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僕の歓び 第四話
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目を覚ますと部屋の中はすでに薄暗かった。リビングの明かりが、少し開いた扉から差している。優しい出汁の香りも連れて。
トイレで嘔吐してから、タクシーで有一の部屋へやってきた。そのままベッドに横たえられ、そこから気絶するように眠りに落ちたのだ。頭の奥が鈍く痛み、両手で目元を覆った。
「最悪だ……」
掛け布団を頭の上まで引っ張り上げる。
――消えたい。
寝室に有一が入ってきた気配がした。ベッドに彼が腰掛け、マットレスの一部が沈む。
「体調どう。落ち着いた?」
彼が布団越しに、体の上に手を置いた。
「本当にごめんなさい……」
ベッドの籠城の中から謝罪した。布団を強く引っ張られ、籠城は力づくで破られた。彼が体を倒し、向き合う形で顔が近づく。
「俺もごめん。体調悪いの、気づかなくて。あんまり眠れてないよね。昨日の今日で無理させすぎた」
「違います、僕が」
先を遮って鼻をつままれた。
「道弥くんは悪くないから、ほんとに気にしないで。うちの親もまだ家出る前だったから、予約してた店は茉里奈たちと行くって言ってたよ」
彼は柔らかい手つきで、道弥の前髪をかきあげた。その感触に気持ちよく目を閉じると、盛大に腹の虫が鳴った。
「あはは、うどん作ってあるけど、食べれそう?」
「……めちゃくちゃ食べます」
小さなどんぶりで出されたうどんを啜りながら、テーブルの上の、プラスチックケースに入ったカードのようなものが気になった。赤い幾何学模様のような柄が入ったカードは、見たことがある。「これ何ですか」と有一に尋ねた。
「ああ、これね。この前の接待のとき、向こうの部長が手品にハマってるって話で、コインの手品をやってくれたんだけどさ、上手くできなくて機嫌悪くなっちゃって。結構酔ってたみたいなんだけど、トランプでやるから持ってこいってなって、俺がコンビニに買いに走ったわけ。戻るときに解散になったって田中さんから連絡きて、そのまま持って帰ってきた」
「へえ、大変でしたね。これトランプか」
彼は、え、と小さく呟いた。
「え、なんですか」
「あ、いや。あとでトランプやる?」
「手品ですか?」
彼はふっと吹き出し、「手品はもう忘れて」と笑った。
「普通にさ。懐かしくない?」
「やったことあるんですか」
「え?」
彼が目を丸くしてこちらを見るので、え、と聞き返した。
「あ……、トランプやったことない?」
彼はそう尋ねたあと「てことはないか」と付け足した。
「ないですけど」と言うと、「そっか」と視線を逸らした。
「変ですか」
「変ではないよ。学校で友達がトランプやったりとか、してなかった? ババ抜きとかさ」
「どうだったかな。ないと思いますけど、学校でもできるんですか」
「先生に怒られないかってこと?」
「それもあるけど、専用の台とか……」
「台? 台って何」
「テレビとかで、台に乗せてやってるじゃないですか」
「ああなるほど。あれはテレビの演出というか。普通は要らない」
ビリヤードや麻雀のように、専用のゲーム台が必要だと思っていた。
「有一さんは、学校でやってたんですか?」
「いや、俺あんまり友達いなかったんだって。でも家族でよくやってたかな、子供の頃は。あとは正月とかお盆とか、親戚で集まったときとか……」
「家族で? 茉里奈さんと、ってことですか」
「うん、茉里奈と親と」
親と――。
強烈なギャップを感じた。母親や父親とカードゲーム? 想像がつかない。
ああ、でも、そうだ。ホームドラマや映画で観る「親子」は、そういうことをしていても、不自然ではない雰囲気だったかもしれない。
というより、弟と母だったら、一緒にカードゲームをするところをイメージできる。リビングのソファには弟がいて、母がいて、彼らはいつも円満な親子だった。ローテーブルを挟んでそれを見ていた。同じ空間に身を置いて、母に声をかけられるのを待つ浅ましさを纏って。少し離れて二人の様子を窺いながら、本を読むふりをして過ごしていた。
――道弥、宿題やったの。
――ちゃんと勉強したの。
欲しいものが貰えないと気付いてからは、いつも自室で過ごしていた。
「はい。これ道弥くんの」
カードの束を渡された。トランプを半分に分けたらしい。カードゲームをするため、テレビの前に移動してきた。ローテーブルを脇へ退けて、ジュートのラグの上にカードを置いている。
「そういえば、お父さんの話ってあんまり聞かないけど、お父さんはご健在なの?」
「ああ、はい。でも父さんも、母さんと一緒だと思いますけど」
「一緒って、ああいう感じの人ってこと?」
「いや、どうだろ。雰囲気はだいぶ違うけど、まあ価値観は似てるのかな。父は家にあまりいなかったので、よくわかんないですけど」
「そっか」
じゃあやろう、と彼は自分のカードの束を扇状に広げている。
「ババ抜きのルールはわかる?」
「わかんないです」
「まず、同じ数字のカードを二枚見つけて、束から抜いていって。ほら、これ同じやつ、どんどん除けていくの」
有一は「8」の数字と、ハートとクローバーの模様が配置されたカードを見せてきた。
「黒とか赤の色は、何か意味があるんですか」
「色は気にしなくていいよ。分けたやつは、適当にまとめて置いておいて」
道弥は少し後ろに下がり、カードを裏返してラグの上に広げた。同じ数字のものを重ねていく。同じ数字のカードは、二枚のものあれば、三枚や、四枚同じものもある。数字以外に、アルファベットと人物の絵柄のカードがある。それらはアルファベットで揃える。数字ごと、アルファベットごとに分けたカードを、再び重ねて、一つの束にまとめた。
「できました」
顔をあげると、有一は五、六枚ほどのカードを扇状に広げて持っていた。その他のカードはラグの上に乱雑に置いてある。何かが違うことは明らかだ。
「ん? どういう状況?」
「……数字ごとに分けました」
有一は、そっか、と言って目元を手のひらで押さえた。
「いや、俺の説明が悪かったんだけど……」
そう言いながら、指の間から上目遣いでこちらを見て「ごめん、笑っていい?」と訊く。すでに肩が震えている。
「もう笑ってるじゃないですか」
「ふっ……、ふふ……っ、だって……」
顔を覆って肩を震わせている彼の膝を、拳で殴った。
「違う、違う、ごめん。バカにしたわけじゃなくて」
彼の膝に置いた拳を掴まれ、体を寄せてきた。
「キミのそういうところがたまんないんだよ、俺は」
彼は甘えた声で肩を抱き、頬擦りをする。口を尖らせて不満を主張すると、頬をつついてくる。
「かわいいなぁ」
甘い囁きを放つ唇は、額にキスをする。本当は、ちっとも怒ってなどいないことを彼はわかっている。彼の首筋に鼻先を擦り付けた。
母との約束の時間より、三十分早く店に着いた。道弥が通された四人掛けのボックス席の、すぐ後ろの席に有一が座っている。この店は席を仕切る背もたれが高く、道弥と背中合わせで座る有一の姿は、振り向いても見えない。
母との対面にあたって、同行すると食い下がる有一に結局折れた。近くの席で、母に見つからないよう話を聞くことを許した。
――本当に大丈夫? ほんとに行くの。
玄関を出る前に、再び訊かれた。
――まだ言ってるんですか。
――だって、キミのお母さんって、ちゃんと話通じる人? 正直クセ強そうだったけど。
――大丈夫ですよ。この前は不意打ちでびっくりしたけど、今日は言うこととか準備したし。
――そっか。何かあったら乱入していい?
