黒の魔女、勇者に誘われ街に出る

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1.邪悪な存在……か?

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※ヒロインの話し方が少し変ですが誤字ではありません。徐々に直る予定です。









 『深淵の森に住んでいる黒き魔女は魔王を復活させ、世界に破滅を齎す。』




 これは子供の頃から何回も聞かされてきた話。


 勇者である俺は魔王を倒し、そして今日深淵の森に来た。
 誰も入った事の無い森。強力な猛獣が出るのか、人喰い植物がいるのかと覚悟して入ってきたが、全く襲われる事も無くて……。

 10分ほど歩いたら小さくて今にも壊れそうな小屋を見つけて中に入った。

「こいつが……?」

 俺の目の前にいるのは薄いピンクの髪にエメラルドグリーンの瞳の可愛い少女。身長が俺の胸辺りだろうか。
 想像していたよりずっと小さくて弱そう。

 伝承通りに黒いローブを羽織ってるけど、それはボロ布同然に破れていてお世辞にも綺麗とは言い難い……。

「お前が黒き魔女か?」
 
「は、はいぃーーーっ!?お客さん、何者でする??」
 
 外見に似合わない年寄りくさい話し方。俺の亡くなった曾祖母もこんな話し方してたっけ……。

 目の前の可愛らしい少女はプルプル震えて俺を見上げていた。目にはいっぱい涙が溜まり、今にも泣き出しそう。

 「黒き魔女、俺は勇者だ。魔王を再生させる力を持つお前を倒しにきたんだけどな?」

「え、えええーーーっっ?ま、魔王っ??
再生??
と、とんでもないでするーー!」

 昔の人のような話し方。俺の親父世代ですら「でする。」なんて語尾は使わない。
 少女のような外見なのに、この古くさい話し方が似合わなくて、なんだかちぐはぐした奇妙な印象を受けた。

「君は何歳なんだい?」

「……わ、わかりません。じ、時間が分からないもので……。」

「君は魔王を復活させるの?」

「そ、そんなこと出来ないでする~。し、信じてください。」

 本当に?
 彼女は俺を欺こうとしてるのか?

 しかし

 歯がカチカチなるほどに震えて怯えているこの姿が、演技には見えなかった。

「悪かった。俺は君が邪悪な存在だと聞いてきたんだが……。」

「ひ、ひょえ~~、わ、私が、じゃ、邪悪な存在でするかぁ?そ、そんなぁ~、カカ様、ババ様、やはり人間は恐ろしい。 
くわばら、くわばら。
で、でするが、……。」

少女は俺に首を差し出すように頭を下げてきた。

「は、はいぃ~~どうぞ~~。」

「うん?なんだ、その格好は?」

「ひっ!に、人間は討伐するときに首を斬るとか聞きました!ど、どうぞでございまする。」

 斬り易いように長い髪を纏めて横に流し、首筋を露にした。真っ白で細い首筋。ガタガタと震えながらも、抵抗する様子は一切なくて、きゅっと両手を握り締めている。

「い、痛くないようにひと思いにお願いしまする。」

「え、意味が分からない。君が魔王復活を企んでいないのなら俺も君を斬る気はないぜ?」

 「ひょ、ひょえ~、そうでするか。わ、私は~ウイータエ・アエテルナエを食べてしまって、死ねなくて困っておりまするぅ~。どうか、どうか、殺してくださいませませ~。」
 
 彼女は俺に向かって何度も懇願するように頭を下げた。壊れたおもちゃみたいに何度も何度も……。

 何で、殺して欲しいんだ?
 こんなに震えているのに?

「俺は勇者だし、何も悪いことをしてないお前を倒すわけにはいかない。死にたがっているように聞こえるが、何か事情があるのか?」

「は、はいぃ~。えっと、私はでするねー、ウイータエ・アエテルナエという、不老不死の実を食べてしまいましてぇ~それからずっと生きてるんでするよ~~。もーそろそろ死にたいんでするけどぉ~~。」

 黒い魔女は頭を下げるのを止めて、床にぺたりと座り込み、辿々しく話し始めた。
 
 彼女は長く人と会話をしていなかったらしい。言葉がつまって思い出せなかったり、上手く表現出来なくて暫く無言になったり。とにかく説明に時間が掛かった。それでも俺に伝わるように丁寧に丁寧に言葉を紡ぐ。

 彼女の話の内容はこうだ。

 自分は10歳頃に不老不死の実「ウイータエ・アエテルナエ」を間違って食べてしまった。
 焦った彼女の母親と祖母は「アドレスケレ」という成長の秘薬を作って彼女を何とかここまで成長させた。
 彼女はこの姿まで成長した後はどんな薬も効果がなくなった。

 彼女の母親と祖母が「アドレスケレ」精製に必要な材料を集めていたところ、魔王復活を企む魔女と勘違いされ、人間から迫害を受けてこの深淵の森で生活することになった。

 やがて、祖母が死に、母が死に、彼女は一人になった。ウイータエ・アエテルナエのせいでずっと年を取ることも、病気になることもない。
 時間の経過も分からないまま、彼女はずっと深淵の森から一切出ることなく生活していたそうだ。

 記憶違いはともかく、彼女が嘘をついているようには見えなかった。

「食べ物はどうしていたんだ?」

「も、森の木の実と果物を、あと、時々お魚を、た、食べていたのでする~。」

「生活に必要なものは?」

「わ、私の薬を買いに来る、ぎ、行商が、薬の代わりに欲しいものを持ってきてくれまする。で、でも~その行商も随分お爺さんになったでするぅ~~ずーっときていませんがぁ~。」

 室内を見渡すとあちこちの物が壊れたまま放置されていた。彼女自身の服も破れたまま繕うことをされていない。

「とにかく服が必要だな。ちょっと街に戻って手に入れてくる。」

「ひょえ~~、そ、そんなこと、ゆ、勇者様に~。」

「君は俺が戻って来るまで、その話し方を何とかするよう努力してくれ。『まする』じゃなくて『ます』。あと、その間の伸びた話し方も。」

「ひえっ!ど、どうしてでするかぁ?」

「このまま行商を待っていても仕方ないだろう?君は何年待っていたんだ?俺は君を殺さない。君はこの先も生活していかなければならない。ならば、街に出て買い物をすることを覚えるんだ。その話し方は目立つ。なるべく俺みたいに話すよう努力してくれ。」

 こんな太もも丸出しの女性とこのまま話を続けるのは気が引ける。

 白過ぎる顔色に細い手足。充分な食事を食べているのか?それすら不安になる。

 俺は彼女に必要そうな物を買いに街に一旦戻ることにした。

 
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