。けど、もう朝食を済ませたみたいで、手に弓と槍を持ち、なにか話し込んでいたところみたい。

「おはようございます。千歳さん」
「二人ともどうしたの」
「実は西館と東館に緊急の魔物討伐依頼が舞い込みまして、私と左茲さんで行ってきます」
「帰りは……阿朱羅と合流してからになるから、少し遅くなる……」
「わかった。その、気をつけて」

 普段の任務は巡回ロンドと言って、指定されたエリアに危険が無いかを確認する比較的安全な仕事なんだけど、今回のはそうじゃない。自ら魔物が出るところに行って戦うんだから、命を落とす可能性だってある……

「ほんとに……気をつけて。無理はしないで」
「千歳……怖がってる……?顔、青くなってる」
「え……」

 言われて初めて自分の体が強張ってることに気がついた。今、あたし……きっとひどい顔をしてる。

「私たちは大丈夫ですから、安心してください。討伐の方はすぐに終わりますよ」
「むしろ……怖いのは魔物より、組む相手」
「……そうですね。今日はかなり機嫌が悪そうでしたし」

 二人の様子を見て、少し緊張が落ち着いてきたけど、こんな風に困ったような表情なんて初めて見る。組む相手は東館と言っていたから、口ぶりから察するにに違わない気難しい人なんだろう。
 長い付き合いだって言ってたけど、苦手な相手なのかな……

「おっはよー!今日は素敵なお知らせがあります!」

 勢いよく扉が開く音と同時に、どんよりとした空気を吹っ飛ばす明るい声がして振り返った。
 藍のローブを靡かせながら、リントがまっすぐ近づいてきて

「千歳、今日は機関見学行くよ!」

 機関見学とは、セイヴァーが関わっている三機関、警察団ウィギレス研究所ムセウム保護施設ヴィ・ヴトンへの見学を意味することは知っている。

「この時期はどこの部隊も新人スタージュのために機関見学を行っていますよね。前から予約出来てたんですか」
「ううん。予約したとしても、新入りが千歳一人の西館は後回しにされちゃうよ」
「じゃあいったいどうやって……まさか」
「そう!れい研究所ムセウムの大書庫を予約してたんだけど、今日の討伐依頼で行けなくなっちゃったわけじゃん?このチャンスを逃す手はない!と思ってね。権利を譲渡してもらったよ!」
「……機嫌が悪いわけがわかりましたね。仁樹さんが出張中の今、仕事が回ってくるのは玲さんだというのは納得ですが、タイミングが悪すぎます」

 紫月がため息つきながら話してる内容を全てわかるわけじゃないけど、色んな事情が重なったことであたしが見学に行けることになったらしいってことはわかった……
 それにしても、この春に一人で機関の予約を取れるなんて、れいって人は何者なんだろう。
 不思議に思っていたあたしに気がついた左茲がこっそり教えてくれた。

「……東館の魔術士。ムセウムの予備研究員で色々と有名……女の人が嫌いみたいだから……任務が早く終わっても近づかないように言っておく」

 この前、紫月が
『近いうちに東館のメンバーとも顔を合わせることになりますよね。少し、いえ、かなり心配です』
 と言っていた意味がわかり、いつか対面するその日のことが今から心配になってきた。不安に蓋をするように、パンを口いっぱいに頬張ってトマトスープを流し込んだ。






 西館から王都郊外へ歩くこと三十分。その間にリントが教えてくれた。
 ロイデンが誇る魔術の研究所ムセウム。実技試験とは別の筆記試験で優秀な成績を修めた魔術士はムセウムの所属となり、魔物討伐の傍ら、日がな一日、より強い魔術の開発に勤しむらしい。
 紺の屋根に白い壁のシンメトリーの城は厳かで、人の気配がするのに静かな感じがするのが不思議だ。
 受付の人はリントのことをよく知っているらしく、手続きなしの顔パスであたしたちは建物内に入ることができた。
 大書庫に行く途中にすれ違った人たちも、みんな同じような尊敬のまなざしを向けてリントに挨拶する……魔術を使わない魔法使いなのにどうしてムセウムの人達から好かれてるんだろうと思っていると、挨拶してきたうちの一人の方が玲という名前を出していた。