――ダメですよ。何かってなんですか。
――何か……、とんでもない雰囲気になってきたりとか。
――例えば。
――それはわかんないけど。
――じゃあダメです。
俯いて肩を落とす彼が可笑しくて、少し緊張がほぐれた。
だけど、三十分早く来たのはミスだったかと後悔することになった。一人で座って待つ間、次第に呼吸は浅くなり、脈は早くなる。店の出入り口が見える位置に座り、扉を開閉するベルが鳴る度に顔を上げる。複数人の客や男性客のときは息を吐いて視線をテーブルに落とす。女性の一人客のときは、胸の内が不快に騒がしくなり脂汗が滲む。
約束の時間が近づき、ふと顔をあげると、遠目に男女の客が入ってくるところだった。ふっと息を吐いて、肘をつく。まだかと窓の外へ視線を投げた。するとたった今、入ってきた二名の客が道弥の席のほうへ近づいてくる。何気なくそちらを見やり、心臓が痛いくらいに大きく跳ねた。
母と、父がいた。
二人ともどことなく、気まずそうな顔をしている。父が、久しぶりだとか定型の挨拶のようなことを口にしながら、二人は向かいに座った。心臓の鼓動が、どくどくという音で耳に届くくらいに、早く激しくなっていく。頭の中は沸騰しそうなほど熱いのに、手足は徐々に冷えていった。
店員が二名分の水を運んできて、父はホットコーヒーを二つオーダーした。
「道弥、騙し討ちみたいに急に来て悪かった。そんなに怯えないでくれ。嫌なことを言いにきたわけじゃないんだから」
父は淡々と言った。矢鱈と品のよい声に、どういう感情が含まれているのか、昔からわかりづらい。
「母さんが、お前に会いに行くってさっき知ったんだ。先週、急に押し掛けたみたいですまなかった」
「押し掛けただなんて、そんな言いかた……」
母が釈然としない様子で言うと「お前は黙ってろ」と父が制した。二名分のコーヒーが運ばれてくる。
父と母の険悪な空気に、昔の記憶が蘇る。
部屋に引き籠もって、一週間ほどだったか、夜中にトイレに起きると、リビングから怒声が聞こえてきた。
――どういうことだよ。
――知らないわ、あの子が何も喋らないのよ。
――本当に、他に何もされてないのか。
――だからわからないの。
――ありえないだろう! 小学生が自分から口に咥えると思うか。普通に考えてみろよ!
――向こうがそう言ってるのよ! 私だって頭痛いわ……。
――ああもう! だから……。
恐ろしくて胃が潰されそうだった。足をもつれさせながら慌てて自室に戻り、布団を頭から被った。
――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
必死に唱えながら、布団の中で体をできるだけ小さく丸めた。お願い、お願い、と何に対して願っているのかわからないまま祈り続けていた。
すでに冷めたカフェオレに手を伸ばそうと、テーブルの上に出した道弥の手は、小刻みに震えていた。食器が鳴りそうで引っ込めるが、手の震えを自覚したのを皮切りに、急速に息が詰まる。息を吸おうとする度に、気道のあたりが詰まったようにうまく吸えない。
――あ、来た。やばい。
そう気づいた頃には、焦る気持ちでますます苦しくなるばかりだった。肺が圧迫されるように負荷をかけられていく。
呼吸を整えようとしても、目の前の両親が、道弥、道弥、と呼ぶ度に手足が痺れ、冷や汗が滲んでいく。
「ちょっとすみません」
体のすぐ横に体温を感じ、背中に柔らかく触れられる。
「道弥くん、俺の呼吸に合わせられる? ゆっくり息を吐くよ」
有一は、ふー、と小さく言いながら、呼吸をリードした。吐く息に合わせて、背中をゆるゆるとさすられる。背中に感じる手のひらの熱と、そばにある体温に、次第に呼吸が整い始め、動悸と手の震えが緩やかに凪いでいく。
「タクシーか救急車とか、呼びますか?」という誰かの声が聞こえ、有一が「落ち着いたので大丈夫です」と答えていた。顔をあげると、有一と目が合った。いたずらを白状する子供のような顔をして、彼は「ごめん」と言う。何の謝罪かすぐにわからなかったが、出際の会話を思い出した。
向かいに座る両親を見ると、戸惑いを滲ませながらこちらの様子をじっと見ていた。
「……あなた、この前も……。どうしてここにいらっしゃるんですか。道弥とどういう関係なんですか」
母が剣のある問いかけを投げた。それを父が「お前、先に言うことあるだろ」と制してこちらに向き直す。視線は有一に向いていて、有一のほうも座り直して彼らに向き直した。
「申し遅れました……」
「僕が説明する」
有一の言葉に被せるように声を張った。両親は目を見開いている。
「この人は僕の……、つ、付き合ってる人です。だ、大事な人だから……、失礼なこと言わないでください」
肩で息をしながら言い切った。母が「なんなのよ……」と震える声で呟くのが聞こえる。
「どういうことよ。どうしてそうやって、あなたは……」
「おい、もうお前黙れよ」
父が母の前に腕を出した。
「初めまして。道弥の父です。息子がお世話になってます」
「あっ、こちらこそ。申し遅れてすみません。白川有一と申します」
有一と父が理性的な挨拶を交わす横で、母はテーブルに肘をついて顔を覆っていた。それに対し父は「お前、いい加減にしろ。失礼だぞ」と宥めている。
「いえ、僕のほうこそ、今日はご家族の集まりにお邪魔してしまってすみません。心配でついてきてしまいました」
「連絡しても無視されてるのよ、こっちは」
母が顔を覆ったまま震える声で言い放った。
「久しぶりに会ってこんなことになってるなんて……」
「お前、本当にいい加減にしろよ」
取り乱す母の手首を掴んで、父は一段と低い声を出した。
「もうやめてよ」
気づくと二人にそう言っていた。
「連絡を……、返さなかったのはごめんなさい。今までも、いろいろ……、め、迷惑かけてすみませんでした」
「迷惑だなんて……」と、父が手を伸ばしてきたので、避けるように体を引いた。
「中学受験ができなかったことも……、すみませんでした。ごめんなさい」
「そんなこと今さら……」
「あの頃、成績が上がらなかったのは、勉強しないで淳太と会ってたからです。あの家に行けば絵が描けるし、淳太だけが……、いい子じゃない僕でも、大事にしてくれるとあのときは思ってた。まあそれは……、結果的に勘違いだったけど」
母の啜り泣きが聞こえる。父は何も言わない。視線をテーブルに落としたまま続ける。
「僕は……、二人の思い描くような、理想の息子には、なれないです。今までも、これからもずっと、一生……。僕のことは……、もう、忘れてください。僕みたいな息子がいたことは、忘れて欲しい、です……」
そこまで言い切って固く瞼を閉じた。左手に熱を感じ、薄く目を開けると、有一の手が重ねられていた。
