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第一章 導かれた少女
15 戦場の星
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勝利を喜ぶ西館を背に、万場部隊長は娘の莉々と向かい合い、岩壁を貫くような鋭い視線を浴びせた。
「幾導千歳の去年の序列試験の件、国内全土に広まった試験不正の噂……お前が関わっているな。莉々」
赤い唇を引き結び黙る娘に、部隊長として返事をするよう命令した。言葉を発することはなかったが微かに頷いて自らの罪を認める。
なぜこんなことをしたのか告白しろとは命じなかった。良き育成者であり、実の父であるこの人にはすべてがわかっていたからだ。
部隊長の娘という肩書に押しつぶされ、いつしか心が歪み、自分よりも優れた者に対する礼節を欠いてしまった。彼女はずっと、間違った方法で心を守ろうと罪を重ねてきたのだと。
「幾導千歳は才ある剣士だ。そのセイヴァーの旅立ちの機会を三度も奪おうとした罪の重さは計り知れぬ。
我が国の誉れ、第一部隊の部隊長としてお前には厳しい処分を下す。私の娘だという誇りがあるのならば奈落からでも這い上がる不動の強さを身につけて帰ってこい」
「承知しました……」
「下がってよし。そして目に焼き付けろ。騎士としてのお前に欠けていた心を教えてやる」
マントを翻し、万場部隊長は相原を呼びつける。回復魔法で先の戦いの傷を癒すと、胸を張って堂々たる歩みで再びバトルフィールドの中へ行く。
「これより本日最後の試合を行う!西館特殊部隊部隊長、神呂木阿朱羅!前へ!」
────────────────────
万場部隊長の次なる指示は、西館4人にとって意想外のものであった。しかし、当の本人、阿朱羅はこうなることをわかっていたのか、すでに弓を握っている。
泣き止んだ千歳から外套を受け取ると、微笑みを残して背を向け、フィールドへと歩き出す。
「肩の力抜いて頑張って~」
「リーダーファイトー!」
「さっきの試合も……驚いたけど……この試合も、予想外」
「目的は達成しましたし、結果上々ですが……万場部隊長は何を考えているのでしょう」
「紫月、目的ってなに?」
「試験に不正はなかったと認めさせることです」
仁樹含め4人は今日の作戦について大体のことを千歳に話した。
西館の狙いは主に二つ……
紫月、左茲、リントの三人は『第一部隊の方がより上の序列に相応しい』という莉々の唱えた主張を真っ向から否定するために、本館の人間からよく見えるここで第一部隊と戦っていたのだ。
エリートという評判もあれば、一発屋というあだ名もある現状……自分たちの強さを示し、曖昧な評価を良いものに確定させることができれば、そもそも不正の噂など誰一人として本気にしないだろうという考えからくる行動であった。
阿朱羅は千歳を部屋から出し、万場莉々と対戦する状況を作り出そうとした。より直接的に事態を解決しようと動いていたのだ。
序列2位対序列3位の戦いを、莉々の実父であり、上層部の人間でもあり、指導者としても力のある万場部隊長に見てもらい、不正はなかったと流布してもらうつもりだった。
「まぁ正直……あの万場部隊長なら良いようにしてくれるとは思ってたんだよね」
なにやら含みのある仁樹の言葉の意味は4人には分からない。万場部隊長はなぜこちらに協力するようなそぶりを見せるのか、不思議に思うのは山々だが、それは一旦置いておき、これから始まる最後の勝負に集中することにした。
歓声が飛び交う裏庭『屋外闘技場』で白服の騎士と赤服の騎士が相対し、一礼する。
「お前と戦うのはあれ以来か……書類仕事ばかりして腕は鈍ってないだろうな?神呂木」
