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ばら園
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ずっと研究していた薔薇が咲いたとサーフィス様から連絡があり、公爵邸の庭園へ来ていた。
「ミアさん。ちょっと目を閉じてて。絶対、絶対開けないでね。」
サーフィス様に両手を引かれてゆっくり歩く。
温室に入ったのか、周りの空気が温かくなった。
「まだだよ。まだ目を開けないでね。」
言われた通りに目を閉じて、サーフィス様の手を頼りに歩く。
「着いたよ。まだ目を開けないでね。」
止まった所でサーフィス様が手を離す。目を閉じている分心細い。
「ミアさん。目を開けてください。」
目を開けるとそこには一面のピンクの薔薇が!!
「わぁ!綺麗!」
「この薔薇は僕が作ったんだ。ミアロデール・ミル・イールって名付けたよ。」
背後からサーフィス様の声がする。
振り向こうとしたらそっと両肩に手を置かれ振り向かないようにされてしまった。
「ごめんね。ミアさん。僕震えちゃって。ちょっと顔を見せられないや。」
肩に置かれた手が小刻みに震えている。
「ミアさん。このまま聞いて。」
「はい。」
「………本当は目を見て言わなきゃ駄目なんだけど……。」
彼はやっと聞こえるような小さな声でごめんね、と謝った。
「いいえ。こんな綺麗な薔薇は初めて見ました。……嬉しいです。」
彼がすぅーっと息を吸い込む音が聞こえた。
「ミア・コルンさん。僕は貴女がす、好きです。ミアさんと婚約出来た事が、……えっと僕の人生最大の幸運だから……。政略結婚かもしれないけど、貴女の笑顔が、その優しい心が僕は大好き……。この気持ちをえっと、つ、伝えたくて、この薔薇を育てました。どうか僕の気持ちを受け取ってください。」
私はどうしても彼の顔が見たくて少し強引に振り返る。
驚いたサーフィス様は耳まで真っ赤になり、瞳は潤んでいて……年上の男性なのに…可愛い。
私の顔を見て恥ずかしそうに目を逸らせた。
「サーフィス様、私はサーフィス様のお顔を見て返事をしたいです。」
サーフィス様の顔を見てそう言うと、彼はおずおずといった様子で目を合わせてくれた。
瞳が不安そうにプルプル揺れている様はさながら小動物のようで……。
「私もサーフィス様が大好き。美しい物が好きで争いを好まない穏やかな人柄も。そして、こんな風に私を大切にしようとしてくれる誠実さも。全部を引っくるめて大好きです。こんなに好きな人が婚約者なんて、幸せで溶けちゃいそうです。」
サーフィス様は泣き笑いみたいに顔を歪めた。
「頼りなくてごめんね。泣いちゃいそうだ……。」
サーフィス様の瞳はうるうるで涙が溢れそうになっている。
「サーフィス様は頼りなくなんて無いです。私が他の令嬢に絡まれている時も助けてくれたじゃ無いですか!」
「う、うん。」
「私は武術が優れていることが強いなんて思いません。口論が得意な人が優れているとも思いません。サーフィス様は強くて頼りになります。」
サーフィス様は複雑そうに、そうかなと言って照れくさそうに笑った。
彼の頬を涙が伝う。
「ミアロデール・ミル・イールってどういう意味なんですか?」
「着飾ったミア、とかお洒落したミアって意味だよ。」
「えっ、私の名前?」
「うん。花弁の形が初めてデートした時のミアさんのスカートの形に似てるんだ。色は拘って、ミアさんの髪色に近づけたよ。」
あの裁判の日、レーモント公爵に頼んでいたのはこのばら園だったのか。
あの日の彼の気持ちを思うと胸が締め付けられて吐きそう………。
急に無口になった私をサーフィス様は疲れたのだと勘違いしたようだ。
「ミアさん、ここは暑いし外に出よう。」
ばら園を出て私をベンチに座らせると彼は水を取りに家の中へ走って行った。
裁判の日の彼を想い涙を流した。
もう枯れたと思っていた。けれど……こんなにも胸が痛い………。引き千切られるよう………。
「うっ、ひっぐ、うぅ。」
戻ってきたサーフィス様が驚いてその場で佇んでいる。
私は涙に滲む視界の中で必死に手を伸ばした。
手が柔らかい温もりに包まれる。サーフィス様の手だ。
彼は私をくるむように上から抱き込むと涙が止まるまで背中を擦ってくれた。
今度は届いた。
貴方を喪わずにすんだ……。
急に泣き出した理由を彼には
「悪い夢を思い出した。」
と伝えると、彼は私を痛ましいそうに眺めた。
「結婚したら、…うなされた時には起こすよ。」
「サーフィス様と一緒なら、もう悪夢は見ません。」
「そうかな。」
いつか彼と一緒に寝るのか、……想像したら何だか恥ずかしい。
ふとサーフィス様を見ると、彼も顔を真っ赤にして、片手で口を覆っていた。
………想像したのかしら?
サーフィス様が私の肩に手を置く。私はキスの合図だと思ってそっと目を閉じた。
「………。」
鼻息が掛かってしまいそうで息を止めて待っているのに、一向に感触がしない。
(息苦しい。限界。)
そう思って片目を薄く開けると、
想像より随分遠い位置でサーフィス様が赤くなったまま固まっていた。
(えっ?キスじゃ無かったの?私の勘違い?)