「道弥」
おずおずと顔を上げ、父の顔を見た。久しぶりに見る父は、白髪が増えて、年を取っていた。
「俺たちのほうこそ、あの事件のときも、そのあとのことも、ずっと申し訳なかった。お前をばあちゃんとこに預けて、最初の正月に行方不明になっただろう。……あのとき初めて、取り返しのつかないことをしたって、気づいたんだ……」
俯いて背中を丸める父は、道弥の知っている父の姿とは、だいぶかけ離れていた。
「あの頃は俺たちも若くて……、お前のこと、上手くフォローもできなくて、本当に悪かった。示談にしたことも後悔してる。父さんと母さんが悪かった。申し訳なかった。……だから、償う……、償うから、忘れて欲しいなんて言わないでくれ……」
父は深く頭を垂れた。こんなに弱々しい父を、初めて見た。母は啜り泣いている。ふっとため息が漏れた。
「別に……、示談にしたことを恨んでるわけじゃなくて……、二人のことだって恨んでるわけじゃない」
父と母だけじゃなく、淳太郎のことでさえ、今は恨んでなどいない。ただただ、仕方なかった。だけど――。
「ばぁちゃんちで暮らしてた頃、学校もあんまり……、行ってなかった。ばあちゃんは優しかったけど、僕は悪いことをして親に捨てられたって、誰かに知られるのも怖くて、あまり人とも関わらなかった」
母が「捨てたなんて……」と嘆くように言った。
「死にたいってずっと思ってた。でもそんな簡単には、死ねないこともわかった。……だから、絵を描くことにしたんだ。母さんたちは嫌がったけど、もういいやって。今はそれを仕事に生かせてる。絵一本でやってるわけじゃないけど……。昔は、一生誰とも恋愛なんてできないんだろうって思ってたけど、大事な人もできた。幸せなんだ、すごく。だから、昔のつらかったこととか、悲しかったことも、だんだん薄れて、無くなっていくのかなって思ってた。でもそうじゃなくて、あの頃、死にたいと思いながら過ごしてたことも、そのときの暗い気持ちも、今も僕の中のどこかにある。だから思い出したくないんだ。あの頃つらかったこと……。思い出すのが怖い。あの家に帰るのも、父さんや母さんに会うことも、それが嫌なんだ。過去のことを、ひとつでも多く忘れて、どこかに置いていきたい。だからごめん…なさい……」
内側から叩かれるみたいに、心臓が鳴っていた。ときどき上擦る声も気に留めず、言い切った。卓上に沈黙が訪れ、薄い膜を張ったかのように、周囲の雑音が遠くに聞こえる。父と母に、こんなふうに我を通したことなどなかった。
また息が苦しくなりそうで胸元の服を掴んだ。道弥の拳に重ねていた有一の手が、握り込んだ指を解くようにして、互いの指を絡めて手を握り合う。有一が彼らへ「あの」と声をかけた。砂っぽい、くすんだ顔色の父と母が力無く顔をあげる。
「あの、時間をください。道弥くんに。俺……、出しゃばってすみません。でも私は、彼と一年半くらい一緒にいますけど、道弥くんは、私なんかよりずっと芯が強くて、逞しいです」
有一の唇は、微かに震えていた。握り合った手のひらには、手汗が滲んで湿気と熱が籠っている。
「……事件のことを聞いたときは、俺が支えたいとか、力になりたいとか、そんなふうに思ってしまってたんですけど、道弥くんはちゃんと自分で、乗り越えられるというか、克服できるというか、そういう強さがあるんです」
有一がそんなふうに思っていたなんて、思いもしなかった。彼は続ける。
「だから、時間をください。……十年になるか、二十年になるか……、三十年かかるかは、わからないんですけど、道弥くんがなんの憂いもなく、お二人に会えるようになるまで、時間をください。信じて、待っててほしいです。私がずっと、そばにいるつもりなので」
言い切ると同時に、有一の手にぎゅっと力が入った。鼻の奥がつんと痛くて俯いた。テーブルの向かいから、息を長く吐く音が聞こえる。
「白川さんでしたっけ」
父の声音は先ほどよりも弱々しかった。有一が「はい」と背筋を伸ばす。
「ありがとうございます。道弥の……、理解者でいてくれて。うちの息子をよろしくお願いします」
父は頭を下げてから、道弥のほうを見た。
「お前のこと、苦しめるような親でごめん」
そう言って、もう一度頭を下げた。
一本の、細い水の柱が落ちるみたいに、すとんと胸の真ん中に落ちていった。あの頃それぞれが、そのときの精いっぱいだった。それでも、ずっと割り切れなかった――。
何も答えられなかった。口を開いたら、コップの水が決壊しそうだったから。だから、ただ大きく首を横に振った。
両親と別れた帰りのタクシーの中で、互いに何も喋らなかった。手を固く繋いだまま、黙って窓の外を見ていた。
有一のマンション前でタクシーを降りてからは、早足で進む有一に腕を引っ張られてついていく。彼がエントランスのオートロックを開け、急かされるみたいに中に入ってエレベーターに乗った。扉が閉まった途端、覆い被さるように彼に抱きしめられる。その胸に頭を押しつけて寄りすがった。
「がんばったね」
彼は優しく頭を撫でつけるように髪を梳く。
――ありがとう。
言いたかったが、言葉になって出てこない。代わりに額を強く彼の胸に擦り付ける。
エレベーターの扉が開き、手を取られ、狭い廊下を引っ張られていく。カードキーで玄関を開けた彼は、道弥の腰を抱き寄せ、乱暴に鍵を閉めた。彼に顎を持ち上げられて、目が合うと彼は眉を僅かにあげた。
「泣いてるかと思ったけど……」
泣いていない、という言葉は省かれた。束の間、見つめあってから口付ける。愛しい、愛しいと、唇から伝わってくるみたいに、何度も唇を触れ合わせるキスを重ねた。それから、またお互いの視線を交わし合い、頭を彼の胸に引き寄せられた。
「生まれ変わったら、俺がキミのお母さんになってあげるよ」
まるで、大きな波にさらわれるような気持ちだった。砂浜に打ち寄せて、波打ち際の砂のお山もお城もトンネルも、均していくように、もう何も彼から取り返せない。
「お父さんじゃなくて、お母さんなんですか」
茶化したつもりが、単なる質問のトーンになってしまった。
「お母さんだったら、お腹の中からずっと一緒にいられるでしょ」
「……でも生まれてから、鬱陶しくなるかもしれないですよ」
「ならないよ。俺が道弥くんのママになったら、楽しい子供時代をプレゼントしよう。トランプもたくさんして、絵もたくさん描いて見せてよ。いろんなとこ行って、ちっちゃいときからたくさん思い出作ろう」
表面張力が破れて涙が止まらなくなった頃、有一は道弥の顔を覗き込むようにして顔を傾けた。
「やっと泣けたね」
手のひらで頬を拭ってくれたが、次から次と流れていく涙にそれは意味をなさず、代わりに彼は、唇を頬に寄せてきた。ますます嗚咽が止まらなくなる。