「戦えばわかりますよ。勝つのは俺ですが」
そう言って、天を仰ぎ息を吐きだす。再び向き直った阿朱羅は先ほどまでとは違っていた。見た者を直ちに平伏させんばかりの威圧感を放ち、激昂した肉食獣を思わせる鋭い視線を向ける。
「そうだ。お前はそれでいい」
闘争心むき出しの元教え子に挑発的な笑みを見せる。その表情はなぜか生き生きしているように見えた。
「勝負開始です」
藍原の号令がかかり、刹那、眩い二色の光が激しくぶつかり合った。
煙る砂塵の中、辛うじて見えるのは槍を振り下ろす万場部隊長の影と、間合いに入らぬよう距離を取り杖を掲げる阿朱羅の影。
突如吹き荒れた風雨が砂塵をしずめ、フィールド内の状況が見えるようになる。万場部隊長は槍を持っていたが、阿朱羅の手にはもう杖はなく、剣が握られていた。
「……何が起こってるの」
一瞬で姿を変える激しい戦いに千歳は唖然としていた。けれどその目は西館で模擬戦を見た時のようにキラキラと輝いている。
「最初は弓を持ってたはずよね……次は杖で、今は剣」
「弓を持ってた理由はあれだよ」
リントが指さしたのは万場部隊長のはるか頭上に展開されている魔方陣。丁度、魔方陣が光を放った。
金色の光が雨のように降り注ぐ。
万場部隊長の動きに合わせて魔方陣はぴったりと後を追う。素早く動き続けていなければ回避できない。そこに、杖に持ち替えていた阿朱羅が逃げる進路を狙って的確に水の魔術を撃ち込む。
「≪驟雨≫……リーダーの弓の極大魔法。回避するには素早く動き続けるしかないから、弓射士や魔術士をはじめとする遠隔攻撃型の騎士にめっぽう強い。
となると、リーダーへの攻撃は近接攻撃のほうが適しているんだけど万場部隊長にはリーダーに近づきたくない理由があるんだ」
「何、理由って」
「序列上位の魔法使いは自分の体の魔力が溜まりやすい場所に術を仕込んでることが多いんだ。
リーダーの場合は目だよ……≪アズール・リコルディ≫って魔法で、目があった相手に精神支配魔法をかけることができるんだ。
たとえ目が合わなくても、ぼんやり視界に入ってるだけで集中力をかなり削がれるから万場部隊長は終始かなり不利な状況で戦わざるを得ないよ」
しかしトップ騎士の意地か、相手の戦い方を熟知しているからか、今現在、攻撃が命中する割合は万場部隊長の方がやや上の様子である。
「阿朱羅くんの魔力量は引き抜いてきた頃からずば抜けていましたからね。これくらいのペースで命中させないと確実に敗北します」
いつの間にか自陣から西館の方にやってきていた相原が付け足す。今日初めて顔を合わせ戸惑う千歳に騎士の礼をした後、再び激しい光線が飛び交い始めたフィールドに目を向ける。
「万場様は管理騎士を務めるセイヴァーが史上最も多く在籍している今の正騎士階級の中では序列1桁台後半から10位台前半ほどに落ち着いていますが、基礎、精神力、適応力は誰よりも優れています。
特に槍や剣などの近接攻撃は体に染みついていますから、集中力を削がれたくらいでは崩れませんよ」
戦いは一瞬のうちに剣対剣に変わっていた。相原の言葉通り万場部隊長の太刀筋は基本に忠実で全く癖がなく少しの無駄もない。自由自在にテンポを変えながら攻める阿朱羅に翻弄されることなく、的確に対応し隙をついて鋭く繰り出した一閃を命中させる。
「……押されてる」
「ほんとだ!≪アズール・リコルディ≫の影響下にあってもこの動き……万場部隊長すごすぎるよ」
しかし、一流同士の戦い。どちらかが一方的に攻める展開にはならない。
金色の雨が降り注ぎ、万場部隊長は一旦ひいて走り出す。持った剣はそのままに、光の線を描き、空いた片手で杖を持つ。
「≪イムベル≫」
