Noble Оrdre‐白と黒の騎士団‐

宿理漣緒

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第一章 導かれた少女

14 白服の騎士

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 目を覚まして、さっきまでのことが夢だけど本当にあったことなのはすぐにわかった。涙の跡はないけれど、体が嘘みたいに軽かったから。
 自室を出て階段を降りると、四階の踊り場で阿朱羅と宇賀神が待っていてくれた。
 ……そこからなぜか一緒にご飯を食べて、ちょっとゆっくりしてから宇賀神の風でここに連れてこられたんだけど

「これはいったい……どういうことなの?」

 本館の裏庭、屋外闘技場に西館のみんなと沢山の第一部隊の人たちがいて、因縁の相手、万場莉々の実の父であり、名のある教官である万場部隊長が急に特別授業みたいなことを始めるって言ってて……何が何だかわからない。

「いや~……僕たちもわからなくて。いや、わかってはいるか!だめだ~!もう言いたいことが多すぎて伝えきれないよ!菊さん簡潔にまとめて!」
「千歳のために……戦ってたら、こうなってた」
「うん!めっちゃ簡潔!!そういうことなんだけど、わかった?」
「ちょっと無理だけど……わからないのがあたしだけじゃないってことはわかった」

 肩越しに後ろを見ると、宇賀神が先ほどまで戦っていたらしい紫月に回復の魔法をかけてくれている。浅い呼吸を繰り返しているのは心配だけれど、傍らに立つ阿朱羅の肩を叩き、どことなく安堵したように笑う様子を見てあたしもほっとした。

「待ちくたびれました。ですが、ありがとうございます」
「紫月こそ相原さん相手に敢闘してくれたようですね。本当にお疲れ様です。ゆっくり休んでください……と言ったものの、ここからどうしましょうか」
「ま~ま~とりあえず、あちらさんの流れに身を任せてみよーよ。悪いようにはしないだろーし」

 先ほどから第一部隊は何かを話し合っているようで動きがない。けれど、この闘技場を見下ろす多くの騎士たちの期待は時の経過とともに高まっていってるのを体中にビシビシと感じるから、なんだか落ち着かない。

「あ。そうだ~リンリンこの待ち時間を利用して、お嬢さんにあれ渡したら?」
「そうだね!お待たせしちゃったけどあれが遂に完成したよ!じゃじゃん!」
「これは……」

 あたしの右手をとって、リントはポケットの中から取り出したものをつけてくれた。金のリングが三つ重なったような腕輪。みんなのものと見比べてみると、やっぱりはめ込まれている宝石や、あしらわれている装飾が少し違う。
 一番上のリングを二回音が鳴るまで回した後、宙に十字を描くように言われ、ドキドキしながら腕輪に手をかけた。
 眩しい光が体を包み込む。赤服が微かに体を締め付け、その反動で膨らんだと思ったら着ている服が変わっていた。
 身にまとっていたのは西館騎士の象徴、白服だったけど、白の外套に黒のラインが走る茶色のブーツ以外はデザインがかなり違う。

「ふっふっふ~!伸縮性のある素材で作られた首中ごろまであるノースリーブの黒いトップスの上に白のペプラムトップス!その上に胸部の白い甲冑!スカートは高級感が出るように!金のラインで縁取られたプリーツスカート!(一息)
 デザイン性、機能性ぜーんぶ拘りぬいた!世界に一つだけの、千歳の白服だよ」

 世界に一つだけ……あらかじめ聞いてはいたけど身に着けると予想以上に感動して、回ったり、かかとを鳴らしてみたり、一日中見ていても飽きない、なんて言えるほど浮かれてた。

「幾導!神呂木!フィールドに入れ」

 第一部隊の騎士たちの中からでも矢のようにまっすぐ、鋭い声が飛んできた。

「えっ」
「おっと、ご指名かかっちゃったじゃん」
「これから何が始まるんでしょう」
「よくわかんないけど頑張って!」
「……応援してる」
「じゃあ、行きましょうか」

 急に名前を呼ばれて戸惑ってはいるけれど、みんなに見送られながら、阿朱羅と一緒に歩きだす。一礼して線の内側に足を踏み入れる前に、忘れてたことを思いだした。

「宙に十字……!」
「そうでしたね。初めてですし、一緒にやってみましょう。腕輪に魔力を送り込むイメージで……そのまま右手を出して、せーのっ」

 描かれた光の線は赤く輝き、その中に手を伸ばしてグリップを握る。
 銀の刀身にあしらわれた綺麗な金の装飾。緋色のグリップは手によくなじんで、何もかも変わっているのに、確かにずっと使いこんできたあたしの剣なんだと感じられる。
 これも世界でたった一つ。リントが良くしてくれた剣……たくさんの思いを感じつつ、意を決して線を踏み越えた。

 位置につく阿朱羅とあたしは少し遅れてやってきた相手に驚きを隠せない。万場莉々と万場部隊長の親子が剣を持って、位置についた。

「これより王兵一対ランヴェルスマンを行う」

 王兵一対ランヴェルスマン……確か、剣士同士の戦いの形式だったはず。一定時間ペアの剣士がモナルカファンテに分かれ、相手のファンテの攻撃からモナルカを守りつつ、相手のモナルカにダメージを与える。それがより多かったほうが勝つというルール。
 ……同期同士ゲーム感覚で行う人ならば、万場莉々ならば慣れているだろうけど、あたしは今回が初めての初心者。