「ふ……、ふつうの……」
嗚咽の隙間からかろうじて紡ぐ言葉を、「うん、なに」と真綿で包まれるみたいに受け止められる。
「ふつうの……、ふつうの親子でいたかった……っ」
震える声で叫ぶように言った。彼は「うん、よく言った」と言って、また頭ごと抱きしめられた。
脆くて、もう叶うことのない願いを掬い上げてくれた。
「有一さん」
彼の胸に顔をうずめたまま呼びかけた。彼は「なに」と道弥の髪を梳く。
「抱いてください……。わけわかんなくなるくらい、好きにしてほしい……」
顎を持ち上げられて、深いキスが降ってきた。舌を絡めて彼の首に腕を回す。もつれあうようにして部屋の中へ進み、脱がしあった。
一瞬、体が浮遊して、担ぎ上げられたと思ったら、次の瞬間にベッドに沈められた。有一は、涙を舐めとるみたいに何度も頬にキスをする。彼の手のひらが、体の上を滑っていく。
「有一さん、シャワーしたい」
「うん、あとで一緒に入ろう」
首筋に唇を這わせる有一の肩を押し返し「変な汗いっぱいかいたから」と訴える。有一は「大丈夫。ちょうどいい」と、道弥の胸を強く吸った。
「ちょうどいいって何が」
思わず吹き出すと、彼は満足そうな笑みを浮かべた。
「ねえ、じゃあ準備だけしてくるから、待ってて」
「俺がやる」
いやだと断る前に、唇を塞がれる。思考を奪われ、口内を蕩かされていく間に、スラックスに手がかけられた。下着の上から茎をなぞって愛撫される。
「う……、パンツ濡れる……」
「もう濡れてるね」
亀頭の先を爪で掻くように触られ、微弱な電流を流されるような快感が走っていく。下着を脚から抜かれ、有一が顔を、脚の間に寄せて来たので膝を閉じて下半身をよじった。
「それはだめ。シャワーしてないから」
彼は「いいよ気にしないから」と膝を開けようとする。全力で抵抗した。
「僕が気にするんです」
「ちょっとだけ」
「絶対だめ」
顔を背けると彼は「わかった」と口を尖らせて、サイドチェストから潤滑剤を取り出した。彼は手のひらにそれを出して、指を擦って人肌に温める。道弥の膝を開くと、後孔に塗りこんで中に進んだ。
甘やかな感覚に、焦ったさが増していき、自然と声が漏れる。
「ねえもう、早く欲しい……」
「まだだめ。ちゃんと慣らさないと」
喉元にキスが降ってくる。その唇は徐々に下がって、胸の突起を口に含んだ。舌で転がされ、後ろは指を増やされ、体の中に熱が籠もっていく。腰を浮かせて身を捩る。中を弄る指が、腹の内側を擦り上げた。
「ああっ、あ……っ、も……、早く……」
「うん……、もう挿れたい」
素早くコンドームをつけた有一は、道弥の後ろに亀頭をあてがった。円を描くように入口に擦り付けている。
「ねえ吸い付いてくる。早く欲しいってこっちも言ってるよ」
彼は亀頭を押し付けては離すを繰り返した。その度に脳がくらりとする水音が聞こえる。
「もう……、有一さん……っ」
半泣きに近い声で訴えると、彼は「ごめん、挿れるね」と、やっと腰を進めてきた。待ち侘びたそれは、道弥の中を隙間なく埋め尽くしていく。足りないところがないくらい、満たしてくれる。彼の首の後ろに手を回し、引き寄せてキスをした。
奥まで入れると、有一は馴染むまで動かない。彼は道弥の顎や頬、耳を舐めたり齧ったりして、その時間を待つ。繋がることを重ねた今は、その甘やかな焦ったさが苦しいくらいになっている。シーツに足を立て自分から腰を動かした。彼は「もう、俺だって余裕ないのに」と、道弥の両頬を片手で掴んだ。
上体を起こした彼は、道弥の膝の裏に手を入れた。道弥の側腹と腿を密着させ、上から落とすように腰を打ちつける。
「ああっ、あ、あっ、あ……っ」
頭の上まで突き抜ける刺激に、脳みそが痺れて、一気に追い詰められていく。
「……まっ、待って、あっ、い……っ、いっちゃう……」
彼の「いいよ」という声と共に、道弥の茎が擦り上げられた。息が止まるほどの快感が、メーターを振り切って放たれた。絶頂の痙攣がおさまらないうちに、唇が吸い上げられ、舌を出すと絡め取られる。息が落ち着いてから薄く目を開けると、彼と目が合った。
「ごめん。もう少しいい?」
彼の問いに頷いたら、背中の下に腕が入ってきた。きつく抱きしめられながら律動が始まる。敏感になった肌の表面と、感度の高まった内側から電流を流されるみたいに痺れていく。
ほとんど吐息の声を出して有一は達した。奥に擦り付けるように腰を回され、声が出る。舌を絡めるキスをした。
脱力した彼に全体重をかけられ、体が深く沈む。耳元で聞こえる荒い呼吸と、内臓が圧迫されるほどの重さが気持ちいい。
有一はゆっくり起き上がって腰を引いた。張り出したところが、道弥の外に出る瞬間「んっ」と声が漏れた。
足を閉じ、気怠い体を休ませながら、コンドームの口を縛る有一をぼんやりと見ていた。彼はそれを捨てると、もう一つ手にとって装着した。
「え……、そんなすぐですか」
彼は口角をあげて道弥の背中から抱きついた。うつ伏せに近いくらい体を傾け、耳元で「こうやってするの、怖い?」と訊かれる。
「え、どうかな……」
「仰向けでするのとどっちがいい?」
「ん……、仰向け」
「わかった」
背中から抱き抱えられた体を持ち上げられ、肌がシーツから離れた。視界がぐるりと回って、気づけば天井が見えていた。脚が開かされ、後孔に再び圧力を感じ、彼が中に入ってきた。
「仰向けって……、そっち?」
彼が下から突き上げる度、声が押し出される。彼のものが、さっきまでとは別のところにあたり、脳みその奥まで蕩かされていく。彼が体を傾け、道弥の側面は再びシーツに着地した。そのまま背中を押されてうつ伏せになる。
「ねえ……、怖かったらやめてって言って、絶対……」
余裕のない掠れた声が聞こえた。密着した体は重く、打ち付けられる圧力が高い。
「うっ、んっ、んあ……、も……、またいく……」
「俺も」
速度を増して追い立てられていく。全身を固くして吐精した。彼も腰を擦り付け、中で脈を打っていた。
肩や首、耳を、唇で挟むように彼が甘噛みする。
「好きだよ」
耳元で響くほとんど吐息の声。振り返って口付けた。
「僕も好き」
甘さと怠さで飽和状態の体は、ただシーツに沈んでいく。それがひたすら心地よくて、もう死にたいと思った。
トイレで嘔吐してから、タクシーで有一の部屋へやってきた。そのままベッドに横たえられ、そこから気絶するように眠りに落ちたのだ。頭の奥が鈍く痛み、両手で目元を覆った。
「最悪だ……」
掛け布団を頭の上まで引っ張り上げる。
――消えたい。
寝室に有一が入ってきた気配がした。ベッドに彼が腰掛け、マットレスの一部が沈む。
「体調どう。落ち着いた?」
彼が布団越しに、体の上に手を置いた。
「本当にごめんなさい……」