呪文とともに巻き起こった金色の風が、逃げる万場部隊長を空へ吹き飛ばし≪サギタ・アヴェルス≫に被弾させる。
「ねぇ……」
今度は風使いの魔法を使った。勝負の始まりから抱いていた疑問を千歳はみんなに問いかける。
「阿朱羅って幾つの武器を扱えるの……剣序列1位だけじゃないんでしょ」
「あれ?すーちゃん、お嬢さんに言ってなかったの?」
「はっきりとは言ってませんね……噂話ともに本部では有名な話ですから、知っているものだと」
「有名な話……?」
「リーダーは新人階級序列1位!すべての武器に於いて、ね」
「すべての武器。そんなことできるの……じゃあ噂話って言うのは」
「……戦場の星。フォルテ・チッタ支部にいた時から……そう噂されてた……ですよね」
「左茲くんの言う通りです。あの金色の魔力の輝き。勝ちに執着するが故の超攻撃的戦術。
噂話は今現在、圧倒的な個の力の持ち主である彼を崇めるような意味合いになっていますが……その昔は星座に成れない星のように孤高で連携戦術ができないという後ろ向きなものでした」
「え!そうなんですか?」
驚いているのはリントだけではなかった。仁樹以外の全員が昔の話は知らなかったようでその続きに耳を傾ける。
「確かに昔も圧倒的に強かったのですが、どこか歪でした。そんな彼に連携を教え、洗練された動きを叩きこみ、部隊を率いるまでの騎士に成長させたのは万場様です。
二年という短い期間で万場様の教えを全て吸収した最高の教え子、それが君たちの知っている阿朱羅くんです」
「……阿朱羅、勝てるんですか。自分の、先生に……」
「さて、どうでしょうね。勝負は運も絡みますからね、少しの要素でひっくり返ります。それにもうすぐこの光景が一変します。そうですよね、紫月くん」
「……一変する、というと≪サギタ・アヴェルス≫の効果がそろそろ終りますね。そこからが勝負ってことですか」
「万場部隊長もあしゅちゃんもまだとっておきを残してるからね」
金の雨が止み、魔方陣が消える。すると、両者は全く同じタイミングで持っていた武器を手放した。
そのまま互いに距離を詰め、先手を打ったのは阿朱羅……相手の胸部に肘を当てるような体当たり。見ているだけでは想像もつかない静かなうなりを秘めた強力な一撃をまともに食らわないように、万場部隊長は見切って上体を落とし、懐に入り込み首を突く。
その間一秒にも満たない激しい攻防。
「これって、体術……?あたし初めて見た」
「体術士は風使いの次に数が少ないですからね。中でも特に阿朱羅さんの繰り出す技は他の体術士とは性質が違う。
一撃一撃に体重が乗って、急所を狙うので、当たれば当たるほど敗北に近づく。今も当たりましたね」
その攻撃は見えない。相手をしている万場部隊長ですらも感知できない、視覚と触角を欺く、翻える浪のごとき突き。仕掛けられれば必ず命中する骨身に響く打撃を相手取っても、急いて攻めることはない。隙のある攻撃では体を捕らえられ今以上の大ダメージを与えられると知っているからだ。
両者一歩も譲らない体術の戦いは特に長く続いた。
回復魔法をかける暇などなく、互いの魔力が刻一刻と無くなっていく。
ついに焦ったのか、万場部隊長がミスを犯した。
阿朱羅の右肩に拳を命中させるが、体勢は少しも乱れずそのまま懐に入り込まれ脇を体重の乗った肘で体当たりされる。
鍛え上げられた騎士の男がそれだけの動きで数メートル先まで吹っ飛んだ。だが、その先には魔法の杖が地に突き刺さっており……立ち上がると同時、阿朱羅に球体結界を張りその場から動けないように閉じ込める。
その意図を察して阿朱羅は結界内で光の線を描こうとしたが、腕輪が反応しない。
一筋の汗が頬を伝った。さっきの攻撃はミスではない。緻密な計算の下、狙いすました一撃だったのだ。