モナルカは序列が上の者が務める。こちらは私、そちらは神呂木だ。制限時間は2分。10秒後に開始する」

 作戦を話し合う時間はわずかしかない。急いで阿朱羅の方に向き直ると、目が合っていつも通りの柔らかな笑みで

「俺は相手の攻撃には当たりません。防衛はせずに、万場部隊長と打ち合ってください。そして、2分間の中で一度だけ本気で攻撃してください」
「一度だけ……」
「そうです。それで充分です。あなたの剣は絶対に届きます」

 迷いや不安は消え去った。自分を力を認めてくれていることが視線から、声から、伝わってきてゆるぎない自信になる。

「勝負開始」

 声が聞こえ、あたしは一直線に走り出した。莉々のほうも同じく阿朱羅に向かって走っていくのが見えるけど、言われたとおり、構わず間合いを詰め、万場部隊長めがけて剣を振り下ろす。
 肩に向けた突きも胴を狙った薙ぎ払いもあたらない。あたらないけど、かつてないほど体が軽いおかげで足をかけられたり、剣を叩き落とされたりする隙を与えることなく、一方的に攻められる。
 様子見とはいえ、結構きわどいところを狙ってるのに、あたしだったら受け流す攻撃もわずかな動きで躱しにくる……第一部隊、そのトップ。相手も阿朱羅と同じ……どんなにこっちの調子が良くても、基本の剣術になんてあたらないんだ。
 どちらも実力者のモナルカだから、あたしが一回でも、一滴ほど少ないダメージでも与えられたら、この勝負に勝てる。
 つまり剣と剣が当たればいいだけ……
 一度だけの本気の攻撃……

 序列試験を受ける時に先生に言われたことがある。一つのことに集中した方がいいって。魔力をうまく制御できないあたしの唯一、何度やっても安定して放てる剣術。
 試験中それだけで戦って、結果は序列2位。
 今回もを信じてみよう。

 攻めて、攻めて、攻め続けて、残り10秒。観客たちがカウントダウンを開始した。

 ぐっと踏み込み、時間ギリギリまで間合いを詰める。勝負終了0,5秒前、あたしは賭けに出た。
 左足を払って着地とともに薙ぎ払い、その反動に逆らうように上体を落として一回転しきる前!タイミングを早めて斬りあげる!
 瞬間、響いた剣と剣の交わる音。
 シューラの教えてくれた剣舞の動きから繰り出された渾身の一閃を、万場部隊長は胸の前で受け止めていた。
 そのすぐ後ろ、太陽の光を反射する銀の刀身が目に焼き付いて息が止まる。

 本当に届くって信じてくれてた。

 永遠に感じられたその一瞬、受け止めたことにより生まれた隙を狙い、背後に迫っていた阿朱羅が万場部隊長の背に剣を振り下ろした。
 与えられたダメージに驚いたかのように目を見開いて、120秒が0になる。

「……お前たちの勝ちだ」
「……」

 ほどなくして頭上から降ってきた言葉をすぐには理解できず、あたしはその場に立ちつくしていた。歓声も、目に見えてる景色も、どこか遠くに感じて、自分の呼吸だけがはっきりと聞こえている。

「千歳さん」
「阿朱羅……あたしたち、勝ったの?」
「そうですよ。誰が見ても文句なしの完全勝利です。手を出して」
「こう?」

 ハイタッチの音が耳に飛び込んできて、ようやく勝利を手にしたんだという実感が押し寄せる。
 勝てた……シューラが教えてくれた剣舞の一太刀で。

「や……」
「やっっっったーーーーーー!!!」

 あたしが言う前に底向けに明るいリントの声が聞こえて、後ろを振り返る。

「千歳とリーダーで万場ファミリーに完全勝利!」
「……すごかった。お疲れ……」
「千歳さんの実力……誰が見ても確かなものだと伝わりましたね」
「お嬢さんの初陣大金星。お疲れ様~」

 みんなが笑って、労ってくれた。それだけなのに、なぜか涙が出る。
 悲しいわけじゃない。ただ、これは、あたしにとって初めて手にした勝利で。
 ずっとずっと、試験を受けることができなかった2年間、毎日練習してできたシューラの剣舞で勝てて、あの時間が実を結んだって初めて思うことができた。

「ほんとに……勝てたんだ……」

 2年遅れの劣等感も、うまく魔力を制御できなかった焦燥感も、レールから外れた疎外感も、眠れなかった夜も、誰もいない暗い世界も、全てがあたしを創ってる。

「……ごめん。また涙、止まらなくて」
「いいんですよ。ずっと頑張ってきたこと、知ってますから。俺もこの勝利が何より嬉しいんです」

 あたしの顔を隠すように阿朱羅が外套をかけてくれた。頭を撫でる手が優しいから、現実でも夢の中と同じ、子供みたいに泣いてしまう。

「わー!えっと!千歳大丈夫?ぼ、僕も撫でたほうがいいかな?」
「……俺も」
「では私も」
「はーいみんなでわしゃわしゃ~」

 どんどん手が増えていくのがなんだか面白くって、いつの間にか笑ってた。

「今までごめん。でも、ありがとう……」

 心からの笑顔で、目を見てはっきりそう伝えられた。




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