ベッドの籠城の中から謝罪した。布団を強く引っ張られ、籠城は力づくで破られた。彼が体を倒し、向き合う形で顔が近づく。
「俺もごめん。体調悪いの、気づかなくて。あんまり眠れてないよね。昨日の今日で無理させすぎた」
「違います、僕が」
先を遮って鼻をつままれた。
「道弥くんは悪くないから、ほんとに気にしないで。うちの親もまだ家出る前だったから、予約してた店は茉里奈たちと行くって言ってたよ」
彼は柔らかい手つきで、道弥の前髪をかきあげた。その感触に気持ちよく目を閉じると、盛大に腹の虫が鳴った。
「あはは、うどん作ってあるけど、食べれそう?」
「……めちゃくちゃ食べます」
小さなどんぶりで出されたうどんを啜りながら、テーブルの上の、プラスチックケースに入ったカードのようなものが気になった。赤い幾何学模様のような柄が入ったカードは、見たことがある。「これ何ですか」と有一に尋ねた。
「ああ、これね。この前の接待のとき、向こうの部長が手品にハマってるって話で、コインの手品をやってくれたんだけどさ、上手くできなくて機嫌悪くなっちゃって。結構酔ってたみたいなんだけど、トランプでやるから持ってこいってなって、俺がコンビニに買いに走ったわけ。戻るときに解散になったって田中さんから連絡きて、そのまま持って帰ってきた」
「へえ、大変でしたね。これトランプか」
彼は、え、と小さく呟いた。
「え、なんですか」
「あ、いや。あとでトランプやる?」
「手品ですか?」
彼はふっと吹き出し、「手品はもう忘れて」と笑った。
「普通にさ。懐かしくない?」
「やったことあるんですか」
「え?」
彼が目を丸くしてこちらを見るので、え、と聞き返した。
「あ……、トランプやったことない?」
彼はそう尋ねたあと「てことはないか」と付け足した。
「ないですけど」と言うと、「そっか」と視線を逸らした。
「変ですか」
「変ではないよ。学校で友達がトランプやったりとか、してなかった? ババ抜きとかさ」
「どうだったかな。ないと思いますけど、学校でもできるんですか」
「先生に怒られないかってこと?」
「それもあるけど、専用の台とか……」
「台? 台って何」
「テレビとかで、台に乗せてやってるじゃないですか」
「ああなるほど。あれはテレビの演出というか。普通は要らない」
ビリヤードや麻雀のように、専用のゲーム台が必要だと思っていた。
「有一さんは、学校でやってたんですか?」
「いや、俺あんまり友達いなかったんだって。でも家族でよくやってたかな、子供の頃は。あとは正月とかお盆とか、親戚で集まったときとか……」
「家族で? 茉里奈さんと、ってことですか」
「うん、茉里奈と親と」
親と――。
強烈なギャップを感じた。母親や父親とカードゲーム? 想像がつかない。
ああ、でも、そうだ。ホームドラマや映画で観る「親子」は、そういうことをしていても、不自然ではない雰囲気だったかもしれない。
というより、弟と母だったら、一緒にカードゲームをするところをイメージできる。リビングのソファには弟がいて、母がいて、彼らはいつも円満な親子だった。ローテーブルを挟んでそれを見ていた。同じ空間に身を置いて、母に声をかけられるのを待つ浅ましさを纏って。少し離れて二人の様子を窺いながら、本を読むふりをして過ごしていた。
――道弥、宿題やったの。
――ちゃんと勉強したの。
欲しいものが貰えないと気付いてからは、いつも自室で過ごしていた。
「はい。これ道弥くんの」
カードの束を渡された。トランプを半分に分けたらしい。カードゲームをするため、テレビの前に移動してきた。ローテーブルを脇へ退けて、ジュートのラグの上にカードを置いている。
「そういえば、お父さんの話ってあんまり聞かないけど、お父さんはご健在なの?」
「ああ、はい。でも父さんも、母さんと一緒だと思いますけど」
「一緒って、ああいう感じの人ってこと?」
「いや、どうだろ。雰囲気はだいぶ違うけど、まあ価値観は似てるのかな。父は家にあまりいなかったので、よくわかんないですけど」
「そっか」
じゃあやろう、と彼は自分のカードの束を扇状に広げている。
「ババ抜きのルールはわかる?」
「わかんないです」
「まず、同じ数字のカードを二枚見つけて、束から抜いていって。ほら、これ同じやつ、どんどん除けていくの」
有一は「8」の数字と、ハートとクローバーの模様が配置されたカードを見せてきた。
「黒とか赤の色は、何か意味があるんですか」
「色は気にしなくていいよ。分けたやつは、適当にまとめて置いておいて」
道弥は少し後ろに下がり、カードを裏返してラグの上に広げた。同じ数字のものを重ねていく。同じ数字のカードは、二枚のものあれば、三枚や、四枚同じものもある。数字以外に、アルファベットと人物の絵柄のカードがある。それらはアルファベットで揃える。数字ごと、アルファベットごとに分けたカードを、再び重ねて、一つの束にまとめた。
「できました」
顔をあげると、有一は五、六枚ほどのカードを扇状に広げて持っていた。その他のカードはラグの上に乱雑に置いてある。何かが違うことは明らかだ。
「ん? どういう状況?」
「……数字ごとに分けました」
有一は、そっか、と言って目元を手のひらで押さえた。
「いや、俺の説明が悪かったんだけど……」
そう言いながら、指の間から上目遣いでこちらを見て「ごめん、笑っていい?」と訊く。すでに肩が震えている。
「もう笑ってるじゃないですか」
「ふっ……、ふふ……っ、だって……」
顔を覆って肩を震わせている彼の膝を、拳で殴った。
「違う、違う、ごめん。バカにしたわけじゃなくて」
彼の膝に置いた拳を掴まれ、体を寄せてきた。
「キミのそういうところがたまんないんだよ、俺は」
彼は甘えた声で肩を抱き、頬擦りをする。口を尖らせて不満を主張すると、頬をつついてくる。
「かわいいなぁ」
甘い囁きを放つ唇は、額にキスをする。本当は、ちっとも怒ってなどいないことを彼はわかっている。彼の首筋に鼻先を擦り付けた。
母との約束の時間より、三十分早く店に着いた。道弥が通された四人掛けのボックス席の、すぐ後ろの席に有一が座っている。この店は席を仕切る背もたれが高く、道弥と背中合わせで座る有一の姿は、振り向いても見えない。
母との対面にあたって、同行すると食い下がる有一に結局折れた。近くの席で、母に見つからないよう話を聞くことを許した。
――本当に大丈夫? ほんとに行くの。
玄関を出る前に、再び訊かれた。
――まだ言ってるんですか。
――だって、キミのお母さんって、ちゃんと話通じる人? 正直クセ強そうだったけど。
――大丈夫ですよ。この前は不意打ちでびっくりしたけど、今日は言うこととか準備したし。
――そっか。何かあったら乱入していい?