「攻撃を食らってでもお前の右腕に流れる魔力を阻害し、武器を出させぬようにする。全てはこの一撃を確実に命中させるためだ」
黄色の光を帯びた巨大な魔方陣が、結界に閉じ込められた阿朱羅の頭上に展開される。
「自分と相性の悪い属性の極大魔術を会得するのは至難の業であった……だが、モノにした今、お前に敗北を突きつけることができる。
その結界は魔術が発動した瞬間に消え、魔法使いに成れない今のお前では防ぐ術がない。これまでの戦いで消費した魔力量から見て、弱点の雷属性の極大魔術を受ければ、お前は確実に魔力切れになる」
鮮やかな作戦に騎士たちは声を上げた。
嘆く声と喜ぶ声が入り混じった歓声の中で、西館と仁樹は何とかする方法はないのかと訴えかけんばかりに眉根を寄せる。
「≪アヴェント・エクレール≫」
落雷が降り注ぎ、立っていられないほどの衝撃波がフィールドを覆う結界を揺るがし、打ち壊した。
強い光と吹きすさぶ突風から目を庇う。
それは長い長い勝負の終わりを告げるものだった。
風は止み、裏庭は砂塵と静寂に包まれる。
カラカラカラ……
千歳は徐に顔を上げ、砂塵の中から聞こえる微かな音を追いかけた。
うっすらと影が見える。
何かを引き摺りながら、一歩一歩進んでいく。そして、振り下ろした。
鼓膜に飛び込む、空を切る音。
カランカランと音がして、千歳のブーツの爪先のすぐ近くに何かが落ち、転がる。
視界が晴れてゆく。
落ちていたのは万場部隊長の杖だった。
弾かれた様に目を向けたフィールド内、阿朱羅が万場部隊長に切っ先を向けて立っていた。
両者とも肩で荒く呼吸しているのは同じ。でも……
「俺の勝ちです」
刀身で肩を押す。万場部隊長の体はぐらりと傾いて地に伏した。
「勝っ……た……んですか……?」
「た、多分……」
5人は顔を見合わせる。今見てる景色はどうやら夢じゃないらしい。
「勝った。リーダー勝ったんだ……すごい!!」
リントの言葉を皮切りに阿朱羅のもとに駆け寄り、5人は再び手にした勝利の喜びを分かち合った。
まだ大半の騎士たちが言葉を失っている静けさの中、底抜けに明るい声が逆転劇の答えを明かす。
「まさか≪インシエーメ≫がほんとにできちゃうなんてすごいとしか言えないよ!
自分の体に流れる一定量の魔力を操作して、結合させて、体内に結界のようなものを作り、残りの魔力を守り切る!繊細すぎる魔力制御が要求される机上の空論だったはずなのに……現実に起こるなんて!」
新しい術を使用し、負けの結果をひっくり返した。この目で見届けた奇跡に遅ばせながらも観衆が賞賛の拍手を送る。
伏していた万場部隊長はゆっくりと起き上がる。ぐったりとした顔で天を仰ぎ、俯くと、肩が小刻みに揺れはじめ……
「……っふ……っハハハハハハハハハハハハハハ!」
地に寝転んだと思ったら、次の瞬間、思い切り破顔した。勝負に負けたというのに、晴れ晴れとした表情だった。
分厚い灰色の雲が裂けて、王都に橙の陽光が降り注ぐ。
ひとしきり笑った後、また立ち上がって阿朱羅へ、西館の騎士達へ丁寧に丁寧に騎士の礼をした。
「そうだ。お前はそれでいい。次やる時は私が勝つ……またの機会を楽しみにしている」
「望むところです。本日は、ありがとうございました」
握手を交わし、万場部隊長は本館の方に向き直って、育成者としてこの場にいる全員に説いた。
「皆の周りに強者はいるか!その者に挑むこと……それは何より尊い未来への宝だ。
まず、己を嘆くな。嘆いていては一歩も進めない。挑むものとして正しい誇りを持て。
そして己を研ぎ澄ませろ。精神の曇りを振り払い、理想ではなく、今と己に向き合え。
望む未来を引き寄せる確かな進路は今作られている。想像しろ!お前の心全てで。飛び立つ旅路を!きっかけを!