「玲さんと対等に議論できるのはリントくんだけですよ」
「みなさんもっと強気で接してみて!怖がったりしちゃだめですよ」

 好かれてる理由はなんとなくわかった気がするけど……話を聞いてるとますます東館メンバーに会うのが怖くなってきちゃった。
 色々考えながらも、たどり着いた今日の目的地大書庫は薄暗くて、リントが西館書庫と同じような緑の光の球を浮かべてくれてようやく中の様子が見える。横に長い広い部屋のうんと端まで沢山の棚が配置されていた。

「そのまま真っ直ぐ棚の向こうに進むと、机と椅子がいっぱいあるからそこで待ってて!」

 そう言うとリントは本の森の中へ勢いよく駆けていく。待っていた時間はそう長くなかった。あっという間に数十冊ほど集めてきて、大小さまざまな書物が机に並べられる。

「よーしまずはこの本!」

 最初に手に取りページをめくった本は、色鮮やかな絵が描かれたあたしもよく知る絵本だった。

「これって御伽噺よね。セイヴァーが生まれた理由みたいな」
「そうそう!昔々、強い魔力を持っていた悪魔の王様と人間の女王様のお話。
 それぞれの種族を守るため、命を懸けて戦った末、世界中に2人の力が散らばり、セイヴァーと魔物が生まれたという。
 この話が本当かどうか、それでセイヴァーと魔物が生まれたのか、わからないんだけど、これ以外に有力な説が無いから、千歳も知っての通り信じられてるんだ。
 それで、僕たち魔力を持った人間を悪魔の王様に近しい存在と捉えるか、女王様と同じような存在と捉えるかで扱いはガラリと変わるから、地域によっては……僕たちは差別の対象になる。
 揺るがぬ事実として、魔力とは人にとって触れれば命を奪われる死の力であり、魔物にとっては命であり体であり、セイヴァーにとっては魔物の攻撃から自分を守る盾であり、魔物を倒す魔法を使うために必要なエネルギー。
 人と魔力。相容れないはずの二つを持ち合わせている僕らの立場の難しさはよくわかるよね」

 静かに頷いてその言葉の意味をかみしめていた。魔力を持っていることが分かった時点であたしたちはその道を一つに定められる。それだけ、この世界にとって大きな影響を齎す力を手にしているのだと今一度胸に刻み込む。

「最近の研究でセイヴァーは恋愛感情をいだきにくいことが明らかになったし、ずば抜けた身体能力の点からも人間のようで人間じゃないって見方が優勢な傾向にあるかな。
 この、身体能力は魔力の発達とともに小さなころ、特に5~6歳くらいから顕著になってくる。だからここムセウム所属の騎士が国内を回ってその年頃の子供に魔力の有無を調べる診断を行うんだ」

 絵本をしまってリントは新しい本を取り出した。

「このタイミングの診断にはもう一つ意味がある」

 自然と呼吸が浅くなるのが分かった。言及されるのは覚悟していたけど、表紙に金色の字で描かれた言葉から目が離れない。声に出してそれを言ったのが自分だということは後からわかった。

逆鱗マレディクシオ……」
「そう。魔力を制御することができない子供がまれに起こす力の暴走。その威力は優れた魔術師の放つ極大魔術を軽く凌駕する。その子も周りも無事じゃすまない。
 これが起こる前に人から隔離したいからっていうのが、もう一つの意味」
「そう、だね」
「だから診断を受けた見習ソルダが最初に学ぶのは魔力制御の方法。僕も同じことを千歳とやってみようと思うんだ。
 わかってると思うけど、千歳はここがちょっとだけ苦手でしょ?」
「気を使わないで……ちょっとなんてもんじゃない」

 できる時とできない時の差が大きすぎる。それがあたしの現状だった。何年も同じことを言われて、必死に治そうとしたけれど、のところにいてようやく少しマシになっただけ。

「リント……ここからどうにかなると思う?」
「それはやってみないと分からないよ。だけど、どうにかする気満々だってことは覚えておいて!解決策は無数に考えられるし、とにかくめげないでついてきて!
 じゃあ今から解決策第一弾の説明をするね。終わったら、さっき隣の演習室も借りておいたから、そこで実践やってみよう!」

 リントの言葉を一言一句聞き逃さないように、最初から最後まで真剣に聞いていた。
 どれか一つでも良くなる方法が見つかるなら、なんだっていい。
 これさえできれば……あたしはきっと……




 ────────────────────




 リントと千歳が演習室の扉を閉めたその時、ムセウムエントランスホールに数十人の赤服騎士が入場した。その中の一人が受付に出て、所属を書き記す。
 本館第一部隊、新人スタージュ階級と。
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