――ダメですよ。何かってなんですか。
――何か……、とんでもない雰囲気になってきたりとか。
――例えば。
――それはわかんないけど。
――じゃあダメです。
俯いて肩を落とす彼が可笑しくて、少し緊張がほぐれた。
だけど、三十分早く来たのはミスだったかと後悔することになった。一人で座って待つ間、次第に呼吸は浅くなり、脈は早くなる。店の出入り口が見える位置に座り、扉を開閉するベルが鳴る度に顔を上げる。複数人の客や男性客のときは息を吐いて視線をテーブルに落とす。女性の一人客のときは、胸の内が不快に騒がしくなり脂汗が滲む。
約束の時間が近づき、ふと顔をあげると、遠目に男女の客が入ってくるところだった。ふっと息を吐いて、肘をつく。まだかと窓の外へ視線を投げた。するとたった今、入ってきた二名の客が道弥の席のほうへ近づいてくる。何気なくそちらを見やり、心臓が痛いくらいに大きく跳ねた。
母と、父がいた。
二人ともどことなく、気まずそうな顔をしている。父が、久しぶりだとか定型の挨拶のようなことを口にしながら、二人は向かいに座った。心臓の鼓動が、どくどくという音で耳に届くくらいに、早く激しくなっていく。頭の中は沸騰しそうなほど熱いのに、手足は徐々に冷えていった。
店員が二名分の水を運んできて、父はホットコーヒーを二つオーダーした。
「道弥、騙し討ちみたいに急に来て悪かった。そんなに怯えないでくれ。嫌なことを言いにきたわけじゃないんだから」
父は淡々と言った。矢鱈と品のよい声に、どういう感情が含まれているのか、昔からわかりづらい。
「母さんが、お前に会いに行くってさっき知ったんだ。先週、急に押し掛けたみたいですまなかった」
「押し掛けただなんて、そんな言いかた……」
母が釈然としない様子で言うと「お前は黙ってろ」と父が制した。二名分のコーヒーが運ばれてくる。
父と母の険悪な空気に、昔の記憶が蘇る。
部屋に引き籠もって、一週間ほどだったか、夜中にトイレに起きると、リビングから怒声が聞こえてきた。
――どういうことだよ。
――知らないわ、あの子が何も喋らないのよ。
――本当に、他に何もされてないのか。
――だからわからないの。
――ありえないだろう! 小学生が自分から口に咥えると思うか。普通に考えてみろよ!
――向こうがそう言ってるのよ! 私だって頭痛いわ……。
――ああもう! だから……。
恐ろしくて胃が潰されそうだった。足をもつれさせながら慌てて自室に戻り、布団を頭から被った。
――ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……。
必死に唱えながら、布団の中で体をできるだけ小さく丸めた。お願い、お願い、と何に対して願っているのかわからないまま祈り続けていた。
すでに冷めたカフェオレに手を伸ばそうと、テーブルの上に出した道弥の手は、小刻みに震えていた。食器が鳴りそうで引っ込めるが、手の震えを自覚したのを皮切りに、急速に息が詰まる。息を吸おうとする度に、気道のあたりが詰まったようにうまく吸えない。
――あ、来た。やばい。
そう気づいた頃には、焦る気持ちでますます苦しくなるばかりだった。肺が圧迫されるように負荷をかけられていく。
呼吸を整えようとしても、目の前の両親が、道弥、道弥、と呼ぶ度に手足が痺れ、冷や汗が滲んでいく。
「ちょっとすみません」
体のすぐ横に体温を感じ、背中に柔らかく触れられる。
「道弥くん、俺の呼吸に合わせられる? ゆっくり息を吐くよ」
有一は、ふー、と小さく言いながら、呼吸をリードした。吐く息に合わせて、背中をゆるゆるとさすられる。背中に感じる手のひらの熱と、そばにある体温に、次第に呼吸が整い始め、動悸と手の震えが緩やかに凪いでいく。
「タクシーか救急車とか、呼びますか?」という誰かの声が聞こえ、有一が「落ち着いたので大丈夫です」と答えていた。顔をあげると、有一と目が合った。いたずらを白状する子供のような顔をして、彼は「ごめん」と言う。何の謝罪かすぐにわからなかったが、出際の会話を思い出した。
向かいに座る両親を見ると、戸惑いを滲ませながらこちらの様子をじっと見ていた。
「……あなた、この前も……。どうしてここにいらっしゃるんですか。道弥とどういう関係なんですか」
母が剣のある問いかけを投げた。それを父が「お前、先に言うことあるだろ」と制してこちらに向き直す。視線は有一に向いていて、有一のほうも座り直して彼らに向き直した。
「申し遅れました……」
「僕が説明する」
有一の言葉に被せるように声を張った。両親は目を見開いている。
「この人は僕の……、つ、付き合ってる人です。だ、大事な人だから……、失礼なこと言わないでください」
肩で息をしながら言い切った。母が「なんなのよ……」と震える声で呟くのが聞こえる。
「どういうことよ。どうしてそうやって、あなたは……」
「おい、もうお前黙れよ」
父が母の前に腕を出した。
「初めまして。道弥の父です。息子がお世話になってます」
「あっ、こちらこそ。申し遅れてすみません。白川有一と申します」
有一と父が理性的な挨拶を交わす横で、母はテーブルに肘をついて顔を覆っていた。それに対し父は「お前、いい加減にしろ。失礼だぞ」と宥めている。
「いえ、僕のほうこそ、今日はご家族の集まりにお邪魔してしまってすみません。心配でついてきてしまいました」
「連絡しても無視されてるのよ、こっちは」
母が顔を覆ったまま震える声で言い放った。
「久しぶりに会ってこんなことになってるなんて……」
「お前、本当にいい加減にしろよ」
取り乱す母の手首を掴んで、父は一段と低い声を出した。
「もうやめてよ」
気づくと二人にそう言っていた。
「連絡を……、返さなかったのはごめんなさい。今までも、いろいろ……、め、迷惑かけてすみませんでした」
「迷惑だなんて……」と、父が手を伸ばしてきたので、避けるように体を引いた。
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母の啜り泣きが聞こえる。父は何も言わない。視線をテーブルに落としたまま続ける。