共に生きる全てのセイヴァーに光あれ!」
今日一番の地鳴りのような歓声が起こる。
窓を開け、投げられた花弁や紙吹雪が、戦い抜いた騎士たちのもとにゆっくり、そっと降り注いだ。
「幾導千歳の去年の序列試験の件、国内全土に広まった試験不正の噂……お前が関わっているな。莉々」
赤い唇を引き結び黙る娘に、部隊長として返事をするよう命令した。言葉を発することはなかったが微かに頷いて自らの罪を認める。
なぜこんなことをしたのか告白しろとは命じなかった。良き育成者であり、実の父であるこの人にはすべてがわかっていたからだ。
部隊長の娘という肩書に押しつぶされ、いつしか心が歪み、自分よりも優れた者に対する礼節を欠いてしまった。彼女はずっと、間違った方法で心を守ろうと罪を重ねてきたのだと。
「幾導千歳は才ある剣士だ。そのセイヴァーの旅立ちの機会を三度も奪おうとした罪の重さは計り知れぬ。
我が国の誉れ、第一部隊の部隊長としてお前には厳しい処分を下す。私の娘だという誇りがあるのならば奈落からでも這い上がる不動の強さを身につけて帰ってこい」
「承知しました……」
「下がってよし。そして目に焼き付けろ。騎士としてのお前に欠けていた心を教えてやる」
マントを翻し、万場部隊長は相原を呼びつける。回復魔法で先の戦いの傷を癒すと、胸を張って堂々たる歩みで再びバトルフィールドの中へ行く。
「これより本日最後の試合を行う!西館特殊部隊部隊長、神呂木阿朱羅!前へ!」
────────────────────
万場部隊長の次なる指示は、西館4人にとって意想外のものであった。しかし、当の本人、阿朱羅はこうなることをわかっていたのか、すでに弓を握っている。
泣き止んだ千歳から外套を受け取ると、微笑みを残して背を向け、フィールドへと歩き出す。
「肩の力抜いて頑張って~」
「リーダーファイトー!」
「さっきの試合も……驚いたけど……この試合も、予想外」
「目的は達成しましたし、結果上々ですが……万場部隊長は何を考えているのでしょう」
「紫月、目的ってなに?」
「試験に不正はなかったと認めさせることです」
仁樹含め4人は今日の作戦について大体のことを千歳に話した。
西館の狙いは主に二つ……
紫月、左茲、リントの三人は『第一部隊の方がより上の序列に相応しい』という莉々の唱えた主張を真っ向から否定するために、本館の人間からよく見えるここで第一部隊と戦っていたのだ。
エリートという評判もあれば、一発屋というあだ名もある現状……自分たちの強さを示し、曖昧な評価を良いものに確定させることができれば、そもそも不正の噂など誰一人として本気にしないだろうという考えからくる行動であった。
阿朱羅は千歳を部屋から出し、万場莉々と対戦する状況を作り出そうとした。より直接的に事態を解決しようと動いていたのだ。
序列2位対序列3位の戦いを、莉々の実父であり、上層部の人間でもあり、指導者としても力のある万場部隊長に見てもらい、不正はなかったと流布してもらうつもりだった。
「まぁ正直……あの万場部隊長なら良いようにしてくれるとは思ってたんだよね」
なにやら含みのある仁樹の言葉の意味は4人には分からない。万場部隊長はなぜこちらに協力するようなそぶりを見せるのか、不思議に思うのは山々だが、それは一旦置いておき、これから始まる最後の勝負に集中することにした。
歓声が飛び交う裏庭『屋外闘技場』で白服の騎士と赤服の騎士が相対し、一礼する。
「お前と戦うのはあれ以来か……書類仕事ばかりして腕は鈍ってないだろうな?神呂木」
「戦えばわかりますよ。勝つのは俺ですが」
そう言って、天を仰ぎ息を吐きだす。再び向き直った阿朱羅は先ほどまでとは違っていた。見た者を直ちに平伏させんばかりの威圧感を放ち、激昂した肉食獣を思わせる鋭い視線を向ける。