恥ずかしくてサーフィス様の顔が見れない。
両手で顔を覆って俯く私にサーフィス様は慌ててしまった。
「え、ご、ごめん。ど、どうしよう。僕が悪いんだ。ミアさんがあんまり可愛くて眺めてたら………。」
私はこの日は最後までサーフィス様の顔を見れなくなった。
サーフィス様は私が怒ったと勘違いしたようでずっとオロオロしていた。
「ミアさん。ちょっと目を閉じてて。絶対、絶対開けないでね。」
サーフィス様に両手を引かれてゆっくり歩く。
温室に入ったのか、周りの空気が温かくなった。
「まだだよ。まだ目を開けないでね。」
言われた通りに目を閉じて、サーフィス様の手を頼りに歩く。
「着いたよ。まだ目を開けないでね。」
止まった所でサーフィス様が手を離す。目を閉じている分心細い。
「ミアさん。目を開けてください。」
目を開けるとそこには一面のピンクの薔薇が!!
「わぁ!綺麗!」
「この薔薇は僕が作ったんだ。ミアロデール・ミル・イールって名付けたよ。」
背後からサーフィス様の声がする。
振り向こうとしたらそっと両肩に手を置かれ振り向かないようにされてしまった。
「ごめんね。ミアさん。僕震えちゃって。ちょっと顔を見せられないや。」
肩に置かれた手が小刻みに震えている。
「ミアさん。このまま聞いて。」
「はい。」
「………本当は目を見て言わなきゃ駄目なんだけど……。」
彼はやっと聞こえるような小さな声でごめんね、と謝った。
「いいえ。こんな綺麗な薔薇は初めて見ました。……嬉しいです。」
彼がすぅーっと息を吸い込む音が聞こえた。
「ミア・コルンさん。僕は貴女がす、好きです。ミアさんと婚約出来た事が、……えっと僕の人生最大の幸運だから……。政略結婚かもしれないけど、貴女の笑顔が、その優しい心が僕は大好き……。この気持ちをえっと、つ、伝えたくて、この薔薇を育てました。どうか僕の気持ちを受け取ってください。」
私はどうしても彼の顔が見たくて少し強引に振り返る。
驚いたサーフィス様は耳まで真っ赤になり、瞳は潤んでいて……年上の男性なのに…可愛い。
私の顔を見て恥ずかしそうに目を逸らせた。
「サーフィス様、私はサーフィス様のお顔を見て返事をしたいです。」
サーフィス様の顔を見てそう言うと、彼はおずおずといった様子で目を合わせてくれた。
瞳が不安そうにプルプル揺れている様はさながら小動物のようで……。
「私もサーフィス様が大好き。美しい物が好きで争いを好まない穏やかな人柄も。そして、こんな風に私を大切にしようとしてくれる誠実さも。全部を引っくるめて大好きです。こんなに好きな人が婚約者なんて、幸せで溶けちゃいそうです。」
サーフィス様は泣き笑いみたいに顔を歪めた。
「頼りなくてごめんね。泣いちゃいそうだ……。」
サーフィス様の瞳はうるうるで涙が溢れそうになっている。
「サーフィス様は頼りなくなんて無いです。私が他の令嬢に絡まれている時も助けてくれたじゃ無いですか!」
「う、うん。」
「私は武術が優れていることが強いなんて思いません。口論が得意な人が優れているとも思いません。サーフィス様は強くて頼りになります。」
サーフィス様は複雑そうに、そうかなと言って照れくさそうに笑った。
彼の頬を涙が伝う。
「ミアロデール・ミル・イールってどういう意味なんですか?」
「着飾ったミア、とかお洒落したミアって意味だよ。」
「えっ、私の名前?」
「うん。花弁の形が初めてデートした時のミアさんのスカートの形に似てるんだ。色は拘って、ミアさんの髪色に近づけたよ。」
あの裁判の日、レーモント公爵に頼んでいたのはこのばら園だったのか。
あの日の彼の気持ちを思うと胸が締め付けられて吐きそう………。
急に無口になった私をサーフィス様は疲れたのだと勘違いしたようだ。
「ミアさん、ここは暑いし外に出よう。」
ばら園を出て私をベンチに座らせると彼は水を取りに家の中へ走って行った。
裁判の日の彼を想い涙を流した。
もう枯れたと思っていた。けれど……こんなにも胸が痛い………。引き千切られるよう………。
「うっ、ひっぐ、うぅ。」
戻ってきたサーフィス様が驚いてその場で佇んでいる。
私は涙に滲む視界の中で必死に手を伸ばした。
手が柔らかい温もりに包まれる。サーフィス様の手だ。
彼は私をくるむように上から抱き込むと涙が止まるまで背中を擦ってくれた。
今度は届いた。
貴方を喪わずにすんだ……。
急に泣き出した理由を彼には
「悪い夢を思い出した。」
と伝えると、彼は私を痛ましいそうに眺めた。
「結婚したら、…うなされた時には起こすよ。」
「サーフィス様と一緒なら、もう悪夢は見ません。」
「そうかな。」
いつか彼と一緒に寝るのか、……想像したら何だか恥ずかしい。
ふとサーフィス様を見ると、彼も顔を真っ赤にして、片手で口を覆っていた。
………想像したのかしら?
サーフィス様が私の肩に手を置く。私はキスの合図だと思ってそっと目を閉じた。
「………。」
鼻息が掛かってしまいそうで息を止めて待っているのに、一向に感触がしない。
(息苦しい。限界。)
そう思って片目を薄く開けると、
想像より随分遠い位置でサーフィス様が赤くなったまま固まっていた。
(えっ?キスじゃ無かったの?私の勘違い?)
恥ずかしくてサーフィス様の顔が見れない。
両手で顔を覆って俯く私にサーフィス様は慌ててしまった。
「え、ご、ごめん。ど、どうしよう。僕が悪いんだ。ミアさんがあんまり可愛くて眺めてたら………。」
私はこの日は最後までサーフィス様の顔を見れなくなった。
サーフィス様は私が怒ったと勘違いしたようでずっとオロオロしていた。
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