「僕は……、二人の思い描くような、理想の息子には、なれないです。今までも、これからもずっと、一生……。僕のことは……、もう、忘れてください。僕みたいな息子がいたことは、忘れて欲しい、です……」
そこまで言い切って固く瞼を閉じた。左手に熱を感じ、薄く目を開けると、有一の手が重ねられていた。
「道弥」
おずおずと顔を上げ、父の顔を見た。久しぶりに見る父は、白髪が増えて、年を取っていた。
「俺たちのほうこそ、あの事件のときも、そのあとのことも、ずっと申し訳なかった。お前をばあちゃんとこに預けて、最初の正月に行方不明になっただろう。……あのとき初めて、取り返しのつかないことをしたって、気づいたんだ……」
俯いて背中を丸める父は、道弥の知っている父の姿とは、だいぶかけ離れていた。
「あの頃は俺たちも若くて……、お前のこと、上手くフォローもできなくて、本当に悪かった。示談にしたことも後悔してる。父さんと母さんが悪かった。申し訳なかった。……だから、償う……、償うから、忘れて欲しいなんて言わないでくれ……」
父は深く頭を垂れた。こんなに弱々しい父を、初めて見た。母は啜り泣いている。ふっとため息が漏れた。
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内側から叩かれるみたいに、心臓が鳴っていた。ときどき上擦る声も気に留めず、言い切った。卓上に沈黙が訪れ、薄い膜を張ったかのように、周囲の雑音が遠くに聞こえる。父と母に、こんなふうに我を通したことなどなかった。
また息が苦しくなりそうで胸元の服を掴んだ。道弥の拳に重ねていた有一の手が、握り込んだ指を解くようにして、互いの指を絡めて手を握り合う。有一が彼らへ「あの」と声をかけた。砂っぽい、くすんだ顔色の父と母が力無く顔をあげる。
「あの、時間をください。道弥くんに。俺……、出しゃばってすみません。でも私は、彼と一年半くらい一緒にいますけど、道弥くんは、私なんかよりずっと芯が強くて、逞しいです」
有一の唇は、微かに震えていた。握り合った手のひらには、手汗が滲んで湿気と熱が籠っている。
「……事件のことを聞いたときは、俺が支えたいとか、力になりたいとか、そんなふうに思ってしまってたんですけど、道弥くんはちゃんと自分で、乗り越えられるというか、克服できるというか、そういう強さがあるんです」
有一がそんなふうに思っていたなんて、思いもしなかった。彼は続ける。
「だから、時間をください。……十年になるか、二十年になるか……、三十年かかるかは、わからないんですけど、道弥くんがなんの憂いもなく、お二人に会えるようになるまで、時間をください。信じて、待っててほしいです。私がずっと、そばにいるつもりなので」
言い切ると同時に、有一の手にぎゅっと力が入った。鼻の奥がつんと痛くて俯いた。テーブルの向かいから、息を長く吐く音が聞こえる。
「白川さんでしたっけ」
父の声音は先ほどよりも弱々しかった。有一が「はい」と背筋を伸ばす。
「ありがとうございます。道弥の……、理解者でいてくれて。うちの息子をよろしくお願いします」
父は頭を下げてから、道弥のほうを見た。
「お前のこと、苦しめるような親でごめん」
そう言って、もう一度頭を下げた。
一本の、細い水の柱が落ちるみたいに、すとんと胸の真ん中に落ちていった。あの頃それぞれが、そのときの精いっぱいだった。それでも、ずっと割り切れなかった――。
何も答えられなかった。口を開いたら、コップの水が決壊しそうだったから。だから、ただ大きく首を横に振った。
両親と別れた帰りのタクシーの中で、互いに何も喋らなかった。手を固く繋いだまま、黙って窓の外を見ていた。
有一のマンション前でタクシーを降りてからは、早足で進む有一に腕を引っ張られてついていく。彼がエントランスのオートロックを開け、急かされるみたいに中に入ってエレベーターに乗った。扉が閉まった途端、覆い被さるように彼に抱きしめられる。その胸に頭を押しつけて寄りすがった。
「がんばったね」
彼は優しく頭を撫でつけるように髪を梳く。
――ありがとう。
言いたかったが、言葉になって出てこない。代わりに額を強く彼の胸に擦り付ける。
エレベーターの扉が開き、手を取られ、狭い廊下を引っ張られていく。カードキーで玄関を開けた彼は、道弥の腰を抱き寄せ、乱暴に鍵を閉めた。彼に顎を持ち上げられて、目が合うと彼は眉を僅かにあげた。
「泣いてるかと思ったけど……」
泣いていない、という言葉は省かれた。束の間、見つめあってから口付ける。愛しい、愛しいと、唇から伝わってくるみたいに、何度も唇を触れ合わせるキスを重ねた。それから、またお互いの視線を交わし合い、頭を彼の胸に引き寄せられた。
「生まれ変わったら、俺がキミのお母さんになってあげるよ」
まるで、大きな波にさらわれるような気持ちだった。砂浜に打ち寄せて、波打ち際の砂のお山もお城もトンネルも、均していくように、もう何も彼から取り返せない。
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「ならないよ。俺が道弥くんのママになったら、楽しい子供時代をプレゼントしよう。トランプもたくさんして、絵もたくさん描いて見せてよ。いろんなとこ行って、ちっちゃいときからたくさん思い出作ろう」
表面張力が破れて涙が止まらなくなった頃、有一は道弥の顔を覗き込むようにして顔を傾けた。
「やっと泣けたね」
手のひらで頬を拭ってくれたが、次から次と流れていく涙にそれは意味をなさず、代わりに彼は、唇を頬に寄せてきた。ますます嗚咽が止まらなくなる。
「ふ……、ふつうの……」
嗚咽の隙間からかろうじて紡ぐ言葉を、「うん、なに」と真綿で包まれるみたいに受け止められる。
「ふつうの……、ふつうの親子でいたかった……っ」
震える声で叫ぶように言った。彼は「うん、よく言った」と言って、また頭ごと抱きしめられた。
脆くて、もう叶うことのない願いを掬い上げてくれた。