「そうだ。お前はそれでいい」
闘争心むき出しの元教え子に挑発的な笑みを見せる。その表情はなぜか生き生きしているように見えた。
「勝負開始です」
藍原の号令がかかり、刹那、眩い二色の光が激しくぶつかり合った。
煙る砂塵の中、辛うじて見えるのは槍を振り下ろす万場部隊長の影と、間合いに入らぬよう距離を取り杖を掲げる阿朱羅の影。
突如吹き荒れた風雨が砂塵をしずめ、フィールド内の状況が見えるようになる。万場部隊長は槍を持っていたが、阿朱羅の手にはもう杖はなく、剣が握られていた。
「……何が起こってるの」
一瞬で姿を変える激しい戦いに千歳は唖然としていた。けれどその目は西館で模擬戦を見た時のようにキラキラと輝いている。
「最初は弓を持ってたはずよね……次は杖で、今は剣」
「弓を持ってた理由はあれだよ」
リントが指さしたのは万場部隊長のはるか頭上に展開されている魔方陣。丁度、魔方陣が光を放った。
金色の光が雨のように降り注ぐ。
万場部隊長の動きに合わせて魔方陣はぴったりと後を追う。素早く動き続けていなければ回避できない。そこに、杖に持ち替えていた阿朱羅が逃げる進路を狙って的確に水の魔術を撃ち込む。
「≪驟雨≫……リーダーの弓の極大魔法。回避するには素早く動き続けるしかないから、弓射士や魔術士をはじめとする遠隔攻撃型の騎士にめっぽう強い。
となると、リーダーへの攻撃は近接攻撃のほうが適しているんだけど万場部隊長にはリーダーに近づきたくない理由があるんだ」
「何、理由って」
「序列上位の魔法使いは自分の体の魔力が溜まりやすい場所に術を仕込んでることが多いんだ。
リーダーの場合は目だよ……≪アズール・リコルディ≫って魔法で、目があった相手に精神支配魔法をかけることができるんだ。
たとえ目が合わなくても、ぼんやり視界に入ってるだけで集中力をかなり削がれるから万場部隊長は終始かなり不利な状況で戦わざるを得ないよ」
しかしトップ騎士の意地か、相手の戦い方を熟知しているからか、今現在、攻撃が命中する割合は万場部隊長の方がやや上の様子である。
「阿朱羅くんの魔力量は引き抜いてきた頃からずば抜けていましたからね。これくらいのペースで命中させないと確実に敗北します」
いつの間にか自陣から西館の方にやってきていた相原が付け足す。今日初めて顔を合わせ戸惑う千歳に騎士の礼をした後、再び激しい光線が飛び交い始めたフィールドに目を向ける。
「万場様は管理騎士を務めるセイヴァーが史上最も多く在籍している今の正騎士階級の中では序列1桁台後半から10位台前半ほどに落ち着いていますが、基礎、精神力、適応力は誰よりも優れています。
特に槍や剣などの近接攻撃は体に染みついていますから、集中力を削がれたくらいでは崩れませんよ」
戦いは一瞬のうちに剣対剣に変わっていた。相原の言葉通り万場部隊長の太刀筋は基本に忠実で全く癖がなく少しの無駄もない。自由自在にテンポを変えながら攻める阿朱羅に翻弄されることなく、的確に対応し隙をついて鋭く繰り出した一閃を命中させる。
「……押されてる」
「ほんとだ!≪アズール・リコルディ≫の影響下にあってもこの動き……万場部隊長すごすぎるよ」
しかし、一流同士の戦い。どちらかが一方的に攻める展開にはならない。
金色の雨が降り注ぎ、万場部隊長は一旦ひいて走り出す。持った剣はそのままに、光の線を描き、空いた片手で杖を持つ。
「≪イムベル≫」
呪文とともに巻き起こった金色の風が、逃げる万場部隊長を空へ吹き飛ばし≪サギタ・アヴェルス≫に被弾させる。
「ねぇ……」
今度は風使いの魔法を使った。勝負の始まりから抱いていた疑問を千歳はみんなに問いかける。
「阿朱羅って幾つの武器を扱えるの……剣序列1位だけじゃないんでしょ」