「有一さん」
彼の胸に顔をうずめたまま呼びかけた。彼は「なに」と道弥の髪を梳く。
「抱いてください……。わけわかんなくなるくらい、好きにしてほしい……」
顎を持ち上げられて、深いキスが降ってきた。舌を絡めて彼の首に腕を回す。もつれあうようにして部屋の中へ進み、脱がしあった。
一瞬、体が浮遊して、担ぎ上げられたと思ったら、次の瞬間にベッドに沈められた。有一は、涙を舐めとるみたいに何度も頬にキスをする。彼の手のひらが、体の上を滑っていく。
「有一さん、シャワーしたい」
「うん、あとで一緒に入ろう」
首筋に唇を這わせる有一の肩を押し返し「変な汗いっぱいかいたから」と訴える。有一は「大丈夫。ちょうどいい」と、道弥の胸を強く吸った。
「ちょうどいいって何が」
思わず吹き出すと、彼は満足そうな笑みを浮かべた。
「ねえ、じゃあ準備だけしてくるから、待ってて」
「俺がやる」
いやだと断る前に、唇を塞がれる。思考を奪われ、口内を蕩かされていく間に、スラックスに手がかけられた。下着の上から茎をなぞって愛撫される。
「う……、パンツ濡れる……」
「もう濡れてるね」
亀頭の先を爪で掻くように触られ、微弱な電流を流されるような快感が走っていく。下着を脚から抜かれ、有一が顔を、脚の間に寄せて来たので膝を閉じて下半身をよじった。
「それはだめ。シャワーしてないから」
彼は「いいよ気にしないから」と膝を開けようとする。全力で抵抗した。
「僕が気にするんです」
「ちょっとだけ」
「絶対だめ」
顔を背けると彼は「わかった」と口を尖らせて、サイドチェストから潤滑剤を取り出した。彼は手のひらにそれを出して、指を擦って人肌に温める。道弥の膝を開くと、後孔に塗りこんで中に進んだ。
甘やかな感覚に、焦ったさが増していき、自然と声が漏れる。
「ねえもう、早く欲しい……」
「まだだめ。ちゃんと慣らさないと」
喉元にキスが降ってくる。その唇は徐々に下がって、胸の突起を口に含んだ。舌で転がされ、後ろは指を増やされ、体の中に熱が籠もっていく。腰を浮かせて身を捩る。中を弄る指が、腹の内側を擦り上げた。
「ああっ、あ……っ、も……、早く……」
「うん……、もう挿れたい」
素早くコンドームをつけた有一は、道弥の後ろに亀頭をあてがった。円を描くように入口に擦り付けている。
「ねえ吸い付いてくる。早く欲しいってこっちも言ってるよ」
彼は亀頭を押し付けては離すを繰り返した。その度に脳がくらりとする水音が聞こえる。
「もう……、有一さん……っ」
半泣きに近い声で訴えると、彼は「ごめん、挿れるね」と、やっと腰を進めてきた。待ち侘びたそれは、道弥の中を隙間なく埋め尽くしていく。足りないところがないくらい、満たしてくれる。彼の首の後ろに手を回し、引き寄せてキスをした。
奥まで入れると、有一は馴染むまで動かない。彼は道弥の顎や頬、耳を舐めたり齧ったりして、その時間を待つ。繋がることを重ねた今は、その甘やかな焦ったさが苦しいくらいになっている。シーツに足を立て自分から腰を動かした。彼は「もう、俺だって余裕ないのに」と、道弥の両頬を片手で掴んだ。
上体を起こした彼は、道弥の膝の裏に手を入れた。道弥の側腹と腿を密着させ、上から落とすように腰を打ちつける。
「ああっ、あ、あっ、あ……っ」
頭の上まで突き抜ける刺激に、脳みそが痺れて、一気に追い詰められていく。
「……まっ、待って、あっ、い……っ、いっちゃう……」
彼の「いいよ」という声と共に、道弥の茎が擦り上げられた。息が止まるほどの快感が、メーターを振り切って放たれた。絶頂の痙攣がおさまらないうちに、唇が吸い上げられ、舌を出すと絡め取られる。息が落ち着いてから薄く目を開けると、彼と目が合った。
「ごめん。もう少しいい?」
彼の問いに頷いたら、背中の下に腕が入ってきた。きつく抱きしめられながら律動が始まる。敏感になった肌の表面と、感度の高まった内側から電流を流されるみたいに痺れていく。
ほとんど吐息の声を出して有一は達した。奥に擦り付けるように腰を回され、声が出る。舌を絡めるキスをした。
脱力した彼に全体重をかけられ、体が深く沈む。耳元で聞こえる荒い呼吸と、内臓が圧迫されるほどの重さが気持ちいい。
有一はゆっくり起き上がって腰を引いた。張り出したところが、道弥の外に出る瞬間「んっ」と声が漏れた。
足を閉じ、気怠い体を休ませながら、コンドームの口を縛る有一をぼんやりと見ていた。彼はそれを捨てると、もう一つ手にとって装着した。
「え……、そんなすぐですか」
彼は口角をあげて道弥の背中から抱きついた。うつ伏せに近いくらい体を傾け、耳元で「こうやってするの、怖い?」と訊かれる。
「え、どうかな……」
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「ん……、仰向け」
「わかった」
背中から抱き抱えられた体を持ち上げられ、肌がシーツから離れた。視界がぐるりと回って、気づけば天井が見えていた。脚が開かされ、後孔に再び圧力を感じ、彼が中に入ってきた。
「仰向けって……、そっち?」
彼が下から突き上げる度、声が押し出される。彼のものが、さっきまでとは別のところにあたり、脳みその奥まで蕩かされていく。彼が体を傾け、道弥の側面は再びシーツに着地した。そのまま背中を押されてうつ伏せになる。
「ねえ……、怖かったらやめてって言って、絶対……」
余裕のない掠れた声が聞こえた。密着した体は重く、打ち付けられる圧力が高い。
「うっ、んっ、んあ……、も……、またいく……」
「俺も」
速度を増して追い立てられていく。全身を固くして吐精した。彼も腰を擦り付け、中で脈を打っていた。
肩や首、耳を、唇で挟むように彼が甘噛みする。
「好きだよ」
耳元で響くほとんど吐息の声。振り返って口付けた。
「僕も好き」
甘さと怠さで飽和状態の体は、ただシーツに沈んでいく。それがひたすら心地よくて、もう死にたいと思った。
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