「あれ?すーちゃん、お嬢さんに言ってなかったの?」
「はっきりとは言ってませんね……噂話ともに本部では有名な話ですから、知っているものだと」
「有名な話……?」
「リーダーは新人階級序列1位!すべての武器に於いて、ね」
「すべての武器。そんなことできるの……じゃあ噂話って言うのは」
「……戦場の星。フォルテ・チッタ支部にいた時から……そう噂されてた……ですよね」
「左茲くんの言う通りです。あの金色の魔力の輝き。勝ちに執着するが故の超攻撃的戦術。
噂話は今現在、圧倒的な個の力の持ち主である彼を崇めるような意味合いになっていますが……その昔は星座に成れない星のように孤高で連携戦術ができないという後ろ向きなものでした」
「え!そうなんですか?」
驚いているのはリントだけではなかった。仁樹以外の全員が昔の話は知らなかったようでその続きに耳を傾ける。
「確かに昔も圧倒的に強かったのですが、どこか歪でした。そんな彼に連携を教え、洗練された動きを叩きこみ、部隊を率いるまでの騎士に成長させたのは万場様です。
二年という短い期間で万場様の教えを全て吸収した最高の教え子、それが君たちの知っている阿朱羅くんです」
「……阿朱羅、勝てるんですか。自分の、先生に……」
「さて、どうでしょうね。勝負は運も絡みますからね、少しの要素でひっくり返ります。それにもうすぐこの光景が一変します。そうですよね、紫月くん」
「……一変する、というと≪サギタ・アヴェルス≫の効果がそろそろ終りますね。そこからが勝負ってことですか」
「万場部隊長もあしゅちゃんもまだとっておきを残してるからね」
金の雨が止み、魔方陣が消える。すると、両者は全く同じタイミングで持っていた武器を手放した。
そのまま互いに距離を詰め、先手を打ったのは阿朱羅……相手の胸部に肘を当てるような体当たり。見ているだけでは想像もつかない静かなうなりを秘めた強力な一撃をまともに食らわないように、万場部隊長は見切って上体を落とし、懐に入り込み首を突く。
その間一秒にも満たない激しい攻防。
「これって、体術……?あたし初めて見た」
「体術士は風使いの次に数が少ないですからね。中でも特に阿朱羅さんの繰り出す技は他の体術士とは性質が違う。
一撃一撃に体重が乗って、急所を狙うので、当たれば当たるほど敗北に近づく。今も当たりましたね」
その攻撃は見えない。相手をしている万場部隊長ですらも感知できない、視覚と触角を欺く、翻える浪のごとき突き。仕掛けられれば必ず命中する骨身に響く打撃を相手取っても、急いて攻めることはない。隙のある攻撃では体を捕らえられ今以上の大ダメージを与えられると知っているからだ。
両者一歩も譲らない体術の戦いは特に長く続いた。
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ついに焦ったのか、万場部隊長がミスを犯した。
阿朱羅の右肩に拳を命中させるが、体勢は少しも乱れずそのまま懐に入り込まれ脇を体重の乗った肘で体当たりされる。
鍛え上げられた騎士の男がそれだけの動きで数メートル先まで吹っ飛んだ。だが、その先には魔法の杖が地に突き刺さっており……立ち上がると同時、阿朱羅に球体結界を張りその場から動けないように閉じ込める。
その意図を察して阿朱羅は結界内で光の線を描こうとしたが、腕輪が反応しない。
一筋の汗が頬を伝った。さっきの攻撃はミスではない。緻密な計算の下、狙いすました一撃だったのだ。
「攻撃を食らってでもお前の右腕に流れる魔力を阻害し、武器を出させぬようにする。全てはこの一撃を確実に命中させるためだ」
黄色の光を帯びた巨大な魔方陣が、結界に閉じ込められた阿朱羅の頭上に展開される。
「自分と相性の悪い属性の極大魔術を会得するのは至難の業であった……だが、モノにした今、お前に敗北を突きつけることができる。
その結界は魔術が発動した瞬間に消え、魔法使いに成れない今のお前では防ぐ術がない。これまでの戦いで消費した魔力量から見て、弱点の雷属性の極大魔術を受ければ、お前は確実に魔力切れになる」
鮮やかな作戦に騎士たちは声を上げた。
嘆く声と喜ぶ声が入り混じった歓声の中で、西館と仁樹は何とかする方法はないのかと訴えかけんばかりに眉根を寄せる。
「≪アヴェント・エクレール≫」
落雷が降り注ぎ、立っていられないほどの衝撃波がフィールドを覆う結界を揺るがし、打ち壊した。
強い光と吹きすさぶ突風から目を庇う。
それは長い長い勝負の終わりを告げるものだった。
風は止み、裏庭は砂塵と静寂に包まれる。
カラカラカラ……
千歳は徐に顔を上げ、砂塵の中から聞こえる微かな音を追いかけた。
うっすらと影が見える。
何かを引き摺りながら、一歩一歩進んでいく。そして、振り下ろした。
鼓膜に飛び込む、空を切る音。
カランカランと音がして、千歳のブーツの爪先のすぐ近くに何かが落ち、転がる。
視界が晴れてゆく。
落ちていたのは万場部隊長の杖だった。
弾かれた様に目を向けたフィールド内、阿朱羅が万場部隊長に切っ先を向けて立っていた。
両者とも肩で荒く呼吸しているのは同じ。でも……
「俺の勝ちです」
刀身で肩を押す。万場部隊長の体はぐらりと傾いて地に伏した。
「勝っ……た……んですか……?」
「た、多分……」
5人は顔を見合わせる。今見てる景色はどうやら夢じゃないらしい。
「勝った。リーダー勝ったんだ……すごい!!」
リントの言葉を皮切りに阿朱羅のもとに駆け寄り、5人は再び手にした勝利の喜びを分かち合った。
まだ大半の騎士たちが言葉を失っている静けさの中、底抜けに明るい声が逆転劇の答えを明かす。
「まさか≪インシエーメ≫がほんとにできちゃうなんてすごいとしか言えないよ!
自分の体に流れる一定量の魔力を操作して、結合させて、体内に結界のようなものを作り、残りの魔力を守り切る!繊細すぎる魔力制御が要求される机上の空論だったはずなのに……現実に起こるなんて!」
新しい術を使用し、負けの結果をひっくり返した。この目で見届けた奇跡に遅ばせながらも観衆が賞賛の拍手を送る。
伏していた万場部隊長はゆっくりと起き上がる。ぐったりとした顔で天を仰ぎ、俯くと、肩が小刻みに揺れはじめ……
「……っふ……っハハハハハハハハハハハハハハ!」
地に寝転んだと思ったら、次の瞬間、思い切り破顔した。勝負に負けたというのに、晴れ晴れとした表情だった。
分厚い灰色の雲が裂けて、王都に橙の陽光が降り注ぐ。
ひとしきり笑った後、また立ち上がって阿朱羅へ、西館の騎士達へ丁寧に丁寧に騎士の礼をした。
「そうだ。お前はそれでいい。次やる時は私が勝つ……またの機会を楽しみにしている」
「望むところです。本日は、ありがとうございました」
握手を交わし、万場部隊長は本館の方に向き直って、育成者としてこの場にいる全員に説いた。
「皆の周りに強者はいるか!その者に挑むこと……それは何より尊い未来への宝だ。
まず、己を嘆くな。嘆いていては一歩も進めない。挑むものとして正しい誇りを持て。
そして己を研ぎ澄ませろ。精神の曇りを振り払い、理想ではなく、今と己に向き合え。
望む未来を引き寄せる確かな進路は今作られている。想像しろ!お前の心全てで。飛び立つ旅路を!きっかけを!
共に生きる全てのセイヴァーに光あれ!」
今日一番の地鳴りのような歓声が起こる。
窓を開け、投げられた花弁や紙吹雪が、戦い抜いた騎士たちのもとにゆっくり、そっと降り注いだ。
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